32日目:必路五雲(ひつじ いづも)
ここで、必路五雲の紹介をしたいと思います。
数百年も前、必路五雲は生まれました。そして、数百年ほど前、彼女は亡くなりました。活発で明るく、そして、可愛く美しく、いつでもそこに友達がいた、そんな女の子だったそうです。
きっと、うちと同世代に生まれたとしたら、すぐに友達になっていたと思います。
そんな彼女は、亡くなりました。彼女にも何が起きたかはわからなかったようです。気づけば、死んでいた。刺されたかもしれないし、撃たれかもしれない。絞められたかもしれないし、潰されたかもしれない。どれが正解で、どれが真実なのかは、結局は定かではないのだそうです。
ただ、彼女は決してあきらめようとはしませんでした。
「あ、死んじゃったんだ。まあいいか」とは、決して思いませんでした。そこには強く固い決意がありました。
なぜなら、この街には友達がいたから。
好きな人がいたから。
好きなものがあったから。
まだ見ぬ世界が、そこにはあったから。
彼女は、こうして、生きているのと死んでいるのの狭間に自らの身と心を捧げました。
そのため、誰かに見えて、誰かに見えないということがあるそうです。
「まあ、そんなところだ。照れくさいな」
そう言う割には、全く照れていないのが、彼女らしいです。
「ちなみに、君に見えている僕の姿は、君が最も新しく後悔したときの姿なんだ」
「最も新しく?」
「そう。最新。人っていうのは、日々後悔しながら生きていくけれど、それでも一番大きく、新しく後悔している時の自分の姿が映し出されるんだ」
……どうやら、うちの最新にして最大の後悔は、中学生の時のことのようです。
それなら、察しがつきます。つきすぎて、胸が苦しくなるほどです。ああ、あれじゃん。
完全に、明白に、あれじゃん。
暴力があったわけでもなく、暴言があったわけでもなく、ただひたすら相手にされなくなり、そして積極的不登校へと踏み切ったあの時じゃん。
まあ、今思えば友達ができないのもわからんでもないです。その当時を振り返っても、やはり自分の縦横無尽というか、傍若無人というか、そんな態度に呆れますしね。きっと、先生方にも慇懃無礼な態度をとっていたような気がします。
「なるほどねぇ。やっぱりこの国は不思議な国だなぁ」
「まあね。ありえないことが多いから。でもなけりゃ、歴史の波にのまれる国になんてなれないよ」
「確かにね」
「……確かに。そんな蟹がいるのか?」
「いや、いないけど。……まさか、そんなところに引っかかるやつがいるとは」
「まあね」
「褒めてないけど」
「ごめん」
「責めてもないよ」
「時に、笹指」
「ん?」
「どうして、この国に来たんだ?」
そんな、最初に聞かれるような質問になんて答えればいいか分からず、逡巡した結果、結局すべてを話すことにした。そんなに長くもならなかったので、抜け漏れがあったかもしれないが、そんなことに気づけるほどうちの要領は良くない。要領というか、頭の容量が少ないのだけれど。
「へえ、なるほど。それなら、知っているよ」
「へ?何を?」
「だから、そいつの居場所。まあ、知っているというか、君も見かけたけれど」
「……へ?何を?」
「ええと、確か双子なんだろう?名前は忘れちゃったけれど、能力破壊と生体保存の双子なんでしょ?だったら、うちの一人はもうとっくに見かけているよ」
正確には、おとといだけどね。
そういう彼女は、少しにやけました。まるで、うちを小ばかにしているようで、少し睨み返します。
……そんなに寝てたのか。
「もしかして、あの生物?」
うちの質問に、すぐさま頷いた。
「うん。ああ、思い出したよ。ハヤテ・クーゴ。現在、久郷颯。立派な男の子のはずだよ」
その聞きなじみのある名前に、驚かずにはいられません。あの時は未知の生物と対峙したという恐怖で倒れたけど、これは何かがつながるという発見にも似た恐怖で倒れそうです。
何とか持ちこたえて、気づいたらぽつりと呟いていました。
「……じゃあ、カエデ・クーゴは、久郷楓……?」
「ああ、そうそう。確か、そう言っていたよ。まあでも、その人はここにはいないんだけどね。確か、島流しみたいな感じで追放されていたよ。可哀想なことにね」
そう言う彼女は、長いため息を吐きます。
「能力的には一緒だし、やったことは共犯なのに、能力の違いで片方は英雄、片方は犯罪者だもんな」
「……実際に、見ていたの?」
「うーん。正確には、伝聞だけどね。まだ、この辺にも人がいたころだよ」
そう言った瞬間、扉が勢いよく開きました。ビクッてなっちゃいました。
ようやくここで、入り口は引き戸ではなく、うち開きだったんだと気づきました。
「やっと、出逢えた」
目にした姿は、先ほど出会った時と寸分違わず、あの生物でした。
アシンメトリーな姿に、未だに怯えます。
「やっと逢えた、僕のお姉ちゃん」
そう言った彼の目は、うちの方も五雲の方も見ていませんでした。
何というか、焦点があっていないような、そんな視線をこちらへと向けていました。




