嘘だらけのエンジェル貴公子
強制的に入れと言われたその部活の名は、遊ぶ部活と書いて遊部!
部長・永遠の命令で、輝と紅葉は「北城」という先輩を探すことに・・・
授業終了のチャイムが、教室中に鳴り響く。
さよなら~と、次々と生徒たちが教室から出ていく。
そんな光景を見ながら、俺は深いため息をついた。
いつもの俺なら、ここで真っすぐ帰るとこであろう。
が、今回からは全然違う。
永遠と名乗った謎の先輩の強制勧誘から、なぜか遊部という部活に所属する羽目になっている。
そもそも、なんでこんなことになったのだろう。
まず遊部ってなんなんだ。何をする部活なのかも教えてもらってないじゃないか。
そう思うと、むしゃくしゃしてしょうがない。
あんな部活やめて、さっさと帰ろう。そう思い、席を立とうとした。
「な~に帰ろうとしてんだよ」
突然降って来た声に、びくっと肩を震わせる。
振り返ると、そこには紅葉がいた。
俺の考えていることが分かっているかのように、にんまりと不気味な笑みを浮かべている。
「お前さ、あんな部活やめてやる~とか思っただろ?」
「……うるさい」
「あ、図星? まあお前の気持ちはわからなくもないけどさ。遊部ってきいただけで、面白そうな予感がしない?」
「するか」
間髪入れずに俺が答えても、紅葉はまあまあと言ってなだめる。
思えば、いつもこうだ。
どんなに俺が不機嫌でも、こいつは優しく笑いかけてきてくれる。
腐れ縁とはいえ、いまだになれないのも多少あるのだが。
「んじゃ、いこうぜ。部室」
「その前に、やるべきことがあるだろう」
「やるべきこと?」
「北城って人のことだ。俺達が勧誘して来いって昨日、部長から言われただろ」
俺が言うと、ああと思い出したように声をあげる。
強制勧誘させられたことでも怒っているというのに、まさかスカウトまで頼まれるとは。
しかも相手は全く知らない先輩ときた。
正直に言って、ああいうタイプの人は苦手だ。
部長が何を考えて、何を思って俺達に言っているのか……想像がつかない……
「じゃあ行ってみるかっ」
「は? 行くってどこに」
「決まってるだろ、二年の教室だよ。まずは情報収集から始めないと」
「まさかお前……また女子から情報を聞き出すつもりだな?」
「お、さすが輝。オレのこと分かってんじゃん♪」
やっぱりこいつは、本当昔から変わっていない。
ため息交じりに、紅葉の言う二年の教室へ行こうと歩き出した。
うちの校舎は五階建てになっていて、二階から一年、二年と階数が上がっていく。
そのため、階段を昇ればすぐに二年教室にはたどり着くのだが……
「で? 何か情報はないのか。その、北城さんについて」
「女の子達曰く、ここの学校のナンバーワンなんだってさ」
「ナンバーワン?」
「そ、名前は大翔。学業、スポーツともに完璧。かなりの美青年なんだと」
そんな人がこの学校に……
というか、その人が遊部に入るとはとてもじゃないが思えない。
なのにどうやって勧誘しろっていうのだろうか……
「みてっ、大翔様よ!」
「大翔様のお帰りだわ!」
「きゃああああああ! 大翔様あああ!」
甲高い女子達の声が、向こうから聞こえる。
行列のように並んでいる女子達の真ん中を歩いている、一人の人物がいた。
ふんわりとした髪の毛に、きれいなほど白い肌。
まるで、大人の女性をも思わせるような漂う品格……
「みんな。今日もお疲れさまっ」
青年が女子全員に向かって、笑顔を向ける。
その途端、たちまち歓声が沸く。
あまりの光景に、自分の目を疑うほど。
気まずい沈黙を真っ先に破ったのは、紅葉だった。
「なあ輝。質問していいかな」
「……なんだ」
「あれって……女? 男?」
「声の低さからして……男……じゃないのか?」
「だよ、なぁ……いやあ、予想以上の美顔っぷりで……」
数々の女と付き合っている紅葉が言うのだから、噂されるだけのことはあるということなのだろうか。
さすがに俺でも、彼がその部類に入ることはわかる。
見た目も、雰囲気も俺とは全く違う。
もしかしてこの人が、北城さん……なのか?
