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22/22

第22話 ハニートラブル

 

 夏目愛花ちゃん。


 小さい頃、快斗と一緒に居た女の子で………いつも、僕のことを快斗から陰ながら守ってくれていた女の子なんだ。


(体育館には、倉庫に穴がいてるって用務員さんが言ってた……それと放課後は、屋上の扉が開いてるから、あのお馬鹿さんたちは来ないから……よろしく)


(えっと……ねえ? 愛花ちゃん)


(何?)


 愛花ちゃんは、いつも素っ気なかった。誰に対しても淡々《たんたん》と接していたなぁ。


(何でいつも僕に逃げるアドバイスをくれるの?)


(何でって……その方が獣側の反応が見れてデータが取りやすいんだもん)


(……獣側……何それ?)


(ん? 実験対象物かな……色々な)



 成長した彼女を見て、そんなことを僕は一瞬思い出していた。


「それにしても……変わってないわね。蓮、昔のままだわ」


「え? 僕が変わってない? そう?……痩せて変わったと思うんだけど」


「中身の話よ、中身の……あら通知? ごめんなさい、蓮。電話でるから」


「う、うん」


 愛花ちゃんは、制服のポケットから、着信があったスマホを取り出して、かけてきた電話に出て会話をし始めた。

 

 相変わらず、マイペースな女の子だなぁ、愛花ちゃん。


「うん……うん……その実験結果は、私のパソコンの方に送っておいて。それじゃあ……ごめんなさい。知り合いからだったわ」


「あ、うん……愛花ちゃんも、西蓮寺学園に入学するんだね。すごい偶然だね」


「そうね……すごい偶然ね」


「愛花〜! 用事は終わったの?」


「あ、愛花さん。白銀君とお知り合いなんですか〜?」

 

 さっきまで楽しそうにじゃれ合っていた蒼唯さんと桜ヶ丘さんが、僕達へと近づいてくる。


「……相変わらず。空気の読めない親友達だわ。じゃあね、蓮。同じクラスだったら、また会いましょう。私達は先に行くわね」


「え? う、うん。また……」


 愛花ちゃんに一方的に話を切られちゃった。


 まさか昔の恩人に、こんな所で再会するとは思わなかったなぁ。


「もう行くの? バイバイ〜! 白銀君。せっかく知り合いになれたんだし、また話そうね」


「白銀君。これ、私の電話番号と住所です。どうぞ。連絡として登録しておいて下さい!」


「あ、ありがとう?……桜ヶ丘さん」


 蒼唯さんは元気に手を振られて、桜ヶ丘さんからは連絡先をなぜか貰ったけど。何で連絡先?


「待ってっ! 初対面でこんなの受け取れないよ。桜ヶ丘さ……居ない? 3人とも、もうあんなに遠くにいるし」


 僕が少しボーッとしていたら、3人は校舎辺りまで移動していた。は、早い……



「何? もう体育館に行くの? ていうか、白銀君と愛花って知り合いだったの? 元恋人とか?」


「こ、恋人!? そうなんですか? 愛花さん」


「…………違うわよ。蓮とは昔の知り合い、持ちつ持たれつの関係……みたいな感じ」

「え〜? 何その曖昧な言い方? 怪しい〜!」


「く、詳しく教えて下さい! 愛花さん!」


 3人が仲良く話してる。同じ中学校とかなのかな?


〖マスター、あの3人は何者なんですか?〗


「イヴさん?……ちょっと! またそうやって、女の子の文句言うのは駄目じゃないか」


〖文句ではありませんよ。マスター……これは、警戒です。いきなり、家族以外の女の子慣れしていないマスターに平気で話しかけてくるピチピチピッチ娘達に対しての警戒なのです〗


「ピチピチピッチ……スゴい言葉を生み出したね。イヴさん」


 その後イヴさんからは、あの3人のことについて根掘り葉掘り聞かれたけど。


 僕は、昔の愛花ちゃんのことしか知らないから、愛花ちゃんのことについて簡単に説明した。


〖動物好きで……マスターの恩人ですか?〗


「うん。僕を苛めてた快斗達から、陰ながら助けてくれていたんだよ。それに、僕と愛花ちゃんは小学生の飼育委員だったから、よく2人で動物のお世話をしたんだ」


〖……そうですか。ご質問に答えて頂きありがとうございました。マスター、入学式をお楽しみ下さい。それでは……〗


「え? イヴさん!?……一方的に話しかけて、一方的に居なくなっちゃった」


 イヴさんには色々と変な質問をされたけど。何だったんだろう?


「ツン……ツンツン……ツンツンツン……兄さん。随分と楽しそうだったね? 何をしていたのかな?」


「……真白さん?」


 僕の後ろに笑顔の真白が居た……とてもとても良い笑顔で。


 それで、僕はなぜか真白をさん付けで呼んでしまった。妹なのに、真白の圧に負けたんだ。今の真白怖いんだけど!


