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2ー9 火を纏う者

 とうとう唯一結が自分の実力を示すことのできる五時間目、体育、練習試合の時間になった。


 体育の授業を行うのは当然のことだが教室ではなく第二訓練室で行われる。そのため二年一組一同は第二訓練室に集まっていた。


「それでは体育の授業を始めたいと思います。体育ではいつも通り一体一の模擬戦を行いたいと思っています。まず一組目やりたい方はいますか?いないのであればこちらで決めるのですが」


「先生、私がやりましてよ」


 先生の問いかけに即座に反応したのはクラス委員的な存在ことアリスだった。


「アリスさんですか。対戦相手は決まっていますか?」


「えぇ、決まっていましてよ。音無さんとやりたいと思っていますわ。よろしいですわよね?」


 アリスは取り巻き達を結の周りに配置して共に脅すかのように睨みつけていた。


(今までのパターンからしてそうなるのは誰だって予想できるって。……さてと生意気な小娘を粛清するかな)


 今までにされたアリスの嫌がらせでストレスが溜まっていた結は心の中で毒を吐きながらアリスの提案を呑んだ。


「そうですか。それでは第一試合アリスVS音無結花、両者前へ……それでは試合開始っ!!」


 結とアリスは訓練室の中央に十メートル程度離れて立つと結は全身から余計な力を抜き脱力した。アリスもSランクは伊達ではなく体に余計な力が入っているのは逆に良くないことに知ってるいるのか結同様、脱力していたが構えを取らない自然体でいる結に対してアリスは右足を後ろに引き腰を落とすと右手を腰に左手を開き掌を相手に見せるように構えていた。そして先生の開始の号令と共にFランクVSSランクという前回行った結と剛木のFランクVSAランクを超えるランク差の模擬戦が始まった。


「行きますわよっ!!」


 アリスは開始と同時に体重を前に寄らせると身体強化を発動しながら体重が前に寄ったことによって少し浮いている右足と後ろに引いている右手に幻力を集めた。


『火速』


 アリスは右足の裏で火を爆発させるとその爆発と火を使ったことから恐らく火曜の性質だと思われる身体強化、火曜の特性である強化により通常の身体強化よりも爆発的に強化された脚力を使いほんの刹那の瞬間に十メートルは離れていた距離を詰めた。


火拳(ひけん)


 アリスは右手に集めていた幻力を使いその拳に火を纏わせ燃える拳となった右手を自然体だったためガラ空きになっている結の心臓に向かって突き出した。


「くっ!!」


 結はアリスの拳に当たると遙か後方へと吹き飛ばされてしまっていた。それを見ていた先生を含めたクラスメイト達はあぁとでも言いたげな顔で「ぷぷ所詮Fランクの劣等生だもんねぇ」「アリス様のお活躍がほとんど見れませんでしたね」などと結を中傷するような事を口にしていた。


 アリスはヒットの瞬間勝ち誇った顔になると即座に怪しむような表情になっていた。


「拳から伝わる手応えと違和感がありますわね」


 アリスは軽く握り締めた右手を眺めながら呟くと吹き飛ばされたはずの結の方に視線を向けた。


「……なぜ……無傷なのかしら?」


 アリスが若干驚いた表情で見つめた先には体に付いた誇りを手で払いながらトコトコと無傷で歩く結の姿があった。


(ふぅ、危ない危ない。思ってたより速いな。結花をセミジャンクションしてなかったら間に合わなかったな)


 セミジャンクションとは完全なジャンクションではなくジャンクション状態をあくまで結の状態のまま演技した状態の事だ。演技とはいえそれは超人の真似事通常時より微かにでも上がっていた格闘センスに頼りにしてあるテクニックを披露していた。

 それは自分の腰を軸にしてアリスの拳の当たった心臓部分を含めた上半身を後ろに転ぶように引きながら前回の人型イーターとの戦いの際に見せた相手の突きの勢いを利用して加速させたバク転蹴りと同じ要領で地面を力強く蹴り後ろに飛んでいた。

 つまり結はアリスの攻撃によって吹き飛ばされてしまっていたのではなく自分で飛んでいたのだ。アリスの感じた違和感はほとんど手応えを感じていなかったにも関わらず派手に結が吹き飛んでいたからだ。


 アリスはその違和感から結が自分で飛んだのではないかと思い至っていたがそれはFランクどころか幻操師の平均Cランクでさえ出来るか怪しいそんな上級者の技術だ。だからアリスはそれをFランクである結が出来ると思わなかったいや思いたくなかったのだ。


 実力があるものは相手がいくら隠しているとしてもその実力をなんとなく計ることができる。しかしアリスは結がそんな強さを秘めていることに気が付く事が出来ないでいた。それは結が自分より遥か上の実力を持っていることを表している。


 実際はジャンクションによって実力を底上げしているから通常時は完全にFランクの実力しかないため気が付く事が出来なかっただけなのだかそのことを知るはずもないアリスは動揺してしまっていた。


