33日目:明日は姉弟の再会じゃい!
「……お姉ちゃん?」
最初に口を開いたのは、うちではなく五雲でした。
「そうだよ、お姉ちゃん。いるんでしょ?」
「……いや、ここにはいないけど?」
「そんなことない!」
急に怒り出す彼に、どうすることもできず、うちたちはただ黙ってしまいました。
「だって、だって、だって、だって!お姉ちゃんと同じ香りがするんだもん!!」
まあ、確かに出会いましたけど。それでも、結構な日にちとうちの汗が混ざっているから、分からないと思うんだけどなぁ。
とか思っていると、五雲がうちの方へ近づき、耳元でささやきました。
その声がとてもいじらしく、くすぐったく思いながら、その事実を聞きました。
「彼は、目が見えない。どうやらストレスから見えなくあって言ったらしいんだ。その分だけ、鼻がとんでもなく良い。だから、一週間前の人の香りだって嗅げる」
「え、マジで?」
「大マジ」
その会話を遮るようにして、彼は壁を叩いた。
「それとも、お前たちはお姉ちゃんを連れてった悪者か?」
その声は、地獄を這ってきたかのような、野太い声だった。
「ち、ちち、違うよ?」
お前たち、と複数であることを認識している辺り、本当に鼻が良いらしい。
「う、うちたちは、探しに来たんだ」
「探しに?」
「そ、そう。あの……これ、なんだけど」
何を思ったのかさっぱり分からないし、何が起きているのかも定かではないけど、それでも自分達が不審人物ではないということを証明したかったんです。
そして、紋章を見せると、彼は
「……ここに、あったのか」
と言って、その場に崩れました。
「どうして、僕に保存の能力なんて、与えられたんだ」
そう言いながら、彼は泣き崩れた。
……もう、早く教えてよ。何があったのさ。
ちらっと五雲の方を見ると、彼女はすっと視線を外した。
「……そうだ、彼女に会わせてあげようよ」
五雲は、話を切り替えてきた。
「あとで聞かせてね」
「は、はい」
睨みは見事に効いたようで、彼女はシュンとなった。いや、そこまで睨んでいないと思うんだけど。
「ね、ねえ。ええと、颯君だっけ」
「うん」
「お姉ちゃんのところに、連れてってあげようか?」
「……知っているのか?」
笑顔だけは、一段と輝いていた。その辺の人間の比じゃないくらいに。
「まあね」
持ち主に返す予定だった紋章は、もうしばらく持っていることにしました。
船に乗り、自分の家へとたどり着きました。もう、朝のような躊躇はありませんよ。
気づけばもう日が暮れており、一旦今日は休もうということになりました。まあ、妥当ですよね。我ながら、英断だったにも思えます。…べ、別に面倒になっとかではありませんからね⁈
「明日、会いに行こう」
「うん」
よく見れば、彼はまだ中学生にも満たぬ顔つきをしています。慣れてくると、少し可愛さを感じます。それはそれとして、つまり、港からここまで『高校生と中学生二人が、夜遅くに街を闊歩している』という状況に見え兼ねないじゃないかっ!
まあ、それはいいや。こうして、リビングでゴロゴロできているということは、通報もされなかったってことでしょうし。
「時に、笹指」
「ん?」
「お風呂、一緒に入ってもいいか?」
「うん。別にいいけど。颯君も一緒に入る?」
「いや、僕はいいよ」
男の子であることをすっかり忘れてました。
「そ、そうだね。じゃあ、二人で入ろっか」
せっせと準備をして、二人で湯舟へと向かいます。
使用人の二人は、『買い物に行ってきます』という書置きだけがありました。まあ、無事に帰ってくるでしょう。
「でかいねえ、お風呂」
入口からして大きい、日本屋敷のようなこの家は、風呂場まで大きい。3,4人が一緒に入っても余裕があります。だから、ついつい誘ってしまったんですよね。
今たんかちゃんは自分の部屋で寝ているみたいですし、あまり音は鳴らさない方が良いですね。
よし、じゃあ入ろう!
「はぁ、気持ち良いね」
「幽霊だから、そう言うのよく分かんないけどね」
「あ、そうでした」
忘れっぽいのもまた、うちの特徴の一つです。
……って、ダメなところ紹介してどうすんのよ。
「じゃあ、そろそろ本題に入ろうか」
「ん?」
「本人の口からは、言えないだろうからね」
今回は、人から話を聞く機会が多くて助かります。
考えるのは、苦手ですから。




