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ガールズ!ナイトデューティー  作者: 高城 蓉理
はじまりの一歩
94/111

君が煽るのが悪い②

◆◆◆




 一体、俺はここ何をしに来たんだ……?


 吉岡はテレビを見ながら、ここまでの行動を振り返っていた。自分はもしかして本来の目的を忘れて、すっかりリラックスしてないか?

 ふと横を振り向くと、朱美はトレーナー素材の少し丈の短めのワンピース姿で、ソファーに腰掛けて歌番組を見ている。吉岡は既に満腹なので手をつけなかったが、朱美は目を輝かせながら土産のプリンを頬張っていた。



「百回堂のプリンは、やっぱり美味しっッ。吉岡、ありがとね 」


「どういたしまして。朱美先生が前にこのプリン好きだって言ってたから 」


「もしかして、わざわざお店まで買いにいってくれたの!? 」


「ええ、まあ…… 」


 ここに来てから小一時間、何だか普通の男女のような会話しかしていない。というより正確に表現すると、今日の朱美の空気感が吉岡に仕事をさせないのだ。

 仕事とプライベートの切り替えってこんなに難しいものなのか? と吉岡は思ったが、そもそも自分は長続きしないしないヤツらしいから、わからなくても仕方ないだろと勝手に開き直っていた。



「で、本題ですけど…… 」


「……えっ? 」


「ネームは進んでますか? 」


「吉岡、何か唐突だね 」


「まあ、一応今日は仕事で来たので…… 」


 朱美は少しの間、黙って吉岡を見ていた。

 その表情は何かに納得していないのか、眉間にシワが寄っている。だけど吉岡もここは引くわけにはいかない。こうなったら 全力で気づかない振りを突き通すしかない。暫くの間二人の無言の攻防は続いたが、こうなったらもう頑張るしかない。すると朱美の方は堪忍したのかハアと溜め息をつくと、サイドテーブルに置かれたクリアファイルから数枚の紙を取り出した。


「そんなに 仕事が好きなんだ 」


「先生こそ、そんなにネームが嫌なんですか? 」


「苦手だけど嫌いじゃない…… 」


 朱美は吉岡にネームを渡すと、あからさまに渋い顔をした。吉岡は嫌な予感を抱きながらも内容に素早く目を通してみたが、予想に反してネームの内容には主だった疑問点は殆ど見当たらなかった。


「どうかな? 」


「普通に良いと思いますけど…… 強いて言えばラストの構図ですかね 」


「やっぱりそうだよね。ラストはコマ割りも構図も悩んじゃって 」


「うーん、確かにここは煽るか横打ちか悩みますね 」


「そうでしょ? 」


 朱美はそう言うとコピー用紙を持ってきて、膝の上でいくつかのカット割りを描き始めた。ネームだから作画自体はそれほど描き込む必要はないのだが、朱美はいつも短時間でキャラの表情がわかるくらいには仕上げてくる。その一つ一つの作業は見慣れているはずなのに、ペンを手にした朱美の横顔は思わず目が離せなくなるのだ。


「ん? 吉岡、どうかした? 私の顔に何かついてる? 」


「いや、そんなことは……ない……けど…… 」


「そう? それなら別にいいけど。で、どっちがいいかな? 」


 朱美は二枚の紙を吉岡に見せてアドバイスを求める。

 一枚は吉岡の膝の上、もう一枚は朱美の膝の上に置かれていて何だかいつもと勝手が違う。

 それにしても今日は朱美と自分の距離が妙に近い。いつもは朱美は長ソファーにゴロゴロしていて、吉岡はだいたい一人掛けのソファーに腰掛けていれのだが、今日は何故か二人で横並びになっていた。



「あの、朱美先生 」


「何? 」


「最後のこの部分の構図だけ、保留でもいいですか? 」


「えっ? 」


「その、ちょっと慎重に考えたいんで。明日でもいいですか? 他のページは作画進めてもらって構わないんで…… 」


「いいけど? 」


 朱美は拍子抜けした顔でネームを受け取る。

 そりゃ、普段即断即決で容赦なく駄目出しをしてくる人間が 少し考えたいからとネームを差し戻してきたら、不審にも感じるだろう。

 朱美は怪訝な表情を見せたが、またそれを後生大事にクリアファイルに戻すのだった。











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