第7話
第7話 中等科の知識
中等科に編入してから、数か月が経った。毎日のようにメルトがフィルの部屋に訪れていたが、フィルは何とか逃げていた。
しかし、アルトとはよく話しており、メルトの行動について相談していた。
「アルト兄様・・・。メルト姉様をどうにか出来ませんか?」
「あはは、無理だね。まぁ、もう少ししたら僕たちは、聖王教会に行くことになるからそれまでの辛抱だよ。」
「そうでしたね。この王国最大の宗教団体にお勤めされるなんて素晴らしいです。」
「まぁ、二人とも光属性に適性があっただけだし、教会はいつも人手不足だからね。」
「最初はどちらに配属なのですか?」
「最初から王国の一番大きい教会のフェデルブルク教会だよ。」
「そうなんですか!」
「まあ、コネクションもそうだし、早いうちからたくさんの仕事をこなさなきゃいけないからいろいろ大変なんだよ。だから、メルト姉様も教会に入ったら簡単には出ていけないと思うよ。」
「毛嫌いしてるわけではないのですが・・・。」
「それはわかっているよ。メルト姉様はああいう人なんだって思うしかないね。それより、中等科の授業はどうだい?」
「はい、初等科に比べてもっと複雑になって、新しい授業の付与魔術が特に面白いと思っています。」
「付与魔術ねぇ。我々ヒューマンより、付与魔術に長けているドワーフとかがいるけど、フィルの場合はまた何かすごいことしそうだよね。」
「そんなことはないですよ。付与できる魔法には限界がありますし、大したものはあんまりできていません。」
「大したものはって、中等科1年で何かに魔法を付与できる時点で相当すごいよ。」
「そうなのですか?」
「そうだよ、例えば、剣に魔術を付与するには彫刻する必要があるのは知っているよね?それもただの詠唱文ではなくて、別の言語ルーンを使うでしょ?」
「はい。一文字で意味を成すルーン文字を彫ることで付与できると。」
「そのルーン文字自体すべて解析されているわけじゃないし、少しでも形が違えば効果を発揮しない。とても精密な技術なんだよ。フィルが付与したものって例えば何があるの?」
「トンボ玉です。」
「トンボ玉?」
「はい。ガラスの玉に一文字だけルーン文字を刻んで、それを巾着袋のひもに通すことで、その袋の収納スペースを広げるというものを作りました。」
「は?それってマジックボックスの簡易版じゃないか。」
「まぁ、そんな感じですね。」
「それだけで、一生遊んで暮らせるだけのお金は稼げるんじゃないかな。」
「でも、耐久力は普通の巾着袋と変わりませんし、トンボ玉が割れてしまったら中身が辺り一面に飛び出してしまいますから。商品とはなりませんよ。日々試行錯誤中です。」
「やっぱりフィルはすごいなあ。お兄ちゃんは出来のいい弟を持って幸せだ。困ったら兄様たちに聞くよりフィルに相談したほうがいいかもね。」
「そんなことはありませんよ。ガルフ兄様の剣技やサリープ兄様の知恵には及びませんし、アルト兄様だって教会で大成されるに違いありません。」
「あはは、6歳にしてはお世辞がうまいね。まあ、僕も来たるときはやってやるつもりだけどね。」
「来たるとき?」
「まぁ気にしなくていいよ。フィルにいざこざはなしだからさ。ほら、そろそろ授業でしょ。頑張ってね!」
「ありがとうございます。では、また!」
アルトは、フィルを見送ると、ボソッと言った。
「来たるときねぇ。」
―――――
「今回の授業は、魔力の形質変化についてです。中等科ではその基礎知識を学んでいただきます。魔術に関しては、努力でどうにもならないことが多いですが、知識として身に着け、適性があればそれを伸ばしていくことが、魔導師の近道になりますので、よく聞いておくように。」
そう話すのは、中等科形質変化担当教師、リペッツ・スーである。
「魔力の形質変化とは、魔法ではありません。あくまでも魔力を違う物質に変えることをいいます。例えば、魔石です。魔石は魔力を多く含んだ鉱石ですが、高純度の魔石はまさに魔力を結晶化させたものと言えます。最初から魔力をそのまま100%別の物に変えることは出来ません。ですので、最初は、多少不純物を混ぜ込みながら、物体を生成し操るのが基本になります。ここで使用するのはこの砂になります。魔力を砂に流し込みながら、砂を操ることが出来れば形質変化の第一歩と言えるでしょう。実際にやってみますね。」
そういうと、スーは小瓶から砂を出し、魔力を流した。
その砂は空中を漂い、いろいろな形へと変化している。
「形質変化の最終は、魔力そのもので違う物質を生み出し操ることになりますが、最初は操るということに意識を持っていきましょう。詠唱魔術とは違い、形質変化を利用すれば、例えばこの砂をこういった武器に変化させることもできます。」
漂っていた砂は、集まり大きな戦斧に変わった。
「さて、見ての通り砂が戦斧に変わりましたね。これがあれば、砂と魔力さえあれば、武器を作ることができるので、戦闘時武器の破損や予備の武器などを考慮せずに自由に戦えます。しかしながら、形質変化を維持するにも魔力は必要ですので、魔力の残量には気を付けましょう。まずはこの砂を操るところから始めてください。」
各々生徒たちが、魔力を込め授業に専念していた。フィルもまた、形質変化に興味を持っていた。
「付与魔術に応用できないかな?う~ん。純度100%の形質変化は出来るんだけど、応用の幅がもっとあると思うんだよね。肝心なのは形質変化させている間の魔力供給だよね・・・。どう思う?藍。」
今日の護衛は、リリィではなく藍だった。
フィルの後ろでちょこんと座り、大人しくしていた。
「ルーン文字に魔力循環の意味のないの?」
「あるよ。少し長い文字数になるけどね。」
「それ使えばいい。」
「うん?あまりピンとこないよ。どういうこと?」
「循環文字+魔法陣=魔法陣の効果ずっと発動できる。」
「な、なるほど!って彫刻刀で削る範囲も限られてるし、それってでも形質変化関係ないよね。」
「それは知らない。」
「でも、循環文字は使えそうだね。循環文字があれば、完全に循環はできないけど魔力が切れるまでは、その効果を発揮できそうだ。ふむふむ。興味深い。早く作ってみたいな。」
「主、楽しそうで何より。」
「そりゃあ、楽しいよ!自分の知識で思い通りに魔術が極められたら!」
「魔法は、敵を倒す道具。」
「急に物騒だね。突き詰めたらそうなんだけど、それだけじゃないよ。生活を豊かにしてくれるものなんだから。」
「へ~。藍には、わからない。」
「あはは・・・。」
ここでの雑談がまたもとんでもないものを生み出すことをフィルはまだ知らなかった。




