表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/24

駆け出しの見習い魔術師 ◇祝砲

 控えめなノックの音がして、エイラはゆっくりと身を起こした。


 いつの間にか、眠っていたらしい。




 淡い魔法灯の光が照らす室内を見て、ここが慣れ親しんだミラナの家ではないことを思い出した。




 ヨナは、ベッドの脇に丸くなって、羽毛を膨らませるようにして静かにまどろんでいた。




「エイラ? 起きてますか?」




 扉の向こうからかけられたのは、柔らかな声だった。


 目をこすりながら立ち上がって扉を開けてみると、先ほどのロディスともう一人少女が立っていた。




「こんばんは。シルです。あなたの姉弟子よ。夕食のお誘いに来ました」




 ふわふわの金色の髪をゆるくまとめた少女は、ふんわりした口調でにこにこと笑っている。だがその瞳は、オニキスのように濃い黒で、強い意志を秘めた静かな光を帯びていた。




「寝ちゃってた? 寝ぐせはない? 食堂の場所を教えたいのと、顔合わせね」


「えっ……大丈夫……だと思います」




 思わず前髪を直しながら答えると、シルは明るく笑った。




「ついでに、今後の話もしましょう」




 そのとき、目を覚ましたヨナが、エイラの肩にふわりと降り立つ。




 シルは、目を見張って声をあげた。


「うわぁ……なんて立派な大梟。……ふわふわ……でも!」


 


 目を細めながらも、きっぱりと言う。


「お留守番ですね。食堂、ちょっと天井低めなんです」




 先を歩きはじめるシルの後ろ姿は、まるで小さなお母さんのようだった。


 ロディスが、エイラの肩をやさしく押して促した。




 塔の廊下は、あたたかな光で照らされていた。


 壁の魔石が優しい灯りを放ち、三人の影を静かに引いていく。


 もしかしたら、昼と夜とで色調が調整されているのかもしれない。




「シルは、僕と同じ師に学んでいる。見習い三年目」


 ロディスが歩きながら言った。




「私の半身は菩提樹なの。癒しが得意で、今は戦闘術にてこずり中よ。


 なんでも聞いて頂戴ね。……あら?」


 シルが、エイラを振り向いて足を止めた。




「緊張してる? そうよね。初日はみんなそうです。私なんて、緊張しすぎて最初の晩ごはん、食べられなかったんだから」




 人懐っこい笑みをうかべて畳みかけるように続ける。


「好き嫌いはない?実家からはなれても偏食はだめよ」




 エイラは、思わず笑った。


(本当に、小さなお母さんみたい)




 ****


 魔法灯のランプが燈る食堂は、穏やかなざわめきに包まれていた。


 今日であったばかりの新入りの見習い達はエイラと同じように、姉弟子や兄弟子に囲まれて席についていた。




 一番奥の窓際のテーブルの前に来て、シルが振り返った。


「いつも私たち、この辺りに座るんですよ。ここなら、今日はすごいものが見られるわよ」


 シルがそう言うと、ロディスがエイラの椅子を引いてくれた。


「君はここ」




 テーブルの上には大きなミートパイや、チキンのハーブ焼き、野菜のクリームシチューの乗った大皿や鍋が所狭しと並んでいた。




 デザートはとろとろのプリン。


 エイラの大好物だ。




 シルが次々と、エイラの前に取り皿を並べていく。


「今日は、新入り歓迎特別メニューだから、たくさん食べなさい!」




 その様子を、ロディスがおかしそうに笑いながら見守っている。


 エイラは、肩の力が緩むのを感じた。




 朝の儀式から、ここに至るまで、ずっと気持ちの糸が張り詰めていたのだ。


 二人のおかげで、不思議と落ち着いた心持ちになった。




 その時、ドーンという大きな音がして水晶窓が震えた。




「なあに!?」


 びくりとエイラの肩が揺れた。




「始まったわ!今日の一番のとっておき!」


 シルが立ち上がった。




 ロディスが窓を示して、エイラの肩を少し押した。


「エイラ、窓をみてごらん!新入り歓迎の祝砲だよ!」




「わあああ!」


 エイラは思わず声をあげた。


 食堂のあちこちから歓声が上がった。




 色とりどりの流星のような光が、窓の外で次々と流れ落ちていた。


 円形の壁や天井が、ぐるりと囲んだ窓の光で万華鏡のように虹色に染まっている。




「さあ、見てなさい!」


 シルが掌に小さな魔法の灯をつくって、天井にむかって投げた。


 ロディスも笑いながら、投げる。




 周りの魔術師たちも同じように次々と魔法灯を天井に放り投げ、天井はあっという間に天の川のような光に包まれた。




 歓声やため息があちこちで漏れた。




「これは、先輩たちから、新入りちゃんたちへの贈り物」


 シルがエイラの肩を抱いて指さした。


「私の見える?」




「私もやっていい?」


 エイラが、ささやくように言うとロディスがにっこり笑った。


「もちろん」




 ロディスを見本に、エイラは掌に小さな魔法灯をともし、上にむかって投げた。


 二つの魔法灯はふわりと登って、ぴったり寄り添ったまま、ほかの幾多の光の群れに加わった。




「上手じゃない」


 シルが頭を撫でてくれる。




「本当に綺麗」


 言葉を探しても、それしか言えなかった。




 窓の外ではまだ、祝砲の虹色の雨が続いている。




「あ、次に最後の祝砲がくるよ」


 シルが、エイラの袖を引いた。




 その刹那、一際大きく、美しい白銀の光が夜空を震わせた。


(まるで、夢みたいだ)




「……今の最後の祝砲はエイラ、君への歓迎の光だよ」


 ロディスが耳元でそっと教えてくれた。




 涙が出るほど美しい光景で、エイラは胸がいっぱいになった。


「……ありがとう。誘ってくれて」




 ロディスとシルが、互いに目を合わせてから、にこりと笑ってうなずいた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