第52話
第52話 強欲の悪魔1
ジーランは、元々領民から愛される領主であった。
土地柄もあってか、自然豊かな資源などを売りにし、皆が生き生きと活躍できる場を提供しながら自分自身もヒルドの村の温泉などに足しげく通っており、領民の信頼を得ていた。
しかし、ある時目の前に現れた黒い煙のようなものに、襲われてしまった。
それが、強欲の悪魔だった。
憑りつかれてしまった後のジーランは、私利私欲のために今まで大切にしていた村々に重い税を掛け、金銭を要求した。さらには、奴隷商売や自然を利用した麻薬の生産などを行い、膨大な富を蓄えこんでいた。その富は黄金の装飾品へと変えられ、屋敷中に飾られるようになった。
それでも飾り切れない装飾品たちを自室へ持ち込み、愛でるように強欲を体現していた悪魔は、いつしか、その黄金と一体化し黄金の塊と変貌した。
さらには、強欲の悪魔によって村々は衰退し、命が奪われていった。直接手を下さなくとも消えていく命は、金貨となり強欲の手元に還元された。そうやってどんどんと黄金の塊は肥え、とうとう自力では動けなくなっていた。
メイドたちは、時折聞こえるジーランのうめき声と、週に一度扉越しに黄金の装飾品を納める際に見えた変わりきった領主の姿を見て恐怖していた。
逃げ出す者もいたが、例外なく行く先で死んでおり、その恐怖で屋敷内にいることしかできなかった。
―――――
ガルフは、大罪の悪魔がどれほど強いかをフィルから情報を得ていた。
到底、騎士団では敵わない相手。しかし、助けてくれる助っ人はいない。
メルトとアルトも倒れている。かなり不利な状況であったが、ここで戦わないのは騎士道に反すると考えた。
強欲の悪魔の能力もわからない状態で、有効打を持たない騎士団では勝つことは出来ない。
ユーアの言う通り、詠唱の効果が現れるまで体力を削る方法しか、今はない。
団長の持つ魔剣では悪魔を殺すことはできないが、憑代にダメージを与えることで、悪魔を消耗させることは出来る。
そして、フィルに教わった悪魔祓いの詠唱を行えば、まだ活路はあると判断した。
「ユーア殿、頼みます。」
「任せておけ。行くぞ!聖剣エクスカリオン!」
抜刀した聖剣エクスカリオンは、光を放ち黄金に輝く部屋をさらに照らした。
ガルフとマルス、そしてユーアは聖剣エクスカリオンの効果を得てすべての能力が向上した。さらには狭い部屋ということもありお互いの距離は近い。故に能力が減衰することもなく、本来の以上の力が発揮できた。
黄金の塊と化した強欲の悪魔は、無数の触手のような手を伸ばし、攻撃してくる。
それを軽やかにかわしていく三人。
そして、本体の塊まで詰め寄り、3人同時の斬撃が強欲の悪魔を捉えた。
ギリギリ!と火花を散らし、弾かれた3人の攻撃。
水星剣アクアリウゼムの切れ味を持っても刃が通らない。
「なんて硬度。水星剣が通りません。」
「マルス!うろたえるな。何としてもここで食い止める。」
「攻撃は単調なやつだ。弱点を見つけそこを叩くぞ。」
無数の触手のような手が、さらに数を増やし襲い掛かってきた。
その触手の先端は鋭利な針のようになっており、辺りを貫いていく。
剣と黄金が衝突し火花を散らしながらも、高速な刺突攻撃をいなしていく3人。
攻めに欠けているが、注意深く相手を観察し、反撃の一手をうかがっている。
すると、ユーアが一つ相手の行動の規則性に気付いた。
強欲の悪魔の攻撃は、一定時間無数の触手で攻撃したあと、数秒、黄金の塊に触手を戻す。
この数秒の間、反撃されないところに剣技を叩きこめば勝機があると思った。
「ガルフ!マルス!一定時間、攻撃が止む瞬間がある。そこにお前の剣技とマルスの剣技を打ち込め。合図する!」
「わかりました!行くぞマルス!」
「はい!」
無数の触手を相手に前線を張るユーア。その後ろで打ち漏らした触手を捌いていくガルフとマルス。
強欲の悪魔の攻撃が止んだ瞬間。
「今だ!」
ユーアは叫んだ。
「剣技!『火竜の咆哮』」
「剣技!『打ち水』」
業火の斬撃と大量の水の斬撃が、強欲の悪魔の黄金の塊を襲った。
業火は黄金をぐにゃりと曲げ、そこに水の斬撃が衝突することで、水蒸気が発生し、ジューと音を立てた。黄金の塊は、硬直し、黒く色を変えていた。
そこに追撃するように、ユーアが剣技を放った。
「剣技!『十文字聖剣』」
十字の斬撃は、見事に黒く変色した塊に刻み込まれた。
しかし、黒ずんだ塊から反応がない。
悪魔にダメージを与えた感触は全くない。憑代も原型を留めていないので、どれほどのダメージを与えたのかわからない。
「くそ。どうだ。」
「効いていると思うのですが・・・。」
「金属に対して熱は有効だと思うが。」
沈黙していた黒ずんだ黄金の塊が、メキメキとひび割れ、割れた。
そして、その中から、黄金に輝く小さな人間のような姿をしたものが現れた。
その新たに現れた者が、言った。
「強欲とは、欲するものすべてを奪うもの。」




