###ポーション製作 (後)
薬草採取から拠点としているテントに帰ったら、木にゴブリンの死体がぶら下がっていた。
その木の下には笑顔のセネカが・・・・・・。
これは見たことあるやつだ。
以前お世話になった冒険パーティーが、やっているのを見たことがある。
うん、これはアカンやつだ。
アヤトは、回れ右をする。
がしっ。
アヤトの左肩に強い力が掛かる。
シャロがアヤトの肩を掴んでいる。
「俺が狩ったんだぜ。」
良い顔で言う。
こいつは!・・奴の手先か。
「これから、ゴブリンの解体をします。」
奴は良い笑顔で言った。
木にぶら下がった【ヤツ】の腹を裂き内臓を取り出す。
長手袋をして内臓を掻き出すが、綿の手袋なので、当然 血が染みてきて手が紫になる。
首を刎ね、あそこを刎ねる。
両手首・両足首を切る。
その感触も、流れ出る液体のことも考えず、ひたすら無心に作業する。
そうして、ようやくのことで それらを終えた。
終えたところで・・・。
「そして、これが、しっかり血抜きが終わり、乾燥させたものです。」
そう言って取り出したるは、ミイラのようになった【ブツ】だ。
まるで、某料理番組のように用意されていた【もの】を取り出すセネカ。
「俺の今の解体、必要だったか!?。」
アヤトは魂の叫びを訴える。
笑顔一つ、無視された。
「他にも、新鮮な物を特殊な液体に漬けたり、強い酒に漬けたり、煙で燻したりする方法もありますが、今回のモノは、時間は掛かりますが一番簡単で誰にでも出来る ただ乾燥させたものです。」
「やっぱり、口での説明だけで良かったよね。」
「実際やらないと身に付きません。」 セネカはにべもない。
「だいたい何の為にこんなことをするんだよ。」
「もちろんポーション作りの為です。」
聞きたくないことを 聞いてしまった・・・。
「下級ポーションが安い理由、それは簡単です。
使われている素材がごくありふれた物だからです。
使われる薬草は、生命力が強く何処にでも生えているものです。
組み合わせもいくつかあり、どこの森の植物でも、別の国の薬草でも、同様のポーションが作れます。
一番お金が掛かるのは魔法水の部分ですが、これも、安い魔石から根気良く魔法水を抽出すれば、こと足ります。」
なので、新人の魔法使いや錬金術師の人気の仕事なのだそうだ。
資格を取るのは大変だが、魔法の練習と副収入を同時に出来る。
魔術を学ぶ学生や新人魔術士の心強い友、多くの魔術士の卵達の懐を救ってきた(お財布の)救世主、お小遣い稼ぎとして写本と同じくらくい重要な存在なのだそうだ。
「でも何でゴブリンなんだ?・・・・。」
掛けるタイプのポーションの方は、細胞の活性化の為ですが、服薬するタイプのポーションの方は、回復の際に体を作る為です。
体を治すにも材料が必要です。
通常は、食事を摂って栄養を摂取します。
ただ、ポーションを使用する際は非常時です。
体力は低下し、肉体は傷付いている。
その身体を作る材料として、再生力が高いゴブリンの体は都合がいいのです。
それに、親和性というのもあります。
ゴブリンは、本来 森人に近い種の生き物です。
しかし、もう一種、近い存在の生き物がいます。
何だと思います?。」
「いや、分からん。」 アヤトは即答する。
「・・・人間です。」
「人間?、あいつ等のどこに人間の要素があるんだ。」
「ゴブリンのはじまりは、遥か昔、戦時下の敵地の後方攪乱を目的に、森人をベースに遺伝子の改良によって、人間の手によってつくられました。
多産多死、過酷な環境でも生きれる森人に、どんな環境でも生き残れる人間の遺伝子を加えてつくられたのが、今のゴブリンです。
目的はもちろん生物兵器としてです。
敵国の嫌がることを実行するのが戦争です。
戦争時の敵国に、数体送り込むと 勝手に増えて 後方を攪乱する。
子供を攫ったり、作物を盗んだり・踏み荒らしたり・・・・・・、駆除しても駆除しても増えて、いたちごっこが続く。
前面の敵に集中したくとも、国内が荒らされれば、そうはいきません。
知能は低いが、精神構造は人間の十代前半程度、狡賢く 物事を自分の都合の良いように取る傾向がある。
