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CLUB♪ ~きっとそれは伝説になる~  作者: Mimiru☆
まだまだ続くぜ我ら遊部っ!
31/35

蜜月へのアプローチ

舞台は三月中旬。

卒業式を終えた遊部に、新たな刺客が!?

三月の中旬。

卒業式も開け、春休みに入ったころ。

唐突に、事件は始まった。


「みなさん、大変です! 緊急事態です!」


また新たな騒動が、始まろうとしていた。


「なに、辻村さん。あんまり騒ぐと、怒られるよ?」


「これが大声出さずにはいらないんですよ、レンちゃん先輩! 今日、私三者面談なんです!」


「ああ、そういえば春休みからやるって言ってたね。それで? 何が大変なの?」


「颯馬先輩を見たいって、うちの兄が押しかけてきます! 今から!」


また随分急な話だな、と思った。

おおかた彼女が颯馬さんの話でもしたのだろう。

辻村さんに兄弟がいることは知っていたが、まさかこんなことになろうとは。


「今からって、マジで?」


「……急な話だな。なんでそんなことに」


「気になる子いるのかって聞かれたので、結婚を前提にお付き合いをしている人がいると答えました!」


「それで正直に答える君もどうかと思うんだけど……」


「何々~? なんか来るの~? 地震雷家事親父?」


冗談交じりで話に入ってくるのは、三年生であり前部長の永遠さん。

卒業したというのに、「暇」の一言でここに顔を出している。

まあ、俺達も春休みなのに集まってること自体疑問なのだが。


「それがうちの兄が全員そろってここに来るって聞かないんですよ! 萌の彼氏なら、一回でも拝まなきゃって!」


「あんれまぁ、大変なこっちゃだね~颯馬っち~」


「そもそもオレ、彼氏になった覚えがないんですけどね?」


「いいんじゃないの? お客さんが来るくらい。それで、辻村さんのお兄さんって、どんな人なの?」


北城さんがそう辻村さんに聞いた、そんな時だった。


「オレのかわいいかわいい萌はここかあああああああああああ!」


いきなり部室のドアが開く。

俺と同じくらいの背丈の青年は、ハアハアと肩で息をしながらこちらをぎろりとにらみつける。

防寒対策なのかニット帽やマフラーをつけていて……


「すみませーん、変態~じゃなかった関係者以外は立ち入り禁止でぇす~」


気が付いた時には、永遠さんがドアを閉め、鍵までかけていた。


「ちょっと君! 何閉めてるの!? あれどう見ても、辻村さんのお兄さんでしょ!?」


「あれは客とは呼ばん! 得体のしれない未確認生物だ!!!」


「失礼なこといわないの!!!」


「大丈夫です、レンちゃん先輩! うちの兄を見くびってもらっては困ります!」


辻村さんの言うことに、みんな顔をしかめる。

その次の瞬間、


「あ、開きました。やっと会えましたね、萌」


「おおおお! 愛しの萌ぇぇぇぇ! 心配したんだぞぉ~!」


「邪魔させてもらうぜ?」


鍵がかかっていたドアをいともたやすく開け、入って来たのは三人の男性だった。

三人とも、俺達よりはるか年上のように見えて、顔はどことなく辻村さんに似ている。

ということは、だ。


「ひょっとして、このお三方全員萌ちゃんのお兄様方?」


「はい! そうです! すごいでしょう!」


「いや、すごいでしょうじゃないでしょ! なんで鍵かかってたのに入ってこれたの!?」


「すみません、ご迷惑だったでしょうか?」


「え? いや、迷惑ってわけじゃない、けど……や、やりにくい……」


きれきれなつっこみをする北城さんも、さすがに年上を相手にするのは苦手らしい。

