14日目:狂気の狼
さておき。
怪しげな男の正体は、紛れもなく、まごうことなき柳生一花である。
「刀鍛冶さんは、さっき戦の最終形態をつくりたいってゆうとったけど、なんでなん?」
「それは、そうですね。自分勝手ではありますが、戦の終焉が見たいからでしょうか。それさえ造れれば、戦の終結なんてあっという間ですからね。ええ、あっという間ですとも」
「ふうん。そりゃ、つまらんな」
「……つまらない?」
「うん、つまらん。そりゃ、誰だって最終結果をしりたいもんやけんど、だからと言って造っちゃうのはもうつまらんよ」
ネタバレじゃん、と。彼女は笑って答えた。
「……面白い人だ。ええ、面白いですとも。是非ともあなたをモデルにしたい」
「え、うち?」
「誰かの為に造る気など毛頭なかったのですが、撤回しましょう。あなたの為に造りましょう」
彼女のような刀とは―――つまり。
全身に響くような衝撃。音速に対応できる頑丈さ。よく斬れる刃。敵の戦意を殺ぐ雰囲気。超人的な対応力。折れない軸。
そのすべてを兼ね備えた刀のことである。
それを完成させるのに、その刀鍛冶は長い年月をかけることはなかった。
3日後、人刀『笹指冴枝』、完成。
それから、陽元王国と我が国の戦は急展開を迎えた。
両親にバレぬよう、こっそりと抜け出した冴枝は、そのまま戦場へと向かい、その戦場で能力を最大限発揮した。
彼女が殺した人数、総勢3万人。
しかし、彼女の体には傷一つ付かず、老衰で死ぬまでの残りの40年も、怪我と言う怪我は一度もなかった。
一方で、海外では、こんな風な異名をつけられたそう。
『狂気の狼』
それから、陽元王国消滅作戦に伴って、大乱の英雄一家は、この田舎町へと幽閉されたのだそう。
それが、刀の始まりなのである。
帰り道。
「へえ、まさかそんなことが」
「……すげえな、笹指家って」
すっかり聞き入ってしまい、辺りはもう太陽が沈んだ後の暗闇に包まれていた。
「ね、まさかここまでとは」
「後輩って言うのが烏滸がましすぎる」
「いやいや、それは別にいいですよっ!」
「そ、そう?」
「でも、良かったですね。最後にはOKしてくれて」
「作り主に返すって言ったら、すぐだったな」
「嫌いってわけではないんでしょうね」
視線を落とす後輩。
「嫌い?なんで?」
「だって、母親を狂わせた張本人じゃないですか」
「ああ、それだったら勘違いだよ、たぶん」
「勘違い?」
「むしろこれは、押し付けだろうな」
結局我が国を勝利へと導いた人刀『笹指冴枝』。もしかすると、柳生一花の刀鍛冶としてのスキルは、陽元王国をそれほどまでに担っていたのかもしれない。
たった一本で戦況をひっくり返すなど、驚きを隠せないが。
「あ、なんか入ってますよ」
「え、何?」
刀で遊んでいた後輩はさておくとして、その中に入っていたのは紙切れだった。
『どうか、歴史が人でありますように』
「どういうことなんですかね」
「人が不完全であるように、歴史もまた不完全であってほしいってことだろうよ」
歴史の終わりを知っている陽元王国の住人からのメッセージは、そんなところだろう。
それほどの能力を持った刀を後輩のひいばあちゃんに託したということはつまり、陽元王国の完全勝利を阻止してほしいということの表れであり、彼らが見た歴史の終わりを変えてくれる、そんな存在になってほしいと期待したということの表れだろう。
最終回を先に知るというネタバレほど、辛く寂しいものは無い。
きっと柳生一花は、それを変えたかったのだろう。
そして、ネタバレの宝庫である陽元王国を潰し、何が起こるか分からない世界を作りたかったのではないだろうか。
好きな人が好むシチュエーションにして見せたかったのではないだろうか。
いや、論理が飛躍しすぎたかな。
意訳しすぎたかな。




