つぼみ繁栄の芽生え
時期はバレンタインデー後。
思い出の人が明らかになった、レンちゃんとあの人とのそのあとのお話ー
☆蓮華side☆
「大翔様、おはようございます!」
「大翔君! 駅前においしいって評判の喫茶店があるんだけど、一緒に行かない!?」
「ずる~い! 私が先に誘おうと思ってたのよ~!」
女子の群れが、僕を囲みながら言う。
あまりにうるさい騒音に、たまらず僕は
「うるさぁぁぁぁぁぁぁい! 僕まだ行くとも言ってないからね!?」
と叫んだ。
僕の名は北城蓮華。こんな名前だけど、れっきとした男です。
昔からからかわれるのが日常だったため、それを避けるべく大翔としてここじゃ知られている。
僕の本名を知っているのは、成り行きで入った遊部くらい。
あっちはあっちで「レンちゃん」って呼びまくるわ、女の子扱いされるわでたまったもんじゃないけど。
「部活入ってるから無理って前言ったよね!? そーゆーのは君達だけで行きなよ!」
「え~~~~~~~!」
「ふーん、じゃあ誘うだけ無駄ってことかー。残念だなー」
急に男性の声が聞こえて、びっくりする。
この声には、聞き覚えがある。
募る嬉しさを隠しながら、ゆっくりと振り返る。
「い……いつからいたんですか……司先輩……」
「うるさぁいの辺りから」
この人は秋山司。
三年生で、元生徒会の副会長だ。
いつもけだるげで聞くところによると、寝ることが好きらしい。
詳しいことは颯馬からしか聞けてない。
というのも、彼が僕を探していた人だからだ。
昔、憧れの意を抱き僕が変わるきっかけとなった……
「何俺の顔じっと見てんだ? 何かついてるか?」
「べ、別にっ! それより何の用ですか? 人の話盗み聞きして」
「そーいやあんまり話せてなかったなーと思ってなー……今日は響いねぇし、一人だと道端で寝そうなんだよー」
は、はあ……
「だからさ、一緒帰らね?」
はあ!!!???
「なななな何言ってるの!? 嫌に決まってるじゃん!」
「なんでそんなに焦ってるんだ?」
「焦ってない!!」
「お前、怒ったりすると敬語じゃなくなるよな」
「うっ、うるさい! とにかく! 今日は部活だから、一人で帰って!」
こうやってセリフに怒気が含まれてしまうのも悪い癖だ。
素直に「いいよ」なんて、言えるわけがない。
こんな急展開……誰も望んでないのに。
「ん~……今の部長って誰?」
「紅葉っていう一年だけど……?」
「じゃあそいつに言っとくわ。今日一日借りるって」
「はあ!!!!???」
「つーわけで、放課後ここでなー」
そういって彼はひらひら手を振って、行ってしまう。
あまりの衝撃の展開に、僕は戸惑いを覚えるばかりだった……。
その後、思いのほか情報はすぐにわたっていた。
というのも、朝一で
「レンちゃん、とうとうやったね!! 司先輩からのお誘い! 初Hはどこになるのかな!? ヤった感想待ってるね!」
超ご機嫌の颯馬が話してきたからだ。
どうやって紅葉と連絡を取ったのか、休み時間にすれ違った時に
「話は聞きましたよ~よかったっすね、先輩w ゆっくり楽しんじゃってください☆」
と意地悪そうに笑いかけてきた。
こうなってしまうと、もう後がない。
生徒会を盾に……と思ったけど、それも颯馬がカバーしている。
くだらないときに限って、遊部は連携がいい。
普段はおふざけばっかりの、ダメダメ集団なくせに……
「わりぃ、終礼長引いた。ちゃんと来てくれたんだな、お前」
しばらく待っていると、彼がやってきた。
彼の言葉に返答するかのように、ふんっと顔をそらす。
先に僕が歩き出すと、それについてくるかのように先輩が並んだ。
「今日颯馬に偶然会って、話してきた。お前、颯馬達からもレンちゃん呼びされてんだな」
「……呼ぶなって言ってるのに、全く聞かないだけです」
「名前偽ったのも、それが嫌だったからだろ? キャラまでかぶる必要、あったのか?」
「そっ、それは……っ!」
危うくこぼれそうになった言葉をつぐむ。
言えない。言えるわけがない。
あなたにあこがれていた、なんて……
「ど、どうだっていいでしょっ! あんたこそ、どうして僕があの時の子だってわかったんです!?」
「だってお前、昔の顔まんまじゃん」
「なっ!!?」
「別人だと思ってたが、たまたま遊部でのお前らを見かけてな。それで知った」
ぐぬぬ……!
