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カミビト  作者: Goinkyo.
女王ペロセポネ
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女王ペロセポネ 頭角

一瞬、場に沈黙が訪れた。

義父は何かを言いかけようとして…やめた。

様子を見ることにしたらしい。

ただ、心配するような顔でペロセポネの顔を見ている。

「それは…いい考えかもしれません」

と賛同する、若い族長。

「本音でいきましょう。やはりみなさん、率直に言って、だれかに上に立たれたくない。ですがペロセポネ殿は女性で、代理です。永遠に盟主の場に居座るとは、だれも見ないでしょう」

この地域では特別な事情がないかぎり、族長を男子が相続するのが通例である。

「ペロセポネ殿が不快に思われたらすみませんが、海千山千の族長たちをまとめるためには、腹を割るしかないと思います。でも、それだけではなく、ペロセポネ殿の誠実な交渉っぷりを聞き及んでいる方はたくさんいることと…」

「それに我々男どもではだめだったんだ。ペロセポネ殿ならあるいは聞く耳を持つかもしれない」

とよくわからないことを口に挟む者もいた。

場の何人かが曖昧に頷く。

なのだが…。

ペロセポネはもう一つの理由もまた、思い浮かべていた。

肯定的な言葉は鵜呑みにしていない。

そもそもただの領主代理が訴える方が効き目があるという理屈がおかしい。


代理で、女性で、日の浅い自分。


もし交渉の過程でいずれかの氏族長や皇国の怒りを買って命を失ったり、その身を追われたとしても、混乱は浅いという、不幸の深い浅いを勝手に決めつけるような打算もあるのかもしれない。

この危急にあっても、自分自身が火種を抱えたくないのだ。


断ることもできたかもしれない。

しかしペロセポネは少し考えて見せたあと…。

「わかりました。みなさんが賛同してくださるなら、一時的な盟主の立場をお引き受けします」

義父はため息をつきそうな顔をしていた。「なぜ代理に過ぎない、逃げても良い身分で、わざざわざリスクを取るのか」と。


任されたら引き受けてしまう。

悪くいえば、自分は流されやすいのかもしれない。

ペロセポネは心のなかでため息をついた。


ただし…。

心の片隅に、小さな熱も感じていた。

「自分なら、うまくやれる気がする」

もしかしたら、男子相続が主流の中、自分自身の思いをぶつけやすくなるかもしれない。

族長たちに対しても、バハリク朝に対しても。


***


ひとまずペロセポネが急いだのは各氏族の細かい情報交換と意見調整する会合の設置だ。

現代風に大使と言っておこう。当時の呼称では異なるが、現代語への翻訳が難しい。

各氏族から大使を出し、会合場所に常駐させる。


各氏族と大使との意見調整は、「電信」と呼ばれる装置を使う。

文章や短い口頭の言葉だけなら遠隔地に送ることができるのだ。

ただし長文や多人数の会話には向かない。距離の制限もある。


また、族長たちが集まっているこの機にしかできないことを着実に行った。

バハリク朝への会合設置の報告を族長たちに連名で署名させた。

バハリク朝が良からぬ企みを図る談合だと疑うかもしれない。

しかしこれは仕方がない。

そもそも族長が集まれば噂になる。

隠すのは無理で、バレているだろう。

それよりも、氏族内で特別な地位にない人々が実務レベルの話し合いを行うような軽い印象を心がけた。


大使たちを常駐させる場所は、ペロセポネの領内で同意してもらった。

ペロセポネの望みはもっともだし、強大な北方三国と渡り合うために迅速に意思決定を行う代案もなかった。


ただ一つ…。

「涼しい顔をして、ここまで構想をねっていたのか」

突然指名されて、その場で思い浮かぶような案ではない。

だまって話を聞きながら…。いや、日頃からすでに考えていたのかもしれない。

想定外のリーダーシップを受け、氏族長たちの間に、戦慄が走った。

「油断していたら、このままこの女に食われるぞ」

そう思ったのは、一人二人ではなかっただろう。


少し、整理をしよう。


大使を通じて話し合うべきは、いくつかある。


外交---北方三国との交渉のため、情報や意思が彼女に集約する。

物流管理---地域によっては食糧難の度合いに差がある。食糧を適切に分配することで物流を掌握する。

備え---今後の災害対策は、まさに各氏族が一丸となるべき事業である。


頭の回転が早いものは気付いた。

これは、ペロセポネに情報と権力が集中する。


一度彼女を中心とした仕組みができあがったら、それを崩すのは難しい。

しかし代案を考える暇はないこともわかる。

そもそも「火中の栗」を彼女に押し付けた経緯がある。

だから、何も言えなかった。


自領への帰り道にようやく気づいたものもいる。

しかし、もう遅い。

各氏族が一つになろうとしているときに、孤立は多大なリスクを生む。


結局、皇国の庇護のもと、屈辱だけではなく、安寧も得ていたのだ。

突然、領主代理に指名され、その立場が危ぶまれ、

知的好奇心旺盛なペロセポネの方が真剣に打開策を考えていた。


ペロセポネはもともと自分が盟主に推されるとは思っていなかった。

道すがら、一案として、考えてきただけだ。

それが、たまたま指導力の発揮にいたった。


やるべきことをやるだけだ。


彼女は無自覚に、君主国家の下地を作っていった。


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