↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/19

二人の平穏な暮らしは、そこで終わりを迎えた。

「ジリリリリリリリ……!!!

目覚まし時計がうるさく鳴り響く。


「……あー、もう朝かよ。

まだめちゃくちゃ眠いんだけど。

っていうか……あぁ、そういうことね。

夢の中でバカデカい岩の下敷きになって圧死しかけてた理由はこれか。」


「おい、どけって……。……って、おい、嘘だろ。

こいつ、これだけ目覚ましが鳴り響いてんのにピクリとも動かねぇ。スースーと規則正しい寝息を立てて、完全に爆睡してやがる。」


普通、猫ってのはちょっとした物音で飛び起きる生き物じゃねぇのか?

お腹の上で完全に肉団子と化している駄猫を見下ろす。


「おい起きろ、いつまで寝てんだ。朝飯にするぞ!」無理やり起こされたミクロは、

不機嫌そうに顔をしかめながら、

のそのそとベッドから降りてきた。」


キッチンに移動して、

俺は自分の朝飯の準備に取りかかる。メニューは、

トーストと目玉焼き、それからコーヒー。

うん、一人暮らし男子の王道にして至高の朝食だな。


そして、足元でうるさく鳴いている駄猫の皿に、

市販のキャットフードをザラザラと流し込む。

ほらよ、お前の朝飯だ。感謝して食えよ。


『ふにゃあああぁん……?

(フンフンと匂いを嗅いで、

あからさまに嫌そうな顔をする)』


「……おい、なんだその目は?。」


『これじゃない。俺様が求めているのは、

もっとこう、高級なマグロの缶詰だ』


「とでも言いたげな顔で俺を睨むんじゃねぇ。」


『にゃー! にゃっ、にゃーーーお!!!

(皿を前足でパシパシ叩きながら怒る)』


「おい待て、

文句を言うな! 狩りもしないニート猫のくせに、

飯のクオリティに注文をつけてんじゃねぇよ!」


カリカリを食え、カリカリを! それが嫌なら、

昨日の庭にいたトカゲでも捕まえて自分で踊り食いしてろ!


『ふしゅるるる……

(思いっきりため息をついて、渋々食べ始める)』

「……ったく、誰に似たんだか。


まぁ、

文句を言いつつも結局は完食するんだけどな。

こいつといると退屈だけはしない。さて、

俺も自分の冷めかけた目玉焼きを胃袋に流し込むとするか。


身支度を整え、

カバンを肩にかけながら足元の相棒を振り返る。


「ミクロ、俺はもう学校に行くけど、

お前はどうすんだよ? ついて来る?

それとも来ねぇの?」


『にゃあああ!』


「だったら急げ。

学校に遅刻すんのは流石に勘弁だからな」


――俺の名前はアスロミ・エイン。

フィリピンからやってきた。親父が日本人で、

お袋がフィリピン人のハーフってやつだ。

子供の頃、両親の間で

『17歳になったら親父が俺を日本に連れて行って、

こっちの学校に通わせる』

っていう謎の約束が交わされてたらしい。

で、気づけば今ここにいる。にしても、

まさかあの親父がこっちで会社を経営してるとは思わなかった。ぶっちゃけ『うわ、

俺マジで“親の金”で最強の勝ち組ライフじゃん!

