盗賊 改稿版
物販店のおっさんの名前はエゲム・タスマという名。
毎日のように街を周り、いろんな人々に雑貨を紹介し、気に入ってもらえれば買い付けの交渉を行う。
困ってる貧民には無料で優騎にしてくれたように物を与える。
まさに、善人者。
優騎はエゲムと身の上話をしながら荷馬車に揺られつつ空を見上げた。
「そろそろ日が落ちますね」
「そうさね。時間帯が時間帯さね。一度どこかで休憩を挟んで暖をとったほうがよさそうさね」
「はい」
荷馬車を止め、岩山の茂みの奥地に焚き火をしき、優騎はエゲムと一日を過ごすことにする。
エゲムはこちらを見ていう。
「ホンマにバルハ遺跡へ行くきかいな?」
「はい。金を得るにはやはりそうするしかないんで」
「あんさん、傭兵としてデビューするには文句は言わん。突然ローズ大国に飛ばされ迷ってることもじゅうじゅう承知やけどな博打すぎるさね。金欲しさに傭兵なる奴はぎょうさんおる言うけどなあんたみたいなやつには最初からバルハ遺跡へ行くことは考え直した方がええさね。今、あそこはモンスターの巣窟さね」
「平気です。俺はこれでも自信はあるんです。なんとなく」
「そんな自信アテになるんか?」
「ええ」
確実的な確信が優騎にはある。
傲慢すぎる考え方だった。
あの力さえ発動すれば切り抜くことは難しくはないと悟っていた。
任務だって請け負ったのも博打なのは承知だがあの力に頼るしか今は道を切り開けない。
それはどの任務を請け負うにしても同じだった。
ならば、一番金をもらえるものをと考えた浅はかすぎる考え。
それでも、路頭に迷って野垂れじぬよりかはマシな考えである。
「ん」
エゲムがかた眉を吊り上げ茂みの奥を見据えた。
「誰かいるやな」
「え」
優騎は腰の剣に手を添える。
ゲームの知識を活かすことを考えたが、先刻の失敗が記憶を蘇る。
聖騎士の試験において見事に防戦一方だった。
けど、サクヤと戦った時はそうではなかった。
実力には不安定要素さが見えるが身を守る上で難儀もしないよりかは幾分マシだという考えに達して剣を振り抜いた。
錆び付いた刀身があらわになる。
「おいおい、なんだよ。いい武器かと思えば錆び付いてやがんじゃねえの。だったら、そっちの男にはようはねえな。おい、おっさん、荷馬車をおいてとっとさりな。そうしたら、生かして返してやる」
優騎は呆れてものも言えなくなった。
テンプレ台詞に思わず笑いがこみ上げ「プッ」と声まで出してしまった。
山賊らしき格好のバンダナの男が優騎を睨みつける。
背後の部下たちが周りを囲いいつでも襲い掛かる準備は万端。
この状況下でいからせる行為は実にフェアではないだろう。
「なぁにがおかしい? なあ、兄ちゃん」
「あー、いやさ。なんかごめん。あまりにテンプレセリフすぎて」
「てんぷれ? 何意味わからねえこと言ってやがる。とちくるってんのか?」
男の神経を逆に逆撫でしたらしくバンダナの男はずかずか歩み寄ってきて右手に持ったフルーレの剣をきらつかせ、刀身をあご先にあてがう。
「ユウキくん!」
エゲムが焦るように同様の声を上げる。
目配せで大丈夫だと言い聞かせた。
優騎はこういう状況になれがあった。
過去の凄惨なイジメをさんざん耐え抜けてきてそのおかげで神経が図太くなりかつ、恐怖に対してむとんちゃく。
「あはは、それで刺しちゃう感じか。いいね。そしたら元の世界に戻れっかな。はたまた転生か? まあ、やるんならやってみろよ。いいよ。未練なんてこの世界にはないし」
「あん?」
男は優騎の態度に今度は虫でも見るかのごとくかかわりあったら頭がおかしくなるとでもいいたげな態度をみせる。
