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ガールズ!ナイトデューティー  作者: 高城 蓉理
番外編 ファイナルディスタンス
55/111

遠くて遠くて近い

神寺朱美(創作ネーム 神宮寺アケミ)

と、

担当編集者 吉岡のテレワークの日常








「先生…… 原稿進んでますか? 」


「……ったく、ちゃんと描いてるから。ってゆーか、スカイプ切っていい? 」


「駄目です…… 」


「……ってゆうか視線感じて、集中できないんだけど 」


「わかってます?締め切りは明後日ですよ。申し訳ないけど、今回は先生一人で原稿仕上げてもらわなきゃならないわけですし、僕にはこうやって監視するくらいしか応援もできませんから 」


「はぁ……? 」


朱美はここ数週間、たった一人で自宅でひたすらテレワークに励んでいた。こんなご時世だから、伊藤ちゃんにもマリメロンにも、出勤してもらうわけにもいかない。原稿をデジタルに切り替えリモートワークでアシスタントに助けてもらうことも考えたが、長くアナログでの作品作りに拘っていた手前、途中でデジタルに切り替えると作風が大きく変わってしまうこともあり踏み切れずにいた。


朱美はため息をつきながら、画面の向こうの吉岡をチラリと確認した。彼は珍しく縁のある眼鏡を掛けて、何やら資料を眺めていた。殺風景な自宅であったが、背景にはびっしりと単行本やら漫画が敷き詰められた本棚があって、少しだけ生活感が見えるような気がした。

彼はもうすぐ日付が変わろうかとゆう時間なのに、まだパソコンで何やらカタカタ作業をしていた。作業が進まない状態の情けない朱美を手ぶらで監視するわけにもいかず、彼も仕事をしながらスカイプをしているのだろう。

遠回りな彼の気遣いに気づいてしまった手前、朱美はカメラを明後日の方向に向ける気にもならなかった。



「吉岡…… もう遅いし切るよ…… 」


「ちょっ、朱美先生っ……!? 」


朱美の呼び掛けに、吉岡はビクリと驚いたように声を上げた。

自分は漫画家だ。孤独を自分で選んで仕事にしたのだ。彼の気持ちに甘えてばかりではいけないことは十分承知していた。



「私、ちゃんとするから。全国のみんなに、少しでも気分転換してもらえるように頑張るから…… 」


朱美はそう言うと、スカイプを強制的にログアウトした。いったい何時間、こんな状態を続けていたのだろうか……

朱美は恐る恐る接続時間を確認した。その数字は自分が体感するよりも、よっぽど長い時間だった。





ーーーーー



今、何時だろう……

カーテンの間から、朝日が漏れている。


椅子に座ったまま寝てしまうと、体のあちこちから悲鳴が上がる。いろんなところから、ボキボキと関節が鳴る音がした。朱美は無理やり目を擦りながら、卓上にある時計を確認した。

朝……5時か……


どうやら自分は少し仮眠をしてしまったらしい。



日付は回ってしまった。

締め切りは明日の9時。もう30時間も残ってはいない。いよいよ焦るとゆう感情が頭を過り始めるような気がした。


取り敢えずペン入れだけでも完了させないと……

朱美は部屋の明かりをマックスにすると、すぐさまペンを探した。手のひらは昨日からの続きで、既に黒く汚れていた。



ペンを手に取ろうとしたそのとき、スマホがブーブー鳴っていることに気づいた。仮眠を取る前に自分は無意識にアラームでも設定したのだろうか?

朱美はスマホを手に取り内容を確認した。

そのバイブは目覚ましではなく、一本の電話だった。




「もしもし…… 吉岡?いま何時だと思って…… 」


「……先生? 原稿進んでますか? 」


「吉岡、いま朝の5時だよ…… 吉岡までモグラ生活始めたの? 」


「どうせリモートワークしてるんです。午前中は寝ててもバレません 」


「……ったく 」


「先生…… ドアノブに差し入れ引っ掻けてありますから 」


「へっ……? 」


「どうせちゃんと食わないで仕事してるでしょ?見てればわかりますよ 」


「なっ…… 」


「あと、またお昼くらいに電話しますから、それまでは先生もたまには仮眠は取ってください。じゃあ 」


「ちょっ、吉岡…… 」



電話は唐突に切れ、朱美は思わずスマホを二度見した。

何となく、吉岡の電話の向こうからはトラックのエンジン音が聞こえたような気がした。朱美はハッとし廊下を駆け出していた。そして気づいたときには玄関のドアを開けていた。


「これって…… 」


ドアノブにはコンビニの袋がぶら下がっていた。朱美はそのビニールに手をかけた。中にはシュークリームが二つ、そして菓子パンとサンドイッチが入っていた。



「吉岡の……バカ…… 」




ここまでされたら、いろんなことに言い訳ができなくなるじゃないか……

朱美はグイっと服の袖で顔を拭うと、マンションの廊下から下の道路を覗いた。そこには単車に跨がり、ヘルメットを被る男性の姿があった。


朱美はその彼をただただ見つめていた。

自分で選んだひとりぼっちの仕事。

だけど本当は一人じゃ何もできなくて、支えてくれる人がいて、自分は生かされている。

ありがとうでは表現しきれないこの感情は、一体何なんだろうか……


朱美が見つめた先のバイクの男性は、こちらをチラリと振り向くと小さく会釈をした。ヘルメット越しの彼の表情は見えなかった。


朱美は一瞬だけその単車の彼に満面の笑みで手を振ると、見送ることはせずに部屋に戻った。


吉岡め……

良かれと思って差し入れをしてくれたんだろうけど、私の感情は乱れてばかりだ。

朱美は部屋で一瞬だけ天を仰ぐと、一口だけシュークリームを頬張った。


その味は甘くて、まだ冷たくて……

少しだけ涙の味がした。









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