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陽元日記  作者: サツマイモ
天秤物語
38/99

37日目:カエデ・クーゴの昔語り②

結論から言えば―――こんな結論、言いたくはないんだけれど―――、誰もが驚く最悪な事態となった。きっと、国民の誰よりも彼が一番バカだったから起きた緊急事態なのだろう。

なんでだろうな。この人、別に政治とか悪くないのにな。鈍感というか、何というか。


それに加え、上の人たちもどうしてその結論で納得したんだろうか。

……あ、全然結論言ってねえや。


「カエデ、少しいいか?」

「はい?」


廊下ですれ違ったとき、彼は言った。

そろそろ昼ご飯が食べたいなあっと思った矢先のことである。


「ハヤテがどこにいるか、知らないか?」

「ハヤテ?どうかしたんですか?」

「いや、今度の結婚式に向けて、花嫁衣裳の採寸をしたいんだけど」

「……花嫁衣裳?何でですか?」

「なんでって、だってあいつと結婚するから」

……マジか。こいつ、どっちで言ってんだ?


そんな、王宮内では絶対に行ってはいけないような言葉が脳裏に過った。


まず、彼はハヤテとの結婚が決まった。

しかし、ハヤテは男である。見た目こそあんな感じだが、正真正銘の男の子だ。


こいつは、もしかして、所謂ゲイなのか?

まあ、それはそれで良いんだけど。


「少し質問してもいいですか?」

「ん?何だい?」

「女の子は好きですか?」

「うん。もちろん。あ、でも別にたらしとか、そういうんじゃないからね」

なんで?という疑問を浮かべる表情を見せる王様。


なるほど、これは勘違いの路線だな。


ハヤテが女の子だという、勘違い。


「あ、あの…すごく言いづらいんですけど」

そう言ったとき、彼は突然膝を地面に落とした。

うっ、ともぐっ、とも言わずに。


「……どうしたんですかっ⁈」

「……分からない。なんか、急に、力が、入らなくて」


突然の状況に言葉は出ず、その分だけ頭がフル回転した。きっと、発電できる。

その思考の中で、一つの結論に達した。


考えたくもなかったが、それが一番納得が行く。


「私の、能力の所為だ」


「……ん?どういう、こと、かな?」

「説明は、後で。取りあえず、動かないでください」


もしも、自分の本能が自分の能力を開花させてしまったのなら。

『誰にも渡したくない』という本能というか、欲望というかが、能力破壊を起こすきっかけとなったとしたら。


「失礼します」

ここに、恋愛的な要素は限りなく少ない。早急に助けたいという思いだけで、私は行動に移した。


具体的には、キスをした。


それで治るという保証はなかった。でも、欲望が叶えば、能力破壊は一時的にでも止まるだろう。そう判断したのだ。

結果、彼は元気になった。


「ごめんね、ありがとう」

「……いや、こちらこそ」

しかし、どうしたものか。こんなこと、ずっと続けられるはずがない。そんなことをすれば、彼の身は持たない。


「あの、一ついいですか?」

「ん?」

「私じゃ、ダメなのでしょうか?」

「……困ったなぁ。でも、ごめんな。俺、男の子同士ってのはちょっと。創作物としてなら、読まないこともないけれどね」

「……根底から、違うんですよ」


もう、全て吐き出してしまおう。

彼のことを、こんなに好きだなんて思ってもいなかったけれど。


「私が、女の子で。ハヤテは、男の子なんですよ」

「……はあっ!?」

「知らなかったんですか?もう何年もずっと、一緒にいたのに」

何年もずっと一緒にいながら、ずっと気づかなかった私の自分自身の強く重い思いをそっと隠し、笑った。


「…そうだったのかぁ。まずいな、こりゃ」

「他の人も、知らなかったんですか?」

「いや、俺が推したんだよ。強く。一緒に遊んでいて、あいつほど楽しい奴はいなかったから」

「……そうですか」


その言葉に、少し反応してしまった。それが、仇となった。

結局、楽しいのはハヤテの方だった。

こんなに重い奴だったなんて、自分でも驚きだ。


まあ、結婚のことを聞いた時、ハヤテじゃなくって、彼の方に能力が行った時点で、何となく気づけたかもしれない。


私を選ばなかった、彼を壊したい。


そんな風に考えてしまったのかもしれない。結局自分でも自分が分からない。

色んな思い出がよみがえる。走馬燈とは、これのことなのだろう。

全ての出来事が楽しくて、嬉しかった。


恋しかった。愛おしかった。

ダメだなぁ、私。


諦めきれてないどころか、めちゃくちゃ狙ってたじゃん。


「まあ、いいか。それはそれで。別に、同性婚でも法律上は問題ないし」


その言葉が、引き金を引いた。

心の奥底から、嫉妬、憎悪、怨恨が混ざったような感情が浮かんでくるのが分かる。

私って、こんな奴だったっけ。

理性と心が同時に存在しているのが分かった。

その心は、気づけば私の体を動かしていた。


天秤で言えば、今心が地に着いたところだ。

理性は、その心の重さに耐えきれず、空中へと飛んでいってしまったようだった。


「……ぐっっっ⁈…また?…どういう、こと、だ?」

「ごめんなさい。私が、全面的に悪いんです」

「……?」

「最後に一つ。ハヤテと永遠に一緒にいられる方法があるんです。教えましょうか?」

「……できれば、助けて、欲しいん、だけど」


「……ごめんなさい。もう、それはできないんです。私の心は、私でも止められない」


「……じゃあ、せめて、その方法とやらを、教えて欲しいな」

「紋章に保存してもらうんですよ。あなたの体を、死ぬ前に」

「保存?」

「あいつなら、それくらい楽勝です。きっと、すぐにでもやるでしょう。死んでしまえば、全てがおじゃんですけれど」


うめき声が、廊下中に響き渡る。それに気づいた使用人が駆けつけてくる。


『……私を好きって言わなければ、ぶっ殺す』


心が、そう言っているようだった。


「広場へ、連れて行ってあげてください。最期は、国民みんなで看取りましょう」


端から聞けば、これ以上に頭のおかしい状況は無いだろう。

端から見れば、これは王様を殺そうとしている人がなお、そんなお花畑みたいなことを言っている図なのだから。


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