第9節「始まりはいつも俺 第一幕」
ここから12節まで連作になります。
困った事になったかもしれない。
「サ」たん 様 降臨デー
その小さな張り紙を見つけてしまった。
最近バイト帰りに喫茶「天」に行くと、人が多い。
「サ」のままの姿(もちろん制服は脱いでバイト先のロッカーの中だが)で「天」に行く。
いつもの俺の席は、当然のように空いているのだが、名前も知らない連中が俺のちょうど向かい側の席にビッシリ。まるで俺が見世物になっているようであまり気分が良くない。
動物園の猿みたいだ。残念ながら俺は猿ではない。
俺にも原因が無い訳では無い。
ミクちゃんに施された女の子メイク。ちょっと気に入って、「サ」のメイクを少し寄せていたのだ。
めろんもやめろとは言わなかったので、問題無いと思っていたのだが。
影響力は欲しいが、珍獣扱いは御免だ。
さて、どうしたものか。
餅は餅屋という言葉がある。
俺は、「鈴」を呼び出した。
変身の事ならコスプレ小僧だ。
「ビューティフルっす。」
見世物小屋の客が1人増えた。
感想はいらない。この状況を俺は、どうにかしたい。
ふと、ジブさんの侍姿が頭をよぎる。
駄目だ。より、ややこしくなりそうだ。
思案していると「鈴」が鞄から、手帳大の辞書のような物を取り出し、必死にめくっている。
大工正書と書いてある。後で聞いたが、神鋸の言葉を亜門組でまとめた、分厚い本らしい。
「困った時はこの本を開いて、言葉を探せは、解決するっす」
それ、大工の本だよな。仕事で困ったらって意味だろ。
「鈴」は神鋸クラさんの口調を真似るように、読み上げた。
「鉋の刃の調整は、頭と、尻を叩いてするものデース。頭を叩きすぎたら、尻を叩くのデース。」
つまり、どういう事だ?
さっぱりわからんまま、その日は帰って寝た。
第9節「始まりはいつも俺 第一幕」ここまで。