↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【GIJUTSU MAHŌ】異世界で無記憶無道徳  作者: 波修羅 直剣
「第1巻」 Tharnwodeでの幼少期・第一部
9/95

火の三角形

数か月後、Kaelianは魔法の練習を続けていた。最初は小さな火花が少し出るだけだったが、やがてその数も増えていった。


「……頼む、今度こそ成功してくれ」


再び草原で、彼は両手を前に突き出す。これまでと同じ手順を繰り返す。だが今回は、火花だけでは終わらなかった。炎が現れ、彼はとっさに後ろへ飛びのいた。


「ああっ!!」


隣に座っていたNaeviaが尋ねる。


「大丈夫ですか、Kaelian!?」


Kaelianは自分の手を見る。両方の手のひらに軽いやけどができていた。


「だ、大丈夫……少し痛むだけだ。もっとひどいのは経験してる」


Naeviaはひざまずく。


「治させてください!」

「いや、いや、大丈夫だ。本当に、Narysを使わなくていい」


Kaelianは両手にNarysを広げ、さらにその外側へ伸ばす。集中し、空気中にある無数の水の粒子を思い描く。それらは集まり、両手の上に水の球となって浮かび、やがてやけどの上に落ちた。治ってはいないが、少なくとも熱は和らいだ。


「ふぅ……ずっとマシだ」

「あの難しい方法を使ったのですか?」


彼は立ち上がり、服で手を拭く。


「ああ。でも、まだ少し集中しにくい」

「これからもっと上達しますわ。あなたは、誰も成し得なかったやり方で魔法を理解したのですから」

「そうだな。それで結局、自分で自分を焼いたわけだが……まあいい。今日は付き合ってくれてありがとう」


Naeviaはわずかに微笑む。


「どういたしまして。また後で」


Naeviaは少しずつ姿を薄れさせ、石へと戻っていく。だが今回は、Kaelianにもそれが感じ取れた。


(……彼女が石へ戻っていくのを感じた。変だな……)


遺産が答える。


(もうNarysを制御できる。だから、周囲のNarysを感じられる)


***


Kaelianが家に戻ると、Irethaはまだ帰っていなかった。そこで包帯を探し、手に巻き始める。それから寝台へ行き、その下に手を差し入れて、糸で綴じられた薄い板の束をいくつか取り出した。まるで本のようだった。それを膝の上に置き、寝台の端にもたれかかって書き始める。


(ここ数週間で、自分だけの『魔導書』を書き始めた。進歩した点、どうやってできたか、何を改善すべきかを記録してる。中に書いたことは全部覚えていられるから、あまり役には立たないんだけど……でも、なんとなく書くのがかなり好きだと分かった。読むのも好きだけど、家にある唯一の本、つまりおばあちゃんたちの手引きをいつも読むのはさすがに退屈だ。隠し収納には別の本があるけど、Irethaはまだ気づいていないみたいだし、もう一体妖精か何かを解き放つのが怖くて、まだ開けていない)

(それで、今日は何を学んだの?)


書きながら答える。


「火の魔法を使うたびにやけどしないよう、身を守る方法を見つけないといけないってことだ」

(解決策はある。もう思いついた?)

「手にNarysの障壁を張ることか?」

(ええ……まさにそれ)


書き終えたKaelianは『本』を閉じ、再び寝台の下へ戻す。それを見ながら考える。


(隠す場所としては最善じゃないけど、ほかに思いつかない。秘密の収納は、Irethaが知っていると分かった時点で使えなくなった……だから、いちばん目立つのに自分なら探さない場所を選んでいる。しかも、向こうは何かを探していることすら知らない……それなら見つかる確率も下がる)


立ち上がり、机の方へ歩いていく。


「その間に、やけどのことを聞かれたら何て答えるか考えておこう……」


扉が勢いよく開いた。


「Kael、た……だいま」


すぐにKaelianの手の包帯に気づく。


「Kaelian!」


荷物を床に置き、すぐに駆け寄る。


「何があったの!?」


目に心配がはっきりと浮かぶ。彼女はKaelianの手を取って確かめようとしたが、その触れた瞬間、やけどの痛みの何百万倍もひどい痛みが走った。体が震え、後ろへ飛びのく。


「ああああっ!!」

「ご、ごめん……お願い、許して……!」


Irethaは台所へ走り、上の引き出しを勢いよく開ける。


「軟膏を取ってくるわ!」


探しながら急いで取り出す。その拍子に、小さな木の容器に入ったものの一つが床に落ち、ころころと転がり始めた。Irethaはそれを追う。

Kaelianはその容器が転がるのを見て、目を大きく見開いた。


(あ……まずい)


転がっていく先は、ちょうどKaelianの寝台だった。遺産が言う。


(それを見つけられたら、かなり説明しないといけなくなる)


Kaelianは、遠くへ転がっていくそれを何としても掴もうと手を伸ばした。ほとんど反射だった。内側でフレイムが燃えるのを感じる。すると容器の中にもフレイムが現れ、その進む向きを変えて壁にぶつかるよう導いた。

