女王の苦悩
王国ペロセポネは小規模ながらも大勝をおさめた。
実質、ただのだまし討ちだったのだが、世間はそうは受け取らなかった。
ちまたではペロセポネをたたえる声が湧き起こっている。
しかし実態とかけ離れすぎた噂に、彼女は困惑を通り越して辟易していた。
…いや、重圧を感じていたという方が正確かもしれない。
「北方からやってきた大軍を壊滅させたらしいぞ」
実際には、少数の偵察隊が相手だった。
「なんでも、高名な将軍が率いる部隊を打ち破ったらしい」
「北方の力を削ぐため、女王の知略で歴戦の将軍をおびき寄せたのだ」
違う!
相手は将軍ではなかったし、何もおびき寄せていない!
「女王自らが戦陣を切った」
なぜそうなる…!
「すべて女王の計画通りだ」
私が、何を計画したというんだ。
人が死ぬことなど望んではいなかった…!
「『私が守る限り、王国が恐れるものは、もう何もない』と宣言したらしい」
それが本当なら、どんなに楽か。
しかし、冷静な自分が自分自身に問いかける。
『本当にそうか?これはおまえが望んだことだったのではないか?』
違う…。
『本当に復讐を考えていなかったか? 夫を死なせた相手に仕返しできて満足か?』
考えてなどいない。
ただ、平穏に暮らせればそれでよかった。
『望んで王になったのだろう?』
そうじゃない!
周りから推され仕方なく引き受けただけだ!
『周囲から推され、あがめられるのは快感だっただろう?』
…。
わからない。だが、やるしかなかったんだ。
『思い通りにしたいと日頃からぼやいていたじゃないか』
今のどこが思い通りだ…!
私に期待ばかり押しつけて、状況を悪くするばかりじゃないか。
人が死ぬ。相手だけじゃない。こちらにも死傷者は出た。
それをなぜ愉快なことのようにいえる。
この先、皇国はおろか神聖国もあとに引けなくなる。
なぜ無責任な人々には、それがわからないんだ。
『本音が出たな。だから、人々を思い通りにしたいんだろう?』
…そうかもしれない。
だが他人が思い通りになど、なるわけがない。
『おまえは、そう自責するふりをして、今回の人死にを利用しようと考えている』
そうしないと王国が立ちゆかないからだ。
『面子だろう?』
それの何がいけない!
指導者となったからには、国民を守るためにも、権威を作り上げなければならない。
『守る? 何から? だれを』
北方や敵からだ。
王国の人々を守るんだ。
『敵を作ったのは、おまえだ』
私はこちらから仕掛けるのには反対だった。
『決めたのは自分だろう。自分で言い出したくないから、提案を待っていたのだろう』
違う、わからない。
本当にわからない…。
『王国を守る? 王国を名乗っておいて、よく言う。独立宣言さえしなければ、どこにも敵はいなかった』
…それでも、それが最善だった。
ここまで来たんだ。そう思うしかないだろう。
彼女に重圧をかけるのは、周囲であり、民衆であった。
しかし、真に彼女を苦しめるのは、何よりも自分自身だった。




