2ー8 追憶の欠片
休憩時間は一時間にもおよぶため暇を持て余していた結は生徒に気が付かれないように気をつけながらR•Gマスター室へと向かっていた。
「あら?珍しい格好ですね」
「……双花が着せたのではありませんか」
マスター室に入った途端双花に面白そうに微笑みながらワンピース型の制服を着た結に向かってからかうように言うと結は思わず結花のキャラを作ったままツッコミを入れてしまっていた。
「法具外したらどうですか?」
「……そうします」
結の女装は単純なカツラと特殊メイクなどによるものではなく三つの特化型法具を使った幻操術による女装だ。
一つは対象の姿を元の人間の特徴を残したまま性別だけを変えるというなんのために作られたのかイマイチわからない法具と幻操術が発動されている際に漏れ出してしまう幻力の痕跡を隠すための法具そして最後の一つが二つの法具に幻力を提供するためのバッテリーのような法具を使った少々手の込んだ女装であった。
結は法具を三つとも発動状態から待機状態に移行させると男に戻った姿で備え付けられているソファーに頭からダイブしていた。
「あの、マスター室なのですが……」
「うるさい、他のやつの気配を感じないつまり二人っきりなんだろ?なら遠慮する意味も余裕もない」
「……そうかもしれませんが……」
マスター室という普通校でいうところの校長室のような場所でまるで自宅にいるかの様にくつろぎ始めた結に思わず溜め息をついてします双花だった。
再会きた当初、二人の間にあった嫌な雰囲気はすでになくなっていた。
「依頼のほうは順調ですか?」
双花のさりげない問いかけに対して結はソファーから飛び起きると両手を合わせあろうことがジャンクション=ルナを発動し純白に輝く双剣のうち一本だけを呼び出しその柄を力強く握り締めると双花を一瞬で壁際にまで追い込みその首筋へと刀身を押し付けた。
「……あ、あの……結……?」
アワアワと慌てながら若干涙目になりながら今の状況を結に確認する双花に対して結はとてもいい笑顔になっていた。
「依頼のほうは順調ですかだってぇー?」
「ゆ……ゆぅ……こわぃ……」
結の満面の笑みに恐怖しか感じていなかった双花は全身をプルプルと震わせて完全に怯える子羊状態になっていた
「そうだねぇー、順調だよぉ?」
「な、なにか……問題でも……?」
順調と言う言葉に頬が緩む双花だったがどうして怒っているのかわからずに結局は今も怯えたままになっていた。
「うんうん、そうそう問題があったんだよねー」
結の言葉に思わずごくりと喉を鳴らしてしまう双花だった。
二人の間に嫌な沈黙が流れ始めた。
ちなみに今の状況が第三者に見られたら凄まじくまずいだなんてことは頭からスッポリと抜けている両名だった。
「桜がねぇーうまくSランクのアリスって子に気に入られたんだよねぇ」
桜が悩みの種だったアリスに気に入られたと聞いて満面の笑みになり思わず「よかったですね」と反射的に答えてしまった双花の頬に剣の平がかするように深々と結が双花の首筋に押し付けていた剣とは逆の剣を壁に突き刺していた。
頬にかするようにすれば普通なら髪が切れてしまうところだがルナの圧倒的剣術によって髪を切ることもなければ頬に傷をつけることもなかった。
「……」
沈黙は金だと強制的に悟らされてしまった双花はお人形のように口を完全に閉じていた。
「なんで気に入られたと思う?それはね国語の詠唱の授業だったり数学の幻力使用可能量による評価づけによって高評価を貰ってたからだよっ!!」
「……」
結は双花の首筋に絶妙な力加減で押し付けていた剣をさっき突き刺した場所の真逆の位置にやはり双花の頬にかすらせるようにして深々と刺し込んていた。
双花はすでに涙目どころか完全に泣いていた。
「双花は知ってるよね?僕達に基本術の適性が壊滅的だってことっ!!」
「……あ」
「忘れてたなっ!!」
「痛いっ!!」
結は双花の額に思いっきり頭突きをすると双剣を仕舞いジャンクションも解くとソファーにダイブした。
双花は頭突きされた額を両手で抑えながら可愛らしく泣いていた。
「四時間ずっとぼっちだった……」
「え……」
「桜には折角気に入られたんだから俺と関わるなって伝えたから完全にぼっちだった……」
「ごめんなさいっ!!」
