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Vtuberになったら妹が別箱の同期だった。  作者: 霧國


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第5話 『第6小隊』の顔合わせ②

「こんにちはー!!」


 和やかな雰囲気を切り裂くように、会議室のドアがばーん! と大きな音を立てて開け放たれる。

 俺とシラユキが驚いて視線を向けた先。そこではスポーティな服装の小柄な少女が、溌溂とした満面の笑みを浮かべて佇んでいた。


「はじめまして!! お二人がわたしの同期の方ですね!! 日南(ひなみ)ピナ、中学三年生の14歳です!! よろしくお願いします!!!」


 声でっか。


 耳を押さえながら、ツインテールをぴょこぴょこと揺らす少女――我らが同期の一人、日南ピナに視線を向ける。

 確か彼女のアバターも同じ髪形だったはずだ。Vの方は蜂蜜を溶かしたような金髪で、こちらは色素の薄い茶髪という違いはあるが。

 鮮やかな金色の髪に、大きな星が浮かんだ同色の瞳。動きやすいショートパンツにイエローの刺し色が施された軍服を着た、小柄な少女――というのが、彼女のVとしての姿だ。


「ずっと今日を楽しみにしてました!! 皆さんに会えて本当にうれしいです!!」


 人懐っこさが前面に滲み出ている笑顔で、シラユキとはまた別の和やかな雰囲気がある。よく響く声でパッションを多分に感じる、この声で声援を受けるとめちゃくちゃ励まされそうだ。


 俺が言葉を探している内に、シラユキが丁寧に頭を下げて、


「はじめまして、ピナさん。氷室シラユキです、よろしくお願いしますね……それと、お部屋に入る時は必ずノックをするようにした方がいいですよ。はしたないです」

「シラユキさんですね、お願いします!! ごめんなさい、楽しみすぎてノック忘れちゃってました……次から気を付けます!!」

「ふふ……はい、偉いですね。わたくしもお会いできるのを楽しみにしていましたよ」

「シラユキさん~!! Vの姿も凄く綺麗でしたけど、実際に会ってみたら想像よりもっと綺麗なお姉さんで、感動しました……!!」

「あらあら、少し照れますね。お口が上手なピナさんには、こちらのお菓子を進呈しちゃいます」

「わぁい! あむっ……ん~~!! おいひぃれす!!」


 おお、凄い。爆速で打ち解けてしまった。ピナさんの人懐っこさとシラユキの包容力の賜物だろうか。

 流石に俺にあの包容力を発揮するのは無理筋だが、年長者として余裕のある態度で接するべきだろう。

 彼女がお菓子を食べ終わった頃を見計らって、そっと声を掛ける。


「そろそろこっちもいいかな。初めまして、ピナさん。俺は神代アレン。一応このユニットのリーダーってことになってる。よろしく」

「んむんむ……ごっくん!! ごめんなさい、お菓子が美味しくて夢中になってました……改めまして、日南ピナです!! よろしくお願いします、隊長さん!!」

「あぁ……どうした?」


 ぺこりと折り目正しく礼をしたと思えば、俺の顔……と言うより頭頂部の辺りをまじまじと見つめてくるピナさん。

 一応昨日の内にしっかり髪型を整えてもらったし、家を出る前に決めてきたんだが、寝癖が治ってなかったか?


「ごめんなさい、隊長さん。ちょっと立ってもらってもいいですかっ!?」

「ん、あぁ」


 椅子から立ち上がってピナさんと向き直る。……こう見ると、この子の小柄さが際立つな。身長差20cm以上あるんじゃないか?

