##バハムート(前)
セネカとは鬼だった。
俺は、まだ鬼の姿を見たことが無いが(小鬼は除く)、こんな姿をしているのは間違いない。
あんな事があったのに、5日目もお化け屋敷は中止にならなかった。
むしろ、お化け屋敷は昨日より盛況だ。
昨日あった事が口伝で広まって、クラスメイトがすごいやる気だったので、どうせ中止には ならなかったのかもしれないが・・・・・・。
皆 テキパキと働いている。
本日 最終日、連日 大盛況で、現場は嬉しい悲鳴だが、今日の賑わいは一味違う。
列は延々と続き、行列は途切れない。
俺のやる気はゼロなのに・・・現実を憂い、哀しくなる。
アヤトは疲れているし、憑かれている。
・・・セネカという、人を馬車馬のように扱き使う幽鬼に。
アヤトは今、いつものマネキンの姿で、革の服を着て、この椅子に座っている。
鎧に関して聞いてみると、アヤトの骨の型があって、材料さえ用意すればすぐに新しい鎧を作れるらしい。
いつの間にそんなモノを・・・とは思うが・・・・・・アヤトはセネカに謝る。
「すまない。」
「何がですか。」
「この鎧、高いんだろう。」
「ああ、そんなことですか。 別にかまいませんよ。」
「けど、前も壊したし・・・。」
全身が骨になった時も両腕と左胸の鎧を失くした。
こう ポンポン壊すと後が怖い。
「あの鎧ですか・・あれも無駄になったわけではありません。
ちゃんとアヤトさんに喰われて、アヤトさんの一部になってますよ。
いろいろ付けていた機能が使われないまま壊れたのは残念ですが、アヤトさんの魔力を受けて付与した魔法が壊れなかったことを確認できただけでも、渡した価値はあります。
さあ、この話しは終わりです。」
「いや、ちょっと待て!、俺はあの鎧を喰ったのか・・壊れて消えたのではなく?。
あと、いろいろ付けた機能ってのは何だ。」
「ほらほら、もうお客さんが来ますよ。
お客さんが来る前に、白い鎧の方は脱いでおいてくださいね。
私も次の準備がありますので もう行きますね。」
結局、アヤトの問いに答えることなくセネカは行ってしまった。
次の準備をしに・・・・・・。
学園際の華は武闘大会だ。
その中には、魔法を競う競技もある。
的に正確に当てられるか、一撃の魔法の威力を競ったり、派手な魔法を披露したり、と、色々な方法で魔法の力をアピールするらしい。
魔法使いは、剣士や戦士のように実戦形式で戦ったりせず、基本 模擬戦になる。
自分の力に自信がある魔法使いは、魔法も使用OKな武闘大会の方に出るそうだ。
魔法使いは、戦争でも後方に居る。
前衛に守られて、後ろから万全の状態で魔法を撃つのが前提である。
魔法使いに、直接 戦う力は、必ずしも必要とは言えない。
貴重な魔法使いを、潰し合うようなことはしない。
それは、カノヴァの学園の武闘大会でも同様である。
学園祭の始まりの合図は、祝砲で始まる。
空に連動した音の波が放り込まれ、腹に響くような 一種独特な空気が耳に押し寄せる。
空の上で、大きな太鼓を敲いているようだ。
こんなことは魔法でしか出来ない。
アヤトの気分も少し上がった。
そして、学園祭最後は花火で締め括られる。
もちろん、これも魔法の花火である。
大きなイベントだけあって、祭りの内容もすごかったが、終わりを告げる花火の魔法も、それにふさわしく派手な光りが飛び交う華々しいものだった。
開会式だけでなく、閉会式も、アヤトは広場で参加し、祭りの気分を楽しんだ。
こういうのは、人が多い方が良い。
毎年、この後に行われる公王様の閉会の言葉で、カノヴァの学園祭は終わるそうだ。
そのはずだが・・・今年は違った。
この日 最大のイベントはここから始まった。
空を彩る花火が何か変だ。
亀の周りを漂う霧のせいで見えないとか・・ではない。
花火の上に何かがある。
それで、今年の花火が、なんだか違って見える。
ザワつく場内。
今年 初めてカノヴァの学園祭に参加した者には分からなかったが、毎年 学園祭に来る常連は多い。
その人達が騒いでいる。
花火の最後に【閃光】の魔法が打ち上げられ、空の上にあるものが姿を現す。
「ではここで本日最後のイベント、何と今年だけの特別なイベントの発表を行います。」
司会進行役の、魔法で拡声された大きな声の後に続き、空の上のものが浮き出る。
それ自体が発光している。
アヤトには、それが船のように見えた。
