自分は平気だと思っていたのです
すみません。
出来るだけ早く完結させたいと思っていたのですが、思った以上に忙しくて、この後は不定期更新になりそうです。
更新再開と言ってすぐに申し訳ありません。
生活が落ち着いたら、更新しますので、よろしくお願いします。
早くも12月に入り最初の土曜日、今日はクリスマスパーティーの日だ。
貴成の家に何回も来たことがある黄原と白崎が皆を案内してくれるというので、俺と貴成は家で待機だ。
開始1時間前くらいだが、貴成はそわそわしている頃だろう。
あいつはクールっぽく見えて、結構皆に誘ってもらえたり、騒いだりするのが好きなタイプだ。
この一週間くらいずっと大分楽しみにしていたしな。
落ち着かずにうろうろしているだろうから、そろそろ行ってやろう。
そう思って今日のために用意したプレゼントを取り出す。
それを見ると買った日のことを思い出してしまうので、しまってあったのだが今日は取り出さなきゃいけない。
明るい赤のラッピング袋を見て、ため息を吐いた。
桜宮と買い物に行った次の日、実は割と緊張していた。
何となく恥ずかしいような微妙な気分が帰りからずっと続いていて、それでいて心がざわざわするような不思議な感じで、正直落ち着かなかった。
まあ、学校に着いたら桜宮はまだいなくて、黄原に滅茶苦茶色々と聞かれまくったのだが。
それを何とか躱してるうちに落ち着いてきて、桜宮が学校に来た時、普通に挨拶した。まあ、何とか普通に出来たのである。
そうしたら、桜宮も普通に接してきて、あの日の雰囲気は流れていつも通りになった。
そう、いつも通りの普通。なのにあの日のことが頭に残って消えないのは、本当にどうしたことだろう。
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学校近くの公園に集合し、歩き始めてから十分ほど。
「大分近づいてきたよ」と言う黄原君の声に思わず、髪やワンピースのチェックをしてしまうと、近くを歩いていた黒瀬君が呆れた声を出した。
「桜宮、さっきから、そわそわし過ぎじゃないか?」
「だって! 折角休日に正彦君に会える日だし、可愛くしたいんだもん! この前と違って今日は私服だし!」
「ああ、デートに行けて渾身のアピールしたのに、次の日会った時の様子があまりにも普通で更に押す勇気が出なかったって、あれか」
「黒瀬! 余計な事言わないの!」
「あんだけ篠山がいない所で騒いどいて、今更それか? つーかあんだけ鈍い奴相手に、肝心な所で勇気が出ないとか言ってると一生伝わらねえぞ」
凛ちゃんが黒瀬君を少し怒ったようにつつくが、黒瀬君は更に呆れた顔でそう呟く。
その言葉の鋭さにかなりガックリきたが、まあ、確かに黒瀬君の言う通りである。
この前のデートの時、私は頑張った。すごくすごく頑張った。
ハンドクリーム塗るときなんて、正直やりながら恥ずかしさで変な声出そうだった。
帰るのが名残惜しくて、アイスを食べようって誘うのも、すごく緊張した。
アイスを食べさせあう提案だって、すっごく勇気だしたし、照れたし、味なんて全然分からなかった。
それでも、ただ一緒に歩いて話してるだけの時もすっごく楽しくて、嬉しかった。
だから、正彦君が家の近くまで送ってくれた時、あの楽しかった日の最後にすごく勇気を出して「正彦君と一緒だから楽しかったよ」って言ったのだ。
これ、普通だったらもう殆ど告白みたいな感じだと思う。
好きですと言うのは出来なかったけど、それでもすっごく勇気を出したのだ。
だから、次の日の朝、会う時すっごく緊張したのだ。
私よりも先に着いていた正彦君は黄原君と騒いでいて、赤羽君と白崎君が近くで苦笑いしていた。
私が声をかけるよりも先にこっちに気づいた正彦君は、本当に普通にいつも通りに私に声をかけた。
「あ、桜宮、はよ。昨日、夕方結構冷えたみたいだけど、風邪とかひいてない?」
去年、同じクラスだった時からずっと見てきたいつもの様子。
私みたいに恥ずかしさを覚えている様子でもなく、照れた様子もなく、表情も声も態度も本当に普通。
そんな風にされたら私も普通にするしかなくなるし、その後も正彦君は最後の私の言葉には触れずに普通に昨日の話をしたりするのだ。
改めてその話を持ち出す勇気がなかなかでないまま何度も挙動不審な言動を繰り返し、正彦君はいつものようにそれをスルーし、とうとうクリスマスパーティー当日になってしまったのである。
何度もアプローチをスルーされ慣れているとはいえ、ちょっとガックリきた。
だけど、今日は折角休日に私服でお洒落して会える絶好の機会なのだ。おまけに赤羽君の家は乙女ゲームのスチルを思い出すとかなり雰囲気があるし。
だから、今日はもう一回頑張る!
