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ぱあと11 新訳すぎにもほどがある

「イチハラくん! 忘れるとこじゃった、コレコレ」

 マキシ先輩の園(演劇部部室)を出て、階段を下りようとした矢先。

 誰もいない廊下に 呼び止める声が響いて、俺は振り返った。

「あー、確か…」

 エセ弁使用、背は低いが部長に負けずノリは高め――演劇部の副部長・磯辺とかいう奴が ばたばたと駆けて来るところだった。

「ウチのチラシ渡そうと思っとったんや。よかったらもろうて」

 俺に一枚の紙をほいっと渡してくる。B4版のコピー紙両面に、白黒で印刷されていた代物だった。

 “第1地区 春季演劇発表会”――これが、市内で開かれる 高校舞台発表会の名称らしい。

 二日間にわたって行われることと、会場の場所、入場方法と券配布方法、それに各日に上演する高校の名前が一覧で書かれてあった。うちの高校の演劇部は、最終日の三番目にあたるようだ。 

 裏から表にひっくり返したところで、演目PRのビジュアルに目を見張った。ぼやけたビル街の風景に、ぐしゃぐしゃと曲げた空の写真。気泡が浮かんでいることから、水の模様を写真と合成しているように見えた。

 演目名は、“憧憬破綻しょうけいはたん 〜Revision;The Wonderful Wizard of Oz〜”。

「へえ、凝ってんなあ」

 渡されて正直な感想を述べた。誰が考えたのだろう、縮小したり引き伸ばしたりした文字の配置のセンスがいい。水の合成が全体の雰囲気に合っているし、白黒のコピーも目を引く。

 右下部分の文字が目に止まり、読むことにした。

「こっちにあらすじが書いてあんじゃん、なになに…… 

 『きゃ〜っ大変! 仔犬を追いかけてたら、突然現れた竜巻に家ごと吹っ飛ばされちゃった! 

  どすーんって音がしたと思ったら、家の重みで東の魔女を押し潰しちゃうし!

  アリバイ作ろうとして魔女の靴を脱がせていたら、女の人に 元の世界に戻りたいなら旅に出ろって宣告されちゃったの!

  道中、ボケボケ田舎青年と、心が欲しいとかほざいてる耽美傭兵と、泣き虫獣人のお供を引き連れて、

  目指すは都、会うはノゾミを叶えてくれる魔法使い!

  元の世界に戻って農場仕事なんて真っ平御免っ! 

  異世界で、魔法使い倒して一国の統治女王になるってのもいいんじゃないっ!?』

 ……ってなんだこの説明くさい 語りあらすじは!!」

「ご丁寧に読んでくれるとは感激じゃ……アオリを考えた苦労が報われるってもんやな…」

「そりゃどうも。だけど男にキラキラ目で見られたって嬉しくない」

 素直な感想を言い放って 心から嫌悪を伝える視線を返す。

「和谷が出たくない理由ってこれだろ絶対」

「そうさな、学生が極めるには難しいシュールコメディじゃけぇ。技量問われんよ」

「……へぇ〜〜〜…」

 これがかよ。なんてツッコミはおくびにも出さず、平坦な調子の相槌あいづちを打った。もう何も言うまい。

「…さっきのことじゃけど――部長な、キミに押し付けたわけやないんやで」

 タレ気味の目が遠慮がちに見やる。先をどうにかつづろうとしていた。

 もしかして、さっきの俺と先輩のやり取りに不穏ふおんなものでも感じたのだろうか。

 一方的に和谷のことを俺に押し付けた、との誤解を取り払うために追いかけてきたわけか。

「和谷を引っ張って来いってことだろ。先輩も回りくどいよなあ、素直に頼めばいいのに」

 にっと笑ってみる。俺だってわきまえているつもりだった。

 あのマキシ先輩がのうのうと部長をしてきたわけがない。先輩は意図があって俺を呼び出した。

 部長として規律を乱す和谷の行動は見過ごせない――だが ここで自ら動いて和谷をさとすなり許すなりすれば、特別扱いをしたことになり、部内で不和が生じる。

 回避するには関係ない第三者が動いて諭すしかない。

 まどろっこしいやり方ではあるが、先輩は俺にその役目をたくしたというわけだ。

「ま、とりあえずけしかけてやるから」

 掌をひらひらさせて無問題のジェスチャーをすると、磯辺はほっとしたような残念なような複雑な顔を見せた。

「そかそか。……なんや、キミのほうがようけ部長のコト分かっとるみたいやな」

 …仮に今俺がコーヒーか茶を飲んでいたら、コントみたいにき出していたに違いない。

 なんだ? 深い意味はないだろうに思いっきり否定したくなるこの感覚は。

「でも具体的にはどうする気や? 和谷くんの知り合いらしいけぇ、直接聞きだせるような仲なんか?」

「………」

 テスト期間中ということもあって、空き教室が連なる廊下には 人の姿がいなかった。

 あたりがしんと静まり返る。

 仮に今俺が手に缶かコップを持っていたら、するっと落としてしまったに違いない。

 現に今、手渡されたチラシが指から抜けていった。

 言われてみれば確かにそうだ。俺はあいつが演劇部に所属していて、後輩ということ以外、何も知らない。細かいことを言えば、玄人コブシで殴りつけていったり足を踏み逃げていったりするような肝っ玉が据わった失礼な奴だというぐらいか。

 確認するように磯辺が口を開く。

「知り合い、じゃろ?」

「一応は」

「一方的な知り合いやないんじゃろ?」

「希望的観測から見れば」

「……」

「………」

 嫌な沈黙が流れた。ちなみに、俺は嘘が嫌いだ。嘘を吐くことは俺のポリシーに反するからだ。

「……わかったでぇ、イチハラくん」

 ぽんっ。磯辺がいきなり二の腕(肩には気軽に届かなかったようだ)を叩いてきた。うんうんと頷く。マジな顔が逆に怖い。

「なんか複雑な事情があるんじゃな。部長がキミをしたんも合点いったわ」

 へ、と言いかけた俺に、「みなまで言うなっ!(by:ミギ)」とでも言うように 今度は首を左右にぶるぶる振った。

 どうやら勝手に結論付けてくれたらしい。と、そこまではよかったのだが。

 両手でぐっ!と拳を作った磯辺は、目を輝かせて意気揚々と こんな意見を打ち出した――!

「おっし、和谷くん引き戻し作戦開始じゃっ! コードネーム……『トキメキ☆奪還! 魔女れんイザナ(もとい和谷くん)カムバック大作戦☆☆』といこうやないかーッ!」

「なにその無駄な星マークの羅列!?」


 <ぱあといれぶん 終了>

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