ペロセポネの弁明
イコリは、ペロセポネの領についたとき、歓迎された。
旅の体調を気遣われ、個室と食事を用意された。
悪い方の予想は裏切られ、ひとまずはホッとした。
いきなり命を奪われたり、民衆から石を投げつけられるようなことはない。
一休みした後、ペロセポネとの面会室に通された。
数年前に会ったことはあるが、そのときの印象は「ずっと自分の顔色を窺っていた」ことだけである。
どのような人物だったか。
異性ということもあって、失礼にならない程度に、改めて眺めてみた。
衣服が普通ないもあるのだろうが「普通の女性」という印象だ。
もちろん、見ただけでは、すべてはわからないが…。
突然反旗を翻すような野心に燃えている感じはないし、
コミュニケーションがとりづらいような雰囲気もない。
ただ、思い込みだろうか。
目が違う。
目の奥に、何かを宿している。
油断はならない。
まずは自力で、ペロセポネ達の言葉で軽い挨拶をしてから、
今回の訪問の目的を話しはじめた。
まずは、領主同士がたびたび会合を重ねていることは事実なのか。
また、その目的は何かを確認すること。
率直に言って、神教国側は裏があるのではないかと
通訳には事前に事の概要は伝えてある。
この優秀な通訳はすらすらと彼らの言葉で説明した。
ペロセポネは、まずはカタコトの中央言葉で旅の労をねぎらい、体調に不備はないか心配する言葉をかけた。
イコリは恥じた。
言葉の問題があるとはいえ、親交を温めないまま、相手を疑うような発言は、ぶしつけだったかもしれない。
ペロセポネは「では、本題に入りたい。通訳はそちらの方にお願いしてよいか」という意味の中央言葉を言った。
通訳はうなずいた。
ペロセポネは「ありがとう」と礼をし、つづけた。
「まず、あなた方が事実をどう認識しており、何を問題しているのかを、より詳しく伺いたいのです。もし誤解があるまま話を続ければ、より深刻な誤解を招く危険があります」
「率直に言うと、我々政府側も見解は一致していません。だからこそ、実情を知るべきだと私はこちらに来ました」
通訳が伝えると、ペロセポネはうなずいた。
それを見て、イコリはだいたい次のような内容を伝えた。
神教国側に伝わっているのは、すべての領主が集まって何か談合をしている。これは公式ではなく個人的な意見だが、無断で集まると中央にとって良からぬ話し合いをしていると不安視される恐れがある。これも政府からではなく個人的な謝罪だが、干ばつへの対応策がまだ打てておらず、申し訳ない思いはある。おそらく、干ばつの対策を話し合っているのだと想像はしている。しかし、だんだんとペロセポネ個人の名前が神教国にまで知れ渡ってきた。自分自身の領だけではなく、他の領のことも指図しているとのこと。忌憚なく言うと、越権行為どころか、ペロセポネを中心に反乱を企てていると不安視する向きもある。その誤解を解きたいのが、政府というより自分個人の意思だ。
核心の「反乱を企てている」の部分は肝が冷えた。
しかし通訳は素知らぬ顔で伝えている。
ことの重大さをわかっていないのだろうか。それともやわらかい表現に変えてしまったか。
まあいい。この通訳とは長い付き合いだ。度々助けられた。信頼するしかない。
ペロセポネは聞き終わると、予想はしていたのだろう。
あまり動じた様子もなく、わざと困ったような顔をして見せた。
「こちらも率直に言いましょう。各領から何度も援助を申し出る通知を出しています。それに対してなんら実を結ぶ返事はいただいておりません。各領の不安は膨れ上がり、我らにとっても前例のない族長…全領主による会合を行うにいたりました」
通訳はすらすらと相手の意を中央の言葉に変換している。
ペロセポネの説明が、理路整然としており通訳しやすいのだろう。
彼女は、もともと聡明なのもあるだろうが、やはり回答を用意していたのか。
「会合では、中央にご迷惑をおかけしないよう、自分たちで対策を打とういう話になりました。それを明確に説明してこなかったのは、まさにあなたがおっしゃられたことが理由です。疑われるのを恐れました。報告しなければ、それこそ疑いが発生する。その通りです。しかし食糧危機への対応に追われ、説明のために情報を整理するのが間に合わず、申し訳なく思っております」
通訳はずいぶん熱心に感情をこめて代弁している。
この短時間で、彼女の弁に感化されたのだろうか。
そうだとすれば、やはり「普通の女性」ではなさそうだ。
「ただの領主代理に過ぎない私の名前がそちらにまで広まっているとのこと。驚きました。地域全体の困難に、一丸とならなければならない状況です。しかし領主たちには、各人の事情があり、思いがある。だれかが調停役にならなければならない。そこで、ただの代理であり、女性で、他の領主との利害関係もなく、当たり障りのない私が調停役を担わされたというのが経緯です。名前が知れ渡っているというのは、おそらく調停役としての立場が象徴として伝わっていっただけでしょう。実際の私自身には領主たちをまとめる権限も力もありません」
ただし…と付け加えた。
「その調停役としての日々の健闘が、これまでの我々の成果の一部にでも貢献できていると。そういった自負はあります」
さらに。
「たしかに報告が不十分な中、領主間で領地を超えて協力し合うのは越権行為だったかもしれません。しかし軍事的な協力関係は一切築いておりません。むしろ、朝貢が滞っていた件も解決しましたし、ここだけの話、だれかがまとめ役にならねば、領主同士の紛争にまで発展したかもしれません。不穏なたくらみどころか、政府への不利益を解決できたと考えています」
しばらく間があった。
イコリの言葉を待っているらしい。
「…わかりました。おっしゃることはもっともです。少なくとも、反乱を企図しているわけではないとう主張は理解できます。ただ、本国への報告のためにも、しばらく滞在させてください。可能であれば、そばでその調停役…?の政務も見学させていただきたいと思います」
ペロセポネは満足そうにうなづいた。
笑顔の奥に、強い意志を感じた。
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