ロミオを見つけたジュリエット
「近寄らないで!!」
光希に包丁を突き付ける嵐子が奇声を発した様に叫んだ。
どうしてこうなった??
時は戻り数時間前・・
桜は光希に借りていた物を返す為待ち合わせていたところ、通り掛かった嵐子に呼び出され理科室に来ていた。
「どうしてなのよ!
どうして桜に振られたのに私が告白してもダメなの!」
半狂乱の嵐子は桜に詰め寄る。
「どうしてと言われても、それは
本人に聞いてみなよ」
「私なら光希の事を何でも知っているのに、一番の理解者なのに!
どうしてあんたなんかに!」
「あんたなんかって・・」
この人ヤバイ、早急にこの場から逃げないと
と思案していると嵐子は背中に回していた手を前方に構えた、その手には包丁を握りしめ。
「工藤さん、本気?やってる事わかってる?」
桜は動揺せずに嵐子に問う。
「なによ!私に勝ったからって忌々し女!貴女がいなければ私は今頃、光希と!」
嵐子がその包丁を振りながら迫ってきた。
「ちょっっ!あぶないって!」
桜は器用に躱しなが距離を置く。
はぁぁ、祖父に格闘技習ってて良かった〜。
桜の祖父は空手の道場を営んでおり
桜も幼少期から道場に通っては空手を習っていた、昔は光希がイジメられているところを桜が助けていた事も多かった。
しかし相手は刃物、桜も反撃できずに遂には理科室の隅に追いつめられてしまう。
「大人しくいなくなってよ!桜!」
包丁を強く握りジリジリと距離を詰めてくる嵐子。
「せっかくやり直したのに死んでたまるか!」
桜も覚悟を決め構える。
とのその時・・
「桜っ!!」
ガラッと扉が開かれ、そこには光希が息を切らし心配そうな顔で入ってきた。
「光希!?来ちゃダメ!」
桜が慌てて反応するが位置的な問題もあり、嵐子が先に光希の所へ到達した。
嵐子は光希の傍に行くや光希の背後に周りこみ首元に包丁を突き付けた
そして今に至る・・
「近寄らないで!!
桜、光希の事助けたかったらわかるわよね?」
嵐子が光希の背後でニヤリとほくそ笑む。
「嵐子やめなさい!本気で怒るよ!」
桜も光希を盾にされた事で我を失いつつあった。
「桜、辞めるんだ!」
「!?なんで、私?」
「だって桜が怖い顔した時は絶対
良くない事が起こるから・・」
光希もまた桜とは付き合いが長く
お互いの長所、短所を良く理解していた。
「それより光希はどうしてここに?」
「桜が待ち合わせにこないなんてあるはずないから慌てて片っぱしから探したんだ」
「光希、あんたってバカだね」
桜が呆れて肩を竦めていると放置され気味で痺れを切らした嵐子が暴挙に出る。
嵐子は光希を包丁で斬りつけ突き飛ばすと今度は桜に振りかぶった。
「二人とも私の前から消えろぉぉ」
錯乱した嵐子が桜を斬りつけようとしたその時!
桜は嵐子の振り降ろされた刃物を躱し嵐子の顔に強烈な拳を叩き込む。
嵐子も産まれて初めての激痛に耐え切れず吹き飛ばされた。
「いたいじゃない!」
嵐子は左頬を抑え身を起こしながら
絶叫した。
「だまれ・・嵐子、あんた殺すよ?」
振り抜いた拳を元に戻すとフラフラと嵐子に近付く。
「くるなぁぁぁぁ!」
嵐子が包丁を前に構えると全力で桜を突き刺そうとした。
桜も虚ろな目をしながらも迎撃しようと構える。
だが次の一瞬・・
ドスッと鈍い音と共に真っ赤な水滴が床を濡らす。
「光希!?」
「光希くん・・どうして・・」
二人の間に割って入ったのは光希だった、苦痛に顔を歪めフラフラと膝から崩れ落ちるのを桜が慌てて支える。
嵐子は力なく膝を付き正気を失っていた。
「光希・・なんで?」
「・・桜が、傷付くのが怖かった・・」
「私なら大丈夫だったのに・・」
「あんなのを・・殺して、桜が背負う事なんか・・ないんだ」
あぁ、そうだった・・
光希はいつだって私優先で自分の事より私の事を考えてくれる人だった
今ならわかる、本当に大切にしないといけない人間てのは案外身近にいていつだって支えてくれていたのだということ。
私は光希が好きだ・・
失いたくない・・
「みつきぃぃ、死なないでよ・
光希がいなくなったら
私・・私」
「傍に、いるよ・・」
そう言うと光希は静かに目を閉じた
「みつきぃぃぃぃぃぃ!」
桜は光希を抱えて今まで泣かなかった分、全力で泣いた。
いやだ、いやだ、光希はいつだって
私が泣いていたら来てくれた・・
傍にいてくれた・・
強がっていた私を救ってくれたのはいつだって光希だった・・
私が気がつくのはいつだって遅いのだ、失ってから気付くなんて・・
人生をやり直して不幸になるどころか最愛の人を失うなんて・・
それから嵐子は光希が呼んでいた先生達に捕まり警察に引き渡された。
救急車で搬送された光希も集中治療室に入り出てこない。
桜は心身共に疲れ切っており病院の
待合室にあるソファーで眠りについた。
そこで桜は夢を見る。
「やぁ、久しぶり。
どうかな?第二の人生は」
「あぁ、神様ですか・・」
「おや?元気がないね」
「もう、私の人生も終わりにしてください・・」
桜が人生の終了を望み神様にお願いすると神様はクスッと笑い聞いたような事を言う。
「君は今、不幸かい?」
その言葉に桜は覚醒した。
「これ以上の不幸はありませんよ
この不幸を差し上げますので・・
どうか光希を・・光希を」
「その言葉を待っていたよ。
やっと自身の幸せより他者の幸せを考えてあげれるようになったんだねさぁ、帰るといい。
今の君には帰る所があるようだ。」
「神様、ありがとう」
桜はいつの間にかソファーで眠ってしまっていたようで、飛び起きた。
すると廊下が騒がしい、桜は慌てて
廊下に出ると一人の医者を捕まえ事情を聞く。
「少年が息を吹き返した!こんな事は奇跡だ!」
そう言うと医者は光希の居る部屋に入って行った。
桜は泣き崩れた、光希や医者、神様に感謝して「ありがとう」となんども呟き泣いた。
そして1年後・・
「光希・・光希、起きてよ」
「う〜ん、あと五分〜」
「遅刻するよ〜!」
現在は桜が光希を起こしに来ている
あれから光希は順調に回復し学校に通える程度にはなった、しかし時々
体調を崩す為、心配でならない桜は毎日通い妻の様に世話をしている。
あの様な事があり、すっかり心配性になった桜は光希を教室まで見送ると自分の教室に入った。
「おめでとう!桜っち!
あれから告白して通い妻してるんだって〜」
「通い妻って、私のせいだから世話してるだけなんだから!」
「はいはい、お熱い事で」
「勝手に言ってろ!」
そう言って桜は窓を開け空を眺めた
「神様ありがとう、私は幸せです」