例え追い払っても、3日もすれば 今度こそ大丈夫だとまた襲ってくる。
嫌がらせの権化、実に優秀な兵器です。
優秀過ぎて今でもしっかり機能しているのが問題なのですが・・・。
人間の遺伝子も入っている為、人間の体を作る材料としても優秀です。
材料はいくらでも手に入るし、材料にしても罪悪感が無い。
猿の赤子とか・・・・・を材料にした物もありますが、アヤトさんはそっちの方のポーションを飲みたいですか?。
中級ポーションに使うのは希少な薬草、高級なポーションはきちんと浄化された魔物の肉とか竜の素材とかですが、・・・あれは、量が少ないうえ 加工も大変です。
アヤトさんの魔法の腕がもっと上がってからでいいでしょう。」
「小鬼人・・・人間が作ったのか?、森人と人間の遺伝子を元にして?、完全に常軌を逸しているな 過去の異世界人。」
「ええ。」
「本当に生物兵器として・・・?。」
「そうです。
今では野生化して、ただの害獣になっています。
今でも、仲の悪い国や戦争相手の土地に、捕まえたゴブリンを送り込んだりしていますよ。」
「嫌な世の中だな。」 やり方もえぐい。
「それが戦争です。
それに、有効な手ではあります。 戦争は綺麗事ではありませんから。」
( でも、友好な手ではない。)
そんな事をすれば戦争はいつまでも続く。
ゴブリンも何時までも居なくならず、被害はいつか自国に還ってくる。
平和が一番、戦争なんてしなければいいのに・・・。
そんな想いも駄洒落も口にせず、アヤトが発した言葉は、
「でも、そこまでやるか?。」
「そこまでやるのが人間です。
こっちの世界もひどいですが、あなたの世界の人の歴史を見ても、人間はそういう生き物のはずですが?・・・。
それと、ゴブリンには人間の遺伝子が入っている。
だからこそ、より人間に忌み嫌われていると言えます。
同様に、ゴブリンを特に嫌う種族がいます。
エルフです。
エルフと言っても、私がダークエルフと呼んでる 人間とまったく別の系統の種族のエルフの方がですが・・・。」
「何で?。」
今度こそ本当に分からない。
答えは、
「進化の系統として、ダークエルフと森人は同じ系統に属するからです。」
「ん?、進化の系統・・ご先祖様が同じというわけか?。」
「正解です。 アヤトさんにしては、珍しく察しが良いですね。」
( それはどういう意味だ。) ぐっと我慢して、
「つまり、ダークエルフって、森人とかゴブリンの仲間なのか。」
「仲間という表現は正確ではありません。
アヤトさんが他種族の人に、人間は猿やマントヒヒ・ゴリラと「同じ仲間でご先祖様が同じだから同類なのか」と、聞かれたら『同類』と答えますか?。
同じ進化の系統で、ご先祖様が一緒だからと言って、同じと認めることが出来ますか。」
「いや、まあ、それはそうだな。」
「・・・ですが、感情は逆撫でされます。
人間が勝手に、自分達をゴブリンの仲間としてカテゴライズする。
人間は自分達で原因をつくっておきながら、それを非難することが出来る生き物ですから。
深き森の賢者と呼ばれるエルフですが、彼らのプライドは高い。
それを我慢できるはずがありません。
【 皆の箱舟 地球号、その癌細胞 人間 】
アヤトさんの頭の中にあったセリフです。
ずいぶん捻くれていますが、それに近い考え方をする人間以外の種族は多いのです。
エルフは、特に人間とゴブリンを嫌っています・・・・・・アンデッドと同じくらいに。」
「最後の・・・いらなかったよな?。」 ううっ、涙が・・・。
それにしても、ゴブリンでさえ、薬の材料として利用する人間って・・・・・。
それも安い材料として。
それを作ったのも人で・・・・。
そう考えると余計に怖くなる。
人間の闇・・深い・・・怖い。
考えてみれば、過去の地球には、自分の若さの為 赤ん坊を食べる人や、美容の為 血の入浴剤に浸かった人も居たと聞いたことがある。
普通に考えれば狂気の沙汰だ。
そんなことを命令した人も、実行した人も、止めなかった人も・・・・・・。
(俺、あの時 こんなものを飲んだのか。)
