Case. 3 若人
「大変申し上げにくいのですが、あなたの余命はあと3000文字きっかりです」
「楽園への移住を勧めます。
そこでは衣食住が保障されており、余生を楽しく生きることができますよ」
そっか、俺、楽園移住権をゲットしたのか!
遊び放題でなんだってできる、まさにこの世の楽園と呼ばれている、あの『楽園』に!
ちまちま働く生活からついにおさらばだぜ!
医者からもらったパンフレットを見ると、まずは家を決める必要があるみたいだな。
そんなん、高層マンションの最上階に決まってるだろ。
専用の移住サイトにアクセスして、希望住居に高層マンションを指定。
コメント欄に「最上階で」と記入して申し込み完了。
食べ物と着る物は毎月振り込まれるお金で自由に買っていいんだな。
どれくらい振り込まれるかわかんねえけど、行ってみればわかるか。
やってきました楽園!
支度金として0が7個もあるような楽園通貨なるものが振り込まれてた。
ポイントみたいに使うらしい。
どうでもいいけど、楽園ポイントって誰かに怒られねえんかな。
あと、これから毎月100万Pとか支給されるらしい。
最高じゃねえか。
ハンバーガーは100Pくらいで食べれるみたいだから、1P=1円くらいか。
最強だな。
わざわざ安いハンバーガーなんてくわねえけど。
まずは車だな。
このマンションにふさわしい、スペシャルな車を用意しないと。
レンタルしかできないのはうっとおしいけど、借りっぱなしにして改造とかもできるらしいから、実質買ってるようなもんだしまあいいか。
なんてったって、外車だろうとなんだろうと1日1万Pしか使わないんだ。借りっぱなしでよゆーだろ。
次は服か。普通の服は5千Pくらいで買えるけど、ハイクオリティな感じが漂ってくると10万Pを軽く超えてくるな。
格差ありすぎだろ。
まあ余裕で買えるからバッチリきめるか。
支度金っていうのはこういうのに使うもんらしいしな。
もろもろ揃えて100万P。
服に百万ってすげー贅沢。無茶苦茶アガるだろ。
さて、準備は整った。遊びまくるぞ!
なんも考えずに遊んでいれば、寿命も減らずに一生楽しい思いができるんだろ。
一人で遊んでもつまんないからとりあえずはレンタル彼女だな。
ポイント使えば彼女まで貸してくれるなんてサイコーだな。
気に入らなければ変えられるらしいし。
何より丸一日一緒に居られて5万Pは破格だろ。
「こんにちは。今日はよろしくね!」
fuuuu!
むっちゃかわいい!
えっ、今日一日付き合ってくれるの?
どこ行きたい?
どこでも??
じゃあまずはドライブしよう。
いい車持ってるんだ。
服装が決まってるって?
さすがよくみてんな、奮発したんだぜ。
とりあえずうまい飯食って、カジノでも行こうぜ。
来たばっかりでポイントあまりまくってるんだ。
カジノあんまり知らない?
いいっていいって。
俺もよくわかんねえけど、なんとなくノリで行こうぜ。
じゃあしゅっぱーつ!
いやーなんかムチャクチャ儲かったね。
使った服の分取り戻しちゃったよ。
え、今日はもうおしまい?
そっか、門限あるのか。
今日はすごい楽しかったよ。ありがと。
またすぐ呼ぶから来てよ。
え、うれしいって?
そういってもらえるとこっちも指名する気になるよ。
お別れのキスをお願いしてもいいかな?
え? 次回のお楽しみ?