 とてとてと近寄ってきたピナさんが真下から見上げてきて、思わずちょっとたじろいでしまう。


「やっぱり隊長さん、すっごくおっきいですね……!! 首が痛くなっちゃいそうです!!」

「すまん、ちょっと屈むか」

「いえ、大丈夫です!! わたし、成長期でもあんまり背が伸びなくて……おっきい人が羨ましいです……」

「まだ中3ならこれからだ。俺も今のピナさんぐらいの頃はここまでデカくなかったし」

「ほんとですかっ!? もっとビッグな女になれますか!?」

「あぁ、きっとなれるさ」

「わぁ……!! わたし、頑張りますね!!」


 キラキラと輝く瞳に、思わずその頭を撫でそうになる衝動(兄心)を全力で抑え込んだ。


 確信する。この娘は、とんでもない年上キラーだ。

 これはコミュニケーション能力というより、根っからの素直さや人当たりの良さからくるものだろう。

 シラユキを春の陽だまりのようだと例えたが、ピナさんはさながら真夏の向日葵のような明るさだ。

 人によってはその光を鬱陶しく思うかもしれないが、彼女の輝きは多くの人々の目を惹きつけるだろう。

 ……できればもう少しこれのボリュームを調節してほしいところだが。まぁ、これも味があるか。


「あっ、わたしのことは呼び捨てで大丈夫ですよ!! わたしが一番年下ですし、そっちの方が仲良しって感じがするので!!」

「わかった。これからよろしく、ピナ」

「それならわたくしは、ピナちゃんと呼ばせていただきますね。よろしくお願いしますわ♪」


 ようやく挨拶を済ませ、ピナにはシラユキの隣の席に座ってもらう。

 これで残るはあと二人、聞いた話では現役高校生の男女とのことだが……果たしてどうなるか。流石にピナほど爆速で馴染めるとは思えないが。


「ピナちゃんは部活には入ってるんですか? この時期ならもう引退シーズンでしょうか」

「バレー部に入ってましたけど、夏休みに入ったぐらいで引退しました! 都大会の準決勝で負けちゃって……もうちょっとみんなとバレーがしたかったです……」

「都大会の準決勝、ということは都でベスト4ですか? とってもすごいです! わたくし昔から体が強くなくて、運動に真剣に打ち込む方に憧れがあったんです。ピナちゃんのこと、本当に尊敬しちゃいますわ!」

「んへへ、なんだか照れちゃいますね……!」


 俄かに緊張しながら、女性陣の和やかな会話をBGMに次の仲間の訪れを待つ。

 掌中の湯飲みが空になったところで、コンコンと軽やかなノック音が聞こえた。


 「どうぞ」と声を掛けると、「しつれーしま~す」と女性の声が返ってきた。どうやら女子高生の方が先に来たらしい。

 少しだけ開けられたドアの隙間から、少しくすんだピンク色の頭がひょっこりと顔を出した。

 ピンクに灰色(アッシュ)を混ぜた、所謂ピンクアッシュと呼ばれる髪色だ。


「……お、ウチが最後じゃないんだ。よかったぁ~」


 ぷふー、と安堵の溜め息を吐いて、派手な髪色に似合ったオシャレな服装の少女が部屋に入ってきた。

 少女は俺たちを見回すと、可愛らしいネイルが施された指でギャルピースを作って、


「んじゃまず自己紹介からね。ウチは……えーっと、ミュウ! 夜桜(よざくら)ミュウでーす。よろよろ~」


 ぱっちーん☆ と聞こえてきそうな見事なウインクと共に放たれた名乗りに、俺は息を呑んだ。


 ……ギャルだ。俺の人生にこれまであまり関わってこなかったタイプの、ゴリゴリの今時ギャルだ……!

 苦手意識があるわけではないが、反射的に思わず身構えてしまう。


 一方で女性陣は特に気にした様子もなく、朗らかに言葉を交わしていた。


「日南ピナです!! よろしくお願いします!!」

「わたくしは氷室シラユキと言います。どうぞよろしくお願いしますね。ミュウさん」

「おぉ……元気っ娘と清楚系お姉さん、そしてウチことダウナー系今時ギャルか。いい感じにバランス取れてんね」


 それ自分で言うか?

 ”ダウナー系今時ギャル”は、およそダウナー系今時ギャルの口から出る単語ではないと思うが……。


「その髪の色、とても綺麗ですね。もしかして、立ち絵のものと合わせられたんですか?」

「せいかーい。ウチ結構形から入るタイプでさー。見せてもらった立ち絵めっちゃ可愛かったから、気持ち入るようにけーやくしょにサインしてすぐ染めに行ったんだよね。可愛いっしょ?」

「とっても可愛いです!! いいなぁ、わたしも染めてみたくなってきちゃう……」

「えぇ~、ぴなちはそのままがいいよ。それ地毛でしょ? せっかく綺麗な色なのにもったいないって」

「ぴなち!? 嬉しい……! わ、わたしもニックネームで呼んでいいですか!?」

「もちもち。ぴなちの好きに呼んでいーよ。楽しみだなー、どんなニックネーム付けてくれるんだろーなー」

「む、むむむ……! ミュウさんで、可愛い感じのニックネーム……あっ!! みーちゃんってどうですか!?」

「ふふっ、猫さんみたいで可愛らしいですね。流石ピナちゃんです。わたくしも同じように呼んでいいですか?」

「いいに決まってんじゃーん。てかゆきぴもぴなちのことニックネームで呼ぼうよ。そうねぇー、ちゃん付けならぴーちゃんとか可愛くない?」

「今度は雀さんみたいですね? ピナちゃんはそれでもいいですか?」

「もちろんです!! むしろ呼んでほしいし……あの、わたしもゆきちゃんって呼んでいいですか?」

「いいですよ、ぴーちゃん。ふふ……何だか楽しいです。学生時代は、ニックネームで呼び合うような文化はありませんでしたから。言葉遣いや立ち振る舞いに厳しい学校でしたし」

