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23 王宮からの依頼1

 キュイのハンター試験は特に問題も無く、無事終了した。

「シルビア、合格だってさ」

「わー、やったね。キュイおめでとー」

 キュイはシルビアに撫でられて嬉しそうだ。

「あと、ハンター犬にもランクがありまして、本日の試験合格によりFランクとして登録致します。Eランク以上のランク昇格試験は別途申し込む必要がありますのでご承知ください」

「はい」


 試験官の女性がなにやら考え事をしながら俺達を見ている。

「あの?」

「はい?」

「試験中に私の指示に従っていたようですけど、誰の指示でも従うってことは無いですよね?」

「それは無いと思いますよ。試験も終わったのでもう指示には従わないと思いますよ。試しに指示してみてください」


「えっと、お座り」


 ……


「お座りをお願いします」


 ……


「伏せをお願いします」


 ……


「ほんとですね。さっきまであんなに素直に従ってたのに」

「はは」

「本当に賢い犬なんですね。私もこんな犬だったら飼ってみたいって思っちゃいました」

「ありがとうございます。キュイ良かったな、褒められたぞ」

 キュイはしっぽを振って喜んでいる。



 この町ではランク昇格試験は行っておらず、ルキエイで申し込む必要があるとのこと。

 まあ、今は登録さえできれば問題は無いので、上位ランクの試験は当面受ける理由が無い。


「とりあえずFランクだ。これで今後もキュイを堂々と連れて歩けるな」

「ええ、ほんとね」

 ギルドの窓口でキュイのハンター犬登録証を受け取った。

 俺たちの持っている身分証の半分程度の大きさで、それをキュイの体の一部に当てると白く光り名前とランクが表示された。



キュイ

ハンター犬:F



「んー。こうやってランクが表示されると上げたくなるよな」

「だったら、ルキエイに着いたら試験を受けましょうよ」

「そうだな」



 ルナの情報だとハンター犬のランク昇格試験では魔物の探査能力、魔物との戦闘能力の確認があるらしい。

 ハンター犬のランクはFからAまであるが、おおよその定義は次のようだ。


 Fランクは指示に従えるかどうかなので、かなりの頭数が登録されているとのこと。一般人でも、ペットとして登録するならばと、ステイタスの一種としてFランク試験を受けさせる人が結構いるとのと。つまり、Fランクを取得してもまだまだハンター犬とは言えないということだ。


 Eランクは魔物の探査が行える能力が必要で、事実上ここからがハンター犬ということになる。


 DランクはF級魔物の討伐が必須で、戦闘可能なハンター犬ということになる。討伐で活躍するハンター犬のほとんどは、このDランクかEランクに属している。


 ゴブリンなどのE級魔物の討伐が可能ならばCランクとなるが、このランクのハンター犬は非常に少ない。


 オーガなどのC級魔物の討伐が可能な場合はBランクと認定されるが、これを保持しているハンター犬は現時点では登録が無く、過去にもおいても二頭いただけだ。


 キラータイガーなどのB級魔物の討伐が可能ならばAランクと定義されているが、過去には例が無く定義そのものが意味をなしていない。



     §



 一泊した後、ゲートを通りルキエイに移動した。

 ルキエイは元々通り過ぎるだけの予定だったが、キュイの昇格試験を行うために少し立ち寄ることになった。

 ギルドに申し込みに行ったところ、Eランク試験は混み合っていて半月ほどの待ちだと言う。

《ロウエスでも試験は行われているようですよ》

 ふむ。そちらでもいいか。ロウエスとは、魔物領との接点となる町であり、前線基地の位置付けとなる。


「ロウエスの状況はどうですか?」

「ハンター犬試験の予約状況はロウエスに限らず他の地域に公開されていないため分かり兼ねます。ですが、ロウエスで受けられるのはCランク試験のみですのでご希望の試験とは異なるかと思われます」

 つまり、申し込みはロウエスに行って直接申し入れする必要があるってことだ。

 その足でロウエスへと移動した。





「あっ、シルビアさん。お久しぶりです」

 シルビアと受付の女性は昼間のギルドがすいているのをいいことに何やらぺちゃくちゃと女子トークを始めた。

 俺は話の邪魔になりそうなので数歩下がって、あとはシルビアに任せることにする。

 以前のシルビアはパーティメンバー以外の者と世間話するなんてことはまず無かったが、今は楽しそうに話し込んでいる。

 小声なので内容は分からないが、時たまこちらを見たりしているので俺の話もしているようだ。


 と言うか、話が終わらない。


 ……


 暫く待っているとようやく声のトーンが普通になった。

「Fランク成り立てですか……」

 やっと本題に入ったようだ。


 体格も小柄でいきなりCランク試験だと危険過ぎるとのことだったが、シルビアの太鼓判もあり快諾されたようだ。

 明日予定されているCランクハンター試験に追加できたとのこと。ハンター犬の試験はハンター試験のついでに行われるという位置づけらしい。


 通常のハンター試験の場合は模擬戦による一次試験、実戦の二次試験とあり、ロウエスでの試験は二次試験に当たるが、ハンター犬の試験は一次試験なんてものは無い。いきなりの実戦となるため実力不足で命を落とす犬もいるという。