横幅はともかく、縦の長さはカノヴァの大亀より大きい。
アヤトは、つい癖で周りを見る。
アヤトは分からないことがあると、セネカを見てしまう癖がついている。
だが、そんな都合良く セネカが居るはずもない。
「何と今回、学園祭を締め括るフィナーレを、魔王シャルシャルテの居城、空船が行ってくれることになりました。
では、その光りのショウを楽しみください。」
(何だあれ!。)
空で派手に光る宇宙戦艦のような黒い乗り物。
四方八方に伸びる光りの柱、ホログラムのような光りの魚が宙を舞う。
ここは中世封建社会、剣と魔法の世界じゃないのか。
あんなSF聞いてないぞ。
それに魔王ってあんな城に住んでるの?。
俺 あんなのと一緒にされてる?。
とてもついてける・・・魔王をやっていく自信がない。
「思い返すと目に浮かぶあの時の光景、私があの空に浮かぶ船を見たのは今回で2回目になります。あの時は学園が・・・・・・・・」
なんか司会進行役はノリノリで喋ってるが、学園祭に来た人は、あまりなサプライズ演出に動揺しているように見える。
事前情報無く、空に巨大な船が現れたらパニックになってもおかしくない。
『火星人が攻めて来た』だ。
ラジオは無くても、あの司会進行役が会場をちょっと煽れば、すぐにでもパニックになりそうだ
そうこうするうちに、空船とやらから 何か紐のような物が降りてくる。
紐のように見えるが、紐ではない。
あの船が大き過ぎて紐に見えるだけで、実際は両手を繋げたよりも太い黒い柱だ。
それが降りてくる・・・・・・アヤトの真上に。
上空20メートルくらいで止まって、そこから伸びて来た無数の紐状の物が、あっという間にアヤトを拘束する。
空中に持ち上げられるアヤトの体、抵抗の余地はない。
上空100メートル以上の上空から伸びる巨大な円柱の物体。
そんな物量の紐に捕らわれて、逃げられるわけがない。
しかもこの黒っぽい物質、ゲル状の金属のようで、叩いても壊れないし、引き千切ろうとしても伸びる。
アヤトの周りに居た人は、泡を喰って逃げていった。
司会者は呑気に、
「慌てないでください。 これはデモンストレーションです。
学園の名に懸けて、皆さんの身の安全は保障します。」
冷静にアナウンスしている。
もちろん、アヤトを指さしながら 何か言っている人はいたが、
「あれは学生の体を張った実演です。」 の一言で済ました。
誰か知らんが、もっと頑張れ。
俺は実際、見た目通り、攫われているぞ。
こんなことをやる相手に見当がついているから焦りはないが、ものすごく目立っている。
アヤトは無駄と諦め、抵抗は止めた。
「今回、ルシュラン神聖皇国に出現しているバハムート討伐依頼を 魔術集会が受けることが正式に決定しました。
これは、ルシュラン神聖皇国とその周辺国から合同で出された依頼で、侵略行為ではありません。
それに伴い 空飛ぶ魔王城と言われた空船テューレの出陣式を、カノヴァの学園祭のイベントとして行うことになりました。
これは、カノヴァ公国と関係周辺国の許可の元に行われている行為です。
それに今回、新たに魔王になりましたアヤト様も討伐に参加されます。
では皆さま成功を祈りお見お・・・・・・・・・・・」
司会のその言葉を聞いて全力で抵抗したが、アヤトの体は黒い物質に完全に覆われ、外から その姿は見えなくなっていた。
アヤトの体は柱の中を、上に上がって行く。
身動きが取れない。
エレベーターに乗っている時のような浮遊感だけがある。
それから5分もしないうちに空船の中に入ったが、窓が無い空間に慣性の法則が働くのを感じて、ようやく・・本当に諦めがついた。
物事 諦めが肝心、という言葉があるが、諦める事と納得する事は違う。
会った早々 セネカに詰め寄る。
ただし、何を聞いていいか・・・言葉が出て来ない。
セネカの周りには、木漏れ日の樹のメンバーが全員いる。
いつの間にか乗せられていたようだ。
学園祭のお化け屋敷で忙しく、仲間の動向は全く把握していなかった。
空船と呼ばれるもの。SFを思わせる金属で出来た廊下。バハムートと戦うと言う司会者の話し。魔王として大々的に紹介されたアヤトの名。
これらの全ての元凶はセネカのはずだ。
まずは、「この船は何だ。」
これを聞かないことには始まらない。
「船ですね。」
そういうことを聞いているのではないことを分かっているくせに、セネカはそう答える。
「何で船が空を飛ぶんだ。」