そう決めて気合を入れていると、詩野ちゃんが確かにといった風に頷いた。
「まあ、確かに桃ちゃんは、行動力はあるのに決定的な一言や行動はなかなか取らないよね。それで割と空回り気味」
「うっ!」
「し、詩野。その言葉は私にも効きます」
近くを歩いていた麗ちゃんも暗い顔でそう呟く。
女嫌いな赤羽君に嫌われない関係でいたいと直接的な関わりを避けた結果、ファンクラブやらなにやらで大事になった去年の事を思い出したらしい。
二人で暗くなっていると、木実ちゃんがニコッと笑って口を開いた。
「桜ちゃん先輩も、月ちゃん先輩も今日はすっごく可愛いです! だから、大丈夫ですよ! 私と青木君で頑張って、盛り上げますし。ね、青木君!」
「……う、うん。頑張ります」
青木君もちょっと緊張した様子で頷き、それを見た木実ちゃんが、安心させるように更ににこっと笑いかける。
うん。何回見てもこの二人は本当に可愛い。サイズ感もそうだけど、行動が本当に微笑ましい。
二人を見てちょっと和んでいると、夕美ちゃんが笑いながら口を開いた。
「でも本当に桃、メイク上手になったし、髪もワンピースに似合ってるわ。麗も髪、珍しくアップにしてるけどすごく可愛い。そういうのも似合うわね」
「あ、ありがとうございます、夕美」
「うん、夕美ちゃんに褒められると自信付く」
相変わらず全身お洒落な夕美ちゃんの言葉にホッとしていると、黄原君が明るい声で皆に呼びかけた。
「盛り上がってる所悪いけど、本当にもうすぐだよ! ここの角曲がった所! あ、ヒール履いてる子はそこの段差気を付けてね~」
「智、すごくこの道慣れてるわね」
「まあ、赤羽の家にはよくお邪魔していますから。学校も近いし、篠山の家もすぐ近くなので、集まりやすいんですよね」
白崎君が嬉しそうにそう言うのを聞いて、相変わらず男子たちは仲いいなあと思って、角を曲がる。
広い庭に咲き誇る草花。まるで高級ホテルのように手入れされている。
家は洋館風ながらも今時のスタイリッシュさを兼ね備えている。
この辺りの高級住宅街でも、一線を画した立派なお屋敷。
前世のゲームのスチルで見た豪邸が見え、やっぱり立派だなあと思っていると、凛ちゃんが小さく「うわっ」と呟いたのが聞こえた。
「ちょっと待って。あれ赤羽の家? 個人宅?」
「お前ビビりすぎだろ」
黒瀬君が呆れたように言うが、凛ちゃんは顔を引きつらせて首を振る。
「いや、一般庶民はあんなの慣れてないわよ。うっわ、篠山、よくあそこに入り浸って遊べるな。外から見ただけでも、何か壊したらヤバそうな気配が伝わってくるじゃん。緊張するなあ」
「わ、分かります。緊張、しますよね」
麗ちゃんは……初めて好きな人の家に来るということでずっと緊張すると言っていたが、近づいてきたことで更に固くなっている。
確かに私はスチルで知っていたけど、あの豪邸は初見なら驚くよね。
麗ちゃんの気持ちも分かる。
私も赤羽君の家じゃなくて正彦君の家なら、すっごく緊張するもんなあ。
そんな事を考えながら、二人を見つめていると、黄原君が「じゃあ、押しま~す!」と元気よくインターフォンを押した。
「はい。どなた様で……」
「あ、黄原達か。入ってきて良いぞ」
「あら坊ちゃま、そんなに急がなくても私が対応いたしますのに」
「……うるさい」
「は~い、それじゃ赤っちも待っててくれたみたいだし、入ります!」
「……さっさと入れ」
インターフォン越しの微笑ましい会話にクスクス笑っていると、門が開いた。
折角なので庭の様子を楽しませてもらいながら進んでいくと、玄関のドアが開いた。
「あら、いらっしゃい。貴成の母の赤羽恵美です。うちの子、本当に楽しみにしていたのよ。楽しんでいってね」
上品そうなお母さんが出迎えてくれて、隣で麗ちゃんが更に体を固くしているのが分かる。
赤羽君、イケメンだからお母さんも美人だなと思っていると、後ろからひょっこりと別の女性が顔を出した。
恵美さんと違って目を見張るような美人ではないが、穏やかで柔らかい雰囲気で親しみやすそうな女性だ。
さっきのインターフォンで話してた家政婦さんかなと思っているとにこにこしながら口を開く。
「あら、大勢ね。黄原君達は会った事があるけど、初めまして。正彦のお母さんです。今日は来てくれてありがとうね」
瞬間、隣の麗ちゃんと同じくらい体が固まったのが分かった。
好きな人のお母さん……。
思わず自分の恰好とかの反省会が始まった。
優しそうな人だが、好きな人の母親に嫌な印象を与えたらどうしようと思うと緊張してしまう。
待って、いるならいると前もって言ってよ!
完全八つ当たりだが、家主なんだから教えてよ、赤羽君の馬鹿!