「あれ、君たち一年生? こんなところで、どうした?」
気が付くと、目の前に美青年がいた。
近くで見れば見るほど、美貌っぷりが一目瞭然だ。
言葉がうまく出ない俺に代わり、ひょうひょうとした態度で紅葉が話し出した。
「あ、あの~北城大翔さん、ですか?」
「うん。そうだけど」
「オレ達、先輩を探してきてと頼まれたんです。一緒に来てくれませんか?」
「頼まれた? 誰に?」
「オレが頼んだんだ~♪ 部活入ってないの、君だけだったからさあ♪」
そこに、聞きなれた少し高めの声が聞こえる。
いつの間にいたのか、北城さんの後ろには颯馬さんが立っていた。
初対面の時と変わらない、純粋そうな笑顔を浮かべている。
「えっと~……矢神君だっけ。なんで君が?」
「いやあ、一度でいいから話してみたかったんだよねぇ。部長も君なら大歓迎って言ってくれたし、ちょっとだけ部室に来てくれないかな? 話はそこでするよ」
「ごめんなさい。僕、今日この後用事があって……」
「いいのかなあ? 君の秘密を、ここにいるみんなに話しちゃっても」
颯馬さんの顔が、一瞬だけ不気味そうに笑ったように見える。
笑みを浮かべていた北城さんの顔が、少しだけ引きつる。
「オレは何でも知ってるんだよ? 例えば~君の……」
「分かったよ。ついていくから、そのことは絶対に言わないで」
「はぁい~♪ それじゃあ、行こうか。二人も行くよ~」
あまり状態が把握できないまま、俺達は先輩たちのあとを追ったのだった。
「北城大翔、ねぇ~」
棒キャンディーを口に含みながら部長、永遠さんがつぶやく。
北城さんを連れてやってきたのは、言うまでもなく遊部部室だ。
部室にはやっていたのか、ボードゲームなどのゲーム機が散らばっておりその横にはあけられたお菓子袋もある。
「ふーーーーーん、へーーーーーー、ほーーーーーーーーー」
キャンディーを加えたまま、永遠さんは北城さんの周りをぐるぐる回る。
姿勢を変えてみたり、様々な見方をし終わるとぱちんと指を鳴らして一言。
「女だろ」
「いえ。よく間違われますけど男です」
「え~~こぉぉぉぉんなにかわいい顔してるのがあ? 男ぉ? 嘘だといってくれよぉ~」
「ちょっと先輩、目的を忘れないでくださいよ? 探してきたオレらの身にもなってください」
我慢できなくなったかのように、紅葉があきれ顔で言う。
それを聞いた永遠さんは、思い出したかのようにポンと手をたたいた。
「そーそー、大事なこと忘れてたよ。YOUっ、遊部に入っちゃいなよっ」
「はい?」
「遊部はいいぞ~ただぐうたらしてれば済む、楽~な部活だ。入る部活がない! って人にはうってつけのもの。それがおいら直々のスカウト付きだぞ? こりゃあもう入んなきゃダメでしょ」
まるでどこぞの通販のような言い方をしながら、北城さんの周りをぐるぐる回ってみせる。
こんなふうに強引な勧誘の仕方は、俺らと同じ。
ただ、素直にはいと返事が出るはずもなく。
「申し訳ありませんが、お断りします」
北城さんは、深々と永遠さんにお辞儀して見せた。
「僕、両親が共働きで弟たちの世話するので必死なんです。申請書を出しているので、その校則に従わなくていい許可は取ってます。先輩のお誘いは嬉しいんですが、お断りしま……」
「へぇ~、弟いるんだぁ。初耳だなぁ」
すると、今まで黙っていた颯馬さんが突然口を開いた。
彼は満面の笑みを浮かべていたが、それがなんだか初めて会った時よりも不気味に見えた。
「申請書を出しているのは事実だけど、そんな家庭事情じゃないはずだよね? ってことは、生徒会長や校長にまで嘘をついているってわけだ」
