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ガールズ!ナイトデューティー  作者: 高城 蓉理
ネクストワールドⅢ
63/111

ドキドキ!台湾!

ーーーーー



2泊3日の台湾滞在はあっという間だった。

身体が昼間の生活に戻った頃には旅は終わってしまう。何だか嵐のような滞在だった。

茜は暇をもて余していた。集合時間はホテルのロビーに14時なのだが、チェックアウトは11時だったから無情にも部屋は追い出されてしまっていた。里岡と峯岸が何をして時間を潰しているのかは知らないが、連日の暴食で食事に行く気にもならないし、かといって観光に出掛けるにも中途半端な時間帯だった。茜はホテルのロビーでソファーに腰掛けると、最近桜にお勧めされた作家の本をペラペラとめくっていた。


南国の室内は寒いくらいにクーラーが効いている。茜は流石に少し寒さを覚えながらも、カーディガンを羽織ながら本を読んでいた。文庫本をじっくり読むなんて久し振りだったが、物語を通して桜の内面が垣間見えるような気がして、それはそれで興味深かった。

予想に反して茜は本に集中していた。異国の地でもくもくとページを捲り本を読む。何をいっているかはわからないが、雑踏が遠くに聞こえる。茜は没頭しながら、すこし先を急いでいたのだろう。ページの最後に挟んでいたハズの栞が落下したことにも気づかず、完全に話に夢中になっていた。






「御堂さん、出掛けなかったの……? 」


急な日本語での問いかけに、茜はビクリとした。ゆっくりと頭上を振り向くと、そこには林の姿があった。


「うん、時間が中途半端だったから…… そうゆうリンリンこそ、来るの早いじゃん…… まだ集合の二時間前だよ 」


「……俺はただの気まぐれ。ここのホテルのロビー好きだから 」


「……あっ、ありがとう 」


林は栞を拾いながらそう答えると、茜の隣のソファーにゆっくりと腰掛けた。


「御堂さん、台湾はどうだった? 」


「そうだね…… 食べてばっかりいたから 」


感想を求められたところで、茜にはまだよくわからなかった。幕開けはトラブルから始まったし、食べてばかりいたし時差ボケも地味に堪えた。 観光らしい観光はしてないし、唯一昨日の足ツボツアーを除いては、食べる以外のイベントはなかった。まぁ、あれは思い出とゆうか普通に騒いだだけだったけど……


「まぁ、台湾のイメージはおいしい場所ってことにつきるよな。俺もこんなに食い物屋ばっかり案内したのは初めてだったし 」


「まぁ、今回はそうゆう企画だから 」


茜は苦笑いを浮かべると、パタリと本を閉じた。そもそもここには仕事出来たのであり、自分のことなど二の次だった。



「……御堂さんさ、もしよかったら、今からちょっと外に出ない? 」


「へっ?」


「別に飯食いに行く訳じゃないよ。ちょっと気分転換兼ねてさ 」


「でも…… 帰りの便が…… 」


「大丈夫、行って帰ってくるだけだから。俺、帰りは運転手兼ガイドだから車で行けるし。それに…… 」


「それに……? 」


「せっかく外国に来たんだから、思い出はひとつでも多い方がいい 」


林はそう言うと茜のショルダー鞄の紐を掴んだ。


「ちょっ、何するの? 」


「何って…… 君を車に案内するんだよ 」


林は茜を半ば引っ張るように誘導すると、スタスタと歩き出した。ホテルの裏口から地下駐車場へと抜けると、年期の入ったハイエースに茜を案内した。白のハイエースのサイドには林国際旅行社と書かれていて、何とも目を引く光景だった。



「林国際旅行社……? 」


「あぁ、うちの会社の車だから 」


「えっ?リンリンって、もしかして会社の社長なのっ!? 」 


茜は思わず声を上げていた。自分と同世代なのに会社を立ち上げて、日本のTV局御用達の旅行会社とならば凄腕じゃないか?茜は思わず畏敬の念を抱いていた。すると林はぷぷっと軽く吹き出し、その茜のリアクションを一蹴した。


