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カミサマが助けてくれないので復讐します  作者: つくたん
キロ島
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幕間小話 信仰の話

教えてほしいことがある。猟矢がそうユグギルに切り出したのは会談が終わった後のことだった。集合時間を定め、それまでは自由に過ごしていいとユグギルが言った直後のこと。

アルフがキロ島を探索しに行こうという誘いを断った猟矢は、手帳を片手にユグギルに話しかけたのだ。てっきりアルフと一緒に市街地に繰り出すのかと思いきや。意外な行動に少しだけ面食らう。

「どうした?」

「えぇと、その…」

要約すると、亜人が持つ信仰について教えてほしいとのことだった。自由奔放なベルベニ族は風を愛し、竜族は堅牢な大地を敬愛する。大地は堅牢さの象徴であると同時に怠惰も象徴する。そのように、属性とその象徴、種族との結びつきについて。

「ふむ」

そういえば猟矢は物語を作り出すことが趣味だったか。創造する想像の世界の土台とするために知識を求めているのだろう。ユグギルは顎を撫でた。

知識は尊いものだ。それを分け与えることは叡智の伝道者たるスルタン族として当然の行いだ。惜しむことはない。存分に教えてやるべきだ。無下にする理由などない。

わざわざ遊びに観光する誘いを断ってまでの申し出だ。こんな熱心さなら歓迎だ。

「魔法、その元となる魔術には9つの属性…元素というべきか。魔術を構成する要素があっての」

火、水、風、地、雷、樹、氷、聖、闇の9つだ。それらの元素が存在する。

その属性にはそれぞれが象徴する性質がある。地が堅牢さと怠惰の象徴と呼ばれるそれだ。何者にも動じずしっかりと安定して存在する大地は堅牢さの象徴であるが、安定しているが故にその場を動く必要がない。よって怠惰の象徴とされる。

その堅い大地を敬愛するのが竜族だ。その発達した身体能力故に破壊できぬものはないとさえ言われる竜族が唯一破壊できないもの。それは大地だ。竜族でさえ壊すことのできない堅牢さ。それが竜族の敬愛の理由となった。

「火はすべてを飲み込み燃やすであろう? だから暴食を示すのだ」

だが、灰は新たな生命の土台となる。故に再生という象徴もある。再生の布石となるそれをキロ族は敬う。武具作りしかなかったキロ族にとって、それに必須である火はとても大事なものなのだ。常にキロ島の火は絶えることはない。

「水は恵み。だが過ぎれば溺れる。よって貪欲とする」

知識は人に恵みを与える。しかし策に溺れれば命取りだ。そうなぞらえ、スルタン族は水を敬う。知識は水のように湧いてくるものだと信仰する。そこから派生して、その水を飲めばあらゆる知恵を授かるという"知識の泉"という伝承が生まれた。

「風は自由。そして気まぐれ」

目に見えず捕まえることができない自由奔放さがベルベニ族の気風と合い、そしていつしか信仰となった。

「じゃぁ、樹は?」

ペンを走らせメモを取りながら猟矢が訊ねる。順番に話すから落ち着けとユグギルが苦笑した。

命を芽生える樹は希望を象徴する反面、地中で絡まる根が束縛を示す。これを信仰するのは森を敬愛するアレイヴ族だ。元々森そのものを信仰していたアレイヴ族は、いつしか樹という元素を崇めるようになった。森は樹属性の集合体とみなしたのだ。

「竜、キロ、スルタン、ベルベニ、アレイヴ…世界には6の亜人がいてだな」

最後のひとつがシャフ族だ。砂の民と呼ばれる彼らは雷を敬う。砂漠というからには単純に水を崇めるのかと思いきやである。

「どうしてだと思う?」

雷が落ちるには、雷雲が必要だ。雷というものは氷の粒の衝突による空気の放電現象だ。氷の粒、つまり雲だ。雲は水分の集合体。つまり、雷あるところに雲がある。雲が地上に落ちれば水になる。

単純に水ではなく、水の存在の証明となる雷の方が重要なのだ。遠方にあっても雷光が見えれば恵みの存在を確認できる。よってシャフ族は雷を信仰する。

「へぇぇ……」

残るは氷。聖、闇。だがこれらは対応する亜人がいない。その元素を敬ったり、性質を象徴するような性格の亜人種は存在しない。信者の存在しない元素だ。ちなみに氷は独占や嫉妬、聖なる力は傲慢と秩序と懺悔、闇なる力は高慢と混沌、忠誠を象徴する。

「あれ? でも…」

ビルスキールニルの人間も亜人のくくりと聞いた。世界中の何よりも神に愛された島の民。愛されたが故に人間(ひと)と区別された。

「ビルスキールニル人は特定の何かを信仰せんでの」

何かひとつの元素ではなく、魔術、魔法そのものを信仰する。火、水、風、地、雷、樹、氷、聖、闇もすべて包括して敬う。だからこの対応法則には当てはまらない。

一部の学者や論者たちの間では、空いた氷の元素がそうではないかと強引に解釈する説もある。だがビルスキールニルの民が氷の元素を特に贔屓にしたということは聞かない。対応の空白を埋めるための辻褄合わせの結論ありきの説はほぼ無視されている。

「まぁ神に仕組まれたこの世界なら、氷の元素に対応する者がいるはずだろうがの」

世界の仕組みを読み解いてわかったことがある。この世界は整然としている。元素の中でもひとつ格上とされる聖と闇の力はともかく、同格である残りの7元素で氷の元素だけ欠ける理由がない。だから何処かにいるはずだ。

「逸した独占欲のせいで自らの存在を秘匿でもしておるんじゃろうな」

自分たちの存在は自分たちだけのもの。独占欲を象徴する氷を信仰する種族ならそう考えてもおかしくない。だから世界という舞台に出てこないのだろう。

だが知識を求めるスルタン族としてはいずれは邂逅してみたいものだ。そして彼らの持つ文化に触れてみたい。貪欲な知識欲を疼かせユグギルはそう付け足した。

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