「あら〜? 真白ちゃんのライバルさん達〜? なら、私も立候補しようかしら〜?」


「な? そ、そんなの駄目っ! お母さんは立候補しちゃ駄目っ! 兄さんが赤ちゃんにされちゃうもの」


「え〜? 良いじゃない、赤ちゃん! 真白ちゃんみたいで。だいたい私、蓮が小さい頃、病気がちだった夢ちゃんに頼まれて、蓮をお世話してたのよ。懐かしいわ」


「……母さんが僕を?」


 ノ楽しそうに、そんな事を話す母さん。


 あぁ、そういえば、僕を産んでくれた方の夢母さんは身体が弱かったから、よく母さんにお世話になってたとか父さんが言ってたな。


 その頃の僕は身体が弱くて、生死をさ迷う危ない時期もあったとかで、母さんは僕の恩人なんだよね。


 義理の息子の僕を今でも家族として大切にしてくれてる。たまに過度なスキンシップはあるけどね。


 赤ちゃんおままごととかね。


「……なんか、色々と思い出しちゃった。ありがとう、母さん」


「まぁ……蓮は、真白ちゃんと違って本当に素直にお礼を言うわよね。大好きよ~!」


 母さんに頭を優しくでられちゃった。何だろう? 


 心の底から、母さんに甘えたい気持ちが込み上げてくるよ。


「マ、ママ───!! こんな所で何をとんでもない事を兄さんにカミングアウトしてるの! 恥ずかしいから止めてよ!!」


 真白が、僕達の間に入って止めに入ってくる。


 ……何だろ? 僕に母さんを取られたと思って、嫉妬したのかな? そうだとしたら、真白はまだまだお子ちゃまだね~!


「え〜? 何で? 別に良いじゃない。私達は仲良し家族なんだから〜!」


「仲良し家族だけど。駄目なものは、駄目なの! だいたい兄さんは、私のお兄ちゃんなんだからね」


「それを言うなら、蓮は私の大切な子供よ~! ねえ? 蓮~!」


「うわぁ! 母さん! いきなり何を!? 皆が見てるのに!」


「な?……お、お母さん! 私のお兄ちゃんになにするの~!」

 

 母さんが僕をいきなりハグしてきた。は、恥ずかしい……


「何だ?……三角関係?」


「入学式から修羅場かよ。スゴいな」


「つうか、女の子達、メチャクチャ可愛いな。男は、えない顔してるけど」


 僕達のやり取りを皆が注目してる。

 これは色々とマズいんじゃないかな? 入学式からこんなに目立つと悪目立ちしちゃう。


「ママは、いつもそうやって私からお兄ちゃんを取ろうとするんだからっ!」


「え〜! 良いじゃない親子丼でもする?」


「し、しないしもん。ていうか、親子丼って何?」


 まだ、じゃれ合ってるよ。真白と母さん、本当に仲良いなぁ……


「あら、やっと見つけました……おはようございます。白銀君、真白さんに……真白さんの妹さんですか?」


「え? いや、あれは、僕達の母さんですけど」

「お母様ですか? それにしては随分とお若いんですね」


「はい、そうなんですよ…て、あれ? 君は、西蓮寺さん?」


「お久しぶりです。白銀君、西蓮寺澪、これからは白銀君と真白さんの同級生です」


 にっこりと嬉しそうに笑ってる、可愛い笑顔だね。そして、西蓮寺さんの隣には……メイドさんが待機しているね。


 西蓮寺澪さん。数週間前、快斗達に攫われて僕が助けてあげた女の子。僕を西蓮寺学園に入学させてくれた恩人だ。


「おはよう、西蓮寺さん。久しぶりだね。制服似合ってるね」


「まぁまぁ、白銀君は相変わらず女の子を褒めるのがお上手ですね」


「いや、事実なんだけどさ……」


 西蓮寺さん。なんで、こんなに僕との距離近いんだろう。


「……お嬢様。体育館に急がねば、会長もお待ちですので」


「あら? もう、そんなお時間ですか。氷室さん……ごめんなさい。白銀君、せっかく再会できたというのに。この後、お父様の代わりに入学式の挨拶をしなければならないので、失礼します」


