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かくや姫は今夜も配信中  作者: ゆずさくら


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かぐや姫は今夜も配信中

 夜空。

 流れ星が現れ、消えていく。

 シンセサイザーで作り出したツリーチャイムのような音が同時に流れる。

 すると月から光る卵型の宇宙船が飛んできて、着陸する。

 切れ目がないように見えたその表面が開くと、ツインテールの美少女アニメイラストアイコンが飛び出てくる。

 美少女アイコンは、中央で大きく拡大していく。

 拡大が止まると、画面上部にタイトルが降りてくる。

『かぐや姫は今夜も配信中』

 しばらく固定表示した後、画面は切り替わって実際のカメラ映像になる。

 パステルカラーのクッションや大きなぬいぐるみたちが背景に並んだ部屋。

 中央には、アニメイラストに似せた(・・・)現実の少女が座っている。

 幼い感じや、カワイイ、というよりは、大人が少女のコスプレしているような雰囲気だ。

 ツインテールに、なんちゃって制服が映える。

 少女はカメラ目線で、ふざけた敬礼のように右手を頭につける。

「かぐや姫、ただいま着陸! 地球のネット回線、ちゃんと繋がってるかな?」

 スラスラと流れるようなセリフを喋流。

 どうやらこれが配信のオープニングのようだ。

 そして少し視線を落としたかと思うと、にこやかだった顔が、苛立ったような表情へ変わる。

「あっ! またコメントに『年齢詐称女』とか入れる人がいる!! 本当(リアル)に高校生ぐらいの年齢(とし)なんだから! 学校行ってないけど」

 コメント欄に『学校行ってないんかい』、『学校行ってない定期』等々、ネット配信のコメントが流れていく。

 彼女は『かぐや姫』設定の『カグヤ』として配信をしているが、内容は日常的な雑談で、会話の中でかぐや姫っぽいことを言うわけでもない。

 この不思議な格好は、身バレしないためだった。

 ツインテールのウィッグと、可愛げのあるメイク。

 普段、外ではきれないような衣装を着て、声も軽くエフェクトをいれている。

 接続数も、チャンネル登録者数も収益が出るには、まだまだ足りない。

 だが学校も行っていない彼女は、これで食べていくと決めたのだ。

 何がなんでもこれでやっていくしかない。

 ライブ配信が終わると接続が切れていることを確認し、カメラの後ろに回る。

 ウィッグを外し、黒い髪を手で整える。

 自分の声でため息をついた。

「もっと違う仕事を言えばよかった」

 彼女は少し後悔していた。



 三ヶ月ほど前に遡る。

 カグヤとして配信していた彼女は、一人で雪深い山間にある竹林にいた。

 つやのある黒髪は肩まで伸びている。

 寒さが厳しいはずなのに、薄手のジャンパーとスウェットのパンツという格好だ。

 だが、特段、震えている様子もない。

 竹林の地面にも雪は落ちていて、風で竹が揺れるたび、さらに雪が落ちてくる。

 時間的にはまだ日は出ていたが、竹林は山の影にあるため薄暗かった。

「リスア様」

 彼女は声がした方を振り返った。

 人の姿はなく、そこにはただ竹があるだけだった。

「心配ないわ。一発で妊娠してくるから」

「いや、そういうことではないのです」

 その声を発している竹の(かん)の部分は、声と同期して光った。

 彼女は竹の節の中にいる者と会話を続ける。

「妊娠したらここに戻ってくれば、あなたが育ててくれるのよね。私を育てたように」

「ええ、もちろん。それらは私の機能(ファンクション)ですから。言いたいことは、そうではないのです」

「体は大丈夫よ。年齢はこの国の文化に合わせてサバを読めばいいんだから」

 大きな音がした。

 雪が大量に落ちたようだ。

 彼女はその場所を見つめると、拳を握り込んだ。

「言いたいことって、このこと?」

「ええ」

 竹が左右に広がる。

 再び激しく雪が落ちた。

 開いた竹の間には、真っ黒な毛で覆われた大きな熊が立っていた。

 三メートル、いや、それ以上なのか。

