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36 時の精霊

 10日間滞在した後、サハナ村を後にした。


 次の村へ向かうには、3つの方法から選択可能だ。

 1つ目はゲート。お手軽だ。ほぼ全ての人がこの方法を選ぶ。

 2つ目は巨大な森を迂回するように敷かれている道を行く方法だ。修行のためなどで狩を行うことを主目的とした極一部の者が選ぶようだ。

 3つ目は森を突っ切る方法だ。迂回するよりも距離的には近いが、巨大な森には多くの魔物が生息しており、時間的ロスは免れない。少し覗く程度ならいざ知らず、森を突っ切るとなると生きて脱出できるのかも疑わしく、この方法を選ぶ者は誰一人いない。


 俺達は森を突っ切ることを選んだ。ロストタワー跡地を見るためだ。まあ、パパさんママさんには、森を迂回するルートで次の村に向かうと告げた。




 途中、何体ものスケルトンに襲われながらロストタワー跡地に到着した。

 高さ50cmほどの石の塀が続いている。高さ50cmといっても綺麗に高さが揃っているわけではなく、塀の周りにはその塀と同じ材質の石材が散乱している。昔はもっと高さのあった塀だったのだろう。石の塀が経年により崩れ落ちることは考えられないので、魔物による所業というところだろうか。


 塀よりも高い草木が生い茂っているので、もはや塀というのも可笑しいが、直径50mほどの敷地を円形に囲んでいるようだ。その敷地も草木が生えていてずっと前には塔が有ったのだろうが、もはや塔の跡地というよりはただの荒れ地だ。どんどん林に近づいている。

 ここに大昔に建っていたタワーが現れると言うのだろうか?



《塀の中と外で雰囲気が違うように見えます》

 ルナにはただの荒れ地に思えないという。

 塀を跨いで敷地内に入ってみるが、特に変わった様子は無い。

 入るとルナにもただの荒れ地に見えるという。違和感はなくなったらしい。もう一度塀の外に出てみると、やはり違和感があるという。

《ちょっと待ってください。やっぱり何か変です》

「ん? どこがだ?」

《塀が瓦礫になって散乱しているんですが、肝心の建物はどこへ行ったんでしょう?》

「確かにそうだな」

「綺麗に片付けたとかじゃないの?」

《塀は片付けずに塔だけを瓦礫ひとつ残さずに片付けたというのは考えずらいと思いますし、そもそも片付ける必要性が有るのでしょうか?」

「そんな塔は元々建っていなかったとかか?」

《それですと、塀がある理由が分かりませんね》

「塔を建てる前だったとかは?」

《塀を先に作ると、塔を建てるための建材を運び込むのが面倒になってしまいます》

「うーん」



 崩れた塀が敷地をぐるっと囲んでいるようで、塀に沿って歩いて行くと最初に居た所から丁度反対側に位置する所の塀の一部が門扉になっていた。

 門扉を前にじっくり見てみると、かなりの年代物のようだが周りの塀とは異なってこちらは崩れ落ちること無くしっかりと形状を保っている。ただ、そのサイズは小さく、人が一人通れる程度だ。

 昔はこの小さな扉がロストタワーの敷地への入り口だったのだろうが、塀が崩れている今は、扉をくぐるよりは塀を跨いで入ったほうが早い。


 外から引いて開けてみる。小さくギシギシと音を立てながら扉が開いた。

「ん?」

「あれ?」

 扉の中には部屋があった。

 覗いてみると、4畳半ほどの小部屋だ。外から回り込んで見てもそんな部屋はもちろん無い。この扉はゲートの一種なのだろう。

 何やら怪しいが、俺達は揃って入ってみる。キュイも特に警戒していないようだ。


 小部屋には細かな装飾が施されており白を基調にした壁も相まって高級感が漂っている。窓は無いがうまく光を取り込んでいるようで部屋は明るい。

 話に聞いていたロストタワーの中に入ったのだろうか。

 悪くない雰囲気ではあるが、シルビアは不安そうに俺の腕を掴んだ。


 小部屋にはもう一つ扉が有る。

 扉を開けた先には大きな部屋があった。王宮のエントランスを思い出させるような豪華な作りだ。怪しさ満開だが、ここまで来て後戻りもなんだ。

《作りや装飾にかなり古い技術が使われていますね》


「お邪魔しまーす。誰か居ませんかー?」

 何回か声を出してみたが誰か居る様子は無く、何の気配も無い。

 シルビアの不安も解消されたようで装飾をしげしげと見渡している。

「こんなに綺麗な家なのに誰も居ないって勿体無いね」


 部屋を見渡すと、二階へと続く階段が有った。ダンジョンであれば地下へ続く道が普通だが、やはり塔なのだろう。塔型のダンジョンか?