アヤトは、それ以上考えるのを止めた。 ついでに、記憶の中から無かったことにした。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
癒やしを求め、爽やかな森の風景を心に描く。
脳裏に浮かんだのは昨日の森、干された逆さづりのブツが、木の枝と一緒に風に揺れていた。
うっ・・うっ、異世界怖い。
「今日は、いよいよポーションを作ります。」
アヤトさんも楽しみにしていてくれたことと思いますが・・・とか、空耳が聞こえる。
そんなことより、掃除の時に大切な事はマスクをすることだ。
埃を吸い込まない為にも、そうした一手間は大事だ。
人は手間を惜しんではならない。
ポーションを作るにも、それなりの準備がいる。
薬研だっけ?、大昔の薬屋に置いてあるような道具を見る。
木片のようなブツを、石のタイヤに木の棒を通したような道具を使って細かく砕いていく。
乳白色の陶器で作った小船のような形をした器具の溝に溜まる黒い粉。
( この粉、絶対吸い込みたくない!。)
お前、呼吸しているのか!?。 と言う『つっこみ』は無しだ。
俺はその手の冗談は受け付けていない。
こういうのは、気分の問題なのである。
セネカに無理を言って(呆れられ)、綺麗な布を貰い、口を布で覆った。
乾燥させた数種の薬草(これも、〇分クッキングよろしく乾燥されたものが用意されていた)も、同様に粉にして混ぜていく。
アヤトの頭の中で、料理する時に流れるあの音楽と、頭の尖った赤ちゃんが踊っている。
(こんなことするより、料理の方がいいな~。)
現実逃避をしながら・・・理想の生活について考える。
料理でもしながら 異世界でのんびりスローライフ、何とかそっち方向にならないだろうか?。
いつの間にか 混ぜ終えると、少しずつ魔法水を加えながら抹茶のような液体を作っていく。
ポーションの作り方としては、【魔法薬】の名の通り、魔法を掛けなければ作れない。
抹茶のような液体の入った専用の容器を、魔法陣の上に乗せて魔力を籠めていく。
この魔法陣は、下級ポーション専用の魔法陣で、世界刻印魔法が作製を補助してくれる。
ポーションを作成する複雑な工程、通常 困難な作業だが、細かい魔法構成などを思い浮かべなくても、集中力と魔力さえあれば、誰でも作れるそうだ。
さらに、土地の力を利用すれば少ない魔力でも製作可能になる。
実際、錬金術ギルドや薬師ギルドでは、大規模な魔方陣を使って製造しているそうだ。
素材である数種類の薬草と魔法水に、例のブツ、その他素材を混ぜた物に魔法を掛けて作製、抹茶から 青っぽい緑色になった液体を用意した瓶に入れる。
ちなみに、このポーションの瓶と魔法水の作製であるが、昨日の夜 魔術ギルドの一室を借りてアヤト自身が作った。
ポーションの瓶の作製は、水晶や石英を砕いて粉にした物に、他複数の少量の鉱物・必要な魔物の素材を粉状にした物を混ぜ、魔法陣で錬成して作るガラスのような容器で、ガラスよりずっと軽くて割れにくい。
このポーション瓶の作製の良いところは、蓋つきの瓶の形で出来上がること。
隙間があったり、中のポーションが零れる心配がない。
ただし、この魔法陣で出来るのはこの瓶一種類、形も決まっている。
別の魔法陣で 別の形の瓶を作ることが出来るそうだし、金属の精製や魔物の素材の強化の魔方陣もあるらしい。
魔石から魔法水を抽出する作業でも、使うのは魔法陣だ。
魔法水の作製は、魔石から魔力を抽出・・取り出す作業だ。
魔方陣の力で、魔力を帯びた水を製作していく。
これを安く済まそうと思えば、ゴブリンの魔石など所謂クズ魔石と呼ばれる物から抽出するという方法がある。
が、手間は掛かる・・・多量に作るとなると、なおさらだ。
屑魔石からチマチマ作ると苦行でしかない。
「修行の間違いでは?・・・。」と俺の魔法の師匠は取り合ってくれなかったが・・・。
これらの作業は アヤト的にはどうみても錬金術で、実際 錬金術師は『これ』を錬金陣と呼んでいるらしい。
魔法使いが『これ』を使うと魔方陣、聖職者がやると神聖術・神の奇跡などという風に呼び方が変わる。
「同じなんじゃ・・・。」と思うかもしれないが、そこに突っ込んだら駄目なんだそうだ。
特に聖職者には・・・。