仕方ないなー。
「こんにちは。今日もよろしくね!」
もうかれこれ5回目だ。
今日はバッチリなデートプランを考えてきた。
いつものドライブから水族館、海の見えるホテルでディナー。
そろそろキスだけじゃなくて、次のステップにもいける気がする……
「こんにちは。今日もよろしくね!」
もうかれこれ10回目だ。
ほかの子もレンタルしてみたけど、今一つそっけない感じがして楽しめなかった。
それに比べると、彼女はどうやら、本当に自分のことを好きなんじゃないかって気がする。
いや、この子は自分のことを好きに違いない。
思い切って聞いてみる。
「今夜は泊まっていってよ」
すると彼女は、少し悩む素振りをみせたものの、ちょっと待ってと言ってどこかに電話していた。
話の内容は聞こえなかったけど、しばらくするとこちらをチラッとみて、OKサインを作ってくれた。
くー、かわいい!
「友達の家に泊まってくるって言っといた。今日はずっと一緒にいられるね」
夜、一緒の布団に入って、思っていたことを口に出す。
「なあ、レンタル彼女じゃなくて、本当に俺の彼女になってくれないか?」
「え、本気で言ってる?」
「ほんとほんと」
「わたしなんかでいいの?」
「お前がいいんだよ」
「ほかにもたくさん彼女候補、いるでしょ? お金持ちなんだし」
「いや、正直お前以外はイマイチだった。
もうお前だけでいいや、と思ってさ」
「うれしい! でも働いていないとわたしこの都市にいられないんだよね。
レンタル彼女続けててもいいの?」
「毎日指名するから大丈夫さ」
「気持ちはうれしいけど、知ってるよ。
毎日指名するには、月々もらってるポイントは少し足りないでしょ?」
「俺がギャンブル強いのは知ってるだろ?
楽園だとポイントを増やす手段がカジノしかないってのは不便だが、なんとかなるって」
「わかった。それじゃあ毎日ここに来るね!」
「おう、よろしく。たまには泊まってってくれよな」
「うん! いつもだと怪しまれるから、うまい理由考えておくね」
ギャンブルで儲けられなくなった。
一度大きく負けてポイント残高が激減したんだが、保有ポイントが減少すると、レートの大きな賭けができなくなる仕組みらしい。
ギャンブル自体が禁止されるわけではないからついついそのまま続けてしまい、最後に小さな勝ちを拾って終わり。
「こんにちは。今日も弁当作ってきたから、一緒に食べよう!」
彼女は弁当を作ってきてくれるようになった。
食費がもったいないって言ってたら、自分のせいだから、せめてもの償いにって。
本当にいい彼女だ。
家で過ごす時間が多くなった。
合鍵を持つようになった彼女は、朝来るとご飯とみそ汁、魚と小鉢といった優しい朝食を出してくれる。
初めて会ったときは遊んでそうなイメージだったんだが、意外と家庭的でうれしい誤算だ。
一緒に映画をみたり、ゲームをしたりして毎日を過ごした。
来月の振り込みがあったらまたカジノで稼いで豪遊させてやるから待っててくれ。
あまりの彼女の甲斐甲斐しさに、無理しているんじゃないかと聞いたんだが、
「好きでやってるんだから気にしないでいいよ」
彼女はそう言って、むしろこう返されてしまった。
「あなたこそ、無理はしないでいいよ」
彼女は優しい。
ひょっとして、恋人を作って結婚して一緒に生きていくっていうのはこういうことだったんだろうか。
彼女とこの先もずっと暮らしていけたなら、どれだけ幸せなんだろう。
そう思い始めたある日、俺は我慢できずに思わず口にしてしまう。
「なあ」
「どうしたの?」
「この先も、ずっと一緒に暮らさないか?」
「どうしたの、プロポーズみたい」
「ああ、プロポーズだよ。俺のために生きてほしい」
「ムリだよ」
「どうして? こんなに長い時間一緒に居るんだし、毎日面倒見てくれてる。結婚したって同じだろ?」
「だって」
彼女は大きく息を吸い込んでこう言った。
「あなたはもう余命100文字もないんだもん」
は? 何を言ってるんだ?
「だからどうしてもムリ。ごめんなさい。
イヤならもうレンタルしなくてもいいよ。あ、明日なんて来ないか」
俺は彼女の言うことを半分も理解しないまま、目を閉じた。