 ヒグマはこの地域にはいないはずだ。

 ツキノワグマの突然変異か、あるいは特別にこの個体だけが大きくなったと考えるのが自然だ。

 彼女は手を開き、熊に手をにかざす。

 何か、念を込めているようだ。

「この星の動物よ。引き返しなさい」

 熊は動かない。

「リスア様、逃げて」

「エリシュアからきた私は、心をコントロールできるはずじゃ……」

「理由はあとです、逃げてください!」

 彼女は熊を中心に捉えながらも、周囲を確認した。

 冬眠できなかったのか、したのに起きてしまったのか。

 口を広げ、涎を垂らした熊からは、狂気を感じた。

 振り上げた前足が、彼女に振り下ろされる。

 煙幕のごとく地面の雪が舞い上がると、彼女の姿はなかった。

 熊の爪を受けた竹は、(かん)の部分が割れた。

 自重を支えられなくなったそれら数本の竹が、メキメキと大きな音を立てて倒れる。

 熊は吹き上がった雪を追って、走り出した。

「リスア様、ご無事で」

 竹は祈るようにそう言った。



 熊に遭遇してから、二十四時間が経過していた。

 彼女は今、夕方の新宿を歩いていた。

 彼女の容姿を見て、若い男が声をかけてくる。

「めっちゃ美人ですね。ちょっとそこでお茶しながら、お話しませんか?」

 普通の女性ならこの若い男を、言動と容姿から『スカウト』だと判別するだろう。

 だが、彼女は別の方法で彼を『スカウト』だと判断した。

「それほど好みではない、って心の隅で思ってますよね。仕事の話をどうやって切り出そうとか。そんなことも」

「……」

 若い男は、急に表情が固くなり立ち止まった。

 彼女は勝手に歩き続けるために、自然と男との距離が離れていく。

 彼女は、山奥の竹林にいたリスアだった。

 スカウトを振り切った彼女は、さらに繁華街を歩き続け、あるホストクラブへと入った。

 安っぽい格好にスタッフが、入店お断り、と言おうと近づく。

 ポケットから、さっとカードを取り出すとスタッフは、下がって言った。

「ようこそキャンディ パラダイス ガーデンへ」

 案内されたテーブルに、三人のホストがやってきて、酒をどうするか聞いてくる。

 男性も含めワインをグラスでもらうと、妙な盛り上げ方で乾杯した。

 彼女は流れで一気に飲むと、グラスを空けた。

 そこまでしておいて、彼女は言い放つ。

「全員チェンジで」

 リスアがそう言うと、ついていたホストが騒ぐ。

「ウソウソ、まだ何も話してないじゃん」

「残念だよ」

「よく見て、ほら、これでもチェンジ?」

 三人三様のリアクションを取りながらも、しつこくならない程度にして去っていく。

 リスアは代わりにやってきたホストが一人、一人と、自己紹介しながら座っていくのを眺めた。

 最後にやってきたホストは、左耳に三つのピアスをつけて動くたびにぶつかって金属音がする。

「ようこそ、キャンディ・パラダイス・ガーデンへ」

 他の二人が一度跪いて、彼女の手の甲にキスしたのに、三つピアスのホストはそう言っただけですぐに座ってしまった。

『このクソ女』

 顔は笑っているが、そんなことを考えているのか。

 ……とリスアは思った。

 知ろうとすれば、リスアは相手の考えを読めてしまうのだ。

「……あなた、名前は?」

 まるで冷たくされてムキになったように、リスアは三つピアスの男にことばをかけた。

「さっき紹介したよね?」

「いいえ、あなたは『ようこそ』とだけ言ったのよ」

 男は一瞬、目を逸らした。

『こんな小娘がなんで金持ってんだ!? どうせ親の金だろ』

東堂(とうどう)マサです」

 リスアはマサの心を操ってやろうと考えた。

 繁殖のためには、手取り早く性交しなければならないから、普通に恋愛や婚姻などを経てから子供を作る、などという気は全くなかった。

 適当な人間の心を操って、手っ取り早く性交してしまおうと言うのである。

「……」

 彼女は拳を握り込み、気持ちを集中する。

 だが、東堂は手足をだらんとして、ぼんやりと天井を見たままだ。

 リスアは思った。

 欲がなさすぎる。そして緊張感もない。