超ラッキー!』って、

内心めちゃくちゃテンション上がったよね。

おかげで、親父は俺が一人暮らしするためだけに一軒家をまるごと買いやがった。

……まあ、いいけどな。俺はもう、

一人じゃねぇし。


こいつがミクロ。あの家に入居した日、

庭先で出会ったんだ。

獲物がすぐ後ろにいるっていうのに、

お腹を空かせたまま、

狩りをするのすらめんどくさがってやがった。

その突き抜けたクズみたいな怠けっぷりを見てたら、逆に可哀想になってきちゃってさ。

だから仕方なくキャットフードを分けてやったら、

それからずっと俺の後ろをトコトコついてくるようになった。たぶん『こいつの近くにいれば、

働かなくてもいつでも飯が食える』

って味を占めたんだと思う。世界は広いけど、

こんな舐め腐った図太い猫はそうそういない。

でも、同時に最高に面白い相棒(ペット)だよ」

「なんとか遅刻は回避して、俺は学校――ここ3ヶ月ですっかり見慣れた日本の高校に到着した。

校門をくぐり、

校舎のすぐ脇にある大きな桜の木の下で足を止める。この木の太い枝が、

ちょうど2階の教室の窓のすぐ近くまで伸びているんだ。


俺は肩の上で ずっと 我が物顔でくつろいでいた駄猫を、両手で掴み上げる。


「よし、ミクロ。

お前は放課後までここで待機だ。いいか、

絶対に大人しくしてろよ?」


『にゃ~ん(そこから動く気は一切ない、

とでも言いたげに目を細める)』


「……あぁ、そうかい。」


自分から枝に登るのすらめんどくさいってわけね。

3ヶ月経っても相変わらず突き抜けた怠け癖を発揮するこいつに呆れつつ、俺は両手に少し力を込め、

2階の窓のすぐ近くにある太い枝めがけて、

ミクロの体をひょいっと放り投げた。


『にゃあああ!?(一瞬だけ慌てたものの、

空中で見事に体勢を立て直し、

器用に枝の上へ着地する)』


ミクロは太い枝の上にちょこんと座ると、

前足で行儀よく香箱座りをしながら、

じっと俺を見下ろした。


「……おい、なんだその」

『よくもこの俺様を投げ飛ばしやがったな、

人間の奴隷め』


みたいな恨めしそうな目は。

道中ずっと俺の肩を乗り物代わりにしてたくせに。


まぁいい。

ここなら2階の教室の窓からいつでもこいつの様子を確認できるし、何より学校の中に猫を連れ込んで大騒ぎになるよりはマシだ。

日本に来て3ヶ月、まさか毎日教室のすぐ外に猫を監視員として配置することになるとは思わなかったぜ。


「じゃあな。

授業が終わるまでそこで大人しくしてろよ。

落ちんなよ、ニート猫」


『ふしゅるるる……

(またいつものため息をついて、目を細める)』


枝の上で完全に置物と化したミクロをもう一度見上げてから、俺は校舎の昇降口へと向かった。さて、

今日もいつも通りの退屈な授業が始まる。

俺は大きく息を吐き、

すっかり馴染んだ教室のドアへと手をかけた」


「ガラッと教室のドアを開けて、

俺は自分の席へと向かう。席はクラスの一番後ろ、

窓際の特等席だ。カバンを机の横に引っかけ、

窓の外に目をやると、さっき放り投げた駄猫が相変わらず桜の枝の上で丸くなっているのが見えた。


「よお、エイン。おはよ。… おい、

またお前のところの『木守りさん』

がスタンバイしてんじゃん」


話しかけてきたのは、

このクラスで最初に出来た友人のタクヤだ。

ニヤニヤしながら俺の机の前に立ち、

窓の外のミクロを指差している。その時、

窓際の前の席に座っていた女子グループが、

タクヤの声に気づいて外を見上げた。


「キャー、見て! あの猫、超かわい~い!」


「本当だ、桜の木の上で丸くなってる!

すごい大人しいね!」


女子たちが色めき立ち、窓際が一気に賑やかになる。おそらく自分のファンが増えたことを察知したのだろう。枝の上の駄猫は、さらに調子に乗ってファンサービスと言わんばかりに、優雅に自分の体をペロペロと舐めて毛繕いを始めやがった。……が、

その瞬間だった。


色気づいてカッコをつけすぎたせいか、

あいつは完全に足元を滑らせた


。『にゃ、にゃあおおう!?

(一瞬にして優雅な顔が崩壊し、

無様に手足をバタつかせながら、

真っ逆さまに地面へと落ちていく)』


ドサッ、

という鈍い音が下の植え込みから聞こえてくる。


「ええっ!? 落ちちゃったよ!?」

「嘘、大丈夫かな!?」


女子たちが悲鳴を上げてパニックになる中、

俺はあえて机に頬杖をついたまま、

窓の外を覗き込んで、わざとらしい、

お決まりのトーンで声を張り上げた。


「おいミクロ、大丈夫かー? あー、

なんてことだ、心配で夜も眠れそうにないぜー」


「いやお前、棒読みすぎるだろ!

