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カミサマが助けてくれないので復讐します  作者: つくたん
キロ島
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炬の火

衛士に連れられて城門をくぐる。途端に鼻に届いたのはむせ返るような鉄のにおい。熱した金属を冷やすための水が発する水蒸気が一同を出迎えた。

どうやら領主の城かと思っていた塀は都市部と製鉄のための作業場を隔てるためのものだったらしい。いくつも連なる棟の中で職人らしき者たちがあちこち動き回っている。狭い島の土地を無駄にしないため、整然と工程で分けられていた。

島の中心に領主の居城を据え、周囲を囲むように作業場の区画を、そのさらに外周に都市部を置いている。それぞれの建物の簾には色とりどりの縁取りがされ、その縁の色によって建物の種類を区別しているようだった。

案内する衛士についていくと、赤で縁取りされた簾の建物に行き当たる。どうやらここに領主がいるらしい。今まさに武具製作の作業中らしく、銀を加工するための熱気が伝わってくる。

「城じゃないんだな」

「カガリ様は自ら動くことを好まれます故」

じっと城であれこれ指示を出すより、実際に現地で指揮をとる方が性に合っている。そのあたりはアッシュヴィトと似通っているようだ。

「第弐炉の稼働は」

「まだ油が十分ではなく稼働準備の段階でございます」

「急ぎ準備せよ。……おや」

行き来する人の波の中心に立っている女性がこちらに気付いて振り返る。くるりと振り返る動作に合わせて、つむじで結い上げた髪に挿した(かんざし)が揺れた。

目を覆うように包帯を巻き、その上から覆面をつけている。包帯の端からは醜く焼きただれた皮膚が覗く。おそらく顔をひどく火傷して視力を失ったのだろう。だというのに彼女は何に足を取られることなく真っ直ぐこちらに歩み寄ってきた。

「久しきかな、東方管轄長。……に、ユミオウギの弟子に"群れはぐれ"か」

順番にユグギル、アルフ、ダルシーのことだ。ユグギルは反パンデモニウム組織"アトルシャン"において、東のディーテ大陸を管轄する立場にある。貿易都市エルジュを担当するバハムクランの長という立場と兼任している。

あえて名前を呼ばないのはキロ族の風習によるものだ。名はみだりに口にしてはいけないもので、どうしても呼ばなければならない時は(あざな)でもって呼ぶ。字を持たない他種族を指す場合は役職や立場とする。

「見ない顔が3つか。…いや、2つか」

うち1人の肩に留まっている鷹は顔の勘定に入れないことにする。しゃんと背を伸ばした彼女はアッシュヴィトの前に歩み出る。胸の前で右の拳を左手でそっと握り、浅く頭を下げる。キロ族の挨拶だ。

「久方ぶりにございます。"不滅の島"の皇女様」

いくら年上とはいえ立場としてはキロ島領主よりもビルスキールニル皇女の方が上。きちんと礼を尽くさねばならない。形式に則って礼を取る彼女にアッシュヴィトは同じように返す。見よう見真似の抱拳礼だが形にはなっただろう。

「ご配慮痛み入りまする。…続きは宮で」

ご案内致します。礼を解かず頭を下げたまま、彼女はそう言い添えた。左の小指にはめていた指輪が光る。転移武具かと思いきや、その指輪は真っ直ぐ行く道へ向かって光の線を指し示すだけだった。どうやらあちらの方に領主の屋敷があるようだ。

「転移は風情がありますまい。どうせ数日で横断できる小島です故、歩きでお送り致します」

数十分歩けば着く。キロ島の様子を見てもらうついでにもなるだろう。

道中、鋭く指示を飛ばしながら歩く彼女の後ろについていく。盲目だろうにその足取りはしっかりしている。つまずかないのだろうか。ここは灼熱の炉がいくつも並ぶ作業場。うかつに転倒すれば顔どころか全身が焼ける。炉に落ちれば骨すら残らない。そんな中で盲目の女性が歩くことに違和感を覚える。しかも、まるで目が見えているかのようにつまずくことはない。

「武具で視力を補っているのです」

不思議に思う猟矢の雰囲気を察したのか、領主が先んじて答えた。これは神の怒りの代償だ、と付け加えて。

「武具の歴史からすればまだまだ新参者故、至らぬばかりに怒りを買ったのよ」

何もない、炭鉱と鉱山の島から興した島だ。ビルスキールニルやラピス諸島の流れをくむ職人などいなかった。武具製作にかかわる知識は何もなかったのだ。そこで初代領主は武具に組み込まれた魔術を解読することから始めた。

便利用品として一般的に出回る低級の武具から、神の力に匹敵する禁断のものまで。ありとあらゆるものを分解し解読し理解した。しかし何ら知識のない中で始めた魔術の解読は難航を極めた。そのさまを見かねた神が魔術の知識とともに武具の製法を授けた。

おかげで他の産地と同じように武具の製作を行えることとなった。製鉄技術と合わせ、あっという間に名産地として上り詰めた。与えられた知識をさらに発展させようと進み続けた。

研究は行き着くところまで行き着いた。しかしそれが神の怒りを買った。ある領主がその知識を駆使して作り上げた武具は世の理を覆しかねないものだった。禁忌に触れるそれは破棄されるはずだった。鋳溶かされるはずだった。作り出してしまった職人である当時の領主も一緒に。しかし。

「当時の領主の娘がな、それを持ち逃げまして」

警護の隙を突いてまんまと島の外に持ち出されてしまった。それきり行方が知れない。

その罪の代償として、歴代領主はキロ島を守護する火の神から罰を受けねばならなくなった。禁忌を侵す罪の証を見つけられぬ愚鈍な目など潰してしまえと目を焼かれる。罪の証が見つかり、罪を精算するまで。

「その武具の名前は"泡沫"というのだ。…もし何処かしらで見つけたら教えてくりゃれ」

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