ムスフとの再戦と剣の美女
「――――では、明日の正午より任務のために東の村「バイル村」にこの騎士一同で向かいます。目的はモンスターの討伐です。集合場所はこちらです。遅れずに集まってください。では、これで解散致しますが各自このあとの予定は考えて行動してください。訓練をする、休養をする。自分にあった行動を取るように」
一通りの説明を終えたアリシアがそのままその場を離れて何処かへと去っていく。
彼女がこの聖騎士たちをまとめ役だと理解したがその彼女はどうやら、基本的には放任主義なのか。
まばらに全聖騎士も並列が乱れ各自の行動を始めた。
部屋に戻るのかアリシアと同じように騎士宿舎を離れてくもの、未だに騎士宿舎に残って仲間と会話を始めるものや訓練をするものたち。
「どうしろというんだよ」
優騎の教育係りだったはずのアリシアもどこかへ行ってしまえばやることがわからない。
解散で自由と言われたが結局のところ新人の聖騎士である優騎もそうしていいのかさえ曖昧だ。
しかも、あの最後の締め方の宣言である。
『各自このあとの予定は考えて行動をしてください』だ。
難しいことを言われると逆に迷ってしまう。
「ちっ、部屋に戻るか?」
周りの目もやけに気になった。
殺気だった視線があちこちから浴びせかけられて居た堪れない。
腰に収まった鞘に手を触れて防衛本能を強化させる。
「この剣もあのときの光景が幻だったのか?」
ついにはあの光景を思い出し、愚痴り出す。
奇妙な体験である。
昔の歴史を魅せられ、自分の存在やここに連れてこられた理由。
まるで、王道ファンタジーな展開であるが実際に起こりえてる真実なので何も言えない。
「ああー、ったくよぉ」
木造の宿舎とは言ってもそれほど広くはない。
外の広場と隣接したものでほとんどのものがこの宿舎から出て広場で訓練をしてるのだった。
優騎は宿舎側のほうにある柱に寄りかかり外の光景を見つめた。
「元気なこったなぁ」
「随分と余裕じゃふぁいか。新人ふぁんよぉ」
突如として影が差し込み優騎は顔を上げてぎょっとした。
そこにはガタイが大きく歯が欠けデコボコ顔の大男がいた。
「ひさしいな。まさか聖騎士になるとはおもわなかったふぁてんよぉ」
どうにも親しげな感じで話しかける彼だったが見覚えがなく優騎は首をかしげた。
「えっと、どちらさま?」
「っ! ムスフふぁ! ふぁってん! ふぁすれたとはいわぜないふぁ!」
「ムスフ?」
「おまえの試験の相手ふぁってん!」
「ああ」
どうにか思い出した。
優騎が未だに力の利用ほうがわからない時にやられた相手であった。
こいつは運が良く自分に勝っただけの存在であると今なら認識する。
今の自分は容易にこの男を倒せると優騎は確信をしていた。
その結果か、なぜか異様にからかいたくなる。
「で、ふぁってんオヤジがなんのよう?」
「ふぁ、ふぁってんおやじ‥‥。ふぁってん! 僕はまだ21だふぁってん!」
「うそだろ! 俺よりも年下かよ!」
おもわず驚いて背を仰け反らせてしまう。
あきらかに顔立ちからしたら40すぎのおじさんに見えた。
それが21歳となれば驚きもすると言える。
「冗談はよせよふぁってんおやじ」
気安く肩をたたき、笑い飛ばすと次第に彼の表情が赤く色を染め上げていく。
肩が小刻みに震え腰に携えた剣を引き抜いた。
「僕を馬鹿にするでねえ! ふぁってん! もうぎれだだぁ!
「うぉ!」
横殴りに振りかぶられた剣。
うまく優騎は身をかがめて回避した。
剣が支柱にぶつかり弾かれる。
ムスフがたたらを踏んで後退していく。
「おいおい、あれみろよ」
「最弱と新人の試合か」
「いいね。おもしろい。どっちが勝つか賭けようぜ」
次第にやじうまが集まりだし面白半分で賭け事まで開始した。
ムスフがさらにこめかみに血管を集め咆哮する。
「ふぁぁあああ! みせものじゃないだぁああ! ちるだぁああ!」
「うっせえ! 万年最下位男!」
「ふぁってんおやじー!」
と、ムスフに対してのやじからの悪口が飛んでくる。
「おまえ嫌われてんのな。しかも、ふぁってんオヤジで定着してたんかい」
「ふぁってん! ころす!」
「うぉい!」
今度は踏み込みからの刺突が繰り出す。
だが、優騎は見事に見切って避けた。
ムスフの攻撃は収まらず、乱雑に剣が振るってきて優騎を攻めてきたが全てはからぶっていく。
野次馬もムスフのその行動を笑い飛ばしていく。
(さすがにかわいそうだな)
そうおもい、一撃を剣でわざと受け止める。
鞘から引き抜いた氷の刀身をみた野次馬とムスフが驚きの目で瞳を輝かせる。
「なんだふぁってん!?」
「ありゃぁ、すげえ!」
「わざもんじゃん」
「あの新人の噂まじか?」
次第に野次馬の注目が優騎の剣に集中しだす。
ふと、優騎の視線はムスフ着る白銀の甲胄に目が写った。
わずかに自分の姿を反射する鏡絵。
そこになにか数字の羅列が見えた。
視力の悪くない人間がメガネをかけた時のように歪んでみえづらいがわずかにそれがなにか理解した。
(そういえばこれってこの世界に来た時にも見たステータス)
そう、自分のステータスだ。
まるで、ゲームのような感じのもの。
(1種の能力なんだと思うが何の意味があるんだこれって?)
考えてるのも束の間ムスフの強烈な一撃が優騎と交差していた剣に重くのしかかった。
「しまった」
思わずはじかれて隙を与えた。
「そこだぁああ!」
優騎はそのときだった。
例の高速世界に到達する。
ムスフの動きがスローで見え、優騎はムスフの刺突の構えた姿の横を通り抜けて背後から蹴りを加えた。
「がヵ!」
ムスフが前のめりに転倒して試合がENDする。
野次馬からわらいと拍手が巻き起こる。
「やっぱ、最下位は新人にも負けるかぁ」
「訓練の時に勝ってたのもまぐれだなぁ」
「どうせ、なんか卑怯な真似してたんだろうな」
野次馬がどんどんと散っていき後にはムスフと優騎だけが残された。
「おい、大丈夫かよ? わるいな。蹴飛ばして。そんなに強くけったつもりはなかったんだが」
伸ばした手。
ムスフを気遣い立たせようとしたんだがその手をムスフは払い除けた。
「僕に触るふぁ」
そう言ってむくれたように暗い影を落として彼もまた宿舎から消えていった。
その時、優騎は外でひとりの少女がこちらを伺ってるのに気づいた。
例の優騎の配属された第5聖騎士団団長だった。
「えっと、なにか?」
「‥‥‥‥」
彼女はそのまま無言でどこかに消えていくように背を向け歩いて行った。
「なんだ?」
すると、剣に光の文字が垣間見えた。
しばらくして――
突然発光が生まれる。
「な、なんだっ!?」
光がやみ目をこすって目の前の存在に硬直をした。
「は?」
目の前になぜか、青髪の白いドレスを着た美女が横たわっていたのだ。
それも見覚えのある顔立ちの美女であった。
「レミアス?」
そうそれはあの夢の世界で出会った『吸収する剣』だと自らを名乗った彼女だった。