「このことはあまり広めないでください。
公然の秘密とは言え、このことを公言すると怒る人達がいます。
事実を知らなければ、気にせず飲めていた人だったり、宗教関係の人達とか・・・。」
セネカが、真剣な顔で念を押す。
こっちの世界も、地球と同様、いろいろな宗教があるそうだが、そんな宗教組織が必ず行う活動として、災害時の炊き出しや孤児を育てるといった貧民救済事業、読み書きを教える教育事業などがあるが、中でも欠かすことが出来ないのが病気や傷の治療、神の御業として癒しの魔法を行使する活動である。
宗教によっては、それを一番の売りにしているところもある。
その現場で下級ポーションはどうしても使わざるを得ないものだ。
作りやすく、確かな実績を持つ薬。
今 其処に傷付いた人が居て 命が掛かっているのに 使わないという選択肢はない。
ただ、治療的・経済的には良くても、宗教的にゴブリンを使った薬というのはよろしくない。
なので、下級ポーションの作り方は公開されていない。
知っている人も、言わないことになっている。
俺も口にしない。
そうでないと、熱心な宗教家が駆除・・・・説教に押し寄せるそうだ。
聖職者怖い。
正にアンデッドの敵だ。
逆だろ?、って『つっこみ』は受け付けていません!。
ともかく、液体を瓶に詰め、蓋を閉めて、今度はまた違う魔法陣に青緑色の液体を入れた瓶を乗せ、再度 魔法を掛ける。
すると、綺麗な水色になり、ポーションの完成だ。
後は、蓋を開ければ一目で分かるように、のりを付けた紙を、蓋と本体の瓶に張り付ければいいだけである。
やっと1個完成した。
これから、ちゃんとしたポーションをあと99個製作すれば、部屋から出ていいそうだ。
「いい」ということは、100個作るまで部屋から出ては駄目 と言うことである。
ただし、10本作製して それを自分で飲んだら すぐに帰っていい、と言われた。
・・・・・・たった1個、それでも大きな一歩だ。
最初の一歩がなければ、いつまで経っても100歩先には行けない。
遠い目で、もう一度 完成したポーションの瓶を見る。
俺が作った綺麗な水色に光る完成品、まるで我が子のような・・・・・・・うん、原材料を考えたら そんな事は思えない。
この作業は朝から始めた。
まだ、そんなに時間も経っていないが、瓶と魔法水の作成は昨日の夜からである。
その間アヤトは、ずっと魔術ギルドの この一室に居る。
そして、終わるまでは出られない・・・。
これ・・缶詰というやつでは・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
現実逃避終了、仕方なく黙々と作業する。
口に出したら負けだ。口にしても負けだ。 坦々と作業するんだ、俺!。
やっぱり・・・異世界 怖い。
ポーション怖い。
今回の話しの副題は、『ポーション怖い』です。
タイトルから話しの内容が想像されるのを避ける為『ポーション製作』にしています。
読んでくださってありがとうございます。
いったん終了です。
今回連載を再開するにあたり、作品を読み直し、文章を若干訂正していますが、内容自体に大きな変更はないので読み直しの必要はありません。
作品についてですが、思ったより書くのが大変で最近はあまり書いていません。
書くのが遅いのと、書く労力が大変で、書くと覚悟を決めないと作品が完成しません。
しかし、モチベが低下しているので、続きを書きたくなったら書きます。
次回の更新は遅くなると思います。
次回ですが、学園七不思議っぽい感じや他校の見学・文化施設の見学などアヤトの学生らしいところを書く予定です。
「おい、それ、絶対中身碌な内容じゃないだろ!。おい止めろ。離せ。・・・・・・・・・・」
雑音が聞こえますが、普通の学生らしい学園生活です・・・多分。( あくまで予定です。)
キリが良いところまで下書きが書ければ連載を再開しますので、その時はよろしくお願いします。
下書きが完成しなかった場合はごめんなさい。
そのまま物語を終了します。
その際は、『これからもアヤトの不幸な異世界生活は続く。』
と文章の最後に足しておいてください。




