ロートスフラワーファクト
いよいよ夏休み到来!
永遠が言う遊部の合宿とは一体・・・?
家のチャイムが、ひっきりなしに鳴り響いている。
あまりにもうるさくしつこいからか、出る気にはなれない。
聞こえないふりをしながら、ゆっくりお茶を口に入れる。
しかしチャイムは鳴りやまぬことを知らず、最終的にはどんどんとドアまで叩く音がしてきた。
しびれを切らした俺は、仕方なく玄関を開ける。
「よっ、輝。準備、できてるか?」
そこには、女子とのデートで着ていきそうなおしゃれな私服を身にまとった紅葉がいた。
いかにも楽しそうに笑うものだから、こっちが不快で仕方ない。
俺自身、ますます顔がこわばるばかりだった。
「準備? 何の話だ」
「とぼけんなって。遊部部員で行く合宿、今日だろ~?」
「身に覚えがないな」
「そういうわりに服は着替えてんだな~初めての合宿に、うきうきワクワクなんじゃないのぉ、輝くぅん」
「黙れ」
「ほ~ら、文句なら後で聞いてやるから。早くしないと、集合時間に遅れるぞ?」
紅葉に背中を押されながら、しぶしぶ荷物を取りに行く。
夏休みに入って、まだ一週間。突拍子のない永遠さんの提案は、まんまと決行という方向になってしまった。
俺としては半信半疑で、行く気もなかったのだが。
教えてもいないメアドを知っていた颯馬さんから一斉で連絡が届き、今日その合宿が行われることになったらしい。
まったく、なぜこんなことに……
「待たせたな、紅葉」
「はっっや。やっぱ準備してたんだなw」
「うるさい黙れ死ね」
「ひっでw 待ってた奴に言うことかよ」
「チャイムをひっきりなしにならすお前が悪い」
「だって~全然出てこないからさぁ。悪かったって」
そうやって紅葉と関係のない話をしながら、ゆっくりとだが学校へと歩いていく。
俺達が住んでいるところから遠くはないので、集合場所がそこだったのは謎だが少し助かった。
学校の正門近くまで来ると、そこにはもうすでに二人の先輩方の姿があった。
「あっ、やっときた! 輝く~ん、紅葉く~ん♪」
「先輩より遅いとは何事だ! けしからん!」
「時間より五分前ですけど」
「十分前行動! それがこの部活の決まりなんだぞ~てぇるりぃん」
「初めて聞きましたけど」
そういいながら、改めて先輩方の服装を見る。
颯馬さんは元がいいからか、見ただけだといたって普通のイケメンに見える。
見ただけでは、だが。
「そんなことよりさあ! 二人とも、家から一緒に来たの?! 手とかつないできた!?」
「いえ、まったく」
「え~もったいない! ここはするべきだよ! さぁ手と手を取り合って! 恋人つなぎでも大歓迎だよ!!」
「だからしませんって」
「颯馬さんってマジであれなんすね……」
「なんていったって、腐の世界は最っ高だよっ!!!!!」
と、言う風に見た目にともなわずかなり残念なのが颯馬さんだ。
かなり衝撃を残した彼のキャラクターは、今では慣れたものである。
逆に永遠さんは三年生というのにも関わらず、馬子にも衣裳って感じでなんとも言い表しにくい格好だった。
「よし、全員そろったことだし合宿をスタートするかっ!」
「全員? 北城さんはまだ来てないみたいですけど……」
「レンちゃんなら今日来ないよ? 急用ができたんだって」
「なぁんだ、つまんねぇの」
「ちっちっち。甘いなあ、皆のもの。急用ごときでこのおいらが、引き下がるとでも?」
永遠さんが何やら企んでいるかのように、にやりと笑う。
彼はびしっと指をさすと、楽しそうな表情を浮かべて言った。
「颯馬あ! レンちゃんちの住所は!?」
「もちろん、準備ばっちりです♪」
「合宿は遊部全員そろわねば意味がない! 北城蓮華を、おいら達が迎えに行くぞ!!!」
一瞬、耳を疑った。
何かの間違いだろう、そう思いたかった。
だが彼の顔は楽しそうに輝いており、それが本気なのだと一発で分かってしまう。
「迎えって、まさか家まで押し掛けるつもりっすか?」
「他に何がある!」
「急用で来れなくなったっていうのに、北城さんに迷惑なんじゃ……」
「大丈夫だよ、輝君。レンちゃんの急用は、なんとなく想定できるから」
そういう颯馬さんは相変わらずの笑顔で、知らないことなんてないとでも言ってるように見えた。
こうなってしまった以上、俺からいっても何も聞こえない。
ため息をつきながら、俺は仕方なく彼らの言うとおりにするしかなかった。