「ちっ、とちくるってやがんのかよ。殺す気うせんな。おい、そっちのおっさんの荷馬車を奪って帰るぞ」
「おいおい、なぁに恩人の荷馬車を奪い取ってこうとしてんだよ」
さすがの優騎もこれにはいつもなら止めに入るような勇気ある行動を取ろうとは思わない。
けど、この時ばかりは恩人の感謝もあるのでこればかりは阻止をしなくてはいけないと人として勇気を振り絞った。
「狂人はすっこんでろ。用はねえ」
「こっちは用があんだよ!」
バンダナ男が荷馬車へにじり寄ってこうとした背後を優騎は切りつけた。
錆び付いた剣でも切れ味は抜群によく男は背から血を垂れ流しその場に膝をつく。
「――ってぇなてめぇえええ!」
フルーレの刀身が横殴りに振りかぶられ、優騎はスウェーで刀身を交わす。
「あぶねっ!」
『KNIGHTOFSEVENS』によって鍛えられた動体視力の賜物だった。
「避けてんじゃねえ! てめぇらこの男を殺せ!」
四方八方から飛びかかってくる男たち。
「ああ、変な勇気を出すんじゃなかったか!」
周りを見て逃げ道を探ったが死角が埋められあたるはずはない。
「ユウキくん!」
エゲムが一人の盗賊へタックルをし、それによって逃げ道が切り開く。
「急いでのるんだ!」
エゲムは荷馬車をとりもどしていた。
手綱を握りしめ、優騎へ急いでという呼びかけ。
優騎は飛び乗った。
「はぁっ!」
手綱を鞭打つと同時に荷馬車が発進する。
「待ちやがれえ!」
あっけにとられた盗賊の集団が慌てて追いかけてくる。
だが、生身の足で馬に追いつくはずもない。
やったと思い開けた着後。
銃声が響いた。
馬がバランスを崩し荷馬車が倒れた。
そのままの勢いで優騎たちも共倒れになる。
「ぐぁ!」
「ぐっ!」
馬の足が血を流してる。
銃弾を浴びて失血したのだ。
足を痛めたことによる連鎖反応で倒れた。
「追いついたぞ」
こちらを見下ろす山賊たち。
優騎は沸点に足して脳髄に鈍い痛みが走った。
「しねええ!」
バンダナ男のフルーレが優騎にめがけて振り下ろされる。
そのとき、視界の世界はゆっくりとスローモーションとかした。
あの世界がまた見えた。
優騎は呼吸をするように剣を振り抜き、男の両腕を切り落とした。
そして、胴体を貫いて引き抜く。
体を躍らせるように、次の盗賊へ斬りつけ、また次の盗賊への繰り返す。
モーションの世界が終われば血の雨を降らす盗賊たち。
だが、最後にまだ一人の盗賊が残った。
「くそっ!」
「てめぇ、なんだ? 何者だぁ!? こうなったら、てめぇを捕縛してグランドにでも売りさばいて金もうけしてやるぞ」
再度あの世界を見ようとしたが時間切れのようだった。なによりも体力が根こそぎ奪われたかのように疲労感が半端なくそい膝を地につけてしまう。敵を前にして丸腰なのと変わらない。
「おとなしく眠れえええ!」
狂った盗賊が拳を振りおろす。エゲムさんは助けようとする顔がうかがえたが彼も足を痛めてなかなかに立ち上がれない様子だ。
(ここまでか)
その時だった。
「あぐがぁ‥‥」
盗賊の目が白目をむき優騎を見下ろし何をしたんだと訴えていた。
血にまみれた顔で優騎はあわてるようにエゲムのそばに駆け寄った。
彼は足以外は無事な様子だったが倒れた荷台を見て呆然としていた。
「わしの荷台が‥‥」
優騎はそれを見て荷台に手をかけておこそうとするが流石に重い。
その傍らにさっ、と綺麗な黒髪が映り込んだ。
「なかなか、面白いことをしてるな、キジョウユウキ」
「あんたは‥‥‥」
そこにいたのはサクヤ・イカヤだった。
******
サクヤ・イカヤが盗賊から助けてくれたことで窮地を脱した。