遠い目で語る結に心から悪い事をしたと思った双花はマスターの誇りだとが責任だとかそれがなんだーっといった具合に結に対して深々と土下座をした。
これもまた第三者から見ればソファーに突っ伏した男が可愛らしい少女に土下座をさせているというなんとも危ない光景だった。
「頭上げろ、わかればいいんだよわかれば」
結は頭だけ起き上がると土下座している双花に頭を上げさせるとソファーから起き上がり普通に座ると隣に双花を座らせた。
「剣突き付けて悪かったな、流石にやり過ぎた」
自分がわざと剣をかすらせた頬を優しく撫でながら結は優しい口調と表情で謝罪をした。
「い、いえ……元はと言えば私が浅はかに事を進めてしまったせいですので。こちらこそ申し訳ごさいません」
「俺と双花の仲じゃないか、迷惑かけてなんぼだろ?」
双花がまたもや頭を下げようとするのを頭を撫でることによって防ぐとまたも優しく言葉をかける結だった。
「それに一年も連絡しないで悪かったな」
「いえ、あんな事があったのですから仕方がありません」
「……悪い」
双花の気を楽にしてやろうと自分が謝るべきことを謝る結だったが思わずしんみりとした雰囲気が流れてしまい双花は結の頭を自分の膝に誘導すると結の頭を撫で始めた。
「……双花?」
「少しの間、こうさせてください」
「……わかった」
飴と鞭を使い女に自分の弱さを見せる結はなんというかある意味すごい奴だった。
しばらくそうしていると結はやはりずっとぼっちになるどころかアリスからの絶え間ない嫌味によって精神的に疲れていたらしく眠りについていた。
「……アノ子に悪いことをしている気がしますね」
双花は自分と結が初めて出会った時に一緒にいた少女のことを思い出していた。
「……やはり思い出したくはないのですか?」
双花は悲しそうに呟くと結の頭を優しく撫でた。
結は夢を見ていた。
夢の中では結と双花、そしてもう一つの少女と三人で仲良く遊んでいた。
三人はいつも一緒にいた。結と少女は双花と出会う前から親しくしており双花は自分の想いを打ち明けられずにいた。
三人で毎日仲良く遊んだり、幻操術の訓練をしたりとそんな平和な日々を過ごしていた。
(君はだれ?)
結は少女のことを思い出せずにいた。
結が少女に向かって手を伸ばすと少女の胸から突然一本の刀が飛び出していた。
少女の胸から赤い液体が溢れていた。
少女の後ろには黒のコートに身を包み目の部分が三日月を倒したかのような形にくり抜かれている銀色の仮面を被った誰かが立っていた。
その黒仮面の手には刀が持たれておりその刀がその少女を刺しているという事に気が付つ結だった。
(嫌だ、嫌だ、嫌だ。死なないで、もう失いたくない。大切な人が死ぬのをもう見たくないんだっ!!)
「っ!!」
「結、大丈夫ですか?」
結は突然起き上がると全身からたくさんの汗をかいていた。
突然結が起き上がったことによって驚いてしまった双花は結になにかあったのではないかと心配していた。
「夢……か……」
「どんな夢でしたか?」
夢という言葉を聞いて悪夢を見てしまったのだろうと結論づけた双花は心の中で良かったと思いつつもどんな夢だったのか結に聞いた。
「俺と双花とあと知らない少女と三人で仲良く過ごしている夢だった」
「えっ……」
知らない少女という言葉を聞いて双花の心臓はビクンと大きく波打ってた。
自分と結と少女。
双花の記憶の中でその少女に該当する人間はたった一人しかいなかった。それはあの事件の日に唯一の犠牲者となってしまった少女。
「その少女、最後に黒のコートと銀色の仮面を付けた奴に刺されて……」
「そ、それは酷い夢でしたねっ」
双花は誤魔化すことにしていた。いつかはばれてしまうけど今の結の状況を見て何処か危うさを感じた双花は結の見た過去と言う夢をただの夢だということにしようとしていた。
「悪夢は早く忘れてしまったほうがいいですよ」
「……そうだな」
どうにか結にただの夢だと思わせることに成功した双花はそろそろ休憩時間が終わることを結に伝えるとソファーから立ち上がり元々座っていた席に座ると書類整理を始め出していた。
結は三つの法具をもう一度発動し音無結花になると楽しみにしていた五時間目体育を受けに教室へと戻った。
「ごめんなさい……かーー」
双花のつぶやきは誰の耳にも届くことはなかった。
ご意見、ご感想、評価などお待ちしております。




