遊宴、時折り雑務タイム
永遠と颯馬の計らいのもと、遊部に学園のプリンスである
北城大翔改めレンちゃんが加入!
これで遊部続行・・・・なのか?
「今配った入部届は、申請書を出していない人以外は全員提出です。ちゃんと記入して、顧問の先生に出してから私のとこに出しに来てください」
担任の先生が、にぎやかな教室の中で声を張り上げて言う。
入部届とかかれた紙を見ながら、俺はひそかにため息をついた。
この学校に入学して、もうすぐ一か月が過ぎようとしている。
にもかかわらず、俺はいまだにあの部活に入ることをためらっている。
北城さんをスカウトしたってことはつまり、部長から入ってもいいという許可が出たということ。
しかし、だ。
遊部などとよくわからない部活に入っていいものなのだろうか。
第一、そんなのはいらないのと同じではないかと。
「そんなに紙睨んでても、目が疲れるだけだぞ~?」
「……睨んでなどいない」
「だってみるからに仏頂面じゃん。そんな顔してちゃ、いつまでたっても友達出来ないぞ?」
相も変わらず紅葉はこうして、部活行こうぜ~と誘いに来てくれる。
今までの数週間は体験入部期間で、ろくに先輩達とも顔を合わせていない。
この入部届が配られたということは……そろそろ腹をくくる頃なのかもしれんな……
「なあ紅葉。やはり部活は遊部に入るのか?」
「ん~。女の子達の誘いはうれしいけど、一人に選んだらかわいそうだからさあ。それに、お前を一人残していけねぇし?」
「余計なお世話だ。だからといって、遊部にする必要はないだろ」
「だって面白くてさっ。あの先輩、個性あってみてて飽きないんだよなあ」
「お前の感覚はよくわからん」
「まあそう怒るなって」
そういいながら、先輩方がいる部室へと向かう。
ドアをゆっくり開けると、そこにはー
「少し右~。ああ、行きすぎ行きすぎ。ちょぉっと左~んでそのまま、まっすぐしんちょ~に」
「まっすぐっと……こんな感じですか?」
「ベリーベリーグッド! 最高だよ、颯馬~。あんたセンスあるねぇ」
「先輩の教え方がいいからですよ~。あ、やっほ~輝君、紅葉君♪」
颯馬さんが手を振りながら、こっちに笑顔を振りまける。
彼のそばには丁寧に積み上げられた、トランプタワーがそびえたっている。
多分、あるだけのトランプを使ったのだろう。かなりの高さだ。
颯馬さんと向かい合わせになるように、永遠さんが座っていて俺達に気付いたようによっと手をあげる。
「やあ~一年組~久しぶりだなぁ。お疲れちゃん」
「お、お疲れ様です……」
「これ、先輩方が作ったんですか? すごいですね」
「途中までおいらがやってたんだけど、飽きてさぁ。颯馬が来たから、選手交代してたとこ」
飽きたからって……本当この人読めないな、謎過ぎて。
完成して気がすんだのか、颯馬さんがエイッと一気にタワーを崩す。
まさかとは思うが、遊部ってこんなことしかやっていないのだろうか。
「お、お邪魔しま~す」
と同時に、ドアがゆっくりと開けられる。
そこに現れたのは、北城さんだった。
彼は俺達の顔を見るとすぐに、怪訝そうな顔をした。
「ちょっと入口付近でたまんないでくれる? 邪魔なんだけど」
「あ、すみません」
「こんにちは~レンちゃん先輩♪」
「だからその名前で呼ぶなっつってんの! あとちゃんづけもやめて!」
北城さんはぶつくさ文句を言いながら、脇の方にカバンを置く。
鞄を置いたのを確かめながら、永遠さんがよしと言って立ち上がった。
「部員もそろったことだし、本格的に活動しようではないかっ」
「思ったんですけど、遊部ってなにしてるんすか? 名前の通り、遊んでるだけ?」
「まあ基本はそうだよ♪ でも毎日遊んでるだけじゃあきちゃうでしょ?」
「そこで遊部初のミッション! 体育倉庫の掃除を開始する!」
一瞬、自分の耳を疑った。
今、この人なんて言った? 掃除? 遊部で?