盗賊たちはサクヤの話によると言っても彼女の推察だが集会所から目をつけられてたのではないかということだった。
自分のミスとしか言いようがなく優騎は落ち沈んだ表情で傍らでショックを受けたエゲムさんの顔をみながら申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
必死で荷馬車を元に持ち上げようとサクヤとしたがやはり、荷物の多さが重量を上げなかなか起き上がらない。
とくに馬はもういないので荷馬車にすらならない。
戻したところで荷車。
「ユウキくん、もういいんじゃ。運命だったんじゃ」
「あきらめちゃいけねえよ! エゲムのおっさんはこんなふうに商売を棒に振られていいような人間じゃねえ! おっさんは繁盛して世界一有名になって大金持ちとかになりうるべき人材だ! あんたはそれだけのことをしてきてるんだからっ!」
優騎とサクヤは足を踏ん張って荷台を数センチほど持ち上げたがそこがやはり限界だった。
「うぐっ!」
腰の骨が嫌な音を立て始めたことで手を離した。
重々しい音とともに煙が立ち込める。
「なにかないか何か」
優騎は剣に触れた。
脳髄がまたひび割れるように疼きだす。
「あぐっ」
一瞬なにかの文字が浮かび上がる。
ぼんやりと見たこともない文字。
口にその言葉がわかるように出た。
「エイジング」
身体に影響が突如として現れる。
赤いオーラのような発光が優騎の体を膜のように覆ったのだ。
「な、なんだこれ?」
体が熱く力が沸き上がってくるような感覚。
優騎は今の言葉を思い出す。
『KNIGHTOFSEVENS』であった身体強化詠唱呪文のひとつ「エイジング」。
「魔法を使えたのか、ユウキ」
サクヤが感嘆した。
「魔法?」
「そうだ、魔法だ」
あることに気づいた。そうならばと――
荷台に手をかけた、安易に持ちあがった。
「やったよおっさん!」
エゲムもおもわず驚愕していたのか呆然と目を瞬いた。
「おぬし、魔法使いじゃったのか」
「いや、俺はしがない無職の男だって話したじゃん」
「なにをいうか、今のお前は聖騎士だ。立派な」
「何を言うんだよ?」
そう言って彼女が1枚の紙を手渡した。そこには第5軍聖騎士隊に就任する。
と書かれていた。
「ホワッツ?」
渡された紙には『就任』の一文字。もちろん、紙の内容分は異世界言語だったがなにゆえかそれをこの世界で優騎は読めるに至ってる。この未知の力が何かはさておきつまるところどういうことになるのかというわけだ。
「ユウキ殿、ローズ大国では貴殿は規約違反を犯し任務を放棄した上に騎士職から逃げた狼藉者と言われてるのだ、封書を開けずに去るのはどうかと思うぞ」
「マジか」
衝撃的事実に、後ろにいたエゲムさんも様子をうかがい「大丈夫なのさね?」と心配そうに声をかけてくれた。
大丈夫なわけがなかった。
これは明らかに命の瀬戸際に立たされたか。
「いやさ、俺てっきりあの手紙が不合格通知だと思って出て行ったんだけどね」
「良く見もしないで判断するな馬鹿もの。それでどうするのだ?」
「どうするって?」
「貴殿は今どこかに向かっていたのであろう?」
「ああ、そうそう。バルハ遺跡に『アイスグラシエル』を捕獲しにね」
「何?」
サクヤの顔が急にこわばりだした。
何かまずいことを言った覚えはないが彼女がエゲムさんを見た。
「そちらの老人は少し席をはずしてもらえないか?」
エゲムさんへ頼み込むような進言に優騎は首をひねる。
なにか深刻な空気に体が緊張でこわばる。
