第8話
第8話 革新的技術
フィルは中等科の付与魔術に没頭していた。
中等科には、工房が設けられているが、多くの生徒たちが少ない材料を使っていたため利用しなかった。フィルが利用していたのは、ケルン内にある鍛冶屋のダン・ダダンに通っていた。
王族御用達の鍛冶屋というネームバリューが着くことを喜んだ、店主のドワーフ、ダダンは快く工房を貸してくれた。もちろん、材料費などはフィル持ちだ。
ここで必要な鉱石などの消耗品に関しては、翆と藍に調達を依頼している。
二人とも四大精霊ということもあり、自然に発生している高純度の鉱石などを探すのはお手の物である。鉱石を加工して武器にするのが、ダダンの役割。そして、その武器に付与魔術を施すのがフィルの役割だ。
ダダンの作る武器は、個性的だが実用性が高い。一級品ばかりだが、付与魔術に失敗すると壊れてしまう。なので、最初は、量産できるショートソードのみを使って付与を行っている。
「うーん。上手くいかないなぁ。」
「そりゃあそうだ、フィル様。そんなにうまくいくわけなかろ。まあ、ルーン文字一つ掘るにも精密性が必要じゃからの。」
「そうなんだよね。この彫刻刀でも限界かな・・・。精工補正があるんだけど。ルーン文字自体は完璧に暗記しているから、あとは写すだけなんだけど。」
「その年で、ルーン文字全部とは、ドワーフ族が欲しがる逸材じゃの。」
「魔力を注ぎながら掘らないと効果がないのが難しいね。」
「ただ掘っただけなら装飾と何ら変わらんからの。だから専用の彫刻刀が必要なんじゃ。」
「魔力を込めて掘れば彫刻刀いらない?」
「そんなこと出来るならじゃけどな。」
「う~ん。ん?待てよ?魔力を込めた光線の照射で刻んだらいけるかな?」
「どうじゃろう。光属性の詠唱魔術にそんなものは存在せんしな。やったものはおらんて。」
「詠唱魔術じゃなくて、形質変化させるんだよ。魔力を光線にね。」
「ほぇ~。お主そんなことまで出来るのか。」
「まあね。ちょっとやってみよう。」
ショートソードを取り出したフィルは、指先から光線を放ちルーン文字を刻もうとした。
すると、バキっとショートソードが折れてしまった。
「あらら、また失敗だ。出力が強すぎたみたいだ。」
「それだけじゃないようじゃぞ。このショートソードは単なる鉄鉱石で出来ておる。鉱石が耐え切れずに折れてしまったんじゃな。もっと、硬度の高いものじゃないと何回やっても同じじゃろ。」
そういうと、ダダンはいろいろなショートソードを持ち出してきた。
「これは高度順に並べておる。どこで、折れなくなるか試してみるんじゃ。」
「いいの?オリハルコンやアダマンタイトのショートソードなんて高級品だよね。」
「お主の技術が成功したら、何万倍もの元が取れるのじゃから気にすることは無い。」
フィルは、ダダンに言われた通り、硬度の低い物から順に光線を当てていった。
その結果わかったのは、光線に耐えきれるのは、ミスリル以上ということだった。
さらに、硬度が高いものであれば、長く光線に耐えられることがわかった。これは、硬度が高ければ高いほど、彫刻ができることを示している。
「ふぅ~。完璧にするにはミスリル以上かぁ。これは高くつくね。」
「お主がやろうとしていることを彫刻刀でやったら、完成までに何百年とかかってしまうじゃろうな。魔力供給と彫刻を同時にやる技術自体すごい発見じゃよ。」
「ありがとう。そういえば、中等科の課題に付与魔術を施したアイテムっていうのがあってね。それに間に合わせたいんだ。」
「締め切りはいつじゃ?」
「3か月後だね。」
「そうか、じゃあわしはとりあえずミスリルのショートソードを大量に打つとするかな。ミスリルも稀少鉱石じゃから、お主の仲間に頼んでもらわんと足らん。」
