24 王宮からの依頼2
「それでは、仔猫の探査を始めます」
「よろしくお願いします」
とにかく、始めてみないことには何とも言えない。
『ルナ、どうだ?』
《ソナーで探査したところ、確かに1匹の猫が居ます。敷地内ですが建物の外です》
『探してる猫だと思うか?』
《大きさ的に子猫のようですし、このエントランス内に落ちている毛がその猫と同じものですので、間違いは無いでしょう》
『そうか』
《かなり衰弱しているようです》
『ふむ』
執事に目をやると、まだ始めないのか?と言うような顔をして見ている。
あ、もう発見したとか言うと不味いかも。
俺は、それらしい雰囲気を出して探査を行うフリをする。
「お探しの猫かは分かりませんが、猫らしき影がぼんやりとですが見えました」
《なんですか影って》
『うるさい! いいんだよ!』
執事の顔が一気に明るくなった。
「おおーっ。素晴らしい」
執事と王宮騎士数名を引き連れて庭に出て王宮に沿って50mぐらい進む、建屋から5mほど離れた所で立ち止まる。
そこには庭があるだけで何も無い。それでも、探査した結果はこの地面の下に部屋か通路があることが分かっている。
ただ、そこへと続く入口はこの辺りには見当たらない。隠し部屋か通路のようだ。もしかしたら秘密の抜け道なのかもしれない。
俺は小声で執事に話しをする。
「探している仔猫かどうかは分かりませんが、この地下の部屋に仔猫がいます。仔猫は怪我をしているのか相当衰弱しているように思えます。ただ、命が有るのは間違いありません」
執事が少し眉をひそめた。
「部屋? この下に部屋があると?」
「ええ、部屋か通路のようなものが有ると思われます。ご存知無いですか?」
執事は暫し考えを巡らせている。
「少しお時間を頂きます」
そういうと執事は王宮騎士になにやら耳打ちすると、王宮の中に戻っていった。
ソナーで確認を続けていると、地下の部屋に人が入り仔猫を救出できたことがわかった。
30分ほど待つと執事が戻ってきた。
「発見しました。礼を申します」
仔猫の容態を聞いたところ、やはり相当衰弱していたとのことだったが、王宮騎士が治療をするため問題は無いとのことだ。
王宮騎士の一人が小型の石板を持っている。
それに身分証をかざして報酬を受取った。
それにしても庭で渡されるのか。普通、謁見の間とかで王様が直々に渡してくれるんじゃないのか? まあ、どうでもいいけど。
《よっぽど謁見の間に行きたかったみたいですね》
『んー、まあな』
依頼は完了で貰うものも貰ったので引き上げようとしたところ、一人の王宮騎士に握手を求められた。
「素晴らしい探査能力だな」
「ありがとう御座います」
握手をしたところ、その男の顔色が急に変わり俺を睨みつける。
「お前」
「はい?」
なんだか偉そうだな。しかも怒ってる?
「どうやってAランクになった?」
どうやってって、試験以外に方法があるのだろうか。
「いや、普通になったと思いますが」
そう返事をしても、そいつは俺を睨み続けている。
「嘘を言ってもすぐ分かる! 俺を騙すことはできない」
執事にちゃんと身分証も見せたし、何が気に入らないのだろうか。
「騙しているつもりは無いですが、どういう意味でしょうか?」
「まだとぼける気か。俺には鑑定能力がある。それも高度のだ。隠蔽すらも見破ることが可能だ。ここまで言うと流石に意味が分かるよな?」
「いえ、全く」
話の意味からすると、俺のステータスを見たということなんだろうが、勝手にステータスを見るのはルール違反じゃ無いのか?