 仕事をしている時のような張り詰めた心の方が操りやすい。あるいは知性が高かったり、欲望が強いのも、心の操りやすさに関わる。

 そう。この男は全く欲がない。緊張も、知性も……

 狙いが悪かったか。

 彼女は考えを変えて、隣に座っているホストに声をかけようとした。

「……やっぱり、ヨウスケの方が良いわ」

 言い終えた時、彼女の前のテーブルが揺れ始めた。

 テーブルだけではない。店のあちこちのテーブルが揺れていた。

「なんだ、どうした?」

「地震か?」

「どうせ近くで工事でも……」

 リスアは竹林から逃げ出した時のことが頭によぎった。

 地域にいないはずの大きな熊。

 あの時、心を操ろうとして……

 頭皮に鮮やかな色の刺青を入れた男が店の奥から出てくる。

 普通の大きさではない。

 関取といっても嘘だと思わないほどだ。

 二メートルほどの身長、太い腕、足。

 虹色にみえるスポーツ用サングラスをかけていた。

 さっきの振動を、この男一人で起こしたとしても不思議と思わない。

 それくらい強靭な体だ。

 男は店内の全ての視線を集めたところで、両腕を広げ、そり返りながら叫んだ。

 絶叫なのか、遠吠えなのか。

 意味はわからないが、叫んだ。

 皆が耳を手で覆う中、その巨漢はサングラスを外す。

 迷わずリスアを睨みつけた。

「殺してやる!」

 ホストたちは立ち上がる。

「ムネタ、やめろ」

「ムネタ、バックヤードに!」

 抑えようと近づくホストを、ムネタと呼ばれた巨漢は牽制する。

 何をされるかわからないホストや客は後ずさるばかり。

 リスアは手の平をムネタに向けて、心を操れないか試みる。

「この星の動物よ、引き返しなさい」

 三つピアスのホストが、横目で彼女を見る。

 リスアには、様々な色がぐるぐると回っているような異常な精神世界が見えていた。

 あの熊と同じ。

 リスアはホストの腕を引っ張ると、ムネタの方へ投げた。

「何しやが……」

 ムネタの太い腕が伸び、飛び込んでくるホストの首を直撃する。

 下半身は先に進もうとし、首から上は後ろへ戻ろうとする。

 妙な形に体が折れ曲がりながら、酒やつまみが置かれたテーブルへと落ちていく。

 グラスや、食器が割れたり床に落ちる音。

 女性客の泣き叫ぶ声。

 ホスト、スタッフ、客。入り乱れる店内。

 リスアは真っ先に店を飛び出していた。

 まさか人間にも熊のように暴走する脳を持っている者がいるとは……

 彼女に人間を殺す、という選択肢はない。

 繁殖が目的なのに、社会にいれなくなるからだ。

 建物の非常階段を駆け降りると、周りを見まわし、地下に入った。

 地下なら車道がないと思ったからだ。

 彼女の能力であれば、四、五車線を飛び越えることぐらい可能だが、新宿でそれをすることは致命的だ。

 動画に撮られ、顔を晒されてしまう可能性があるからだ。

 心を操れば目の前の人は騙せても、その他大勢まで騙せない。

 彼女は素知らぬ顔で、地下道を駅方向へと歩いていた。

 しばらくすると、彼女を見ると立ち止まる人が現れた。

 奇妙に思い、スマホで自らの顔、メイク状況などを確かめようとした。

 スマホの画面に、妙な影を見つけて振り返った。

「シネ」

 背後には『ムネタ』が立っていた。

 避けるまもなく、彼女は首を絞められ、体が宙に浮く。

 ついに、低い地下道の天井に押し付けられた。

「助けて……」

 彼女は絞めているムネタの手を引っ張り、これ以上絞まらないようにするのが精一杯だった。

「誰か、助けて……」

 地下道を通っていく通行人は、誰も近づこうとしない。

 彼女は、竹がまとめた資料を思い出していた。

『この星ではエリシュア人の能力は【月】の影響受けて大きく変動します』

 月が遠い時は弱く、月が近い時は強い。

 筋力も心を操る能力も、全てが月の影響下にある。

 ムネタの手を押さえている彼女の手に、力が入らなくなってきた。

 きっと月が遠くなっているんだ。

 彼女の脳裏に『死』のイメージが浮かんだ。

「た、助けて……」




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