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38 帰郷

 動く空間をイメージして精霊魔法を発動してみる。

 ん? 動いたか?

《動きましたね》


 動く空間が存在できるのは僅かな時間ではあるが、その限られた時間の中で自在に動かせるようだ。

 しかし、これこそ何に使えるんだか。


 空間を動かしながらなにげに細めの木に軽くぶつけてみた。太さ10cm、高さ5mほどの木だ。バキッという音と共に木が破壊されて破片が凄い勢いで吹っ飛んでいった。支えを失った木は当然の事ながら、バサバサと音を立てながら倒れる。

 え!

《凄い破壊力ですね》

 偶然かと思い、倒れた木を使って何回か行ってみたが、破壊力は本物のようだ。

 空間を動かす力、いや、空間そのものに相当な力が秘められていると言うことなのだろう。


 もしかして、これってゴーストと同じ力か?

《そう考えられます》



 そんな事をしていると、もう夜明けだ。

 シルビアも起きたようで、寝ぼけ眼でこちらを見ている。





 トレーシーの声がした。

『ぅわーーーん、アーースーーーっ! シルビアーーーっ!』

 トレーシーが泣きながら俺達に向かって飛んで来た。服もボロボロだ。

「なんだ? いったいどうしたんだよ?」

 シルビアも驚き顔で、完全に目が覚めたようだ。



 聞くと、火の精霊にリベンジしに行ったところ、ファイヤーアローは余裕で防げて、ファイヤーボールはなんとか防げたらしいが、ファイヤーストームが全く防げずに逃げ帰って来たらしい。

 夜中に何やってんだよ。こいつは。


 シルビアは、びーびー泣いているトレーシーを抱きかかえて、頭を撫でながらなだめている。

 シルビアになだめすかされ、服を着替えたところでようやく落ち着いたようだ。





 ファイヤーストームを静止空間で受けてみると、ファイヤーストームに対して静止空間があまりにも小さく、しかも横からも回り込むように襲って来るため焼け石に水状態だ。威力が弱まったかどうかさえ全く分からない。

 なるほど、そりゃ負けるわな。


 移動空間ならどうだろうか。

 まずはファイヤーアローで試してみる。

 移動空間をファイヤーアローにぶつけると、静止空間と同じく一瞬で消え去った。

「お、いけるな。少し消え方が違うように見えたが、問題無さそうだ」


 次にファイヤーストームにぶつけて見る。なんと、これも一瞬で消え去った。大きさ的に全く期待してなかったのだが、いったいどう言うことだ?

《連鎖反応ですね》

「ん?」


《静止空間も移動空間も基本的には同じ原理のようです。本来なら流れていくはずの空間を無理やりせき止めることによって、圧縮された空間の塊が作られています。静止空間はそこに留まろうとする力が圧縮されていて、移動空間は動き続けようとする力が圧縮されています》

「ふむ」


《移動空間にファイヤーストームのエナがぶつかると、ぶつかったエナの動きが吸収されると共に、ぶつかった部分の移動空間が砕けて弾け飛びます。弾け飛んだ移動空間は更に別のエナにぶつかり動きを吸収し再度弾け飛びます。この連鎖はエナが無くなるか、時間切れになるまで続きます。まあ、連鎖は一瞬で広がりますので、ファイヤーストーム程度の大きさなら時間切れになることはまず無いでしょう》

「これは、使えるな」


 トレーシーはまたもや目を見開いて驚いている。

『ア、アーースーーーっ! それも教えてーーーっ!』

 またかよ……



 結局練習に付き合わされた。

『ふふふ、リベンジしてやるぞぉ』



 その夜、早速リベンジできたようだ。と言っても防御を見せつけただけらしいが。それでも相手は悔しがっていたと言う。





「トレーシー、空間静止以外にも何かできるのか?」

『んーと、テレポートできるけど』

「え、ほんとか? それが本当だったら凄いぞ」

『え? 凄いの?』

「ああ、ほんとだったらな」

『ほんとだよ!』

 これまでの事を考えると手放しで信用できない。


「今できるなら、やってみてくれないか?」

 10mほど先で寝ているキュイの横にテレポートして見せるという。

 俺達が見ている中、トレーシーは目を瞑り数秒後に消えた。

 慌ててキュイの方を見ると、キュイの横にトレーシーの姿があった。

「ほんとにテレポートした……」

 シルビアも口を開けて驚いている。


 トレーシーが自慢気な顔をしながら戻って来た。

「どこでもテレポートで行けるのか?」

『マーキングしたとこならね』

 マーキング? ロックのことだろうか?