ただ、ステータスを見たなら、逆にAランクであることがはっきりと分かったはずだが。
「いい度胸だ。そこは褒めてやる。だが、その程度のステータスでなれるほどAランクは甘いモノではないのは分かるな?」
ステータスが低いのにAランクってのがおかしいということか。
「見えたものが全てだと思わない方がいいかと思いますが」
「隠蔽があるというのか? お前には隠蔽スキルはもとより、何のスキルすら無いのは分かっている。ハンターを侮辱するにもほどがある」
ほう、そこまで分かるのか。それはそれで凄いな。
「ステータスが低くて悪かったですね」
「今更謝ってももう遅い」
「いえ、別に謝った訳では無いですし」
「アースとやら、どうやってAランクになったかは知らんが、その化けの皮を剥がしてやろう」
……
「俺は王宮騎士筆頭のミハエルだ。Sランクハンターでもある。決闘と言いたいところだが、レベルに差があり過ぎる。よって、お前に稽古をつけてやる」
……
「どうした? 受けるか?」
「遠慮しときます」
「拒否は認めん!」
……
じゃあ、聞くなよ。
「もう一度聞く。受けるか?」
まあ、Sランクの実力を見るチャンスとも言えるか。
「どうせ拒否権が無いんですよね? なら、受けますよ」
ミハエルは少し鼻で笑い、ニヤリとした。
「そうか、いい心掛けだ」
「で、どういった稽古なんですか?」
「剣技でいいだろう」
どうでもいいけど、やっぱめんどくさい。
「武器は?」
そいつの武器はというと、そいつが腰にぶら下げているのは亜空間鞘なので、武器の種類は分からない。
まあ、俺はそいつの武器に合わせることでいいだろう。
「レベルの差を考慮して俺は木刀を使ってやる。お前は好きな武器を使え」
なんだ、普通に木刀か。
「それでは、俺も木刀にします」
リュックから木刀を取り出す。と言っても実際は異空間から取り出したのだが、傍目からはマジックバッグ型のリュックから取り出したように見えただろう。
稽古とやらが始まった。ミハエルはいつでも掛かって来いと余裕だ。ミハエルの部下だろうか、ギャラリーもニヤついている。ちょっと腹立つぞ。
なら行くか。
一般的なAランクのスピードで木刀を振るう。
ミハエルは余裕を持って受け流すが、驚いているようだ。
「なっ! これは驚いた。スピードは確かにAランク並だ」
流されるのを覚悟で同じスピードで木刀を振るう。これもうまく流される。
「次はこちらからも攻撃させて貰うぞ」
相手もスピードを抑えているのか、一般的なAランク並みのスピードで振るってくる。
なんなく躱す。
「なにっ! …… 躱されるとはな。お前、本当にAランクだったのか?」
「だから、さっきからそう言ってると思うんだが」
「あり得ん。俺の鑑定が間違いだなんて、断じてあり得んぞ。俺に恥を欠かせやがって。こうなったらお前を血祭りに上げるほかない! 悪く思うなよ」
逆ギレかよ。俺が悪いのか?
「これを避けてみろ」
躱す。
「なっ!」
驚愕の表情だ。
「食らえーっ!」
躱す。
「ありえんっ!」
躱す。
「食らえーっ!」
躱す。
「食らえーっ!」
躱す。
「食らえ、食らえ、食らえーっ!」
躱す、躱す、躱す。
スピードがどんどん上がっているが大したことないな。これならビッグタイガーの方が速いんじゃないか? Sランクと言ってもこの程度か。もしくは普段魔法に頼り過ぎなのだろうか。
ギャラリーは静まり返っている。
こちらもスピードを上げるか。
逆ギレ野郎には少し痛い目を見てもらわないと割りに合わない。
「こちらも行くぞ」
先ほどよりもスピードを上げて木刀を振るう。
「ぐっ!」
木刀で受けた。さすがSランクってとこか。ただし、形相は凄い。少し笑えるかも。
「まだまだスピードは上がるぞ」
俺はさらにスピードを上げる。
ミハエルは反応しきれずにヒット! 体制を崩し片膝を付く。この程度か。勝負は付いたな。
「俺を本気にさせたようだな」
ほう、まだ本気があったか。
何が有るのかと見ていると、どうも強化魔法を自らに掛けたようだ。
木刀のスピードが上がるが、俺は機敏な動きで避け、反撃を加える。
いつも見ているシルビアのスピードに比べたら、止まっているも同然だ。
躱していると、今度はあろうことか俺に向けて弱体化魔法を放ったようだ。稽古って言ってたよな? それって反則じゃないのか?