「いい仲間に会えて、よかったな」
ふいにそんなことを言われるものだから、返答に困ってしまう。
確かにそのことは認める。
遊部に入ってから何もかもめちゃくちゃになった。
もちろん、いい意味で。
こんなこというと輝以外み~んな調子のるから、あんまり言わないけど。
「やっぱ中江にはそーゆー力があるんだろーな。変な奴」
「……先輩も、あの人のこと嫌い?」
「いや? 全然ふつー」
「よくそれで響先輩に怒られませんね……」
「響がどう思ってようが、俺は俺だしなー。個人の自由ってやつ?」
やっぱりこの人、変わってる。
昔もこんな感じで、僕を励ましてくれたっけ。
てっきり生徒会は、みんな遊部が嫌いだって思ってたのに。
「……その様子じゃ、俺ら全員遊部を敵対視してるって思ってるだろ?」
「うげっ!? なんでわかるの!?」
「分かりやすいんだよ、お前は」
「だ、だって……あんな理不尽なことされたら、誰だって……」
「中江もあったように、響にもそれなりの苦労があるんだよ」
そういう彼の顔は優しそうで、響先輩たちのことを考えているようにみえて。
その顔をみて、きっと彼しかわからないことがあるんだろうなと思った。
僕が知ってるのあの人のことは、颯馬から聞いた情報だけだし……
「そういう先輩自身はどうなんです……? 進路……とか」
「俺かー? ダメもとで受けてみたわ、四年大」
「へぇ~……意外。就職する思ってた……」
「一日だけだったけど、若葉園行ったじゃん? そん時に思ったんだよ。子供とかを相手すんのも、悪くねぇかなーって」
それって先生になるってこと……?
どこまでもこの人は僕の上を行く。
きっと卒業頃にはあっさりと受かってるんだろうな……
「なんなら、一緒来るか?」
「はあ……? 僕受験来年なんですけど」
「どーせ何も考えてねぇんだろ? 進路。こうして再会できたのも何かの縁だ。どーせ来るなら、やっぱ昔のままがいいなー。大翔じゃなく、蓮華として……さ」
随分勝手な真似だ。人の進路にまで茶々を入れる。
三年生って、この人ばっかりだ。
でも全然いやじゃないのは、この人だからかな。
もっと知りたい。この人と一緒に、行きたい……
「ふんっ! 僕がどうしようと勝手でしょ! まあでも……考えてあげなくもない……」
「すげー上からものを言うな」
「うっさい! そもそもなんで一緒に帰ろうなんて言い出したの!? 道端で寝るとかうそでしょ!?」
「あながち本当なんだが……単純に話がしたかったんだよ。蓮華としてのお前と」
「何それ……意味わかんない……」
「ラスト一年頑張れよ、蓮華」
そういってポンッと頭をたたかれる。
ふっと鼻で笑う彼に、「も~」と言ってついていく。
桜が満開になりだす、春の季節。
来年、僕はこの桜を見ることができるのかな……
fin
ここにきて、司蓮か颯蓮かという選択肢ができましたね。
私個人的には颯蓮推しなのですが、司もすごくかっこいいので
選べないですね。
あ、でも絶対レンちゃんは総受けだと思ってます。
何の話でしょうね、すみません。
次回はあの時、彼はどうしていたのか…?
という裏話です。