 一番聞きたいことを聞いてみようか。

「どのくらいの距離を移動出来るんだ?」

『だからマーキングしたとこだってば』

 詳しく聞いてみると、マーキングした所であれば距離は関係なくテレポートできるという。それに、マーキングはロックとは仕組みが異なるようで、距離が離れても勝手に解除されてしまうようなことも無いらしい。


 目視できる範囲への移動の場合で約3秒、見えていない場所への移動なら約10秒のイメージ展開のための集中が必要だという。攻撃されている時や、精神的に不安定な時など、集中できない状況だと使えないという。

「凄いぞ! それは是非覚えたい!」

 トレーシーは褒められたのが嬉しいのかニコニコしている。



『じゃー、次はシルビアを連れてテレポートしてみせようか?』

 そう言われたシルビアも興味津々のようだ

「わー、楽しそう!」


「そんな事が出来るのか?」

『出来るよ』

 それが出来るなら凄い移動手段だ。

「俺も一緒でもいけるか?」

『まかしとき』

 トレーシーは俺とシルビアの肩に手を乗せた。数秒後、俺達はキュイの横にいた。

「キャー、ほんとに出来たよ。凄いよトレーシー」

 シルビアは感激したようで、トレーシーに抱きついている。

『ふふん』


 テレポートした瞬間、一瞬体が浮いたような感じがしたが、ただそれだけだ。これがテレポートか。

「どうやった?」

『え、マーキングしたところに体をスライドさせたんだよ』

「マーキングはどうやるんだ?」

『んーとね、じっと見て覚えるんだよ』

「…… それだけ?」

『そだよ』

 いったい何を覚えるんだ?


 いろいろ聞いてみたが要領を得ない。エナのパターンを覚えるの一点張りだった。

 ルナのサポートでその場所のイメージは瞬時に湧くのだが、肝心のテレポートがどうしても出来ない。

 風景を思い出すのと、エナのパターンを思い出すのは全く異なる事なんだろう。

 これは自分で試行錯誤するしか無さそうだ。もしかしたら本物の精霊しか出来ないのかもしれない。


 しかし、結構いろいろなことができるじゃないか。





 一息つき、そろそろ次に向かう先を考えようとしたとろ、シルビアがトレーシーを誘い始めた。

「ねえトレーシー、トレーシーも私達と一緒に来ない? どうせ暇でしょ?」

『え、いいのか?』

 嬉しそうだ。

「いいわよ。ね、アース?」

「ああ、別に構わないぞ」

『なら、一緒に行く!』


「だけど、ロストタワーの管理はいいのか?」

『んーと、管理はするよ。いつでも戻って来れるもん』

「そうか、じゃあこれからもよろしくな」

「よろしくねトレーシー」

『うん!』



 トレーシーが俺やシルビアの周りを探るように見ている。

『なんか、もう一人いるよね。見えないけど』

 ルナのことを少し説明してみたが、よく分からないとのことで説明の途中で理解するのを諦めたようだ。


「トレーシー、ちょっと実験だ。その腕輪をちょっと貸してくれないか?」

 そう言って、トレーシーが元々している腕輪を俺は指し示した。

『いいよ』

 トレーシーは、首を傾げながらも腕輪を外した。

 腕輪が俺の手に渡ると、一瞬にして質感が変わったように思えた。たぶん、精霊の世界からこっちの世界に物が移動したことによるものだろう。


 ルナがリンクした後トレーシーに返し腕に付けてもらったところ、うまく話せることが確認出来た。もちろん映像も有る。トレーシーの持ち物にリンクできるのか、トレーシーに返した後もきちんと機能するのか半信半疑だったが、全く問題無いようだ。

 トレーシーは少し不思議がっていたが、深く考えない性格からかすんなり受け入れたようだ。



     §



 ロストタワーを後にして、森を北に進んでいる。

 トレーシーはと言うと、飛ぶのも疲れるのだとかでキュイの背中に乗ってキャッキャと楽しげだ。まあ、キュイが嫌がっていないので問題は無いが、なんて横着な奴だ。


《魔物らしきものが、所々います》

「らしき? 魔物じゃないのか?」

《分かりません》


 トレーシーがこちらに向き直る。

『それって、ゴーストでしょ?』

「いや、ゴーストは見えないから違うと思うぞ」

『でも、この辺りにはゴーストしかいないけど』

「トレーシーにはゴーストが見えるのか?」

『当たり前よ』


 もしかしたら時の種によってゴーストを察知できるようになったのかもしれない。

《100m先にいます》

 それは浮遊していて、体高は50cmほどだろうか。形はさながら巨大なミジンコだ。以前は全く見えなかったのだが、今は透けるように薄っすらとだが見えている。トレーシーには普通に見えると言い、シルビアは見えないと言う。

