表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かくや姫は今夜も配信中  作者: ゆずさくら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/22

竹林の穴

 佐藤大吾は走った。

 竹林の奥から「何かでたぞ!」の声が上がったからだ。

 枯れた竹林の調査をしたのは、地盤が緩むことではない。

 この地下に何かがあると思っていたからだ。

 調査隊が輪のように並んでいるところを、押し分けて入っていく。

「ついにでたんだ」

 大吾は気持ちを落ち着かせようと、言葉をゆっくりと吐く。

 竹の葉が折り重なった先に、穴が開いている。

「この中に?」

 大吾の声に、誰も返事をしない。

 囲んでいるメンバーの顔を一人一人、確かめるように見ていく。

「何があったんですか? 教えてください」

 桐谷が調査隊に声をかけた。

 そこには『れとろゲームサークル』の円谷、遠藤、桐谷、そしてひかるがいた。

 大吾は『ひかる』の存在に気づいた。

 大吾は、ひかるの前にいた調査隊の数名を退かせる。

「ようやく見つけたぞ。ここに何を隠しているのか暴いてやる」

 ひかるにしてみれば、初めて見るこの男が、なぜこんなことを言っているのかわからない。だが、男が自分や竹林に疑いの目を向けている者であることは分かった。

 大吾は振り返るとフラッシュライトの電源を入れ、ゆっくりと穴に降りていく。

 調査隊の者も続いていく。

 れとろゲームサークルのメンバーが近づくと、調査隊の者が止めた。

 ひかるは、穴から聞こえてくる話し声を不安な気持ちで聞いていた。



 ひかるはスマホを使って『竹』にメッセージを送る。

 回答も既読もつかない。

 スリープに入っているのかもしれない。

 ひかるは試しに解除コマンドを送るが、応答しない。

 スマホを見つめていると、穴から声が聞こえてきた。

「これワッ!」

「なにを見つけた!?」

「見てくださいこの形! 竹の根が、大きく何かを避けていたようです」

 避けて、いた?