「……何を根拠に、そんなことが言えるんだい?」
「そんなの決まってるじゃない、大翔君。いや、それとも……レンちゃん、とでも呼んであげようか?」
彼の目がにやりと笑うようにあく。
その一言同時に、北城さんが颯馬さんの胸ぐらをつかんだ。
「言わないでって言ったのに……勝手にばらさないでくれるかな!?」
「あははっ、そんな怒んないでよぉ~レンちゃん♪」
「気安く呼ぶな、この人でなし! なんでそこまで僕のこと知ってるわけ!?」
「さあ~? どこまでかなぁ~♪」
「なんなの、こいつ! いらつくんですけど!」
さっきまでと違う。
それは紅葉にも、俺にでもわかった。
はっと我に返ったのか、北城さんの顔がこちらに向く。
爽やかだったのが一変した不機嫌そうな顔が、俺達三人に向かう。
「ちょっと何見てんの!? 勝手に人を見世物にしないでくれる!?」
「あ……すみません……」
「えぇっと、北城さん……ですよね?」
「ああ、もうそうだよ。今までのはぜ~んぶ猫かぶってました! これで満足!?」
まるで人が違う。
これがさっきと同一人物とはとてもではないが思えない。
北城さんってこんな人、だったのか?
あの爽やかな優しい笑みはいったい……
「おぉ、分かったぞ。つまりこいつは嘘だらけのプリンスってことか」
「嘘だらけじゃないしっ!」
「先輩の言う通りで~す♪ 彼の本当の名前は、北城蓮華。大翔なんて、ただの偽名ですよ」
「だから勝手にばらさないでってば!」
「ああ、だからレンちゃんなんですね?」
「納得すんな!」
三人が、北城さんをからかうような口で話し合っている。
初対面なはずなのに、なんだか馬が合っていて見ていてほほえましく思った。
最初はこんな美青年と恐縮していたが、案外話しやすい人なのか……
「では改めてっ、おいらは中江永遠。北城蓮華として、この遊部に入ってもらう!」
永遠さんが、手をさっとさし伸ばす。
その手を怪しげに見ながら、北城さんは怪訝そうに顔をしかめた。
「……それって学校とは別で、ってこと?」
「そ♪ いつまでも猫かぶってると、疲れちゃうでしょ? ここならありのままの自分を出しても、ぜ~んぜん問題ないからさ♪」
「君に言われると説得力に欠けるんだけど……」
「まあまあ、ここは部長である先輩を助けるためと思って。ね?」
颯馬さんが、あふれんばかりの笑顔を浮かべる。
彼の笑顔と永遠さんの手を交互に見た北城さんは、はあっとため息をついた。
そしてゆっくりと、永遠さんの手に自分の手を重ねて……
「いっとくけど、僕の秘密ばらしたりしたら即退部するからね」
「っしゃあああああああ! 部活続行決定!」
「よかったですねぇ、先輩。オレのことはもう知ってるよね。こっちの二人は、君と同じ新しく入った一年生」
「初めましてっ。高里紅葉って言います、よろしく、レンちゃん先輩☆」
「先輩にちゃん付けすんな!」
「ほ~ら、お前も」
「えっ、あ……櫛崎輝……です」
「はいはい、紅葉に輝ね。さっきも言ったとおり、僕は北城蓮華だけど名前で呼んだら許さないから!」
「わかってるって~レンちゃん♪」
「レンちゃんって呼ぶなあああああ!」
その日―北城蓮華さんを新たに加えた俺達遊部は、五人となり晴れて部活続行が許されたのだった。
(続く!)
今回から出てくるレンちゃんは個人的に好きなキャラなので、結構お気に入りです。
タグはBLを入れていますが、内容にはあんまり絡んで・・・ないと思うので
温かい目で見てもらえると嬉しいです!