事実、俺もだ。

しかも相手はあの辻村さんのお兄さん。

一体どんな人なのか、想像さえできなかったのに……


「お騒がせして申し訳ありません。私、三男の朱鷺ときと申します。遊部の皆さまですね、いつも萌がお世話になっております」


「あ~どもども~私が部長の中江だ」


「あんた部長じゃないでしょ!」


「これはどうもご丁寧に。少しだけ、お時間いただいてもいいでしょうか?」


辻村さんのお兄さんの一人―朱鷺さんは、丁寧な口調ながらも何か怒っているような感じが見受けられる。

彼が浮かべている笑みはどことなく、響先輩と似ていた。


「お前らが遊部だな!? オレは辻村家の長男、すずめだ! 矢神颯馬はどこのどいつだ! もう逃げ場はないぞ!!」


最初にここに入って来た人―雀さんが、一番上だったらしい。

兄弟だというのに、この性格の差は何だろう。

やはり彼らの目的は、辻村さんの好きな人でもある颯馬さんのようだ。

だが当の本人である彼は……


「矢神颯馬って人は、数年前に大きな事故に巻き込まれて、ぽっくり逝っちゃったよ♪」


「縁起でもないこと言わないでよ!」


「ってことは、ここにいるのは颯馬の幽霊!?」


「あんたもそれにのらない!!」


「お兄ちゃん方!! 誰であろうこの方こそ、私の婚約相手・矢神颯馬先輩その人であります!!!」


辻村さんが、派手なポーズ付きでじゃじゃーんと颯馬さんを刺す。

気まずい沈黙が、俺らを襲う。


「……萌黄。あんまいいたくはなかったが、お前バカだろ」


沈黙を破ったのは、今までおとなしくこの場を眺めていた、もう一人のお兄さんだった。


「なぜですか、鳩羽はとばお兄ちゃん! 颯馬先輩ですよ!? かっこいいって思わないんですか!?」


「思うか。聞いたとこ、ここじゃかなりの厄介者じゃねぇか」


「ほえ?」


その人―鳩羽さんは、はあっとため息をつく。

彼は隣にいる朱鷺さんに目配せすると、言いたいことが分かったかのように彼が話し出した。


「萌、恋愛するのもしないのもあなたの自由です。ですが彼は、裏社会で話題になっている情報屋なんじゃないか……そんなうわさがあります。それでもあなたは、彼を好きと言えるのですか? いつか萌に災いが起こるのではないか……私たちは、それが心配なだけなんです」


朱鷺さんの言うことは、正しい。

大人の人は、きっと口をそろえてそう言うだろう。

情報屋。

俺も詳しいことは、よくわからない。

ただ颯馬さんが情報屋だというのは、まぎれもない事実なのは間違いない。

だから何も言い返せなかった。俺もここにいるみんなも。


「だからなんだっていうんですか? 私、情報屋でもぜ~~んぜんきになんないですよ?」


ただ、辻村さん一人をのぞいては。


「あ、あのねぇ辻村さん。君が気にしなくても、お兄さんは心配なんだよ? 君、裏社会とかよくわかってないでしょ」


「分かりません。でも、それが何だっていうんですか?」


「その情報で恨みを買ってしまう人だっているってことだよ、萌ちゃん。永遠さんのことだって、颯馬さんが情報屋だったからってのもあるし」


「例えそうだとしても、颯馬先輩は悪い人ではありません! 皆さんだって、そう思っているんでしょう!?」


辻村さんはそういうと、つかつか歩き出す。

彼女は三人のお兄さんに向かって、まっすぐに面と向かって話し出した。


「確かに私は、颯馬先輩のことを知りません。だからこそ、知りたいんです。先輩の喜びや苦しみ。抱えてしまった重いものを、私も一緒に背負いたい! 颯馬先輩のあの笑顔は、偽りなんかじゃありません! 颯馬先輩を悪く言う人は、たとえお兄ちゃん達でも容赦しません!!」