意味が分からない……
「ちょっと待ってよ! 話が全然見えないんだけど!」
一番に異論を唱えたのは、言わずと知れた北城さんだった。
「体育倉庫って汚すぎて誰も入れないとこだよ!? なんでわざわざ僕達がやらないといけないわけ!? 雑用じゃん!」
「雑用ではない。これは、試練という名の壁だ!」
「意味わかんないんだけど! 僕絶対嫌だからね!?」
「ってレンちゃんは言ってるけどぉ……輝君と紅葉君はどう思う?」
颯馬さんが、笑みを浮かべながら俺と紅葉に振る、
正直に言うと、やりたくないのが事実だ。
ただ、遊部という部活なのに雑用を任されるのはなぜだろう。
誰だって、掃除などすすんでやろうという気にはならないはず。
「掃除するだけですよね? オレは別にいいですよ?」
俺が返答する前に、紅葉がひょうひょうとした笑みを浮かべて言う。
彼は先輩たちに、楽しそうに笑って見せた。
「オレら、まだ出会ってばっかだし。お互いのことを知る、いい機会になるんじゃないかなあと思って」
「あのねぇ紅葉、そんな機会は掃除以外にもたくさんあるでしょぉ?」
「まあまあ怒らないでくださいよ、レンちゃん先輩。それに、曲者である体育倉庫の掃除したなんて知ったら、女の子達からの株も上がるし♪」
こいつのこういう面は、昔から変わらない。
なんだかんだで、色々と考えてやっているのが紅葉だ。
事実、北城さんも言い返せないみたいだし……
「俺もやります。人数多い方が、すぐに終わると思いますし」
「さすが一年組~。はい、てなわけで四対一でレンちゃんの負け~」
「もうっ! わかったよ! やるよ! やればいいんでしょ!?」
北城さんが観念したかのように、言い放つ。
こうして俺達は、体育倉庫の掃除という名の雑用を行うことになった。
「やっぱり、やるっていうんじゃなかった……」
ほうきなどの掃除用具を手にしながら、北城さんがぼそりとつぶやく。
はわいたところから舞う埃にしかめながら、俺はひそかにため息をついた。
永遠さんのよくわからない命令で、体育倉庫を掃除することになった俺達。
ただ掃除するだけなら、別に問題ないと思っていた。
それは多分、ここにいるみんなが思っていたはず。
が、考えは甘かった。
中には壊れて使えなくなった器具や、誰のものかわからない体育服などの忘れ物。さらには蜘蛛の巣や、ねずみなどがいたような形跡がある。
とてもじゃないが、すすんで掃除しようと思えない。
なんでこんなに汚い体育倉庫が、いまだにあるのだろうか。
まったく、意味が分からない……
「なんでここ、こんななの!? 聞いてないんだけどっ!?」
「文句言う口があるんなら手ぇ動かせぇ、レンちゃぁん。帰宅時間まで残り少ないんだぞう?」
「こんなの終わるわけないでしょ!? ていうかなんでこんなになるまでほっといてんの!? 壊せばいいじゃん!」
「今の体育倉庫がぎっしりで、入りきらなくなったんだって。ここを掃除して使えるようになったら、こっちにも道具を移そうってなったらしいよ?」
ささくれだった木でできた跳び箱を外に運びながら、颯馬さんが言う。
彼らはこの状況を分かっていたのか、頭には三角巾やマスクをつけている。
仕方なく俺も、はたきでほこりをはたいていた。
「うわっ、体育服とかある。しかもくっせ。輝~せっかくだから着てみね?」
「なんで俺が。臭いと分かっていて着るか」
「じゃあこれどうすればいんだよ~」
「あ、紅葉く~ん。その体育服、ゴミ袋に入れずに外に出しといて~。年期はたってるけど、リサイクルすれば使えると思うから」
