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陽元日記  作者: サツマイモ
天秤物語
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33/99

32日目:必路五雲(ひつじ いづも)

ここで、必路五雲(ひつじ いづも)の紹介をしたいと思います。


数百年も前、必路五雲は生まれました。そして、数百年ほど前、彼女は亡くなりました。活発で明るく、そして、可愛く美しく、いつでもそこに友達がいた、そんな女の子だったそうです。


きっと、うちと同世代に生まれたとしたら、すぐに友達になっていたと思います。


そんな彼女は、亡くなりました。彼女にも何が起きたかはわからなかったようです。気づけば、死んでいた。刺されたかもしれないし、撃たれかもしれない。絞められたかもしれないし、潰されたかもしれない。どれが正解で、どれが真実なのかは、結局は定かではないのだそうです。


ただ、彼女は決してあきらめようとはしませんでした。

「あ、死んじゃったんだ。まあいいか」とは、決して思いませんでした。そこには強く固い決意がありました。


なぜなら、この街には友達がいたから。

好きな人がいたから。

好きなものがあったから。

まだ見ぬ世界が、そこにはあったから。


彼女は、こうして、生きているのと死んでいるのの狭間に自らの身と心を捧げました。

そのため、誰かに見えて、誰かに見えないということがあるそうです。


「まあ、そんなところだ。照れくさいな」

そう言う割には、全く照れていないのが、彼女らしいです。

「ちなみに、君に見えている僕の姿は、君が最も新しく後悔したときの姿なんだ」

「最も新しく?」

「そう。最新。人っていうのは、日々後悔しながら生きていくけれど、それでも一番大きく、新しく後悔している時の自分の姿が映し出されるんだ」


……どうやら、うちの最新にして最大の後悔は、中学生の時のことのようです。


それなら、察しがつきます。つきすぎて、胸が苦しくなるほどです。ああ、あれじゃん。

完全に、明白に、あれじゃん。

暴力があったわけでもなく、暴言があったわけでもなく、ただひたすら相手にされなくなり、そして積極的不登校へと踏み切ったあの時じゃん。


まあ、今思えば友達ができないのもわからんでもないです。その当時を振り返っても、やはり自分の縦横無尽というか、傍若無人というか、そんな態度に呆れますしね。きっと、先生方にも慇懃無礼な態度をとっていたような気がします。


「なるほどねぇ。やっぱりこの国は不思議な国だなぁ」

「まあね。ありえないことが多いから。でもなけりゃ、歴史の波にのまれる国になんてなれないよ」

「確かにね」

「……確かに。そんな蟹がいるのか?」

「いや、いないけど。……まさか、そんなところに引っかかるやつがいるとは」

「まあね」

「褒めてないけど」

「ごめん」

「責めてもないよ」

「時に、笹指」

「ん?」

「どうして、この国に来たんだ?」


そんな、最初に聞かれるような質問になんて答えればいいか分からず、逡巡した結果、結局すべてを話すことにした。そんなに長くもならなかったので、抜け漏れがあったかもしれないが、そんなことに気づけるほどうちの要領は良くない。要領というか、頭の容量が少ないのだけれど。


「へえ、なるほど。それなら、知っているよ」

「へ?何を?」

「だから、そいつの居場所。まあ、知っているというか、君も見かけたけれど」

「……へ?何を?」

「ええと、確か双子なんだろう?名前は忘れちゃったけれど、能力破壊と生体保存の双子なんでしょ?だったら、うちの一人はもうとっくに見かけているよ」


正確には、おとといだけどね。

そういう彼女は、少しにやけました。まるで、うちを小ばかにしているようで、少し睨み返します。

……そんなに寝てたのか。


「もしかして、あの生物?」

うちの質問に、すぐさま頷いた。

「うん。ああ、思い出したよ。ハヤテ・クーゴ。現在、久郷颯。立派な男の子のはずだよ」

その聞きなじみのある名前に、驚かずにはいられません。あの時は未知の生物と対峙したという恐怖で倒れたけど、これは何かがつながるという発見にも似た恐怖で倒れそうです。


何とか持ちこたえて、気づいたらぽつりと呟いていました。


「……じゃあ、カエデ・クーゴは、久郷楓……?」


「ああ、そうそう。確か、そう言っていたよ。まあでも、その人はここにはいないんだけどね。確か、島流しみたいな感じで追放されていたよ。可哀想なことにね」

そう言う彼女は、長いため息を吐きます。

「能力的には一緒だし、やったことは共犯なのに、能力の違いで片方は英雄、片方は犯罪者だもんな」

「……実際に、見ていたの?」

「うーん。正確には、伝聞だけどね。まだ、この辺にも人がいたころだよ」


そう言った瞬間、扉が勢いよく開きました。ビクッてなっちゃいました。

ようやくここで、入り口は引き戸ではなく、うち開きだったんだと気づきました。


「やっと、出逢えた」

目にした姿は、先ほど出会った時と寸分違わず、あの生物でした。

アシンメトリーな姿に、未だに怯えます。

「やっと逢えた、僕のお姉ちゃん」

そう言った彼の目は、うちの方も五雲の方も見ていませんでした。


何というか、焦点があっていないような、そんな視線をこちらへと向けていました。


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