第13話「エピローグ」
「でもよぉ、良いのかコレで?」
熱く抱擁する親子に、ガブアスが水を差す。
「一件落着で良かったじゃないか」
「そうかぁ………う~ん」
「どうしたの? なにが気に掛かるのガブアス?」
リリーナが訊ねると、ガブアスはおずおずといった様子で口を開く。
「だってよぉ………。オレっちらはいままで魔物をたくさん倒してきたわけだし、四天王もやっつけちまったんだぜ? 後味が悪いっつーか………」
そういえばそうだった。
四天王は俺たちが倒してきたから、もういないのだ。
お互いの関係上、命のやり取りは仕方なかった。
しかし、こうして和解することを考えれば、多少やりすぎたと思わなくもない。
そんなことを考えていたら、抱擁を解いたデスロードがこちらの方を向いた。
「大丈夫だ。我が魔力を使えば、復活させることなど造作もない」
さすがは魔王。
なぜすぐに復活させないのかは分からないが、魔王を名乗るだけはある。
しかしガブアスの表情は、まだ優れないようだ。
「でもよぉ、いままで犠牲になった人間は………戻らねぇんだよなぁ」
「そうね………。宿屋のウェンデルに、近衛兵のゼップ。踊り子のミーナに、サイコパス西島。彼らはもう、帰っては来ないのよね………」
或いは勇敢に、或いは悲壮的に散っていった人間たち。
彼らが戻ってくることは、二度とない。
俺たちが消沈していると、再び魔王が言った。
「大丈夫だ。人間もいける」
「人間まで⁉」
「カメムシ以外なら復活は可能だ」
まさか………人間までとは恐れ入った。
しかしそういうことなら、問題はすべて解決だ。
「帰ろうみんな。僕たちの国へ!」
ミゲルが音頭を取り、デスロードを含めた俺たちは「おおー!」と歓声をあげた。あとは王への報告を済ませば、俺たちの旅は本当の終わりとなる。
魔王城を出た俺たちは、今度はいままでの道程を逆に巡った。
そして行く先々の町や村で、非業の死を遂げた者たちを復活させていった。
復活した魔物は魔王の言葉で長き戦いに終止符が打たれたことを知り、人間は俺たちが説得した。そうして俺たちは最後に、この地を統治する王のところへと向かう。目的はもちろん、報告と和平のためだ。
「勇者一行よ、よくぞ戻ってまいった」
謁見の間に通された俺たちに、王様はまず労いの言葉をかけた。
そして白く長い顎髭を撫でたあとで、魔王の方へ視線を向ける。
「大臣からすでに話は聞いておる。魔王殿よ、和平条約を結びに来られたと?」
「うむ、争いなど愚かなことよ。これからは人族と魔族、互いに手を取り、よりよい世界にしようではないか」
「それはこちらとしても、願ってもなきこと。さっそく、この国の民たちに通達することとしよう」
王は脇に控えていた小太りの大臣に目配せを送り、大臣は大きく頷いたあとで部屋の入り口に立っていた兵士に声をかける。
これで本当に、俺たちの旅は終わったのだ。
なんともいえない感慨深さが、俺の胸に込みあがる。
それは仲間たちも同じだったようで、その輝かんばかりの笑顔が物語っていた。
「ありがとう、みんな。おかげで世界は平和になりそうだよ」
「ガッハッハ! 一時はどうなるかと思ったけどな!」
「ほんと。でもこのパーティで良かったって、私は心からそう思うわ」
互いを称え合う言葉が、仲間の間を行き来する。
そのうち、勇者のミゲル………改め死神タナトスが、俺の前に立った。
「ありがとうマホケス。この平和は、君が僕と父の戦いを止めようとしてくれたからだ。君のおかげで、僕は最後に踏みとどまることができた。感謝するよ」
タナトスはそう口にし、右手を横にして差し出した。
本当は別の意図があったのだが、結果よければなんとやらだ。
俺も快く右手を差し出す。
「いいや、俺の方こそ。俺たちを導いてくれて、感謝する。お前のおかげで、辛くとも楽しい旅だったさ。でも………もう二度と家出はしないでくれよ?」
「ははは! ああ、誓うよ!」
笑いながら手を握り合う俺たちのとなりで、王と魔王も和議の握手を交わした。
これでもう、この地が争いに巻き込まれることもないだろう。
久方ぶりに家に帰り、義両親にたくさんの土産話を聞いてもらおうかな。
俺がそんなことを考えていた、そのときだった――――――
「緊急!! 緊急ーーー!!!!!!」
大きな声をあげながら、ひとりの兵士が玉座の間に飛び込んできた。
俺たちはあまりに突然な出来事に、石化魔法でも喰らったかの如く、体を硬直させる。
そのうち、大臣が咳ばらいをひとつしてから口を開いた。
「なんであるか騒々しい! 王の御前であるぞ!」
「は! も、申し訳ございません!」
「余ならば構わぬ。して、緊急事態とな?」
王様が訊ねると、兵士は二度ほど深呼吸をして呼吸を整えてから、まっすぐ王の方を見ながら言った。
「て、敵襲です!! 敵の軍勢が西の国境を破り、こちらの方へ進軍中とのこと!!」
俺たちの瞳は、皿のように丸くなった。
そのなかでも、デスロードの目は誰よりも大きく開かれていた。
「バカな⁉ 我が魔王軍には、もう戦いは終わったのだと通達したはずだ! そんなハズは……」
「魔王の言う通りだ! 戦いは終わったと、魔物たちに伝えているのを確かに見たぜ! オレっちたちが証人よ!」
ガブアスが兵士に詰め寄ると、兵士は困ったように目を泳がせる。
なにか言葉を選んでいるように俺には見えた。
「そ、それがその………………」
「それがでは分からん。はっきりと伝えるのじゃ!」
「はいぃ!! では………私が伝え聞いたこと、そのまま報告させていただきます!!」
兵士は深く深く息を吸い込んでから、一息のうちに洗いざらい、そのすべてを報告する。
「敵は魔物ではありません! 凄まじい身体能力の、得体のしれない連中です! 高い跳躍から火の息を吐き、自身の汗で火力を増大させ、毒矢すら効きません!! しかも視力や聴力が異常に優れているらしく、どこまでも追ってきます!! そして私には良く分からないのですが、自分たちは侵略者だと………。『マホケス星』という名の星からやってきた、そう言っているそうです!!!!」
兵士の報告が終わるのと同時に、いくつもの瞳が俺の方へと集中した。
タナトス、リリーナ、ガブアス。
そして王様と大臣、デスロードまで………怪訝そうな視線が俺の体に突き刺さる。
そうか、そうきたか………。
おそらく、その敵の弱点は回復魔法だろう。
なるほど、どうやら俺の旅はまだまだ終わらないようだ。
まだまだ大団円は遠かったようだ。
俺の頭の中が、新たな疑惑で埋め尽くされる。
そう―――――――――
『もしかしたら俺は、この星を侵略しにきた異星人なのかもしれない…………』
【勇者パーティの俺は、もしかしたら人型の魔物なのかもしれない ~完~】
最後までお読みいただき、まことにありがとうございました!