「バルハ遺跡か。今とある国がその遺跡で調査を行ってると聞いてる。もし、鉢合わせでもしたらまずいぞ」
「え? 調査?」
「ああ、そのとおりだ。なんの調査かはわからぬがモンスターが急激に出たということでそれの討伐を込みで調査を行い何かの回収を目的としてるようだ。もしだ、貴殿と同じものを狙ってるとしたらかなりまずい。止めておくことだ」
彼女はことさら真剣に忠告を促した。だけど、ただ、優騎のプライドが高々そのようなことで放棄をしたくはなかった。
「あのよぉ、サクヤ。それはローズ大国の問題だろ? 俺個人は今は聖騎士であるかもしれないが今はプライベートとして傭兵業を始めてしまってるんだ。ことさら引けない。何より『アイスグラシエル』ってのは興味があるんだ」
「聞いてなかったのか? 危険だと言ってるんだ!」
サクヤも一歩も引かず優騎の発言力に負けず劣らず自分の意見を貫き通す。
「やめろ。国の問題だとかいうことでもないのだ! 洞窟にいる騎士が他者に何をしでかすかわからんのだぞ」
「そんときはその時だ。俺はどうにも任務ってのは放棄する気はない性質でな」
『KNIGHTOFSEVEN』 をしていたころにも任務を放棄したことは一切なかった。特に任務放棄をするという行いがすごく嫌いで何が何でも努力しかならずクリアーしていた。まさにそれこそがゲーマーたる鑑だと思ったからだ。
サクヤは折れたように肩をすかし、「わかった」といった。
「だがな、バルハ遺跡までの場所はわかるのか?」
「心配することはないさね。わしが知り合いの所まで行って道案内を頼みバルハ遺跡の場所までユウキを連れて行こうと思ってたとこさね」
エゲムは嬉しそうに優騎の肩を叩いた。
「これも盗賊から守ってくれた恩義さね」
感謝をしてると付け加えた。
「ふぅー、ならば私も同行しよう。これでも第2聖騎士団団長として、部下の面倒は見ようじゃないか。それにだ、私はユウキ殿の力をしっかりとこの目で確認をしたい」
優騎はその同行の申告に別段否定はしない。いやってわけでもないので「いいぜ」と了承した。
「なにさね、お仲間が増えたのかさね?」
「ああ、わるいなおっさん」
彼はなにもいわず渋った表情で「そうか、さね」と答えた。
なんだと思った。
彼は盗賊を見下ろして――
「お主らも人間じゃ。これにこりたなら二度とするんじゃないさね」
そういってひとつのポーションっぽい医薬品を置いた。
「おっさん! そいつらは――」
「ユウキくん、人は時に過ちを誰しも一度は犯す。大目に見てあげることも重要なのだよ。さて、馬がこれではすておくしかなさそうじゃな」
荷馬車を撫でながらエゲムは荷台の握りに手をかけた。
「ユウキくん、悪いが君を送れるのは実はここまでさね。荷台もこの状態だしあとはこの――」
「手伝います。荷台を引くぐらいどうってことありません。歩いてくつもりだったんですから最初から。それをエゲムさんが助けてくれた。この恩くらい代えさせてください。途中の町まで一緒に運んでいきましょう」
「っ! ユウキくん感謝する」
「感謝されるなんてとんでもない。恩を返してるに過ぎませんよ。さあ行きましょう」
「そうだな、私も手伝おう。部下のミスは私のミスでもあるし、ユウキを探しにきた身だから彼と同じ道を行くのならこのくらい安いものだ」
ちょっと、最後にサクヤがユウキの聖とでも言いたげなような言い回しで協力を申し出た。
盗賊の襲撃で馬を捨て、荷台を3人で引いてバルハ遺跡を後回し、優騎たちはとりあえず隣町を目指すこととした。
改稿完了。
これ以降の第1章部リッソルト村以降の話は新規1章の話ではありませんので差異が出てます。