体育服を俺に押し付ける紅葉に向かって、颯馬さんが言う。
彼は汚いところの掃除をしているというのに、嫌な顔一つとせず相変わらずの笑みを浮かべていた。
「ねぇ颯馬~ここさびちゃってて全然取れないんだけど」
「レンちゃんってば、さびは雑巾じゃとれないよ~。歯磨き粉つけて、この歯ブラシで磨いてみて♪」
「ほんとだ、とれてく……。こういうことも知ってるんだね、君」
「あははっ♪ まあね♪」
さすが颯馬さん、というべきか。
なんでこの人、こんなに色々知ってるんだろう。
こういう雑学だけならまだしも、なぜ俺達のことまで……
「ああああめんどくせええええ!」
そう思っていた矢先、今まで黙って掃除していた永遠さんが大声を出す。
彼はつけていたマスクや三角巾を颯馬さんに投げると、たまっていた文句を吐き出した。
「こんな調子じゃ一日じゃ絶対終わんない! よし、明日に延期しよう!」
「あきらめんの早っ! まだ一時間しかたってないんだけど!?」
「おいらだって暇じゃないんだよ~あと十分したらスマホ音楽ゲーム、ミューラブのイベント始まるんだから~」
「やめる理由がゲームってどうなの!?」
「あ、そういえばオレも部室行かないと。りっきー先生の新作漫画が更新されてる頃だし♪」
「あんたらまじでなんなの!」
北城さんの怒り交じりのつっこみは、二人には届いていない。
なんというか、本当に自由奔放なんだなと思った。
これが遊部、か。
「ま、さすがにこん中に放課後中いるのはなあ。どーするよ、輝」
「どうもこうも、俺達だけでやれるわけないだろ」
「じゃあ戻りますかっ。レンちゃん先輩も一緒に戻りません?」
「言われなくても戻るよ! 僕だって、好き好んでやってるわけじゃないんだからね!」
北城さんが文句を言いながら、俺達の前を歩く。
俺は苦笑いする紅葉と顔を見合わせ、先輩たちの後ろをついていく。
「こんなかんじなのが遊部だけど……ついていけそう?」
先頭を歩いていた永遠さんが、こちらを振り返る。
今まで頼もしそうだったその顔が、心なしか切なそうな顔にも見えた。
「他にもこなさなきゃいけないものがたくさんある。多分、これよりもすごい物とか色々。それでも、入部届を出してくれる?」
なぜか、胸が少し痛くなった。
最初は入れと強制してた永遠さんから、こんな言葉が出るとは。
「らしくないなあ、先輩。変なこと聞かないでくださいよ」
しばらくの沈黙の後、いち早くいったのは颯馬さんだった。
「オレは続けますよ? なんだかんだですっごい楽しいんで♪ ね?」
「そうですねぇ。新鮮だし、面白そうなので入っちゃおっかなっ」
「乗りかかった船だしね~仕方ないから、付き合ってあげるよ」
「俺も入ります、この部活。永遠さん、これからもよろしくお願いします」
俺達四人が言うと、永遠さんはふんと鼻で笑う。
ふっきれたのか、いつもの自信満々な態度で仁王立ちして見せた。
「ならばかけた奴から入部届をおいらに提出すること! 顧問の印は、おいらにどんと任せなさいっ」
「確かあれ、印鑑いらなかったですよね? もうだしちゃっていいですか?」
「結構、結構。大いに結構! では皆のもの! 部室に戻るぞ!」
この時の俺は、まだ知らなかった。
遊部と永遠さんに隠された、深い深い秘密のことを……
(続く)
ここ最近、アニメの女たらしキャラにはまってます。
というかもともと好きだったのか、小説にもかなりの頻度で出ています。
その中でも紅葉はかなりひどいほうのたらしだと思ってますが・・・
みなさんの見解にお任せします笑




