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陽元日記  作者: サツマイモ
天秤物語
35/99

34日目:姉弟の再会は明日じゃなかったのかよ

窓枠に腰かけて、五雲は一息つきます。


「あんまり、この話はしたくないん…だけ…ど…?」

話の冒頭にもまだかかっていないタイミングで、彼女はもう喋ろうとはしていないように見えました。……いやいや、もう飽きたんですか?


「……いや、ごめんごめん。だって、ほら」

ひょい、ひょいとうちに手招きをする。その手につられるようにして、うちも窓から外の景色を眺めます。


先ほどまで曇りだった天気は、うちらがへやに入ったのと入れ違えになるように雨が降ってしました。セーフとか思っていると、彼女が見たであろう、見て驚いたであろう光景がそこにはありました。


あ、今ここで『風呂の窓って、普通すりガラスになっているから、見えないんじゃないの?』と思った人がいるでしょう。いやいや、違うんですよ。ここが、一般の家と武士の家の違いというか、何というか。もしかすると、武士でも特別、格別に違うのかもしれませんけどね。


この家の窓は、全てマジックミラーになっているのです。


でっかいのも小っちゃいのも中くらいのもすべて、マジックミラーなのです。

だから、外の景色は普通に見えますし、逆に外からはすべて鏡になっているので見えません。


何という防犯意識。


「……何、あれ?」

話を戻して、景色の話です。景色というには、いささか対象物が限定的ではありますが。なので、光景と言いましょうか。あるいは、情景とも。

今うちらが見ているのは、風呂場から見て右斜め方向にある門です。

その門に、立っているのです。


女の子が。

白い服の女の子が。

短髪の女の子が。

高身長の女の子が。

表情は見えないものの、確かにこの家を見つめている女の子が。

門を破壊している女の子が。


その門として機能していない門の前に、しっかりと佇んでいるのです。

……しっかりと佇むって、どんな表現だよ。


しっかりとというよりは、立ち尽くすの方が合っていたかもしれません。


真相は、神のみぞ、否彼女のみぞ知るのですが。


「……あれって」

うちの、無意識に発せられた言葉に、五雲は反応してくれました。

「カエデ・クーゴだよ」

まさか、明日になる予定だった姉弟の感動的な再会は、姉弟関係の再開は、こんなタイミングで行われるとは思ってもみませんでした。


恐るべし、陽元王国。


「いやいや、そこまで僕達の所為にされてもなぁ」

「あ、ごめん。つい」

「まあ、よくされていたからいいんだけど」

とりあえず、これは風呂から出た方が良いだろうね。

その台詞に納得しました。


結局、体を洗うだけでロクに湯舟にも浸かれず、出ることになりました。


……むしろ、これからの方が疲れそうなので、浸かっときたかったんですけどね。湯舟を使いたかったんですけどね。


「まあ、しょうがないかぁ。迎えに行こう」

早急に着替え、うちらは玄関へと向かいました。

この修羅場に似合わない、モフモフの部屋着なんですけどね。それくらいは許してください。


「だ、大丈夫ですか?」

ガラガラっと開けると、そこにはやはりずぶ濡れの少女がいました。

朝出会ったときは、まだ男性感は残っていたのですが、この雨に打たれた雰囲気を見ると、女性にしか見えません。段ボールの中の猫のような瞳で、こちらを見つめます。


不謹慎にも、胸の高鳴りは止まることを知りません。


「な、中に入ってください」

何とか出た言葉に、彼女は静かに頷くという反応を示してくれました。

広間へと連れて行くと、そこには五雲と颯が正座をして待っていた。


「じゃ、じゃあタオル取ってくるんで」

その行為は、確かに必要だと思うんですけど、この場合はその必然に駆られるというよりは、この場から逃げたいという気持ちが強かったように思います。


この場から。

修羅場から。


彼女たちが味わったであろう、処刑場のような空気の修羅場から。


……あれぇ?久々の再会だから、結構仲良くやるもんかと思ってたんだけどなぁ。

そそくさと広間から退散し、タオルを探しながらそんなことを考えていました。

そおっと覗いてみると、やはり膠着状態は続いていました。


「……久しぶりね、颯」

「うん、お姉ちゃん」

ごにょごにょっと、反応しています。

「何でそんな、悲しそうな顔するのよ。申し訳なさそうにするのよ~」

明るい調子で言う彼女だが、それが空虚であることは誰でもわかった。空っぽで、虚しい。

「……なんで?」


何を言うのか色々考えていました。たとえば、笑い返すとか。あるいは、謝るとか。または、泣き出すとか。はたまた、抱き着くとか。

しかし、彼の行為はうちの思考を裏切りました。


彼は、質問をしたのです。

質そうとしているのです。

あるいは、糺そうとしてるのかもしれません。

そして、正そうとも。


はっきりしてほしいのは、うちも同感です。


「え、ええと、これ、タオル」


全日本KY選手権があれば、堂々優勝できるほどのとんでもないタイミングで、うちは広間へと足を踏み入れました。なぜだと聞かれれば、真相が知りたかったからとしか言いようがありませんが。



……KYって言葉自体古いんですかね。


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