まあ、俺には効かないので別に構わないのだが。
弱体化がうまく掛からないのを見て、自らにさらに強化魔法を掛けているようだが、それも避けて反撃を加えていく。
強化魔法をどんどん上掛けしているようだったが、ある時ミハエルの動きが急に鈍った。
「き、貴様は…… いったい…… ぐはっ」
その言葉を最後に、ミハエルは膝から崩れ落ち倒れ込んだ。
魔法の使いすぎによる魔力欠乏でぶっ倒れたようだ。
前衛で魔法も仕えるのは確かにエリートなのかもしれないが、性格がダメダメだったな。
ぶっ倒れたミハエルを他の王宮騎士がかかえて王宮内に運んで行くのを見届けていると、後ろから声がした。
「ミハエルを倒すとはな。たいした腕だ」
振り返って見ると、そこには少し豪華な衣装を身に着けた男が立っていた。
誰?
《国王です》
え。
「どうだ、王宮騎士にならんか?」
いきなりのスカウトに、すぐには言葉が出てこなかったがなんとか丁重に断った。
そんな国王に取り巻きから何やら耳打ちが入る。
すかさず国王の罵声が轟いた。
「手に負えないとはどういうことだ!」
なんか揉め事のようだ。俺には関係無さそうだし帰るとしよう。
「俺はこれで失礼します」
門の方に向かいかけたところ、国王が俺を呼び止める。
「待てアース」
「はい?」
何回言われても王宮騎士は無いぞ。それとも他にもまだ何か有るのか?
「実は仔猫の衰弱が激しくてな、王宮の者では手に負えないというのだ。アースが以前に猫の捜索をした際は手当もしたと言うではないか。助けてくれぬか?」
あの時は飼い主から預かったミルクを飲ませただけだ。それを手当てとは言わないよな。どうも誇張されて伝わっているみたいだ。
「衰弱しきっている仔猫は俺には治せません」
「なんとかならんのか?」
可能性が有るとすればシルビアか。
「もしかすると、俺の連れだったら治せるかもしれません」
「早急に呼ぶのじゃ。一刻を争う」
「犬も一匹一緒です。敷地に入れていいでしょうか?」
「構わん! とにかく急ぐのじぁ!」
とりあえず来て貰うか。
『シルビア?』
『あ、アース。もう終わったの?』
『直ぐに王宮に来てくれ』
『え? 王宮に入れるの?』
執事と一緒に門まで迎えに行くと、シルビアは既に到着していた。
「あ、アース。いったいどうしたの?」
猫の容態を聞いたまま説明し、猫の手当てをしてほしいことを伝える。
キュイは王宮の扉の外で留守番だ。さすがに猫がいるところに犬を連れて行くことはできないとのことだった。
王宮に入るとシルビアは豪華な装飾に歓喜の声を出しながら進んでいく。
「わー、綺麗。凄いねアース。高そうな飾り物が一杯あるわよ。床もピカピカで滑って転びそう。あの大きな絵は何かしら。ほら見て、天井も豪華よ」
キャーキャーと騒いでいるシルビアを執事は冷ややかに見ていた。うん、シルビアにTPOは関係無い。
執事の案内で、国王一族の居住スペースらしき所を進んで行く。一般人は元より、王宮騎士でも一部の者しか入れない場所なのかもしれない。
着いた先は治療室とのことで、診療用のベッドだろうか仔猫が寝かされている。目を閉じて息も絶え絶えで命が尽きようとしている感じだ。
ベッドの横には国王がいた。それと姫様だろうか、10歳ぐらいの女の子が涙ぐんで仔猫を心配そうに見ている。
執事がシルビアをじっと見た。
「治療を開始してください」
「相当衰弱してるようね。頑張ってみるわ」




