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カミビト  作者: Goinkyo.
女王ペロセポネ

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7/24

醸成

さまざまな問題が起きた。


水利の分配、穀物の備蓄。

多少余裕のある氏族も、簡単には提供には応じなかった。


大使同士の協議で埒があかない時には、ペロセポネは場で決を取らせた。

孤立を恐れる氏族にとって、「南域の総意」という形は重かった。


譲歩した氏族には、将来の見返りを約した。

それを文に残した。

盟主と全氏族会議の名のもとに記録される約束は、軽くはなかった。


他にも障害はあった。

勝手に交易路を開こうとする者。

皇国と直接交渉しようとする者。


悪意ではない。

自領を守ろうとしただけだ。

あるいは、自分こそ突破口になれると考えたのかもしれない。


しかし、それでは南域を再び分断する。


説得は容易ではなかった。

しかし干ばつの現実と、すでに重大事をいくつも決定してきた会合の重みが、徐々に彼らを縛っていった。


南域は、ひとつになり始めていた。

私は当時、その様子を見ていた。

彼女はまだ、自分が何をしているのか、完全にはわかっていなかった。

それが、かえって良かったのだと思う。


皇国側の立場を簡単に述べよう。


もともと無断で領主たちが集まったことを遺憾に思っていた。

そして、伝えぎく噂によると、何やら氏族間の隔たりをなくすような活動を行っているらしい。


大規模な干ばつにもかかわらず、南域の領民の往来はむしろ増えているという。


氏族はばらばらだったから統治に大きい兵力は不要だった。

これが一つにまとまったらどうなるか…。


実はこのとき、皇国には南域に対して具体的な措置をとる余裕がなかったのだ。

だから、皇国にとって不穏な空気を感じても、放置していた。

が、南域の脅威は膨らんできた。

「もしも」が国家の存亡にかかわるのであれば、最悪の状況を想定せねばならない。

衝突の時は、迫っていた。


話を戻そう。

ペロセポネは短期間のうちに、強い権威を持つようになっていた。

大使たちも合理的な意見を述べ、果敢に決断するペロセポネに心服しはじめていた。


族長は男子相続が一般的である。

政治の場では、女性であることそのものが、違和感となり、少数派であり、彼女自身の足かせになる。

大使たちは、当初の族長たちの目論見とどうように、「いかようにも自分たちの利益を通せる」と思っていた。

あなどっていた。

ライバルは他の大使だと思っていた。


ペロセポネは常に冷静を保っていた。

じっくり考えた案を、押し付けぬまま、理路整然と説明した。

「これは南域全体のことを考えた意見だ」

ときに、大義名分は私欲を超える。

真に、私欲なく見える。


反論はしづらかった。

この場で自己中心的な言葉を発することが、なんと恥ずかしいことか。


大使が族長側を説得するケースも出てきた。

「目先の事柄にこだわるよりも、会合内で一層の貢献することが利益にかなう」


氏族という枠ではなく、南域全体をひとつの単位として考えるようになっていた。

それが領主の枠を超えたものの見方であることを、彼女自身もまだ理解していなかった。

が、大使たちには、それは無私の精神に見えた。


ここまでは彼女の思い通りにことが運んだように書いてきた。

ただ、もちろん、実際には苦難も多々ある。


中には反抗的・非協力的な氏族もいる。

ストレスだ。

協力的な氏族も、本当に情報をすべて共有しているのだろうか。

食糧をまだ隠しているのではないか。

疑心暗鬼にもなった。

盟主と言っても、確実な権限があるわけではない。

民衆は過度な期待と要望を突きつけてくる。


ああ。

ああ。


なぜ、みな、自分の立場に固執するのか。

簡単に決められることを、なぜ決めないのか。


大使たちからは冷静に見えていた彼女も、内心では舌打ちしたくなることもあった。


それは私欲というより、効率への苛立ちだった。

しかし、形を変えれば、それは権力への欲求でもある。


南域の行く末を案じるからこそ、

全体を一つの視点で見られる立場が必要だと、思い始めていた。


男性ばかりの大使の中、秘書官兼初期として女性の友人にいてもらった。

皇国への留学を検討したこともある、優秀な兄に手伝ってもらうこともあった。

わずかばかりに心の支えとなった。


あえて義父には同席させなかった。

実質族長とみなされている彼が参加すると、主導権を握ろうとしていると疑われる。


ペロセポネは外部の情報…特に北方からやってきた人々から話を収集するようになっていた。

皇国が我々の動きに納得しているのか。

食料支援や人手の交渉するとして、どのように行うのが効果があるか。

見極めようとしていた。


そんな中で、気になる噂が増えてきた。


「西域の異教徒が、近い内に帝国を攻めるらしい」

様々な話を統合すると、だいたいこんな感じだと思われる。


西域の遊牧民が勢力を伸ばしているという。


エルゲン帝国との小規模な衝突が続き、

三国は盟約により相互援助の準備を進めているらしい。


皇国にも余裕はない。


───なんという幸運。


ペロセポネは思いを強めていった。

氏族がばらばらでは、小さすぎる。

南域という呼び名も、他者が付けたものだ。


北方には皇国があり、帝国があり、神聖国がある。


名は、存在の格を決める。


───我らにも、名がいる。

この思いが、歴史を大きく動かすことになった。

カクヨムにも掲載しています。

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