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prologue
「ほんとに覚えてないのか?」
ふわふわと漂いながら、彼は訝しげに僕をじろじろと眺めて言う。
僕は病院の硬いベッドの上に座ったまま、悪びれずに答えた。
「うん、ごめん。……巽くん、だったよね。君はどうして死んだの?」
巽と名乗った彼に問いかける。巽くんは一瞬だけ悲しそうな顔をしたけど、すぐに笑顔を見せて、僕の額に口付けた。けれど、僕の額に彼の柔らかそうな唇の感触は伝わらない。
僕は彼に触れようとして手を伸ばしたけれど、虚しく空を切るだけだった。
巽くんはそんな僕の姿を見て、目を細めて嬉しそうに笑った。
「俺が死んだのは、きみと愛しあっていたからだ」
そうして彼は僕を優しく抱きしめた。
もちろん僕には、その暖かささえ伝わることはなかった。