「まさか…… うちは父親が始めて、親戚で小さくやってる中小企業だよ。俺は平社員だし 」


林は少し笑いを堪えながら助手席を開くと、茜をエスコートした。そして林は運転席に乗り込むと、鮮やかなハンドル裁きで地上へと繰り出した。


台北の街は今日も相変わらず車で溢れていた。信号にもよく引っ掛かる。だがこの度に林は車窓越しに、あれは歴史のある寺だとか建物だとか解説をしながらドライブをしていた。


「そろそろ右側に見えてくる建物は台湾総統府。御堂さん、スマホ立ち上げるなら今だよ。すぐ過ぎちゃうから 」


「う、うん 」


茜はそういわれて慌てて鞄からスマホを取り出すとら右側に照準を合わせた。すると林は気を付けてといいながら窓を半分ほど開けてくれて、その建物の色をハッキリと捉えることができた。


「……なんか、東京駅に似てる 」


茜はスマホを構えながらも、自分の目で窓からその眺めを眺めていた。


「そうだね。俺は逆に東京駅を見たとき、総督府に似てるなーと思ったけどね。時間帯によって見学もできるから、また機会があれば見に行くと面白いかもよ 」


「リンリン、今日なんか饒舌だよね 」


「そう……? 」


「うん、なんかよく喋るし親切だし…… 」


「そうかな。まぁ、昨日は取材のスケジュールで忙しかったし、一昨日は君は眠そうだった。本来のツアコンのスキルを披露するタイミングが今までなかったんだよ 」


「なっっッッ 」


茜はムクッとしながら林を振り向いた。林は前を向いたまま手を口元に当て、必死に笑うのを堪えていた。クルマは赤信号で丁度減速している。車が停車している隙に、茜は文句を言おうと身構えた。

車が停車し茜は口を開こうとした。そのときここは路上だというのに、運転席の向こうで一人の女性らしき人が何やら近づいてくるのが見えた。


「リンリン…… 窓の向こうにいるのって人? 」


茜は軽く指を指しながら、驚きを隠せなかった。女性はベールのような帽子をまとっていて、車と車の間の隙間を縫うようにしてドライバーに声をかけまくっていた。


「ああ、あの人は花屋さんだよ 」


「お花屋さん? 」


リンリンはそう言うと窓を開け、女性に声をかけると、白い花の束を購入して窓を閉めた。


「これ王蘭花ってゆうんだ。香りがいいんだよ 」


そう言うと林は花の束を茜に手渡した。茎や葉は落とされていて、花の部分が3つほど針金で簡易的に結ばれている。


「いい香り…… フローラルで、でもくどくなくてさっぱりした香り…… 」


「御堂さん、さすがアナウンサーだね。的確な香りの感想だよ。王蘭は車の消臭剤にもなるし、家に置いておけば芳香剤にもなる。お茶の香り付けにも使うし、天ぷらにして食うこともある。俺らにとっては、かなりポピュラーな花かもね 」


「そうなんだ…… じゃあこれ、吹き出し口にでも結んどこうか? 」


茜はそういいながら少し身を乗り出すと、車のクーラーを覗き込んだ。別に車が臭いと思うことはなかったが、針金で固定すればいい働きをしてくれそうだ。するとそんな茜の様子を横目で見た林はこう答えた。


「あはは、まぁそれでもいいけどね でも、せっかくだからこうしたら? 」


「えっ? 」


それは一瞬の出来事だった。

林はそういって茜の膝にあった鞄を手に取ると、そのファスナーの引き手に花をくくりつけた。


「検疫で引っ掛かるから、数時間しか楽しめないけど。生花のキーホルダー、可愛いと思わない? 」


林はそういいながら鞄を茜に手渡すと、また前を向きアクセルを踏んだ。


「あっ、ありがとう…… 」


「どういたしまして 」



林はいつも通りの表情、そして態度だった。きっと彼にとってはこれは日常で、仕事のヒトコマに過ぎないのかもしれない。


だけど茜はにとっては……

急な出来事だった。


不意に優しい……

自分にだけ向けられた優しい……


茜はいつの間にか熱くなってきた顔を誤魔化すように、またスマホを窓の外を向け始めた。







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