「え? あ、うん……分かった。真白、西蓮寺さんに挨拶しなよ」


 僕の後ろで、さっきからわちゃわちゃやってる真白に話しかける。


 そして、振り向くと……真白が母さんに……抱っこされてる。赤ちゃんみたいだ。


「ママ、真白が全部悪かったから許して……ごめんなさい。だから、あの動画を兄さんに見せるなんて言わないで下しゃい!」


「そうね〜、それじゃあ、今夜、真白ちゃんの新しい赤ちゃん動画を撮らせてくれたら許してあげるわ」


「ひ〜ん! なんでそうなるの? ママ〜!」


 なんか、赤ちゃんコントしてるし。


「……お忙しそうですね。真白さんには、後でまた、挨拶しておきますね。それでは失礼します。白銀君」


「う、うん、またね。西蓮寺さん」


「…………ふんっ!」


 何だろ? 西蓮寺さんの隣に立っていた、男装した執事ぽい人にすごく睨まれたんだけど。


「入学式が始まるそうそう、新しい知り合いができたり、再会したりして忙しいね……真白を連れて体育館に行くよ」


「はいなの。お兄ちゃん……ばぶあ」


「……ばぶあ? 何だい、その変な返事は、真白は今日、入学式で代表挨拶をするんだからしっかりしなよ」


 お母さんに、あやされていた真白を引き離した。そして、真白が可愛らしく親指をくわえて……しゃぶってる。


「……真白?」


「無理よ。蓮、今の真白ちゃんは、お母さんのせいで赤ちゃんに退化しちゃったんだもの!」


「な、何だって!? それじゃあ、代表挨拶はどうなるのさ?」


「あむぅ……お兄ちゃん、しゅきしゅき……ばぶぁ」


 真白が僕に抱き付いて甘え始めた。これじゃあ、完全に赤ちゃんじゃないか。


「フフフ、仕方ないわね。こうなったら、私が真白ちゃんになるわ。蓮!」


「はい? 母さんが真白になる。いや、意味が分からないよ。母さん……ちょ、何してるのさ、母さん!?」



◇◇◇


 西蓮寺学園。

 元は、政府が管理していた異能者育成学校なんだけど。


 大企業西蓮寺グループの会長、西蓮寺扇さんって人が、政府から権利を買い取って今年の春から開校した新学校なんだって……西蓮寺のお父さん、凄いね。


 そして、西蓮寺さんが、ステージの上で挨拶代理をしている。


 なんでも、西蓮寺扇さんは、今日の入学式には出席できなかったんだって。司会の人が言っていたよ。


『麗らかな春の日。この新設された私の学え……コホンッ! 失礼しました……ではなく。新設された異能者育成校である、西蓮寺学園で、未来ある異能の力を持つ皆様が、日々学んでいくことを願います。以上、西蓮寺扇会長より頂いたお言葉でした』


 西蓮寺さんの代理挨拶が終わると、体育館内から沢山の拍手が巻き起こった。


『西蓮寺澪様、ありがとうございました。続いて、代表挨拶……白銀真白さん。登壇して下さい』


「はい!」


 元気な声で、西蓮寺学園の制服を着た母さんがステージへと上がって行く。


 そして、堂々とした姿で入学式の代表挨拶を始めたよ。


 真白?……真白は……僕の右隣の席で、赤ちゃんになってるよ。僕の制服をちょこんと引っ張って可愛いね。


「まぅ……お兄ちゃん。ママ、あそこに居る」


「うんうん。前代未聞だよね。赤ちゃんになった真白の代わりに替え玉代表挨拶なんて、敢行かんこうしちゃうなんてね」


 息子の僕もビックリだよ、母さん。


『この春の良き日。私達は、この学舎まなびやで出会うことができました……』


「なんだ? あの可憐な女の子は……美しい」


「女神、女神が居るわ! 私達の目の前に女神がっ!」


「……なんか、あの指をくわえてる女の子に少し似てない?」


「全然似てないでしょう。今、挨拶している女の子の方が凛々《りり》しいもの」


 体育館に居る人達がざわついてる。そうなんだね。


 母さん、真白にそっくりの美人さんだもね。ざわつくよね。母さんも、なんか皆から注目されてノリノリだし。


「可愛い女の子だな〜! くちゅんっ!……鼻水出ちゃった……でも、ティッシュ無いんだった。どうしよう。どうしよう〜!」


 僕の左隣に座って男の子……だよね? ズボン履いてるし。ティッシュが、ないないと騒ぎだしたね。


「ティッシュ? 僕、持ってるよ。はい」


「ふぇ? あ、ありがとう。えへへ、君、優しいね。すごく嬉しいよ。」


 フニャけた笑顔でお礼を言われた。なんだいこの子の笑顔。破壊力が凄まじいんだけど。


「ど、どういたしまして……えっと君は……男の子だよね?」


「ふ〜んっ! お鼻スウスウする……男の子だよ? どうして?」


「いや……なんでもないよ。えっと、僕の名前は白銀蓮……それと、こっちは妹の真白。よろしく」


「まうしろ〜!」


 ……真白、そろそろ正気に戻ろう。こんな皆が見てる中で、赤ちゃんプレイは駄目だよ。


「へ〜! 君たち、兄妹なんだね。仲良しさんだね……ウチの名前は雨音あまねみこと、趣味でコスプレイヤーをやってるんだ。よろしくね〜!」


 コスプレイヤー? こんな可愛い男の子が?


「そ、そうなんだ。よろしく……雨音君」


「うん! ティッシュありがとう。白銀君」

 

 また新しい出会いがあった。そりゃあ、そうだよね。


 入学式だもん……そして、真白。そろそろ、元に戻ろう。皆の前で、お兄ちゃんに甘えるのは止めるんだ。


「あむぁ……お兄ちゃん〜!」


「……妹さん。シスコンさんなの?」


「いや、違うけど……」


 入学式が終わった後、真白は元に戻ってくれた。すごく恥ずかしそうにしていたね。


 そして、真白の代わりに代表挨拶をした母さんは、替え玉がバレて職員室に連行されていったよ。


 入学式早々、何をやってるんだい。僕の家族達は……


 ちなみに母さんは、入学式に現れた天使様とか言われるようになって、熱烈な男の子ファンを獲得。崇拝されるようになったんだ。

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