「魔法ですね。」
あっさりとした回答に、アヤトはぐっと手を握る。
「ここは剣と魔法の世界って言ったよな。」
「言いました。
ただし、この船は、父の世界の技術を元に この世界の魔法法則に適応させた技術で造られています。
なので、正確には、この世界のものとは言えないかもしれません。
それに、剣と魔法の世界でも、古代文明期には宇宙船はありましたよ。」
「お前の父親の世界って、こんな文明が進んでいたのか。」
「ええ、まあ、そこそこには・・・ですが。」
この笑顔は、絶対 そこそこではない。
「で!、全校生徒の前で俺の自己紹介がされたのは?。」
「それは、アヤトさんが学園祭で目立っていたので、この際ですので魔王就任のお披露目を、大々的にしておこうかと思いまして。」
「絶対そうなると分かってやったよな。」
「いえ、まさか。
学生達のやる気と純粋な思いを、そう邪見するものではありません。」
「邪険なのはお前だよ。
あんな公衆の面前でさらしやがって!。
明日から どう言い訳すればいいっていうんだよ。」
「その点は心配いりません。
これから、この船で学園を離れるのですから。
帰って来る頃には、この騒ぎも落ち着いていますよ・・・きっと。」
カッと、切れる。
「絶対落ち着いてねえよ!。」
「この船がカノヴァ公国の上空を飛ぶのは2度目ですし、きちんと許可も貰っています。大丈夫ですよ・・・多分。
この船の搭乗もアヤトさんのことを守る為に必要でした。
学園に来て2年、そろそろアヤトさんの噂もが広まってきましたし、アヤトさんのバックには空船があると示威しないと、刺客が送られる可能性がありますから。」
「え?、そうなのか。」
「それはそうですよ。
アンデッドは あなたが思っているよりずっと嫌われています。
特に一部宗教関係者には、教義とか面子とか色々ありますから、・・・絶対に見逃せなかったりします。
父だって、自分を魔王と認めさせたり、周辺国に魔術集会を認めさせるのに、これを見せて威嚇・・・自慢したり、国を滅・・・国をホロホロしたり、いろいろ苦労したんですよ。」
「国をホロホロって何だよ!。
今、滅ぼしたって言ったよな?。
威嚇じゃすんでねえだろ・・・あと、苦労したのは、その滅ばされた国の人だよ。」
その人達は、今でも当時の事を『苦に』しているだろう。
「いえ、当時いろいろ事情があったのです。
そうでないと、さすがにこんなオーバーテクノロジー使いませんよ。
一応これ、個人の所有物ですが、魔術集会の許可が無いと使っては駄目なことになっているので、・・・飛行させるのも10年ぶりぐらいなのですよ?。
私的にも、このような手段は使いたくありませんでした。
これはあくまで、使うものではなく、見せる為につくられた兵器ですから。
あとは、父の趣味ですね。」
え~と、・・・まあ、いいや、話しが進まない。
「あと、バハムート討伐ってなんだよ。」
「ああ、それはルシュラン神聖皇国より魔術集会が受けた依頼です。
さすがに面子とか言ってられなくなったようで、ようやく条件を呑んでくれました。
あそこはシュロブスエント聖教会の影響が強くて、なかなか魔術ギルドを認めてくれなくて・・・自分達の使う魔法を神聖術とか言って、魔法を使う人を迫害している悪い人達です。」
「ふ~ん。」
そんな国があるのか。
さすが異世界、いろんな国がある。
「アンデッドは邪悪な存在なので、見つけ次第、問答無用で殺すように教義で教えているのですよ。」
「確かに悪い人達だ!。」
アヤトは兜が落ちそうなくらいに、うんうん、と、セネカの言葉に同意する。
「これが成功したら、神聖皇国内での魔術集会の活動を認めてくれることになっています。
そのついでに、アヤトさんを狙う人達に少し脅しを掛けておこうかと・・・。
なので、こうして手間の掛かる方法をとりました。」
「・・・・・・・・・・・・・・」
そう言われると、何も言いにくい。
「じゃあ、バハムートってどんな魔物なんだ。」
「それは実物を見た後に説明します。
変に先入観が入っても困りますので。」
そう言ってセネカは、興味深そうにアヤトとセネカの話しを聞いたり、空船の内部を見学していたパーティーの仲間達にも、いろいろ説明をはじめる。
どうせ今回も 碌に事情を説明せず連れて来たのだろう。
バハムートのことも、もうそれ以上の事は 話す気は無さそうだった。