「ここが……北城さんの住んでるところ……?」
あまりの光景に俺は、ぼそりとつぶやいた。
颯馬さんに言われて乗ったバスで降りた先は、あまり来たことない場所だった。
都会というよりむしろ、田舎という方が近いだろう。
立ち並ぶ住宅街と、数々の老舗。そして極めてびっくりしたのは、そこから海が一望できるという点だった。
「見ろよ、輝! 海だぜ、海! なっつかしいなぁ」
「ワァオ、イッツアビューティフルシー! 見る限りの青ですなあ」
「すごいきれいですねぇ。まさに絶景ポイント、かな♪」
「ここに北城さんの家があるんですか?」
「うん。この坂を上った先にね♪ じゃあいこっか♪」
そういうと、颯馬さんは足取り軽く俺達の先頭を行く。
永遠さんも海と自分を写真を撮りながら、楽しそうにしている。
楽しそうなのは紅葉も同じようで、昔に行った海の話を懐かしむように話していた。
なんというか、これではまるで遠足だな。
まず、北城さんの家に行こうってことがおかしい。
急用があると言って断っているのに、勝手にお邪魔していいのだろうか。
色々と問題があるような気がするのだが……
「はぁい、とうちゃあく♪」
颯馬さんに言われ、ぱっと顔をあげる。
着いた場所のすぐ入り口に立てかけられていた看板には、若葉園と書いてあった。
狭くもなく広いとも言えない庭のような場所では、子供達が笑い合いながら遊んでいるのが見える。
これはいったい……?
「レンお兄ちゃぁん! こっちこっち! おままごとしよぉ~!」
「え~さっきもやったじゃあん。お母さん役ならもうやらないからね~?」
「じゃあじゃあレン兄ちゃん! あっちでちゃんばらやろうぜ!」
「だぁかぁらぁそういう危ないのは禁止だって言ったでしょ!」
「れ~~~~~んちゃん♪」
「もう~今度はな……ゲッ!!!!!」
小さい子供達が仲よさそうに囲んでいるのは、まぎれもなく北城さんだった。
彼は俺達の姿に気づくが否や、顔を引きつらせる。
「やっほ~♪ 遊びに来ちゃった♪」
「な、な、なんであんた達がここにいるの!?」
「うーん……じゃあ、たまたま近くを通りかかったから♪」
「じゃあって何!? あからさまに嘘だよね!?」
「いやあ、モテモテですなぁレンおにーちゃんとやらw」
「その名前で呼ばないでくれる!?」
北城さんが怒っているのにもかかわらず、先輩達は楽しそうに笑っている。
彼の周りを囲んでいた子供達は、俺達を誰? と言わんばかりな純粋な目でこちらを見ていた。
「レン君? 何かあったの? 大丈夫~?」
「せ、先生! 起き上がっちゃダメだって言ったじゃん! まだ寝てないと!」
「レン君が大声出すから、何事かと思って。あら? お友達?」
ベランダからエプロンをした女性が、顔を出す。
北城さんはもうだめだといわんばかりに、ため息をついたのだった。
「レン君がお友達を連れてくるなんて、初めてだわ。何もお構いできませんが、ゆっくりしていってくださいね」
先ほどの女性はお茶とお菓子を俺達の分をおいて行くと、ぺこりと会釈して子供たちの方へ行ってしまった。
若葉園と書かれていた施設の中は、外の子供の他にもたくさんの子供が遊んでいた。
どれも小学生くらいの子ばかりだからか、興味津々に俺達を見ている。
テーブルに向き合う形に座った北城さんは、先ほどと同じくらい深いため息をつくと一言。
「帰って」
と言った。
「ふぁ? ふぁんふぁっふぇ?(え? なんだって?)」
「帰ってって言ってんの。あと食べながら話すのやめて、汚いから」
「え~せっかくここまで来たのに~?」
「せっかくもくそもないでしょ! 急用で来れないって言ったよね!?」
「合宿は遊部全員そろわねば意味がないのだ!」
「だったら他の日にすればよかったでしょ! わざわざここに来る意味ある!?」
「……あ、なるほど。レンちゃん頭いいね~」
「それくらい分かれよっ!!!」
まるで部室にいる時のような、相変わらずのボケと突っ込み。
永遠さんも颯馬さんも、突然の訪問に悪いとも思ってないようだ。
「ここって何なんですか? なんで先輩がここに?」
すると今まで不思議に思っていたことを、紅葉が彼に聞いた。
北城さんはめんどくさそうな顔を浮かべると、テーブルに肘を立てていった。
「見ればわかるでしょ、孤児院だよ。親がいない子供達を引き取ってる場所」
「ああ、どうりで子供が多いのか」