 シルビアにはルナからの映像により視認してもらうことにした。


 俺が20m程まで近寄ると、今度はゴーストの方からすーっと近づいて来る。目の前まで来て、ゴーストが手を前に出した次の瞬間、俺は吹っ飛んでいた。


《移動空間ですね》

「ああ、間違いない」


 静止空間で防御してみる。防御できるようで吹っ飛ばされることはなかった。ゴーストが首をかしげているように見える。

 今度は、こちらも移動空間で対抗してみる。移動空間同士の衝突、相手の移動空間の欠片が爆風を伴ってお互いを襲う。まあ、吹っ飛ばされるほどでは無いが、ゴーストは明らかに嫌がっているのがわかる。

 再び移動空間同士の衝突。同じことの繰り返しだ。


 ゴーストは攻撃が通らないのが分かったのか、そそくさと退散していった。

 ここまで諦めが早いのはこれまでの魔物には無い。魔物では無いのかもしれないな。

《魔石は確認できませんでした》

「そうか」





「そう言えば、トレーシーは何でロストタワーの管理をやってるんだ?」

『なんか、放置されてる建物を見捨てれないんだよねー』

「ほう。ロストタワーって放置されてた建物なのか」

『そだよ。かわいそうだよね』


「あれ? と言うことは、ロストタワーを異空間に隠したのもトレーシーか?」

『そだね』

「あんな巨大なものを隠せるのか?」

『まあね』


 ……


「凄いな。そんな事ができるのか…… すると、他にも管理している建物が有るのか?」

『あるよ。んーとね、お城があるよ』


 シルビアがトレーシーの顔を覗き込む。

「わー、住んでみたい」

『住むならあげるけど?』

「え、ほんと?」

「おいおい、あげるって、元々トレーシーの物じゃないんだろ?」

『いいの。今はあたしのだもん。何個かあるし。それとか、他にも小さな集落とか、研究所とかいろいろあるよ』


「ん? 研究所? それって、いつ頃の建物なんだ?」

「えと、300年ぐらい前だったかも」


 来たかも!


 詳しく聞いたところ、そこには博士夫妻が住んでいたらしいが、300年ほど前から空き家になったと言う。博士夫妻は人間だったとのことで、その寿命を考えると既に他界しているのは間違いなさそうだ。

 トレーシーは博士夫妻が住んでいたころに研究所へ何回か遊びに行ったことが有るらしいが、何を研究していたのかトレーシーにはさっぱり分からなかったのだと言う。



 俺達全員を連れて飛んでもらう。



 飛んだ先は建屋らしきものは何も無い場所だった。ここが研究所跡地らしい。

 周りの様子から考えて森の中の一角のようだ。建屋が有ったと思われる敷地部分だけは大きな木も無く、その敷地のすぐ横を小さな川が流れている。


 トレーシーが数秒瞑想すると入り口が出現した。

『ここから入るんだよ』

 それは、ロストタワーの門扉に似ていた。


 俺は扉を引いて開けてみる。


 覗いてみると中は薄暗い。

 とりあえず一歩入ってみたところ照明が自動的に点灯した。

「研究所としては死んでいないようだな」

 室内を改めて見回してみると壁は銀色だったり、スイッチやインジケータが埋め込まれていたりと、およそこの世界に似つかわしく無く、かなり近代的、いや未来的な作りだ。


 果たして俺が作られた研究所なのだろうか。

 可能性は高いように思えるのだが、何か手がかりとか無いだろうかと、研究所の中をうろうろと探し回ってみる。


 1つの壁を前にしてキュイが珍しく吠えた。

《この壁に何かあるようです》

 シルビアが触って確認してみるが特に変わった点は無いようだ。

「普通の壁っぽいけど?」

 シルビアの言うように、俺にも普通の壁に見える。


 何が有ると言うのだろうか、俺も近寄り触ってみる。

 その瞬間、壁が僅かに発光し、扉に変わった。

「えっ」

 シルビアもトレーシーも驚いた顔をしている。隠し部屋か?


 その扉はスライドドアのような形状で、もう一度そっと触れてみると…… すーっと横にスライドし自動で開いた。


「ここはっ!」

 扉の先は隠し部屋などではなく外だった。

 しかもそこには、この研究所で俺が作られたことを裏付ける決定的な証拠が有った。


 青々とした草が一面に生えている。しかも小さなクレーターが幾つかある。目を凝らして見てみると遠くに見覚えのある小屋がある。

 そう、ここは誕生の草原だ。


 思わず駆け出し草原に出た俺は、呆然と辺りを見渡した。

 なんか…… ただいま?



          おしまい。(第2部完)


最後までお読み頂きありがとうございました。

続編の執筆時期は未定ですが、その際はまた宜しくお願い致します。

なお、完結となりましたが、ブックマークでの応援や評価を頂けると続編執筆の励みになりますので是非お願い致します。



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