 魔物からの攻撃を食らってもよく、とにかく2体倒せば良いとのこと。ただし、魔物の探査はキュイが自力で行う必要がある。


 付き添いは1名のみとのことだったので、シルビアに任せることにした。

 ルナのドローンをシルビアの肩に乗せて、俺はドローンからの映像で観戦することにした。


 集合時間となった後、試験官2名に先導され、ハンター試験の受験者3名と共にシルビアとキュイが山に入っていく。

 試験官がゴブリンを見つけ、それを受験者が討伐していく。多少時間が掛かったりもしたが慎重に危なげなく討伐できたようだ。


 3名共に合格が言い渡されたところで、いよいよキュイの番だ。

《キュイに気負いは無いようですね》

 ゴブリン如き当然だろう。

《シルビアは少し緊張してますね》

 まあ、気持ちは分かるな。


 試験官から号令が掛かる。

「そ、それでは、ハンター犬の試験を始めます。ゴブリンを2体見つけて討伐するよう指示してください」

 Aランクハンターのシルビアを前にしているからだろうか、試験官の方が緊張気味のようだ。


 シルビアが指示を出す。

「キュイ、ゴブリンを2体見つけて倒して」

 その指示を受けたキュイは林の中を進んで行く。ゴブリン2体を発見しあっさりと沈めた。

 それを見た試験官は何故かほっとしたような顔をし、結果を言い渡した。

「合格です」



 Bランク試験は年1回しか行っておらず、受け付け自体がだいぶ先。例年、受ける犬はいないらしい。

 ちなみに、Aランク試験は現在行っていない。キラータイガーを倒せるような凄い犬は過去にも例は無く存在しないためだ。



キュイ

ハンター犬:C



     §



 ギルドで報酬を受取り、建屋を出たところでルナが言う。

《アース、王宮から依頼が出ているとポタメに表示が出ました》

「へ? 何それ?」

《何でしょう?》


 建屋に引き返し身分証を見ると、さっきまでは出てなかった【王宮からの緊急依頼】の文字が表示された。詳細を確認するも王宮にて指示するとだけあって内容は不明だ。受付に聞くも、そのままの意味だろうとのこと。なんか悪いことをしたのか俺、と思いながらも依頼ってことなので何かした訳じゃ無いだろうと思いたい。


 よく分からないまま、取り敢えず王宮に行ってみようと言うことで支度をする。

 一応、防具は装備して武器は異空間に仕舞っておく。丸腰の方がいいだろうとの考えからだが、念のためリュックを背負って行くことにした。

 シルビアはというとギルドの更衣室で綺麗な服装に着替え、なぜか楽しそうな顔をしていた。





 王宮の敷地の前まで来たが、なんか面倒になってきた。しかも今日の門番は強面だ。

「王宮からの緊急依頼と表示が出たんですが? こちらで宜しいのでしょうか?」

 そう言って、身分証の表示を見せる。

 名前をチェックされた後、暫く待つようにとのことで、門番はポタメで連絡を取り始めたようだ。

 城門は閉ざされており、敷地の中は窺い知れない。

 待っていると、城門の横にある通用口が開き、一人の執事っぽい男が出て来た。


「アース殿ですね。申し訳ないがもう一度身分証を拝見させてください」

 執事に身分証を提示する。

 たぶんだが、俺の身なりがAランクに相応しくないので、本人かを疑ったのだろう。


 執事は、凝視していた身分証から俺へと目を移す。

「確認しました。アース殿、こちらからお入り下さい」

 執事が通用口を手で指し示す。

「あの、連れが居るんですが?」

「立ち入りの許可が出ているのはアース殿のみですので、申し訳無いがお一人だけでお願いします」


 入れるのは呼ばれた俺だけであることを聞いたシルビアは残念そうにしていたが仕方が無い。

「シルビア、すまない。キュイと留守番だ。王宮の周りで待っていてくれ」

「うん。分かったわ。公園で遊んで待ってる」

 周りは公園になっているので暇つぶしは問題ないだろう。


 執事に続いて通用口を潜り場内に入ると、広い敷地が眼下に広がり、奥には立派なお城というか王宮が見える。目の前には一台の車が停まっていた。

「お乗りください」

 そう言って車のドアへと俺を誘導する。

 車に乗り込むと、王宮へと進み王宮の入口の前に横付けされた。ドアを開けてもらい降りると、王宮の大きな扉が開き中に案内される。


 客人専用の玄関ホールだろうか、広いエントランスと豪華な装飾に目を奪われつつ周りを見ると、王宮騎士だろうか数名がこちらを見ている。というよりは俺を監視しているようだ。

 王宮騎士の腰には武器がぶら下げているが、鞘が短い。

《亜空間鞘ですね》

 王宮騎士にも亜空間鞘を使っている奴がいるとはな。

 亜空間鞘とは、鞘の内側が亜空間になっていて見た目以上に長い剣を収めることができるものだ。まあ、一度使うと長くて邪魔な鞘には戻りたくなくなるのは分かる。


 車で出迎えてくれた執事が神妙な顔をして俺を見る。

「アース殿、早速ですが依頼内容を申し上げます」

「はあ」

 この場で? 普通は謁見の間とかで王様が直々に言い渡すんじゃないのか?

《一介のハンターがいきなり王様に謁見出来るはずが有りません》

 そうか。少し残念だな。


 何れにしても、厄介な依頼じゃ無ければ良いのだが。そんな事を思いながら執事を見る。

「アース殿、一匹の仔猫を探して頂きたい」


「へ?」

 なにそれ?

 聞くと、幼い姫君の飼猫とのこと。

 王宮内の人員を総動員して探したらしいが、どこをどう探しても見つからないと言う。行方不明になってから既に5日が経っており事態は急を要するらしい。

「出来ますか?」

「やってみないと何とも言えません」

 何故俺なのかを問うた所、以前、ランスベルと言う町で俺が猫をあっという間に探しだした実績が拾われたとのことらしい。



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