 ひかるはその内容を聞いて疑問に思った。

 もしかしたら『竹』は……

「ほら、この土、焦げたような跡が。溶けてガラス化したんじゃないですか?」

「……サンプルを取ってくれ」

 と大吾は言った。

 声は、明らかに残念そうに聞こえる。

「かなり大きな空間ですね」

「これは竹が作り出した自然の空間、ではないな」

「どうでしょう。現時点では、なにがこの空間を埋めていたかまでは分かりません」

 ひかるは思い出す。

 確かにこのあたりに『竹』があったはずだ。

 だが、この穴から入り彼らが『竹』を見つけていないということは……

「ひかるちゃん、大丈夫?」

 ひかるは桐谷に振り返る。

「えっ? なんで?」

「具合悪そうだから」

「大丈夫。うん、もう大丈夫、元気になった。桐谷くんが心配してくれたからかな?」

 桐谷が照れたように笑った。

 竹の存在を示すようなものがここの土から出るだろうか。

 心配ではあったが、今すぐに何かが始まるということはないことは確信できた。

「早く宿に行きましょう? 大分寄り道しちゃったもの」

「そうだね。先輩にも声をかけよう」



 竹林を抜け、れとろゲームサークルは山道を歩き続けた。

 たどり着いた村の端に、立派な塀で囲まれた家が立っていた。

「ここが旅館?」

 円谷が門の札を読む。

「そうだ、ここが予約した旅館だね」

 遠藤も元気になってきたようで、宿の建物に反応を示す。

「古民家と言っていたけど、どっちかというとお屋敷だね。お代官様が住んでそうだ」

「これは庄屋というべきなのかな」

 古風だが名主というか地主というか、とにかく立派な家だった。

 ひかるたちは門をくぐり、誘導するようについている灯りに沿って進んでいく。

「ごめんください」

 旅館風の受付があって安心する。

 だが、誰も出てこない。

 すると、浴衣を着た女性が奥からやってきた。

「ずいぶん遅いじゃない」

 お風呂に入って、少し体が熱ったように肌に赤みを感じる。

 洗いたての髪は後ろにまとめていて、うなじが色っぽい。

「アヤさま」

「彩花先輩、先に着いてたんですね」

「思った通り自動車の方が早いでしょ」

 詳しく聞くと、都心で混んでいたが北に進むと高速も空いていたようだ。

 しかし、新幹線の駅の時点ではひかる達の方が早かった。

 ネックだったバスへの乗り換え時間、バス自体のスピード、そして最後の徒歩区間で逆転されたのだ。

 話しているうち、旅館の従業員がやってきて泊まる手続きをした。

 部屋割りは、桐谷を含めた男性が大きな部屋を使い、もう一つの部屋をひかると彩花が使うことになった。

「お風呂から上がったら食事からそのままミーティングに入るから、宴会場に集合ね」

 遠藤に指示されると、各人は部屋に分かれた。

「ごめんねひかるちゃん。私はもうお風呂入っちゃったから、一人になっちゃうけど」

「ええ、大丈夫です」

 ひかるは女風呂に入り、湯に浸かって考える。

 確かにあの竹林の地下にいるはずだった。

 だが『竹』はいない。

 では、今どこにいる?

 そしてなぜメッセージアプリに応答しない?

 風呂場から少しだけ見える外は暗く月は見えないが、ひかるは空に月が上ってくるのを体で感じた。

 月の力で体の能力が高まると、ひかるの中にある繁殖のための情動も高まってきた。

 湯の中に体を沈め、思う。

 今夜、桐谷と二人きりになれないだろうか……



 ひかるは浴衣に着替えて彩花と一緒に旅館の宴会場に着いた。

 食事の用意がされていて、男性と女性で対面するような配置になっていた。

 男性陣はまだ宴会場に来ておらず、二人で座ると彩花が小さい声で訊ねた。

「桐谷くんとはどこまでの関係なの?」

「どこまで、も何も」

「えっ、それって無関係の関係じゃない」

 ひかるはムッとした顔をしてみせた。

「桐谷くん格好いいから、やることやっとかないと取られちゃうわよ」

「そ、そんなこと」

「真面目な話、『一発』で逆転されちゃうよ。何にもそういう子見てきたから」

 まさか彩花が『奪った』側として見てきたんじゃないだろうか。

 ひかるはそう思った瞬間、怖くなった。

「あっ、私はとったりしないから大丈夫。私もホイホイやっちゃう方じゃないよ」

「……」

 遠藤と円谷は自身が持ってきた『オタクくさい』スウェットを着て宴会場にやってきた。

 桐谷は旅館据え付けの『浴衣』を羽織っていた。

 和服姿は初めて見るが、意外に似合っている。ひかるはそう思った。

 普段着痩せしているのか、浴衣一枚だと彼の体が『がっしりと』していることがわかる。

 桐谷に声をかけようと思ったのに、ひかるは違った彼の一面を見た気がして、息をのむ。

 桐谷はひかるの視線に気づいて、軽く手を振った。

「さあ、食事が終わったらゲーム大会するぞ。互換機を持って来てるからな」

 大きなモニターにレースゲームの画像が映った。

「デ、デイトナUSA」

 それは桐谷がこのサークルに入るきっかけになったゲームだった。

「確か触らせないって」

「さっきも言ったろう? 互換機だよ。昔のハードだったら触らせない」

「ヤッタァ!」

 桐谷の笑顔を見て、ひかるは嬉しかったが、ひかるが心の底で期待していた出来事は起こりそうにないな、と思った。



 食事の後、そのままゲームを続ける男性陣をよそに、彩花とひかるは適当に切り上げて部屋に戻った。

 部屋は布団が敷かれていた。

 ひかるは、窓際にある椅子に座ると『竹』のことを考える。

 もし人間に見つかったとしたら、もっと大騒ぎがあるはずだ。

 あらかじめ彼らの探査を察知して、どこかに移動したに違いない。

 スマホを使って検索すると、前日のSNSにふしぎな画像が投稿されていた。

「これ……」

 新たなスターリンクトレインの形か!? とタイトルがついている。

 それは夜空に光を放ちなながら移動する飛行物体の映像だった。

 菱形の編隊を組んだ光。

 もしかすると『竹』が移動の際、擬態したものかもしれない。

 とすれば……

 ひかるはSNS投稿の映像に、位置が記録されているものを探す。

 いくつかの写真に記録されていた情報から、時系列に位置を並べる。

 目撃が途絶えた時間などを予測し、地図を眺める。

「……」

 ひかるは、スマホの地図アプリで、ある場所にピンを打った。

「ひかるちゃん、今日、サービスエリアで買った限定スイーツあるんだけど、食べる?」

「わぁ、ありがとうございます」

 そう言って自然な感じを装い、スマホをテーブルに伏せた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