「僕がここにいるのは、ここが家だからだよ。僕、親いないから」
さらっといった衝撃の事実に、何も言えなくなる。
それを知っていたのかどうなのか、永遠さん達は顔色一つ変えない。
北城さんは遊んでいる子供たちを見ながら、どこか切なげな顔を浮かべた。
「最近、孤児が増えてるから。先生一人で世話とか大変なんだよね。世話になったお礼に、僕がたまに手伝いしてるだけ」
「それがレンちゃんの、部活入らなかった本当の理由?」
「そんなとこ。これで満足?」
そういう北城さんの目ははかなげで、どこかさみしそうにも見えた。
いるのが当たり前だと思っていた親の存在が、彼にはいない。
そのことだけで、こんなに住む世界が違うなんて……
「先生、ねぇ……。ああ、女の子扱いされたくなかったからレンちゃんって呼び名、嫌いだったんだ」
「勝手に解釈しないでくれるかな」
「んじゃおいらからも一ついい? これにこたえてくれたら帰ってやらなくもない」
「……何。内容によるんだけど」
「北城大翔として偽る理由は? それもこの孤児院関係?」
永遠さんが聞くと、彼はうっすらと笑みを浮かべ呆れ半分で言った。
「僕見た目がこんなんだから、小さい頃はいじめられたりで大変だったんだよね。友達だってろくにいなかった」
「北城さん……」
「でもある時、いじめから守ってくれた人がいて……その人のように強くなれたらいいなあって思って……」
「つまり、レンちゃんはその人にほの字ってことだね♪」
颯馬さんがさらりと、相変わらずの腐発言をぶちかます。
それを聞いた北城さんは、たちまち顔を赤くして叫びたてた。
「どこをどうしたらそうなるんだよ!?」
「だってぇ、守ってくれたんでしょ? その人のこと、好きになっちゃったんだよね? ね?」
「うっ、うっるさい! そんなわけないでしょ!!!!」
「え~またまたぁ~」
「こ、この話はもういいでしょ! もう帰ってよ!」
どうやら北城さんは、どうしても俺達に帰ってほしいらしい。
赤くなりながらも、颯馬先輩達の背中をぐいぐい押す。
「そういや遊部の合宿ってこれも入るんですか?」
すると今まで黙っていた紅葉が、素朴な疑問をぶつけた。
「合宿ぅ? 紅葉ってば、行きたかったの?」
「こう見えてオレ、楽しみにしてたんですよ~。夏休み始まったばっかだし。先輩方と過ごしてると毎日が楽しくて、飽きないんですよね~」
そういいながら、「なあ、輝」と俺に返事を求める。
彼の笑みを見ながら、俺は浅くうなずいただけだった。
確かにこの部活で過ごすことは時間を忘れるくらい、楽しい。
初めて入った部活でわからないことばかりで不安だったが、ここは自然とそれを忘れさせる。
それは、このメンバーだからなのかもしれないが。
「はぁ……本当一年組は気楽でいいよねぇ。こんなのといて何がいいんだか」
「ひどいなぁ、こんなのなんて。オレはレンちゃんのこと知ってたけど、一緒のクラスになったのは二年が初めてでしょ?」
「そのくらいキャラが濃すぎるの! 君も、君も!」
「え~やだぁ、レンちゃんってばぁ。そんなにいうと照れちゃうじゃなぁい」
「ほめてないよっ!」
「まあいいさ。みんなの気持ちはよぉく分かった! そうと決まれば! 今からその合宿を始めようではないか! ってなわけでレンちゃん! ここにとまらしてちょ☆」
「はあああああああああ!?」
なるほど、そう来たか。
呆れる半分、俺はそっと紅葉と相馬さんと顔を見合わせうなずき合う。
二人はにやりと笑い、うんとうなずいて見せた。
「わぁ、それすごいいいアイデアですね! 賛成です!」
「ちょ!? 何いってんの、颯馬!」
「さすが永遠さんは考えること違いますねぇ。じゃ、それで」
「なっ!? 紅葉?!」
「お世話になります、北城さん」
「て、輝まで!? もう、帰ってってばぁぁぁぁぁぁぁ!」
北城さんの叫びはむなしく園内に響き渡る。
俺達の合宿は、まだ始まったばかりだ。
(続く!)
ロートスフラワーは、日本語で蓮華という意味だそうです。
前にBL要素を含む、とお話ししましたが
それはあくまで颯馬さんがいるからであり
決してそういう描写があるとかはないです、はい
きらーーくに楽しんで読んでいってもらえると
ありがたいなぁ~なんて‥‥すみません、なんでもないです
次回はちょっと本編とは路線を変えて、
レンちゃんの秘密を少しだけ公開しますので、お楽しみに




