オンリーワン・ベストフレンド
舞台は一月上旬。
遊部では何気ない日常が繰り広げられていたー
「輝~明日提出の宿題みせてくんね? 四問目が分かんなくてさぁ」
「……どうせ、全部やってないのがオチだろう? 全部うつさせてもらおうという考えは捨てろ」
「んだよ~けち~じゃあ明後日提出のは?」
「……紅葉」
「あーはいはいすみませんでした~」
愚痴をぶつぶつ口ずさむようにしながら、端の方へ行く。
彼の背中を眺めながら、俺は再び教科書に目を通した。
冬休みが開けた一月上旬。
俺達がいるここ、遊部では毎度のように遊んですごしていた。
相変わらずやっていることはそれぞれで、遊んでいる人もいれば俺のようにまじめに勉強している人もいる。
もっとも、北城さんくらいしか勉強している人はいないのだが。
「宿題終わってないの? 紅葉君」
「そうなんすよ~颯馬さん。教科ごとに全然違うの渡されるうえに、提出日一緒とかひどくないっすか?」
「わかるぅ~宿題って無駄に多いよね~おいらなんて、冬休みのぜぇん全終わってねぇも~ん」
「はあ!? まだ終わってないの!? あれだけため込むなって言ったよね!?」
永遠さんの問題発言に、いち早く北城さんが突っ込む。
彼はノートを破って作ったものであろう紙飛行機を飛ばしながら、いつものように平然とした顔を浮かべた。
「そもそも受験生に宿題出すなんておかしくね? 受験勉強で忙しかった~とか言ったら、大目に見てくんねぇかなあって思ってやんなかったてへぺろ」
「バカなの!? そんなのダメに決まってるじゃん!」
「ほんっと永遠さんって自由ですよね~うらやましいくらい」
「にしても輝りんは紅葉のことよくわかってるよね~。見してって言っただけで、考えてることお見通しなんてさっ」
唐突に、話題の矛先が俺達に向く。
おそらく、これ以上怒られることを避けたかったからだろう。
彼の話題チョイスは絶妙で、すぐにその会話に食いついた人がいた。
「やっぱり! 永遠先輩もそう思いますよね!!!」
無論、颯馬さんだ。
「遊部において紅輝の関係は欠かせないと思うんですよ! これを読んでいる人たちだって、絶対推してる人多いと思うんです! ね、レンちゃんもそう思わない?」
「知らないよ! 僕に振らないでくれる?! ていうか、読んでる人たちって何?」
「まあそんなことは置いといて……二人が出会った話を聞かせてくれないかな?」
なんでそうなるのだろう。
そう言おうと思ったが、やめた。
遊部はとにかく面白いことを好む。
もちろん、ここにいる人が断るわけもなく……
「それいいです! 私も気になります! 紅葉っちと輝っちのなれそめ!」
「確かにきいたことなかったね~ってことでよろぴく」
「ちょっ、なんでそんな流れになるんすか。話さなくても、颯馬さんは知ってますよね?」
「いいじゃない♪ こういうのは、本人の口から聞くのが、いいんだよ♪」
「マジかよ~レンちゃん先輩も、そっち派ですか?」
「僕のことも知ったんだから、お互い様でしょ? ちょっとは気になってたし」
こうなった以上、答えは一つだ。
困ったように紅葉が、俺の方を向く。
痛いほど向く彼らの視線を浴びながら、俺は深いため息を一つ。
「ちょうど十年位前、です。両親の都合で、今の家に引っ越してきて」
話しながら、自分でも思い出を呼び起こしていた。
あの日―こいつと初めて会った時のことを。
「輝、ここが新しいおうちよ。前より広いから、お母さんと見て回ろっか」
およそ十年前のある日、俺は今の家にやってきた。
幼稚園を卒園するタイミングで父を亡くし、小学校入学を機に母が引っ越しを提案してきたのだ。
当時を思い出しても、俺にとって母は父がいなかった分かけがえのない存在だった。
「ここから外の景色が見えるのよ~キレイでしょ?」
「……お花……咲いてる」
「あら、輝は景色よりお花がお気に入り? お母さんと一緒ね」
新しい家はどれも新鮮で、俺もすぐに気に入った。
その後母は「荷物とって来るね」と言って、すぐに外の方へ行ってしまう。
ベランダに咲く花にきれいながらの蝶が止まる。
オレは静かに花と蝶を眺めていた、その時だった。
「見つけたっ!!! アゲハチョウ、百匹目!!!」
勢いのいい声が聞こえたかと思えば、全力疾走でこちらに向かってくる。
虫取り網を迫って来る彼に、びっくりして身動きが取れない。
その人は止まることを知らず、ベランダの方まで走ってくると思いっきり網を振りかざす。
網の中に入ったのは、蝶ではなく俺だった。
「ああっ! 記念すべき百匹目があ!」
「……おい」
「仕方ねぇ。さっきとったモンシロチョウで我慢するか~」
「おい」
やっと俺の言葉が届いたのか、その少年は「ん?」とこちらを向く。
するとなぜか急に吹き出し、大声で笑いだした。
「ブハッw 蝶じゃなくて人間が捕まるとかうけるww」
「……笑う前に、言うことがあるんじゃないのか」
「ははっ、ごめんごめん。君、ひょっとして櫛﨑って人?」
「……そう……だが……」
「やっぱり! さっきそう名乗った人がうちに来てさ! ああ、オレ高里紅葉! お前は?」
「……輝……櫛崎輝……だ」
それがこいつと、紅葉との初めての出会いだった。
その当時から、奴は変わっていた。
学校で毎日のようにイタズラしては、先生に怒られる。
そんな紅葉だからこそ友達も多かったし、好かれていた。
転入したての俺になかなか人が寄ってこなかったのを、わずか数秒足らずで輪の中へ入れてくれた。
それでもクラスになじめなかったのは、昔からのこの顔のせいだろう。
にもかかわらずあいつは何かとつっかかってきた。
あいつだけは昔とちっとも変わらない。
今もなお、この関係が続いていること自体珍しい事なんだが……
「へぇ~……君達って、そんな出会い方だったんだ」
話し終えると、北城さんがほおずえをつきながら口を開く。
聞きたいとか言っていた永遠さんは、いつのまにか寝てしまっていた。
興味がなかったのなら、最初から言わなければよかったのに。
逆に話を聞いて興奮を増したのは、あの二人だった。
「つまり輝っちと紅葉っちは一線を越えた関係ってわけですね! わかってますよぉ! 初夜を過ごしたってことも!」
「それで初Hのお誘いはどっちからなの!? やっぱり、紅葉君だよね!?」
「二人は俺達を何だと思ってるんですか」
「まあ、いいんじゃねぇの? ていうか、結構鮮明に覚えてたんだな。オレとのことっ」
「あれだけインパクトがある出会い方をすればな」
「オレだって初めてだよ。お前みたいな、変わった友達ができたのはな」
そういうと紅葉は、ぱちっとウインクをしてみせる。
彼は興奮が収まらない二人に、まあまあと言いながら仲裁に入ってゆく。
変わった、は余計だ。
そう小声でつぶやきながら、俺も彼についていくように後を追った。
fin
というわけで、紅輝です。
この二人は、言うまでもなくラブラブの両思いですよね。
なんかお互いに信頼し合っているというかなんというか・・・
余談ですが、輝と永遠以外みんなちゃんづけで親に呼ばれています。
ちゃんづけの方が呼びやすいかなという、個人的な解釈の都合です、すみません。
さて次回の遊部は、後日談的なものになるので
誰のかは楽しみにしていてくださいね。




