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陽元日記  作者: サツマイモ
旅の目的と動機
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0日目:前日談

現代には、様々なものが流通している。あたしは、そのすべての最初を、根源を探してきた。勉強と言うのは少し烏滸がましいが、それでもあたしは気になってしょうがないのだ。


昔の人が何を考え、何を作ったのか、単純に気になるのだ。


先に言っておくが、成績自体は良くない。

でも、勉強自体は好きなのだ。学問は、好きなのだ。だって、格好いいし、可愛いじゃん?ずうっと教科書見ていると、もしかして君は迷子の子かいって思ったりもする。


こんな世界に産み落とされた可哀想な数式を見たりすると、「今助けてやるからな」とか思う。ただ、助けるための道具、つまりは公式を覚えていないので、結局見捨てることになってしまうのだが。


ともあれ。


その中で、歴史と言うものは、あたしに寄り添ってくれる。


細かい部分まで追求すると、国語や英語だと、「こう定めたからこうである」という、身もふたもないことを言われてしまうが、一方で数学や理科だと「第一線の人たちがやっている」と一般人には到達できないことになってしまう。しかし、この歴史と言うのは、この4つの学問からは一線を画すように思う。


なぜなら、細かい部分まで追求すると、「人間の感情」に結論づくからである。形式的に導き出される理系と、公式的に導き出される文系とは違って、感情的に導き出される。

それはあたしにとって、とても面白く感じることであった。


「歴史って、完璧なのか?」

いくつもの事象を追求していく中で、この結論にたどり着くのは、必然のように思えた。


太陽が燦々と窓越しからあたしの部屋へと侵入し、教科書を読みふけるあたしの肌をじりじりと焼いている7月のこと。


あたしは後輩、笹指詩沙(さささし しさ)とともに高校の夏休みの課題に、あたしの部屋で取り組んでいた。


後輩と言っても、別に同じ中学校だったわけでも、同じ部活なわけでもない。むしろあたしたちは、帰宅部だ。


単純に帰宅部同士帰り道が一緒で、駅が一つ違いなだけだ。

ゆえに、こうして毎日のように会話をしている内に、友達になったのだ。


彼女は人懐っこい。話しかけてきたのは、もちろん彼女だし、あたしに歴史の魅力を教えたのは、彼女だ。

彼女はいつも言っていた。将来的には旅がしたいと。この国一周は歩いてしたいと言っていた。

そんな彼女に、こんな疑問をぶつけてみた。


彼女の白い肌に、汗が滴り落ちる。妙に扇情的で、あたしは直視が出来ない。あたしは、課題のプリントへ視線を落とす。


「どうしたんですか、いきなり」

彼女は不思議そうに首をこてんと倒し、あたしの方を見つめる。

目が合い、少し頬が赤らむのを感じながら、あたしは答えた。

「いや、別に裏があるとか、そういうんじゃないけど。なんとなく」

「そうですねぇ」

天井を見上げ、う~んと唸り、そして考えながら答えた。


「完璧だと、つまらないですけどね」

そういう彼女は、口角をくいっとあげると、机に手をつき体を前のめりにしてあたしに尋ねた。


「時間旅行、してみませんか⁈」

いきなり何を言っているんだと目を大きく見開いてしまったあたしに対し、彼女は続けた。

「うち、武士の家系じゃないですか?」

「え、ああ、ええと、確か」

驚きがいまだに尾を引かず、答えもあいまいになってしまった。


「ほんで、うちの家の倉庫を漁って見たんです。そしたら、なんか、色々と歴史の遺物が見つかって」

そう言うと、彼女は携帯を取り出し、写真を見せた。

そこには、6つのものとその注意書きが記されていた。


日本刀―――『笹指冴枝』。

球体―――『たまけり』。

漁船旗―――『方舟』。

黄金扇―――『王師肆談』。

紋章―――『てんびん』。

王冠―――『陽元王国』。

「ようもとおうこく?」

陽元王国(ハルゲンおうこく)ですよっ」

陽元(ハルゲン)?そんな国、あったか?」


課題のプリント用に出していた世界史の教科書を見つめる。しかし、そんな国はのっていない。


「実は、この国は、歴史の荒波に呑まれ消滅したんですよ。この国は、全ての始まりであり、全ての終りまで見えていた。占術師の家系がこの国の王様をやっていたようで。この国が、世界の最終形態というのを知られたくなかった」

あたしの耳に近づき、ささやくようにして、彼女は断言した。


「え、どういうこと?」

「うちの調査によると、ていうか、うちの家系の遺物によると、どうやらそうみたいなんですね。その事実を確かめるべく、行きましょうよ、時間旅行」

「……まあ、それは確かに面白そうだけど。どうやっていくの?」

「任せてくださいっ!」

そう言うと、彼女は立ち上がり、人差し指を立てる。行きますよっと言った。

どこに行くのかと聞いても、たいして意味はなかった。


何故ならそこは、彼女の家だったからだ。


彼女の家は日本屋敷であり、とんでもない大きさである。それはもう、一つの観光地のようだった。

「この門を使います」

「へ、へえ」

この門でさえ、小さい方ではないあたしの身長の二倍近くはあった。


「準備は良いですかっ?」

「ああ、うん」


こうしてあたしたちは飛んだ。

あたしたちの常識とはかけ離れた江戸時代へと。


着いた街をぶらぶらしていると、どうやら同じ町のようだった。カレンダーという概念はさすがになかったが、色々な人の会話を聞く限り、ここでは水無月らしい。


水無月だから…6月か。


「初めは多分、日本刀を作った人でしょうね」

「……なんで?」

「何となくです。この資料によると、銃の方が先っぽいんですよ。日本刀は後からできたと書いてあります」

「よくもまあ、あたしたちってただの紙切れで江戸時代まで飛んできたな」

「だって、これが本当だとしたら、歴史はうそつきじゃないですかっ!」

「まあ、そうだけど」

ともあれ。


あたしたちは、旅に出ることにした。

陽元王国の調査をしてから1週間後、ようやく陽元王国への切符をつかむことになる。


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