「おぉ~……たぶんガチのお嬢様学校の話だなこれ。もう滲み出ちゃってるもんね、気品ってやつが」

「ですよね! ゆきちゃんってすごく品がある感じで、憧れちゃいます!!」

「ぴなちがゆきぴみたいになるには、まず音量調整覚えないとねぇ~。ま、ぴなちはそのままでいいよ、可愛いし」

「そうですよ。ぴーちゃんはそのままでとっても可愛いです」


 ……ギャルすげぇ!!

 天性の人懐っこさで人の懐に入るのが上手いピナとは違い、これは鍛え上げられたコミュニケーション能力だ。

 あっという間に、数年来の友人も斯くやという仲を構築してしまった手腕に戦慄してしまう。


 盛り上がる女性陣に口を挟めず沈黙していると、ふとミュウさんの視線がこちらに向けられ……にんまりと、楽しそうに弧を描いた。


「んで、そっちで男一人肩身狭そうにしてるのがたいちょーだよね? よろしく~」

「……あぁ、よろしく。一応自己紹介しとくと、神代アレンだ。ちなみに、俺もニックネームで呼んでいいのか?」

「たいちょーはまだダメ~。ウチの好感度を貯めてからまたチャレンジしてね。あ、同期ボーナスと話しかけられるまでステイできたご褒美に、呼び捨ては許可してあげるね」

「シラユキとピナも同じ初対面だったと思うんだが……美人と美少女は例外ってことか?」

「わかってんじゃーん。カワイイ女の子にはミュウちゃんポイントのボーナスが100点与えられます」

「何点満点?」

「100点でーす」


 依怙贔屓にもほどがある……。

 ただの冗談だったし、もし許可されたとしても呼べるかどうかは別問題だが。


 苦笑を浮かべる俺に、シラユキがくすりと笑って語り掛けてくる。


「ふふ、わたくしなら呼んでいただいても構いませんよ?」

「わたしもいいですよ!!」

「……一旦保留で頼む」

「はぁい」

「へたれー」


 何とでも言え。

 ニヤニヤと笑いながら野次を飛ばしてくるミュウを見ながら、立ち絵を見た時の印象通りだな、と小さく息を吐く。

 いや……想像より大分生意気というか、悪戯というか。


 夜桜ミュウのアバターは、現実の彼女のそれより色鮮やかなピンクの髪をサイドポニーにして、眉尻が下がったどこか気だるげな雰囲気を纏う少女だ。

 ピンクの差し色があしらわれたミニスカート型の軍服も相まって、正しく彼女が自称したダウナー系今時ギャルと言った風貌である。


「まっ、そうは言っても仲良くしたいのは本心だからさ。よろしくね、たいちょー」

「あいよ」


 けらけらと笑いながら、シラユキとピナの隣に腰掛けるミュウ。


 ……流石にそろそろ、隣に誰も居ない状況が寂しくなってきたな。

 注ぎ直してもらったお茶を啜りつつ、左手の腕時計に目を向ける。集合時間までおよそ十分。俺の精神的平穏のためにも、早く到着してほしいところだ。


 内心で懇願した直後……その思いが通じたようにノック音が響いた。


『リュウガさんが到着されました。入ってもよろしいですか?』

「どうぞ!」


 楠さんの言葉に食い気味に返答する俺を見て、ミュウが愉快そうに笑ってドアの方へ視線を向けた。

 シラユキたちも注目する中、ゆっくりと扉が開かれ、一人の小柄な少年が姿を現し……――はっ??


「あら」

「えっ!?」

「ぶはっ!」

「…………」


 ここまで、随分とバリエーションに富んだ面子が集められたものだ、と感心していたのだが。

 我らが五人目の仲間は……どうやらユニット随一のキワモノだったらしい。


 なにせその少年は――何故かニチアサヒーローの仮面を被っていたのだから。



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