Irethaはそれを床から拾い上げ、Kaelianの方へ向かう。


***


テーブルの前で、Kaelianは手を置いたまま座っていた。 Irethaは布で丁寧に軟膏を塗り込みながら言った。


「傷つけてごめんなさい……。怖くて、一瞬、アレルギーのことを忘れてしまった」

「大丈夫だよ、ママ……。そんなに痛くなかったから」

「もう大丈夫、Muyun bé?」


Kaelianは頷く。だが、その表情はどこか無機質で、視線も遠くをさまよっているようだった。Irethaは安堵の溜息をつく。


「よかった……。それで、どうやって火傷をしたのか教えてくれる?」

「水が少し濁っていたから、温めようと思ったんだ。でも、鍋を掴むための手袋をはめるのを忘れちゃって」


遺産が頭の中で告げる。


(……へえ。即興が上手いのね)


Irethaは深く息を吸い込んだ。


「本当に賢い子ね。今まで、叱ることなんてほとんどなかったわ。でも、私がいない時にこんなことはしないでね。分かった?」

「うん……分かった」


彼女は新しい包帯を巻き終えた。


「よし、これでいいわ」

「……ママ、怒ってる?」

「いいえ、まさか。一人にした私が悪いのよ」

「でも……」

「『でも』じゃないわ」


彼女は慈しむように微笑みながら、顔を近づけた。


「あまりに聡明だから、まだ三歳だってことを時々忘れそうになる……。でも、とても信頼しているのよ」

「……」

「できることなら、一日中そばにいたいけれど、必要な物をほかの誰かに取りに行かせるわけにはいかないの。私が行かなければならないわ。だから、私がいない間はじっとしていてくれる? そうしてくれたら、無事でいられるって安心できるから。本当は連れて行きたいけれど、森は危ないこともあるのよ」

「……努力するよ」


Kaelianの額に優しく口づけをした。


「今はそれで納得するしかないわね」


Kaelianは椅子からぴょんと降りた。


「Muggete」


振り返ると、IrethaがまっすぐにKaelianの目を見つめていた。


「なあに?」

「私のすべてよ。決して忘れないで」


彼は驚いたように目を見開いた。


「忘れないよ」


***


数時間後、眠る時間になった。


(遺産……。さっきからずっと黙ってるね……)

(ええ、それは……まあ、もう分かっているのでしょう?)

(あの容器のこと……Narysが原因じゃなかった、そうだろ?)

(正解よ。あれは意志のフレイム……。意志に反応して、容器を動かしたのよ)

(どうやって?)

(フレイムの基本能力の一つ、『導く』よ。その名の通り、自分の意志でほかのものの動きを導く力。あの容器を止めたいと願い、フレイムがそれに応えたの)

(Irethaには見えていなかった……よね?)

(安心しなさい。フレイムは他人には知覚できないわ。少なくとも、あの形態の意志のフレイムならね)


長く息を吐いた。


「よかった……」

(実のところ、母親にフレイムを持っていることや、魔法が使えることを知られるなんて、抱えている問題の中では些細なことよ)

(……言い当ててみようか。私を探している連中に、これで予定より早く見つかる……ってことだろ)

(ええ。フレイムを使ったことで残滓が残ったわ。数日、数週間、数ヶ月、あるいは数年……距離にもよるけれど、何かや誰かに見つかるかもしれないわ)


***


それから数週間後、Kaelianは火の魔法を使う前に、毎回Narysで手を守るようになっていた。

火球を作るが、数秒で消えてしまう。


「……くそ、Narysが少なすぎたか……それとも、多すぎたのか?」


草原で毎日火球の練習をしている。今では、一日でNarysを使い切るまで何度も試せるようになっていた。失敗の仕方もさまざまだ。燃えすぎたり、弱すぎたり。どれだけNarysを使っても、そのまま消えてしまうこともあった。

さらに二週間後。


「もう分かった気がする!」


地面に座っていたNaeviaが答える。


「それ、二週間くらい前にも言っていましたわよ……でも、できなかったじゃありませんか」

「今回は違う」

「あら、そう? どうしてですの?」

「新しい理論を試してみようと思ったんだ。これも私の世界の理論で、『火の三角形』っていう」

「なんだか大量破壊の術みたいな名前ですわね」

「違うよ……やってみる」


Kaelianは今では、より少ないNarysで火花を生み出せるほど、Narysを加速できるようになっていた。数回回転させて火花を生み出し、手に障壁を張ったあと、素早くNarysを送り込む。それを、今ではほとんど無意識にやっている。


「空気中の酸素が燃焼を維持してる。この場合、Narysが燃料で、温度は最初の火花が生み出してるんだ」

「言っている言葉のいくつかが分かりませんわ」


Kaelianの手のひらに、すぐに火球が生まれる。だが今度は消えず、尽きることもない。


「空気中の酸素で燃える。この場合、Narysが燃料で、温度は最初の火花が生み出してる」

「……なるほど」

「いつも失敗してたのは、使うNarysの量だったんだ。Narysが少なすぎると温度が下がって、燃料が完全に燃えなくなる。逆に、濃縮したNarysを使いすぎると窒息して消えてしまう……安定を保ってるのは、送り込むNarysの量と取り込む空気の比率なんだ」