「ルナ、先は見えるか?」

 ダンジョンの場合、ソナーで確認出来るのはおおよそ目視できる範囲だけだ。つまり、先を見通すことが出来ないということだ。

《はい、見えます》


「え? 見えるのか?」

《はい、見えます》


 ……


「どこまで見えるんだ?」

《最上階まで見えます。2階、3階には大小の部屋がいくつかあって、その上は階段がずっと続いて最上階に広い部屋が1つだけ有りますね。塔の高さは50mほどと考えられます》

 そこまで見えると言うことは、ダンジョンなんかでは無く普通の建物だってことか。

「魔物は居たか?」

《魔物どころか何も居ません》


「なんか拍子抜けだな。特に変わったことは無しか」

《いえ、塔の中は全て見えるのですが、塔の外が全く見えません》

「どう言う事だ」

《この塔自体が異空間に存在している可能性があります》





 2階に上がると、ルナの言ったように部屋が有るようで、扉がいくつか有る。

 その1つに入ってみた。

 ベッドにタンス、木で出来た広めの机などが有り、誰かが使っていた部屋であることが分かる。ベッドは広めで大きく枕が2つ並んでいる。部屋の中は全体的に綺麗に整頓されており、生活感はそれほど無いが、男女が暮らしていたと思われる物がいろいろと有ることから、夫婦が住人だったようだ。


 机の上に数枚のコインが無造作に置かれている。

《遙か昔の通貨ですね》

 銀貨と銅貨が数枚ずつに、金貨も1枚有る。その金貨をシルビアが手に取ってみる。

「へー、これ昔のお金なんだ」

 感心しているシルビアだったが、今度は壁に掛かっている服に興味が行ったようだ。金貨を机の上に戻すと壁に歩み寄った。壁に掛かっているのは男物のマントだ。

「わー、このマントって青くて綺麗。アース、ちょっと羽織ってみて?」

「勝手に使うのはどうなんだ?」

「いいじゃない、ちょっと借りるだけよ」

 まあ、そうだな。そう思い羽織ってみる。

「あー、やっぱり似合う。しかもサイズもピッタリ。ここに居る時だけそれを羽織っていてね」


 そこ以外の部屋は3階も含めてほぼ空き部屋だったようでガランとしていた。他に厨房や食事部屋、風呂なども有ったが、どこも生活感は感じられなかった。

 3階から続く階段を延々と上り、最上階の部屋の前に到着した。

 ここに来るまで窓は一切無く、外の様子を窺い知ることは出来なかった。

 扉を開けると、そこは丸く広い部屋でこれまでと比べてひときわ明るい部屋だった。それもそのはず、部屋の周りの壁全てが透明なガラス張りになっていて陽の光がこれでもかと降り注いでいる。展望台のようで外の様子を360度見ることが出来きる。

「外が見えるぞ」

「わー、ほんとだー」

《そんなはずは……》


 外を見ると一面荒野になっている。

「あれ?」

「周りは森のはずよね。どうなってるの?」

《別の場所の風景が見えているのでしょうか》

「ふむ」


「アース、こうやって上から眺めていると、なんか偉くなった気がするね」

「ああ、ほんとだ」


 目を下ろすとその荒野を一人の男が歩いているのが見えた。見ていると、男は俺達に気付いたのか立ち止まってこちらを見上げた。

 シルビアはその男に向かって手を振っている。その男はこちらをじっと見た後、剣を振り回して何やら叫んでいるようだ。

「向こうからもこっちが見えているようだな」

「うん。でもなんか怒ってるみたいね」

「そうだな」

「青いマントをアースが勝手に使ったからかな?」

「まてまて、それって俺?」

 そんなことを話していると、こちらに声が届かないのが分かったのか、暫くすると興味を失ったかのように目を逸らし再び前を向いて歩いて行った。


 なかなかいい眺めに未練を残しながらも、来た道を引き返し最初に入って来た扉を通り元の森に帰った。もちろん、マントは元有った所にちゃんと返しておいた。


 その後、門扉を閉めてからもう一度開けてみるがロストタワーは無かった。ただの門扉になっている。何回か開け閉めしてみたが、あの小部屋が再度現れることは無かった。

「結局、ロストタワーって何だったんだろな」

「そうね。でも、なんか楽しかったわ」





《精霊がいます》

 ルナが指差す方向へと振り向くと精霊が居た。目が合った精霊は驚いた感じだったが、気を取り直したのかすーっと浮遊しながら近づいて来た。

『あたしが見えるんか?』

「ああ、見える」

『なんとなんと声も聞こえるんか?』

「ああ、聞こえる」

『そらびっくりだわ』


 ……


 桃色だ。はぐれ精霊って言ってた奴か。見た目はお子様少女だ。


『あたしは時の精霊なんだよ』

「ほう」

 驚かない俺に少しイラッときたのか、ちょっと口を尖らせている。

『ロストタワーの門番なんかもしてるんだよ』

 どうだと言わんばかりのドヤ顔だ。

「へー」


『あんたね、目の前に精霊がいるんだよ精霊がっ! へーとか、ぷーとか以外になんか無いのっ?』

 シルビアがクスクス笑っている。

『ちょっとそこっ! あんたも笑ってんじゃ……』

 精霊は言葉をとぎらせてシルビアをじっと見つめだした。


『あれ? あんた……って、火の精霊?』

「ううん違うわよ。でも半分そうかも」

『くーっ。そう言うことか』

 そう言いながら精霊は後ずさりする。

「え? どいうこと?」


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