全然心配してねぇだろそれ!」


タクヤがすかさずツッコミを入れてくる。正解。

ぶっちゃけ、

あんな低い高さから茂みに落ちたくらいで、

あの図太いクズ猫がくたばるわけがない。

むしろ、カッコつけて自爆した姿が最高に滑稽で、

内心めちゃくちゃザマァ見ろって思っている。


だが、ここからがこの駄猫の恐ろしいところだった。


女子たちの

「大丈夫!?」という黄色い声援が耳に届いた瞬間、ミクロの『プライド』に火がついたらしい。

あいつは植え込みから爆速で飛び出すと、

全身に葉っぱや泥をくっつけた状態のまま、

ものの数秒で幹を駆け上がり、

何事もなかったかのように元の枝の上へと帰還しやがった。


そして、フンッと鼻を鳴らしながら、

再び優雅に香箱座りをキメてみせたのだ。


『フッ、今のはただの高度なパフォーマンスだが?』


とでも言いたげなドヤ顔で、

女子たちに向かってフニャ~ンと可愛く鳴いてみせる。


「わあ、すごい! 全然平気みたい!」

「運動神経いいんだね、カッコいい!」


女子たちは再び大盛り上がりだ。……おい。

騙されるな。あいつ、

足が思いっきりプルプル震えてんぞ。


「おいエイン、あいつのプロ根性ヤバすぎだろ。

どんだけファンに恥ずかしい姿見せたくないんだよ」


タクヤが引きつった笑顔で呟く。

俺はそっと窓を閉め、窓ガラス越しに、

必死でポーカーフェイスを維持している見栄っ張りなクズ猫を冷ややかな目で見つめ返した」



「キーンコーンカーンコーン……。


ようやく放課後のチャイムが鳴り響いた。

俺は泥だらけの駄猫をなんとか回収し、

いつものように肩へ乗せて家路につく。

ミクロはまるで干された洗濯物みたいに、

俺の肩で完全に脱力して無防備に爆睡していた。

先ほどの大失態(2連続落下)の疲れからか、

信じられないほどの図太さでスースーと寝息を立てて、完全に熟睡してやがる。


だが、通学路の路地裏に差し掛かった時、

不快な笑い声が耳に届いた。見ると、

同じクラスの女子が数人の不良風の男たちに囲まれている。

彼女は明らかに怯え、

不快そうな表情を浮かべていた。


「おいおい、ちょっと遊ぼうぜ。

可愛いお姉ちゃんよぉ」


放っておくのも寝覚めが悪い。俺はため息をつき、

肩に洗濯物を乗せたまま、その集団へと歩み寄った。


「おい、そこまでにしとけよ。

その子が嫌がってんだろ」


割り込んできた俺に、

男たちが一斉に冷たい視線を向ける。

その中の一人が、

俺の肩で熟睡しているミクロに目を留め、

鼻で笑った。


「あ? なんだお前。つうか、

肩に乗せてるそのダサいぬいぐるみは何だよ。

干された洗濯物か? ギャハハ!