KaelianはさらにNarysを送り込む。だが、凝縮はせず、球体を広げながらさらに大きくしていき、より多くの熱を放ち始める。


「もっと強くする方法は……これをもっと大きくするか……あるいは、同じ体積の中にもっと酸素を取り込めるようにすることだと思う……でも、まだそれはできない」


火球を消す。Naeviaは視線を落とした。


「半分も理解できませんでしたけれど……それを全部、自分で見つけ出したのですね……私はただ見ていただけで……本当に役立たずですわ」

「……それが望みだったんだろ? 誰にも利用されないために、『役に立つ』ことを強いられたくなかった……だから、私は一度も助言を求めなかった」

「……もし、もう考えが変わったと言ったら?」

「どういう意味だ?」

「出会ってから、もう一年半くらいになりますね。ある意味、一度はあなたを殺そうとしたこともありましたし……それなのに今では、週に一度か二度、あなたがNarysを貸してくださる時にこうしてお話ししていますし……毎回、呼び出されるあの感覚にも耐えています」


少し考え込むように体を揺らす。


「嫌ではありません! ただ……あなたは何も説明してくださいませんでした」

「……説明してほしいのか?」

「ええ! ……お願いします」

「じゃあ、まず一つ答えてくれ。石を水に入れて君を呼ぶたび、何を感じてる?」

「……最悪です……またあの湖の中にいるみたいで……肺に水が入り込んで、絶望しかなくて……怖いんです」

「それでもここに来る。また私と話すために、その感覚に耐えてる」

「……ええ、そうです。ですから、今度は私の質問に答えてくださいますか?」

「もちろん。正直に言うと、君を脅威だとは思ってない」

「本当に?」

「ええ。君にフレイムを渡すつもりはない。だからそれで終わりだし、君が私を殺せるとも思ってない」

「どうしてそう思うんですか?」

「まだ生きてるから。前の人生で、誰かを殺したって君が言ってた覚えもない。それに……君は変わった」

「私が……変わった?」

「ええ。少なくとも、私にはそう見える。もう白くて上品なドレスは着てないし、今はもっと地味な格好してる 。それに、私への態度も前みたいに上品で丁寧な感じじゃなくなった」

「実際には、これは服ではありません。石が見せている幻です」

「つまり……君は……いや、いいか。もう前と同じ人には見えない。今回は少なくとも、友達が一人いるんだろ?」


Naeviaは勢いよく立ち上がる。


「そ、それって……わ、私たち、友達なんですか?」


Kaelianは後頭部に手を回した。


「ええ……まあ、そうだと思う。ずいぶん話したし……君もそうなりたいか?」

「ええ! いえ……その、私もなりたいです」

「はは、私もだ」

「もう覚悟はできています。考えを変えた理由を、お話しします!」

「……何? ……ああ、そうだ。その話だったの忘れてた 。聞くよ」

「観念体である限り、できることはあまり多くありません。だから……あなたの役に立ちたいんです! 助けたいんです! 今度は……誰かに強いられているわけじゃない……でも、役に立ちたいんです……どうですか?」

「断る」

「……」


Naeviaの瞳孔が大きく収縮する。


「……え? ……断った……んですか?」

「ええ、断った」


Naeviaは視線を落とす。声が震え始め、手も小刻みに揺れ出す。


「私が十分きれいじゃないからですか……? もうすぐ追い越されるからですか……? それとも、私は誰かにとって足りないんですか……?」

「……私は、有用性を必要としてない……」


Naeviaが少しだけ顔を上げる。


「……じゃあ……」

「君の方が、私より知識も技術もある。たしかに役立つだろう。でも、道具として見てるわけじゃない……どちらかというと、一人の人間として見てる。自己愛のない人間ではあるけど、それでも人間だからな」


Naeviaの目が限界まで見開かれる。泣きそうになるのを堪えながら、自分に言い聞かせる。


(……人間……誰かが私を一人の人間として見てる……)

「自分の人生を生きたいなら、今から始めるんだ。誰かの役に立てるようになるのを待たないで。自分のために生きろ……好きに生きればいい……好きにしなよ」


Naeviaは唇を引き結び、まっすぐKaelianを見つめる。


「……分かりました! やります……観念体としてできる範囲ですけれど、それでもやります! 自分のために生きます。同じ失敗を、違う形で繰り返さないようにしてくださって……ありがとうございます」


Kaelianは腰に手を当てて笑う。


「どういたしまして、たぶん」

「でも……もし何か必要なら……お願いとして頼んでください。そうしたら……いえ、ひょっとしたら引き受けるかもしれません」

「ふふ、そっちの方がずっといいな……友達」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。