「わかった!ミスリルをメインに採掘してもらうようにするね。そういえばお店の方はいいの?」
「今のところ、王宮の騎士団用の剣の受注があるんじゃが、わしの店だけじゃないみたいじゃからの。納品数が多少少なくても大丈夫じゃろ。」
「へ~。他のお店にも頼むほど剣を集めてどうするのかな?」
「まぁ、そこら辺はわからんな。」
―――――
ダダンの店に通い詰めて、一か月が経った頃だった。
「おお!お主やりおったな。」
「へへん!どうだ。このルーン文字の数!そして完璧な付与魔術のはず!ミスリルは6文字が限界だったね。」
「ふむ、どれどれ・・・。ん?この4つルーン文字は魔力循環か?あと2つは、自己修復と鋭利強化・・・。どういうことじゃ?ほかに詰め込むルーン文字の候補はあったじゃろ。」
「それがねぇ。この魔力循環が味噌なんだよ。ルーン文字は、刻んだ魔力で発動できる時間が決まるでしょ?」
「そうじゃな。永久的に付与魔術が施されることはないのぅ。使ったら使った分だけ消耗してしまうのが、そもそもの欠点じゃ。」
「それが、この魔力循環があれば、剣自体に魔力を注げば、ルーン文字の効果を永久的に使えるんだよ。」
「なんじゃと!そしたらこの剣は、魔力さえ流せば、切れ味抜群で刃こぼれもしないということか!?」
「その通りでございます。ダダン殿。」
「な、なんと・・・。ただの付与魔術ではなく魔剣の領域じゃ。ここに魔剣があるぞ。魔剣と言えばダンジョンで出土するかどうかのレベルじゃぞ。それが、この短期間に・・・。お前さんの技術をほかの工房や付与魔術士に教えてもよいか?」
「うん、別にいいよ。でも、そもそも光属性の形質変化が出来ないと無理だけど・・・。」
「そうじゃった・・・。しかし、革新的技術じゃ。これは鍛冶屋ギルドの「名工」に報告させてもらいたい。」
「うん、わかった!そういえば、彫刻刀で掘る付与魔術をなんて呼ぶの?」
「特に決まってはないが、鍛冶屋の中では、「初彫り」と呼んどるのぅ。」
「初彫りかぁ。じゃあ、僕のは「光線彫り」とでも呼ぼうか。」
「まさに、名前の通りじゃな。」
「そしたら、この剣「名工」に持っていく?」
「良いのか?」
「いいよ。課題で提出したらとんでもないことになりそうだし。」
「確かに、そうじゃな。どうじゃ?ほかに課題で高得点もらえそうなものは考えておるのか?」
「前に自作したトンボ玉の改良版を作ろうかと。」
「トンボ玉?」
「トンボ玉に1つだけルーン文字を彫刻刀で刻んで、巾着袋に通して収納率を上げるっていうものを作ったんだけど、それを改良しようかと。」
「マジックボックスの簡易版じゃの。」
「そうそう、でも使用制限があるから途中で中身が飛び出しちゃうのが難点だったんだよね。でも、今回の実験で、ミスリルなら魔力循環が施せるからそれで作ろうかなって。」
「うん?それじゃ、この魔剣と同じじゃぞ。使っている技術自体が光線彫りじゃろ。そしたら、お主が作ろうとしているものも、これと同等じゃ。」
「・・・あ、そうか。逆に劣化版を作らないといけないのか。そっちのほうが難しい。」
「いやいや、そのトンボ玉で十分すぎるのじゃよ。マジックボックスの簡易版ってだけでも十分に利用価値はある。天才じゃよ。冒険者たちがこぞって欲しがる代物じゃよ。」
「じゃあ、トンボ玉を提出しちゃおう。」
「お主これからとんでもなく忙しくなると思うぞ。どこのギルドからも引く手数多になるじゃろう。」
「まだ、ようやく7歳になったばっかりだから大丈夫でしょ。」
「お主、王族の第四王子という自覚がないのぅ。魔術と発明の天才として忙しくなるのは目に見えておるぞ。」
「まぁ、一人で出来ることは限られてるからね。きっと大丈夫。たぶん。」