安全第一は大事なんだぜ
「ゲビック、時が来たわ」
またこの嬢ちゃんの寸劇が始まった。今度は何を言い出すやら...
「ちょっとゲビック?!返事くらいしなさいよ!」「なんだよ?目を離させるなよ!」
俺は毎日の日課に精を出してるってのに、この嬢ちゃんときたらどうして邪魔をしてくるんだよ...
「アナタ気付いてないみたいだけど...人には集中出来る限界時間ってのがあるのよ!見なさい!」
そういって嬢ちゃんが、俺が作ってるバネを無造作に選んで並べ始めた。
「この順番を崩さないで、一つづつ出来栄えを比べてみなさい」
そう言われて俺は作業を中断し、一つずつ品定めする。
「まぁまぁじゃねぇか?特に悪い出来のモンはねぇぜ?」
俺がそう言うと
「馬鹿なの?ゲビック!私は出来栄えを比べてと言ったの!出荷に足る出来栄えか?なんて聞いてないわ!」
そう言われて俺は
「多少の出来栄えに違いが出来るのは当たり前だぜ?嬢ちゃんよ?鋳造品じゃねぇんだ」
「はぁ...視点が違うって事から言わないとダメね」「???」
何故嬢ちゃんがお怒り気味(叱るのではなく心配?して言っている感じ)なのか分からず、俺が首を傾げていると
「ゲビック、アナタ作業中に怪我した事無いの?」
「あるに決まってんだろ。この傷を「自慢しない!馬鹿なの?」んだよ!?」
流石に二回も馬鹿って言われると、温厚な俺でもムカついてくるってもんだぜ。だが...
「うっかりで怪我したんじゃないのかって聞いてんのよ!」
「この世の中にうっかりしねぇやつなんかいねぇよ!嬢ちゃんはしねぇのかよ!」
「するに決まってんでしょ!」「???意味が分かんねぇぜ?」
モヤモヤする俺に嬢ちゃんは
「そのうっかりは集中力が切れてくると起きやすくなるって言ってんの!」
嬢ちゃんは指先を俺に突き付けながら尚も言い続ける。
「さっき見せたバネの出来栄え!最初より二番目の方が良かったでしょ!あれは集中力が増したからなの!」
話しながら2つのバネをつまみ俺の鼻先に突き付ける。そして最後の方のバネをつまみ再度俺の前に突き出して
「此処から先の出来栄えを見て!一応合格ラインを越えているとはいえ、アナタ!コレを人に自慢出来る?」
俺は嬢ちゃんの勢いに押されるまま、思わず首を横に振った。すると
「でしょう!?アナタ此処から先はずっと、その程度のモノを作っていたのよ?!ソレで良いの?」
やっと俺は嬢ちゃんの言ってる事に合点がいった。要するに
「品質が下がりだしたら集中力が切れてる証拠...って事か...」
「そうだけど...50点ね。ムダを省き品質を上げるためにも、定期的に休憩を取りなさい」
その後も嬢ちゃんは言葉を続ける。
「休憩しても品質に揺らぎがでたら、その時は完全に作業を止める事。そこまで集中力が落ちると、次は品質より安全面が確保出来ないわ」
「そうか!集中力が落ちた時に怪我するって事か!」「やっと分かったみたいね」
まだ嬢ちゃんが何か言ってるが俺は自身の作った低品質のバネを見ながら
「コレで良いって思っちまったのも...集中力のせいか...」
俺はまた...この嬢ちゃんから大事なことを学んだんだぜ。
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