 Fランクの平民風情が自分よりも上の筈が無い、選ばれた存在である私がこんな劣等生より劣るわけがない


っと。


 アリスの心の内に気が付いていないクラスメイト達は「平民風情がアリス様の火拳に当たって立ち上がるなんて生意気ですっ!!」「さすがはアリス様、我々観客のために手加減して華麗な戦いのもっと見せてくださるのですねっ!!」などと結に散々な事を言っていたり逆にアリスは的外れな深読みをされて賞賛されていたりしていた。


「ふぅ、さてと試合開始と行きましょうか」


 アリスの前方約十メートル、試合開始時と距離になるまでゆっくりと歩いて近付いた結は警戒しているのか動かずに最初と同じ構えで結の様子を見ているアリスに視線を合わせながら両の手を合わせた。


(さてと、ストレス発散といきますか)


『ジャンクション=サキ』


 結は目を閉じふぅーっと息を吐くと目をゆっくりと開けながらジャンクションを発動させていた。


「おい、女」


「っ!?」


 ジャンクションによって思考の塗り変わった結の急激な口調の変化に驚くアリスを置いて結は鋭い目でアリスを見据えた。


「壊してやるよ」


「なっ!?」


 結はセリフを終えると同時にカナが拳銃、ルナが双刀を発現させたのと同じように両手から細い何かを発現させるとそれを全身に張り巡らせていた。この動作を一瞬で終えた結は腰を落としてまさに一瞬力をためるとアリスに向かって突撃した。

 それはまさに試合の開始時にアリスが結にやったのと同じ様なスピードいやこれは完全に同じスピードだった。

 まるでわざとやっているかのように。


 結はアリスの目前まで移動するとその勢いを殺さぬように直進運動を回転運動へと変化させその回転力を利用した回転蹴りをアリスにへと放った。


「くっ!!」


 アリスは両腕の身体強化の出力を上げるとその両腕で結の回転蹴りをガードするがその圧倒的な勢いに押されてしまい今度はアリスが吹き飛ばされいた。


 さっきとまるで逆の展開にクラスメイト達は「アリス様っ!!」「そんなっ……」などと焦った声を漏らしていた。


 それに比べ結の仲間である桜はその顔に驚きを映しながらも声などは出さずにその光景を嬉しそうに見ていた。とはいえその表情には驚きと歓喜以外にも疑惑の感情が見て取れていた。


(初めて生十会に連れて行った時に見せてくれたのは確かカナって言ってたっけ?それに人型の時にはルナって聞こえた。そして今度はサキ?……どれだけのことを隠しているんだろ……)


 桜はどこか悲しそうにしていた。


「ウフフ、なかなかやりますわね平民」


 アリスは吹き飛ばされて埃をかぶってしまった制服をはたきながら結に向かって歩き出すとその目には最初の余裕に満ちた目ではなく対等又はそれ以上の相手との戦いを想定した本気の目になっていた。


(瞳の輝きが変わった、体に纏う幻力もどこか力強くなっている気がするし……はぁ……これからが本番ってか?)


 回転蹴りをした後そのまま空中で一回転して着地した結は瞳の輝きが変わり本気になった様子のアリスに認められたのかと内心喜びながらもサキの影響で相手が強くなってしまい面倒臭く思っていた。


(サキは威圧的になり若干戦闘狂にもなるけどその反面格下を嬲ることを好むからか相手が強くなるとだらけるんだよなー、それにアリスは火を使う……相性悪くないか)


 サキの力は専ら強化された膂力による肉弾戦、それとは別に武器を使った戦い方も出来るといえば出来るがそれも基本的に強化に使うため火でガードでもされたら攻撃した部分が焼けてしまう。


(まぁいいや、とりあえずやろ)


 サキの影響でノリが凄まじく軽くなっている結は背伸びをしながら自分もまたアリスとの距離を詰め始めた。


「正直な話ここまでやられてしまうなんて少しも思っていませんでしたわ」


 アリスは結との距離を詰めながら突然結に話し掛けていた。


「さっきまではどこか油断していましたわ。ですがここからは全身全霊を込めた全力で相手をしますわ」


心装(しんそう)攻式(こうしき)


 アリスがなにかの術を発動するとアリスの全身にからさっきとは比べものにならないほどの量と質を持った幻力ではない別のなにかに思える力を溢れ出させていた。


 その力を見てクラスメイト達は怯えた表情を先生は驚きに満ちた表情をしていた。そして桜は「あれって……」っと先生と同じく驚いた表情で呟いていた。


「不思議な不思議な指空き手袋、それがこれの名前ですわよ」


 アリスの全身から溢れた力は両腕に集まっていくとその手に指先の露出した手の甲に金属製に見えるエンブレムの付いたグローブが発現されていた。


「第二ラウンドと行きますわよ?」

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