なんて堂々とした人だ、と思った。

遊部に入って来た時もそう、彼女はいつでもまっすぐで颯馬さんを好きでいる。

それが、辻村さんのいいとこ。なのかもしれないな。


「はぁい、妹ちゃんの言い分が聞けたとこでご家族は帰ってくれないかな~? せっかくの遊部が遊部じゃなくなるでしょ~?」


「帰るわけにはいかないだろ! 危険だと分かっていて、萌を一人置いてなんて……!」


「あのさぁ、君はさっき何を聞いてたわけ? 辻村さんがあんなに言ったのに、分かってないのは君の方

でしょ。それ以上言うとほんとに出てってもらうよ?」


辻村さんの思いを聞いて、北城さんをはじめとした遊部の面々が彼らを見つめる。

颯馬さんだけは下を向いていたが……。


「はあ……かえろーぜ。雀、朱鷺」


「うえっ!? ちょっと鳩ちゃん!?」


「萌、気を付けて帰って来るんですよ?」


「とっ、朱鷺まで!!? ああもう! 萌! お兄ちゃんは、彼氏なんか認めねぇからな!!!」


逃げるように立ち去っていく三人の姿を見ながら、俺ははあっとため息をつく。

なんだか、嵐のような三人だったな。

さすが辻村さんのお兄さん、というべきなのだろうか。


「皆様、お騒がせしてほんっとにすみませんでした!!!」


「萌ちゃんのお兄さんって、なんか萌ちゃんとそっくりだよね」


「それよく言われます! それって褒め言葉なんですか?」


「ま、いいんじゃない? 丸く収まったんだし」


「しっかしまああんたは強いねぇ。あそこまで言い切るとは」


永遠さんが感心しているような、呆れているような声を出す。

みんな彼女の決意っぷりに、賞賛が絶えない。


「辻村さん」


ただ一人、颯馬さんをのぞいて。


「はい! お呼びでしょうか、颯馬先輩!!」


「この際だからはっきり言っておくけど、お兄さんの言うことは本当だよ。オレは情報屋だし、危ない取引だってやってる。それでも君は、同じことがいえる?」


いつにもまして消極的だ、と思った。

颯馬さんの顔は自信なさげで、不安に駆られていて。

眼鏡がなかった時の彼と、まったく同じで……

これが颯馬さんの本当の姿、なのだろうか。


「いえます! どんな颯馬先輩でも、私辻村萌黄は受け入れます! 颯馬先輩が、大好きなので!」


いつもと変わらないまっすぐな瞳と、その信念。

彼女の思いは、何一つ変わらないように見受けられた。

皆がその場を見守っていた、そんな時だった。

突如颯馬さんが、彼女を抱き寄せたのは。


「!?!?!?!? そ、そそそそそ颯馬先輩!?」


「ひゅ~~~~~颯馬やるぅぅぅ~」


「ちょ、何してんの颯馬! あとそこは写真撮らない!」


「……なんか、信じられなくて。オレを受け入れてくれた人、今までいなかったから」


颯馬さんはそういうと、ゆっくりと辻村さんを離す。

誰もがみな、その次の展開を期待した。

が。


「でもオレ、付き合うまでは考えてないかな♪」


とさらりといってのけた。


「why!? 何故ですか、颯馬先輩! 今の完全に付き合う流れでしたよね!? 全国の読者の皆様も絶対期待しましたよ! なのになぜ!!?」


「十分伝わったよ、君の思いは。でもオレもお兄さんと同じように、君まで危険な目には合わせたくないんだ」


「それはそうかもしれませんけど……」


「じゃあ待ってるから。君が大人になるまで」


そういうと、颯馬さんはじゃあねと言って立ち去ってしまった。

彼がいなくなると、さっきまでのにぎやかが嘘だったかのように静かになった。


「結局のとこ、颯馬が辻村さんをどう思ってるのか疑問なままなんだけど」


「まあいんじゃね? それが颯馬でそ」


「もし颯馬さんに振られたら、オレのとこにいつでもおいでよ? 萌ちゃん☆」


「……お前はいい加減にしろ」


「心配いりません! 私辻村萌黄はあきらめません! 颯馬さんがあっと驚くような、大人になって見せます!!!」


彼女―辻村さんが颯馬さんとどうなったのか……それがわかるのは、まだまだ先のようだ。


fin

萌ちゃんのお兄さんたちは、色をモチーフにしながら

鳥の名前になるようになってます。

職業的には雀は美容師、鳩羽は自衛隊、朱鷺は鍵屋という設定です。一応。


この二人がどうなるの? という意見が多い中、

私はあえて答えを出さないでおきます。

皆様のご想像に…のほうが、面白いでしょう?

別に私が颯馬さんをくっつけたくないからというわけではなく・・・


次回は、新生徒会の三人のおはなしです。

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