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カミサマが助けてくれないので復讐します  作者: つくたん
キロ島
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灯火

ひとによって態度がものすごく違う。話す相手によって言葉遣いを使い分けている。"アトルシャン"の長である自身の配下にあたるユグギルや、その下につくアルフやダルシーには厳しい口調で。キロ島領主である自身よりもはるか上の地位にあるビルスキールニル皇女アッシュヴィトには敬意を払い慎重に。ユグギルの部下としてかそれとも皇女の連れとするべきか、どういう扱いをしていいのか判じかねる猟矢とバルセナには丁寧な口調で。

いっそ露骨ともいえるこの使い分け。これがキロ島の領主クロエもといカガリだ。

「さぁ、与太話はここまで。宮に着きましたよ」

いつの間にか屋敷の目の前に着いていた。市街地と作業場の区画を区切る塀よりも、いっそう朱色が多く使われている白い建物だ。

礼をする衛兵に片手で応えたカガリはやはり足を取られることなく足場の階段を登りきる。門扉を開け、全員を中へと通す。正面に階段があり、2階へと続く階段は左右に枝分かれしている。手すりや柱、窓枠は朱色や赤で彩られていた。その階段を登り、左の回廊へ進む。突き当たりの赤銅色に塗られた両開きの木の扉を開けた。

正面に円卓。それを取り囲むように椅子が据えてある。円卓の天板には火を思わせる艶やかな彫刻が施されている。2階であるはずなのに、不思議な事に窓はなかった。

「話はおおよそ聞いております故、概要は省略致してくださいませ」

我々"アトルシャン"より派生した東方大陸担当管轄組織が主導する東方大陸同盟、と。具体的な名称を出さないのはキロ族の性分なので許してほしい。要はバハムクランが主導し、ディーテ大陸が一丸となった反パンデモニウム同盟ということだ。その旗印はビルスキールニルの皇女が担い、異邦人の少年が力でもって示す、と聞いている。

異邦人の少年とは彼のことだろう。キロ島一番の弓の名手ユミオウギの弟子の"観測士"ではなく。神に焼かれた白濁の眼球をそちらに向けた。見えずとも視える。少年から伝わる魔力は絶大だ。

もし自分の目が見えたのなら、こんな非凡な少年がと眉をひそめていたかもしれない。それほどいたって普通の見た目をしている。

「その同盟に"アトルシャン"として正式に認可、支援を…ということでよろしいか」

「うむ。それで相違ない」

派生の末端組織が勝手に作り上げた大陸同盟ではなく、母体組織から正式に認められた大陸同盟だという言質がほしい。カガリの確認にユグギルが頷いた。

「なんと奇遇か。こちらも同じことを思っていたところ」

アブマイリの祭りでの事件は聞き及んでいる。誘拐された巫女。そして"破壊神"を作り上げようとするパンデモニウム。今までのままではいられない。物事は大きく動いている。

それに対抗するため、各地域に分散して存在しているクランを取りまとめて強固な組織を作り、ひとつの勢力としたいと思っていたところだ。今までのように、各地域の自警団をしつつ裏でこっそり連絡を取り合うようなものではなく、大々的に表立って反パンデモニウム勢力として立ち上がりたい。

しかしまだキロ島にはそれを立ち上げるだけの力がない。パンデモニウムの本拠地とは山と海を隔ててはいるものの直線的な距離は近い。国力の面でも地理的な面でも、立ち上がれば即座に潰されてしまう。今ですら上納金を支払ってのらりくらりと略奪を免れている状況だ。

「東の大陸が立つというのなら表部分は任せる、というのがこちらの議会の結論で」

今まで通りキロ島はパンデモニウムに屈したふりをして、裏で活動する。篝火(アトルシャン)を掲げた者の責任として各地に散る派生組織をまとめ結託を強固にはするが、表立ってパンデモニウムに対抗はしない。表舞台は東方大陸同盟に譲ろう。ディーテ大陸の勢力たちにパンデモニウムへの反抗という看板を持たせる代わりに、各地の派生組織を使って秘密裏に支援する。

「我らができるのはそれまで。…それでよいだろうか」

確認にユグギルが頷く。これで"アトルシャン"の正式な後ろ盾を得たことになる。

"アトルシャン"の後ろ盾を持ち、ビルスキールニルの皇女が立ち異邦の少年が力を保障する同盟の完成だ。

「ならばこちらからも条件があるが」

まだ同盟の名は決まっていないと聞く。ならば名付けには"灯火"を連想させる言葉は避けてほしい。

"アトルシャン"。篝火を意味する言葉だ。そこから"カガリ"と(あざな)がついたキロ島領主に思い至るのは容易。アッシュヴィトとてその名を聞いてキロ島領主を連想した。

その連想がパンデモニウムにできないわけがない。必ず嗅ぎつけられてしまうだろう。今ですら何とかのらりくらりとかわしている状況。相当危ない綱渡りをしている。字は個に結びつかない仮名で意味はないもので、カガリという字を持つ人間などたくさんいる。篝火の名の反抗組織と領主の名の一致は偶然だと言い張り無関係を装っている。

ここで"灯火"を連想する言葉を同盟の名にすればまた疑いの目を向けられる。本当に関係はないのかという詰問に苦しい言い訳をせねばならない。危険は減らしたい。

「わかった。そうしよう」

「頼むぞ。…"不滅の島"の皇女殿下もどうかご配慮をお頼み申し上げます」

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