弱そうな陰キャが、

猫なんか担いでヒーローごっこかよ!」


「ぬいぐるみじゃなくて、ただのニート猫だ。

それと、

他人に迷惑をかけるしか脳がないお前らみたいなクズに、

俺の相棒をバカにされる筋合いはねぇよ」


俺が一切物怖じせず、淡々と冷酷な

『正論(リアルトーク)』を叩きつけると、

リーダー格の男の顔が怒りで引きつった。

「てめぇ、調子に乗ってんじゃねぇぞ……!!」


男が激昂し、

容赦ない拳を俺の顔面めがけて突き出してくる。

だが、俺は最小限の動きでそれを紙一重でかわした。

「……チッ。

頼むから日本で揉め事は起こしたくないんだよ。

もう二度と、な」


そう、俺には隠された過去がある。

実はフィリピンにいた頃、

現地で最も恐れられていた最強の武闘派ギャングの『頭(リーダー)』をやっていた。

数々の修羅場をくぐり抜けてきた俺にとって、

日本の不良のパンチなんてスローモーション同然だ。この平和な田舎町で、

俺はただ平穏に暮らしたいだけなんだ。


だが、男たちは俺の警告を無視し、

一斉に襲いかかってきた。流石に多勢に無勢。

武器になるようなものはないか……そう思った瞬間、俺の視線は肩でまだ暢気に爆睡している『肉塊(猫)』へと向いた。


「おいミクロ、ちょっと付き合え」


俺は肩からミクロのバカデカい体をひったくると、

あいつの両後ろ足をガシッと掴んだ。

そして、完全に生気を失った『生きている棍棒

(バット)』として、

迫り来る不良たちめがけて思いっきりブンブンと振り回し始めたのだ!


『ふぎゃ、フギェエエエエエーーーッ!!!??

(突然のG[重力]と、

生き物扱いされない超展開に、

ミクロの意識が強制覚醒する)』


「オラァ! 当たれぇぇぇ!!」


俺がミクロをフルスイングするたびに、

遠心力で鋭くなったあいつの前足の爪が、

不良たちの顔面を容赦なく切り裂いていく。


「ぎゃあああ! 顔がぁぁ!」

と悲鳴を上げて次々と倒れる男たち。


ミクロの頭の中は、

完全に大パニックだったに違いない。


『俺様が一体何をしたっていうんだ!

なんでこの人間は、可愛い純真無垢な(デカいけど)猫の俺様を、

無機質な打撃武器として扱ってやがるんだァァ!』

という絶望の叫びが、その目から伝わってくる。


「わりぃわりぃミクロ、武器にしちゃってさ。

まさかお前がここまで即戦力になる

(武器として手馴染みがいい)とは思わなかったわ。もう二度としないって約束する。……まぁ、

お前を王様みたいに不自由なく飼ってきた恩返しだと思ってくれ」


不良たちを全員返り討ちにした後、

俺はミクロを地面に下ろした。ミクロは

「オロロロロ……」と激しく胃液をぶちまけ、

呼吸もままならない様子で目を回している。

完全に戦闘不能(三半規管崩壊)だ。


一部始終を見ていたクラスメイトの女子は、

口をあんぐりと開けて、目の前のあまりにもイカれた光景が信じられないという風に震えていた。


だがその時、ミクロのプロ根性が再び覚醒した。

あいつは視線の先に、自分の熱烈なファン

(クラスの女子)がいることに気づいたのだ。

ミクロは猛烈な吐き気を一瞬でねじ伏せると、

何事もなかったかのように立ち上がり、

キリッとしたクールなイケメン顔(ドヤ顔)

に戻って、優雅に体をペロペロと舐め始めた。


「ええっ……!? す、すごいくらいにクールな猫ちゃん……!」


女子生徒は、その尋常じゃない変わり身の早さに驚愕の声を漏らす。


だが、戦いはまだ終わっていなかった。

倒れていた不良の一人が執念で意識を取り戻し、

フラフラと立ち上がったのだ。

男は復讐に狂った目で、

足元でカッコつけているミクロへ突進すると、

その体を乱暴に掴み取り、

激しく車道へと放り投げやがった。


「にゃあああーーーっ!!」


ミクロの体が、

走行車線(道路の中央)

へと真っ逆さまに転がっていく。


「ミクロっ!!」


俺は過去のギャング時代の本能のままに、

駄猫を救うべく全力で道路へと飛び出した。

だが、その瞬間――。


ウーーーッ!!! ドンッ!!!


視界を遮るように猛スピードで突っ込んできたのは、サイレンを鳴り響かせた急行中の『救急車』だった。激しい衝撃音と共に、

俺とミクロの体は宙へと跳ね上げられる。


「嘘……エイン君!? 猫ちゃん……!?」


目の前で起きた最悪の悲劇に、

クラスメイトの女子は恐怖で顔を青ざめさせ、

絶叫した。シート、

自分たちが引き起こした事態の重さに、

不良たちすらも言葉を失い、

ただただ愕然と立ち尽くしていた――」 。。。。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。